以前僕は昼間に高々と昇っている月を幽月と名付けた。午後4時、久々に竹取庵の屋根を開けた僕の前にその幽月が掛っている。今日は十三夜だ。
もう2ヵ月近くみかんの丘に上がっていなかった。その間に二つの台風が襲来し、丘のふもとにある海岸べりの集落も高潮の被害を受けた。心配していた竹取庵だが、1階は全く被害が無く、2階の観測デッキも木の葉が何枚か吹き込んだ程度だった。青空に期待してカメラを二つ持って上がった今日の午後。被写体は月では無い。そろそろ高度を上げ始めた木星だった。しかし…
幽月を撮影した頃から西の空に雲の厚い層が現れ始め、夕暮れ時には空の大部分を覆ってしまった。かろうじて月だけがくっきりと見える。この雲が夜半に消える事は知っていたが、明日は仕事だ、遅くまで居る事は出来ない。仕方がない、仕舞おう。屋根を閉じ始めた所で下のほうから声がした。おばさんの娘さんだ。何か持って来てくれたらしい。応対したついでに「月が見えますよ」と水を向けてみた。本当は半月の頃のほうが見映えがするが、まあ満月よりはましだろう。
娘さんは遠慮がちに観測デッキに上がると、僕が用意した8センチ屈折望遠鏡を覗いて予想通り声を上げた。あわてて携帯を取り出し、おばさんの家に居る家族を呼ぶ。その間に僕は、45センチのかぐや姫にアイピースを付けて拡大した月を呼び込んでいた。
急いでやってきたおばさんの家族が45センチをのぞきながら本物だ本物だと騒いでくれた。そう、本物です。テレビの画面でも写真でも、ほとんどの人が月の表面は見て知っている。しかし肉眼で直接見ることに大きな意味がある。それをこの人たちが僕に証明してくれた。
おばさんの親族たちと別れ、家に帰って用事を済ませた。ブログを書いている途中にふと思い立って外に出てみる。雲ひとつ無い空に煌々と輝く月。そしてその東には木星が煌いていた。今度撮るからね。そう約束して星空に別れを告げた。
でっかいもの。