木星の撮影に一生懸命になっているうちにかなり時が経っていた。初め立った姿勢で覗いていたカメラのモニターを、気が付けばひざまずいて見上げている。時計の針は午前零時近くを指していた。
北の空ではカシオペアが高みに昇り、その右がペルセウス。妻のアンドロメダはもう中天に差し掛かっている。星空だけは一足先に初冬の景色だった。 あ、また流れ星だ。でもカメラの視野の中には流れてくれない。
それにしても冷えるよ。電気毛布を敷いてダウンジャケットを羽織っていてもなお寒い。ごぞごぞと毛布を出してきて膝にかけた。え、まだ9月でしょ。思い立ってお湯を沸かし、温かい紅茶をすすってみる。ああ、良い感じ。帰りたくないなあ。でも眠いし…
ぼーっと空を眺めていた視線を観測デッキに落とすと、かぐや姫が手持無沙汰そうにこっちを見ている。ん?そうだ。木星の大赤班をこれで見てやろう。45センチ鏡のカバーを外し、固定していたひもを解いて筒先を木星に向けてみた。しかし、大赤班は脇に回ってしまっていてほとんど見えない。やっぱり帰ろうか。ごめんね、帰るよ。星空に別れを告げて屋根を閉め、時計を見ると2時半だった。