風の記憶

the answer is blowin' in the wind

夕霞

2006-03-23 | 


日本海の春の夕焼けです。 (山形県遊佐町吹浦から撮影)

真冬には偏西風で荒れ狂う日本海ですが、春先になると時折信じられないほど穏やかな波の日があります。霞(かすみ)が懸かり、幻想的な夕焼けの中、飛行機が音もなく雲を曳いていきました。


ところで「霞」(かすみ)は、春に水蒸気が凝結して細かい水滴となり地表近くの大気中に煙のように漂う自然現象なのですが、秋にはこれとまったく同じ現象を「霧」(きり)と呼びます。
春立つものを霞(かすみ)、秋立つものを霧(きり)、と同じ現象を季節によって違う呼び方をするのです。

食べ物では、牡丹餅(ぼたもち)とお萩(おはぎ)も同様です。
まったく同じものなのですが、春のお彼岸では「牡丹餅」、秋のお彼岸では「お萩」と呼びます。季節の花になぞらえ、その季節を感じながら味わいたい、という心映えでしょうか。

日本人は古来から自然に寄り添って暮らしてきました。そしてその時季だけに用いる特有の言葉を生み出してきました。日本人が自然の中で育んできた美意識の結晶とも言うべき『季語』です。

四季それぞれに吹く風や、降る雨、差す日の光、そこに息づく草花や生き物たちの様子、そしてその中に在る自分自身を繊細に感じとって、その一つ一つを表すために先人は言葉を添えてきたのです。
たとえ同じものであっても時季によって呼び名を変え、それを口にすることでまた季節を感じる。そしてそんな微かな趣をとらえる感性を、私たち日本人は誰に教わるでもなくここに暮らしているだけで身につけることができるのです。

なんと豊かなことだろう、と思います。

自然に身を置き、風に吹かれて草木のざわめきを聴いたり潮騒の音を感じただけで、何か満ち足りた気持ちになるのは偶然ではなく、私たち日本人の遠い祖先からの風の言葉を聞いているからなのかもしれません。





四季の言葉 ← 大好きな写真家「今森光彦」さんの美しい写真と季節の言葉のアンソロジー。
おすすめです。

日本人の心の結晶 『季語』の世界へ

にほんブログ村 写真ブログへ

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする