日が暮れた。空の色が青から群青へと変わってゆく。久々に見るきちんとした夕暮れだった。忙しくて長らく黄昏時を外で過ごしたことが無かったのだ。星が現れるにつれて星座が分ってくる。おおいぬ座、オリオン座、おうし座、ペルセウス座。金星の上にはぎょしゃ座の五角形も見える。
お疲れ様、冬の星座たち。今年も木枯らしの中でいつものドラマを演じてくれたのだろう。この冬の僕は忙しくてなかなかその舞台を見に来られなかった。ごめんね。
観測デッキを冷たい風が吹き抜ける。春爛漫とは言え、午後8時を回るとさすがに肌寒い。せっかくだから何か撮ろうか。ただ、あの強風のおかげで45センチかぐや姫は光軸が少しずれている。駄目かな。羽織ったジャケットを通ってくる寒さが今からの光軸調整を億劫にした。どうしよう。とりあえずまだ高みにある金星を狙ってみた。大きいカメラをかぐや姫のトップリングに取り付けてカメラのモニターを生かす。あれ、撮影方法を忘れかけている。これはいけない。少し焦りながらシャッターを切った。
確かに8センチで撮影した時より鮮明だが、本来ならもっとクリアーに写っても良いと思うのは欲張りだろうか。望遠鏡をきちんと整備してからずいぶんになる。大工仕事ばかりせずに天文台の仕事をちゃんとしたら… ビーナスにそう笑われてしまった。