黄昏が収まり掛けていた。日暮れの後の薄明かりを天文薄明という。なんで黄昏ではいけないのか、僕には理解できない。が、それはさておき、本来の暗さを取り戻しかけた南の空にくじら座が見える。岩に繋がれたアンドロメダ姫を夜毎襲ったというこの化け鯨の領域には、やたら銀河が見える。今夜はその中の一つ、M77に望遠鏡の筒先を向けることにした。
メシエカタログ77番。くじら座の中で4番目に明るいδ星の近くにあるこの星雲(画像左)は、19世紀の中頃になって、地球から遠く離れた銀河であることが確認され、さらに20世紀に入って中心部が激しく活動して強い赤外線やジェットを噴出していることも分かってきた。そこには巨大なブラックホールがあるという。この銀河と僕らの地球との距離はおよそ6000万光年。それなのに中心部は8等級という明るさを持っている。そこから発せられる強い光やジェットは、ブラックホールに落ちて行く星たちの悲鳴なのだ。
この悲劇の銀河のすぐ近くには、渦巻き銀河をほぼ真横から見た形のNGC1055が見える。この二つの銀河は実際の距離も22万光年と比較的近いが、M77のご近所さんはNGC1055だけではない。この画像を見ても他に5つの銀河が確認できる。実際、このあたりにはM77のお仲間が数十個有り、くじら座銀河群と呼ばれている。こうした銀河群は空のあちこちに有るが、その距離と位置のデータを元に、一つ一つを3次元の座標に落としていった女性天文学者が居る。その気の遠くなるような地道な作業が、今の宇宙の大規模構造といわれる姿を明らかにした。