おととい自宅の窓の下でコオロギの鳴く声を聞いた。いくら残暑が厳しくても秋はきちんとやって来る。荷物の片づけがあって上がった竹取庵にも秋の気配が漂っていた。忙しくて除草もろくに出来ていない丘はまだ夏草が茂っていたが、澄んだ空気を通して島影がくっきりと浮かび上がっていた。そう言えばあれほど喧しかった蝉が声を潜めている。本来なら写真を撮る季節と言いたいが、今年は忙しくてそれが出来るかどうか分からなかった。
竹取庵の上には上弦を少し回った月が昇っている。こうした昼間の月を『幽月』と名付けて2年を超える時が経っていた。この言葉を気に入ってくれる人の思い掛けない登場で、再びカメラを月に向けてみる。
機材は前撮ったものと同じ、観測デッキから取って来た8センチの屈折と小さいほうのカメラだ。前撮った時よりも空が明るいせいか月はより幽(かそ)けく写る。この月を気に入ってくれた人が前にもいた。時の経つのは早い。あと何度この月にカメラを向けるのだろうか。
とぼんやり考えていたら携帯が鳴った。そうだ、今夜は少し離れた街の天文施設で観望会だ。訳有ってお手伝いに行かなければならない。せっかくのいい空なのに。ごめんね。望遠鏡たちにお詫びをして丘を下った。