家の用事もあってそう頻繁には丘に上がれない。それでも工事は少しずつ進んでゆく。今日はその用事を済ませてから午後ゆっくり家を出て、丘でブルーベリー号に乗り換えて材料を買いに行った。だから工事を始めたのは午後3時過ぎ。棟に刃物を入れて垂木をはめてゆく。これが意外に面倒で、3時間で3本しか付けられなかった。
そろそろ手元が薄暗くて見えにくくなる。諦めて道具を片付けて、ふと西の空を見ると細い月が浮かんでいた。月齢1.5。空自体は霞がかかって何となくくすんでいるが、それがむしろこの月を引き立てている。
以前昼間の空に浮かぶ淡い月を「幽(かそ)けき月=幽月(ゆうげつ)」と名付けた。それならばこの月は「細月(さいげつ)」だ。
ぼんやり眺めているうちに写真に撮りたくなった。間に合うだろうか。あわてて観測デッキに上がり、赤道儀に載せていた8センチ屈折を外してアタッチメントを付け下に降りた。手持ちで撮ろうとしたがさすがにだめだ。居間に置いていた三脚に取り付けて月に向ける。どうぞ沈みませんように。祈りながら撮った月。それが一番上の写真だ。
月の拡大写真を撮るのは去年の10月以来。思えば久しく望遠鏡そのものに触っていない。丘に上がるだけで宇宙(そら)に触れた気になっていた。ダメだな。天文ファン落第。
星雲や星団も撮りたいけれども、このところ何となく気忙しくてその気にならない。今日は狙ってみようかな。でもこの空だし、きっと星雲の細かいところまでは撮れないよ。そう思いながら丘を下りようとして振り返る。昇ったばかりの星座たちと目が合った。言い訳がましいねと笑っている。僕にはそんな風に見えた。