夏場の月は高度が低い。身長2.5メートルと背の高いかぐや姫だが、高い脚立や机の上に上がることもなく、撮影作業そのものはむしろ楽だった。しかし何しろ風が強い。暴れるかぐや姫の筒先を抑えながら、ちゃんと固定されていないカメラを顔に押し付けて、めったやたらにシャッターを切ってゆく。しかし、モニターの上に表示される画像は、どれもどこかがボケていた。ああ、直焦点くらいにしておけば良かった。やっぱりアイピースを替えようかなと思ったとき、月面を黒いもやが通り過ぎた。見れば空をかなりの量の雲が覆っている。時計を見ると10時半。1時間以上もかぐや姫のトップリングにかじりついていた事になる。もうそろそろ終わろう。
持って帰って処理しようと開いたパソコン画面。やっぱりだめだ。画像の中がまだらにボケていた。仕方無く何とか使える3枚を切り貼りして1枚作ってみた。ひとに見せられた物では無いが、それでも久々の姫様とのデートの証拠写真になる。
ひときわ大きなクレーターをクラヴィウスという。一つの穴の中にいくつも穴が開いているクレーターだ。月の南極は穴ぼこだらけ。それもこの星の不思議の一つ。