(10月26日)
本書の冒頭、第一神話に「狩人モンマネキと妻達」(le chasseur Monmaneki et ses femmes通し番号354)が紹介されます。口承担い手のTukuna族をWikipediaに訪ねると、ブラジル(マトグロッソ)ペルー、コロンビアでかつて有力先住民であった。現在も同地区に4万を超す人口を数える。族内婚を実践している、言語的には孤立しているとある(Tikuna族とも呼ばれる)
写真:Tukuna族の家庭。撮影年は1885年。wikipediaから採取。
神話あらすじは;
モンマネキと老母は神々に「釣り上げられた」。二人して最初のヒト社会を営む。彼は狩りのみを生業としていた。狩り行きの道すがら、カエルの跳ねるを見るを常としていた。ある日、戯れにカエル穴に小便を垂らした。しばらくしての朝、いつもの道ばたに彼が見たのは、淑やかさも辺り森影に際だつ妙齢の婦人が立ち構えていた。恨みがましく「身ごもるこの子の父はお前だ。男根を妾(わらわ)に向けたではないか」告げた。
<<Un jour, une gracieuse jeune femme parut a cet endroit. Monmaneki s’etenna qu’elle fut enceinte :
狩りに向かうも夫婦二人はともに発つ。仲むつまじく過ごした。ある日、嫁が自分用にと用意している調理壺を、姑が何気なく覗くと、ゴミ虫やらムカデがうごめいていた。「こんな臭い物を息子に用意いしていたとは」ヒトの食物に整えるため辛子をたっぷりかき混ぜた。その夕、その食物を口にした嫁の口が辛子で焼けて、食卓から逃げ出し沼に飛び込みカエルに戻ってしまった。
<<la femme fit chauffer sa petite marmite personnelle et commenca a manger, les piments lui brulerent la bousche. Elle s’enfuit, et sauta dans l’eau sous la forme de grenoulle>>(同)
これが人間社会が開始して、初めての同盟結成、モンマネキの失敗の顛末です。同盟の努力はさらに続く;
arapaco鳥(種別不明)が樹上に休むに目をとめ「ひょうたんを満たすだけの樹液をおくれ」と呼びかけた。その夕の帰り道、その見つめる顔に立つ姿、とっても魅惑的な娘が彼を止めた。椰子酒がたっぷり充満する瓢を肩にする。彼はその娘と婚姻を結ぶが、姑の介在で破局する。その理由が、見目麗しいのだが脚が醜かったから(vilains pieds)。一本棒の鱗刻み、前爪3本後ろが1本の鳥脚だった。
続いて地に這う芋虫、金剛インコと都合4例の「異種婚姻」による同盟を模索するが失敗。5例目が同族婚、すなわちヒト(らしき)女と結婚する。この例は本投稿の序(10月22日)で紹介している。簡単に紹介すると女は上下半身が分離する。その機能と経血の垂れ流しを融合させ、ピラニアを大量漁獲する。姑の策略で離婚に至る。モンマネキは正しく機能する同盟を求めてカヌー(pirogue)で川を下る(本文には記述はないがレヴィストロースはそのように伝える)。
モンマネキ神話の立ち位置を分析しよう。
彼は猟師(chasseur)で他に生業を持たないことの記述の意味あいとは何か。最初の人間世界(la premiere humanite)はあらゆる神々(les demiurges=地霊、地祇であろう)により釣り上げられた。動詞pecherは釣る、釣り上げる。創造するの意義はない。受動形のpecheeには釣り上げられたとの意味しかない。地霊達によって水から引きあげられ人間社会。そして構成は老母と狩人のみ。
これは鳥の巣あらし・火の起源神話(全ての基準となるM1神話、生と調理の巻の冒頭に引用される)の後日物語に他なりません。M1をさらうと、主人公は上下婚(母子たわけ)犯し、父に咎められ天上に放逐される。ジャガーに身を寄せ、(弓矢での)狩りを学び、トカゲにやつして村に戻り、父と複数の母(婚(たわけ)相手の実母も含む)を殺す。村は洪水に襲われ全ての火が消えるが、身を寄せていた祖母宅のカマド火だけが残り、彼と祖母で、火と狩り道具を自由にする人間社会が新たに始まる。しかし火と狩りは文化の一断面に過ぎない。再生産(次世代を造る)同盟はいまだ、どことも結ばれていない。
M1は洪水、火の確保で終わる。この続きがM354 モンマネキとなります。残ったのは祖母、モンマネキには老母、この差異はあるが伝承の誤差であろう。
神話後半に魚の起源が語られる。4番目の妻(金剛インコ)が別れ際に「どこかにある月桂樹を探せ、その木っ端が魚にかわる」教えたと伝える。そのくだりを引用すると;
<<Monmaneki courut en tous sens a la recherche du laurier、Il abbatit vainement plisieurs arbre a coups de hache. Enfin, il entrouva un don’t les popeaux devinrent de poisson quand ils tomberent dans l’eau>>(19頁)拙訳:モンマネキは四方八方その月桂樹を探し回った。空しく幾度も木を切り倒したはてに、やっとの事でその木を見つけ出した。木っ端が水に落ち魚に変身した。
この世に生まれたばかりの魚、それを獲る技法をヒトは知らない。しかし妻となった女は漁獲にたけてそれにいそしむ。しかしなにやら奇怪な方法だった。老母が分離した上半身は下半身に戻らないよう仕掛けたのも、この奇怪(非文化)の否定辺りにあるようだ。
そもそも前の4例で、老母が息子の同盟作りに介入し破棄する理由もすべて奇怪さ、すなわち非文化の否定にある。
レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む1の了
(次の投稿は10月27日)
本書の冒頭、第一神話に「狩人モンマネキと妻達」(le chasseur Monmaneki et ses femmes通し番号354)が紹介されます。口承担い手のTukuna族をWikipediaに訪ねると、ブラジル(マトグロッソ)ペルー、コロンビアでかつて有力先住民であった。現在も同地区に4万を超す人口を数える。族内婚を実践している、言語的には孤立しているとある(Tikuna族とも呼ばれる)
写真:Tukuna族の家庭。撮影年は1885年。wikipediaから採取。
神話あらすじは;
モンマネキと老母は神々に「釣り上げられた」。二人して最初のヒト社会を営む。彼は狩りのみを生業としていた。狩り行きの道すがら、カエルの跳ねるを見るを常としていた。ある日、戯れにカエル穴に小便を垂らした。しばらくしての朝、いつもの道ばたに彼が見たのは、淑やかさも辺り森影に際だつ妙齢の婦人が立ち構えていた。恨みがましく「身ごもるこの子の父はお前だ。男根を妾(わらわ)に向けたではないか」告げた。
<<Un jour, une gracieuse jeune femme parut a cet endroit. Monmaneki s’etenna qu’elle fut enceinte :
<<la femme fit chauffer sa petite marmite personnelle et commenca a manger, les piments lui brulerent la bousche. Elle s’enfuit, et sauta dans l’eau sous la forme de grenoulle>>(同)
これが人間社会が開始して、初めての同盟結成、モンマネキの失敗の顛末です。同盟の努力はさらに続く;
arapaco鳥(種別不明)が樹上に休むに目をとめ「ひょうたんを満たすだけの樹液をおくれ」と呼びかけた。その夕の帰り道、その見つめる顔に立つ姿、とっても魅惑的な娘が彼を止めた。椰子酒がたっぷり充満する瓢を肩にする。彼はその娘と婚姻を結ぶが、姑の介在で破局する。その理由が、見目麗しいのだが脚が醜かったから(vilains pieds)。一本棒の鱗刻み、前爪3本後ろが1本の鳥脚だった。
続いて地に這う芋虫、金剛インコと都合4例の「異種婚姻」による同盟を模索するが失敗。5例目が同族婚、すなわちヒト(らしき)女と結婚する。この例は本投稿の序(10月22日)で紹介している。簡単に紹介すると女は上下半身が分離する。その機能と経血の垂れ流しを融合させ、ピラニアを大量漁獲する。姑の策略で離婚に至る。モンマネキは正しく機能する同盟を求めてカヌー(pirogue)で川を下る(本文には記述はないがレヴィストロースはそのように伝える)。
モンマネキ神話の立ち位置を分析しよう。
彼は猟師(chasseur)で他に生業を持たないことの記述の意味あいとは何か。最初の人間世界(la premiere humanite)はあらゆる神々(les demiurges=地霊、地祇であろう)により釣り上げられた。動詞pecherは釣る、釣り上げる。創造するの意義はない。受動形のpecheeには釣り上げられたとの意味しかない。地霊達によって水から引きあげられ人間社会。そして構成は老母と狩人のみ。
これは鳥の巣あらし・火の起源神話(全ての基準となるM1神話、生と調理の巻の冒頭に引用される)の後日物語に他なりません。M1をさらうと、主人公は上下婚(母子たわけ)犯し、父に咎められ天上に放逐される。ジャガーに身を寄せ、(弓矢での)狩りを学び、トカゲにやつして村に戻り、父と複数の母(婚(たわけ)相手の実母も含む)を殺す。村は洪水に襲われ全ての火が消えるが、身を寄せていた祖母宅のカマド火だけが残り、彼と祖母で、火と狩り道具を自由にする人間社会が新たに始まる。しかし火と狩りは文化の一断面に過ぎない。再生産(次世代を造る)同盟はいまだ、どことも結ばれていない。
M1は洪水、火の確保で終わる。この続きがM354 モンマネキとなります。残ったのは祖母、モンマネキには老母、この差異はあるが伝承の誤差であろう。
神話後半に魚の起源が語られる。4番目の妻(金剛インコ)が別れ際に「どこかにある月桂樹を探せ、その木っ端が魚にかわる」教えたと伝える。そのくだりを引用すると;
<<Monmaneki courut en tous sens a la recherche du laurier、Il abbatit vainement plisieurs arbre a coups de hache. Enfin, il entrouva un don’t les popeaux devinrent de poisson quand ils tomberent dans l’eau>>(19頁)拙訳:モンマネキは四方八方その月桂樹を探し回った。空しく幾度も木を切り倒したはてに、やっとの事でその木を見つけ出した。木っ端が水に落ち魚に変身した。
この世に生まれたばかりの魚、それを獲る技法をヒトは知らない。しかし妻となった女は漁獲にたけてそれにいそしむ。しかしなにやら奇怪な方法だった。老母が分離した上半身は下半身に戻らないよう仕掛けたのも、この奇怪(非文化)の否定辺りにあるようだ。
そもそも前の4例で、老母が息子の同盟作りに介入し破棄する理由もすべて奇怪さ、すなわち非文化の否定にある。
レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む1の了
(次の投稿は10月27日)