日が沈み、空の明るさが褪せて来るにしたがって、星が少しずつ現れはじめた。今日の一番星は頭の真上、こと座のベガだ。やがてデネブ、アルタイルと、夏の主役が次々にステージに登場する。天の川は今頭の真上に横たわっていた。望遠鏡の背中の雲台には、魚眼アタッチメントを載せた小さいほうのカメラが構えている。天空にまっすぐ伸びた天の川を撮るためだ。本当は真っ暗な空でこれを狙いたかった。しかし天候がそれを許してくれなかった。黄昏は残っていたが、今撮らなければもう今年のチャンスは無い。粒子を抑えるためにカメラ感度は800とし、少しでもボケを減らすために親レンズの絞りは8まで絞っている。これで露出は4分だ。淡いけれども何とか写し取れた。
さあ、次は何を撮ろう。コンピュータ画面の星図を眺めながら考えたが、なかなか決まらない。うちの子はどう。少し西に傾いた織り姫が声を掛けてきた。そうか、ドーナツ星雲M57。小さ過ぎて今までターゲットに入れていなかったが、試しに撮って見よう。大きいほうのカメラを20センチ反射に取り付けて、織り姫の機の向こうに遊ぶ娘を探した。
この星雲は平行四辺形の形をした織り姫の機の向こう側、二つの星のちょうど中間に居る。太陽くらいの大きさの星が一生を終えて、身の回りのガスを吐きだした姿。まるで卵の殻のような綺麗な形のガスは、横から見るとドーナツやリングのようにも見える。この望遠鏡の直焦点では小さくしか撮れない。
このままではつまらない。拡大撮影をしようと観測デッキの引き出しを探したが、暗がりの中では見つからなかった。いい加減にデッキの機材も整理しなければ。まあいいか、来年提出の宿題としよう。と言う訳で、宿題ばかりが増えてゆく。さあ、次は何を撮ろう。