蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ISOMORPHEにしてHETEROMORPHEとは(読み切り)

2019年12月06日 | 小説
生と料理についての過去ホームページ投稿(本年6月)を読み返して表題について大きく加筆したのでご報告。
Iso..は異質同形、Hetero...は同質異形。火の取得神話群(M1~7)とブタの起源神話群(M16~21)の関係がこれに当たる。さらには補充と補完が絡んできて、ややこしいのだが、それを以下文章+PDFの一葉で解決した(つもりになった)まずは本ブログに御拝読を賜り、時間のある方にはHP(部族民通信WWW.tribesman.asia)を訪れてください。
Indexページの下方に生と料理4回目をあけてISOMORPHEのリンクに入ってください。


表題を解説したPDF、拡大は下に

レヴィストロースは意味深い課題を提起します。神話叢1(M1~7)と2(M16~21)の形態比較に関して。
<ils sont partiellement ISOMORPHES (大文字は筆者) et supplementaires puisqu’ils posent le problem de l’allience matrimoniale ; et, partiellement aussi, ils sont HETEROMORPHES (同) et complementaires, puisque de l’allience matrimoniale, chacun ne reticent qu’un aspect>(106頁)
訳;それら(第一神話群「鳥の巣あらし」とそれに対する「野豚の起源」神話群)は部分的にISOMORPHESで補充的である。なぜなら母系社会の婚姻同盟で(特定されている)問題を等しく提起しているからである。その上、部分的にHETEROMORPHESで補完的である。なぜならその同盟から、それぞれはある一つの様相しか引き止めないからである。
「これちょっと難しいけど分かるかな」レヴィストロースの声が聞こえてきそうだ。

普段、用いる機会のない言葉ISOMORPHEの来し方を調べると「化学用語;異質同像」とある(白水社大辞典)よく分からないからrobertに頼る。<propriete que posedent deax ou plisieurs corps de constitution chimique analogue d’avoir des formes cristallines voisines> 類似した(analogue)組成を持つ複数の物体の結晶の像が近似(voisine)する性質とある。analogueは「一部が類似する」との意味が強い、voisinは「全体として近似する」のでanalogueよりは同質に近いと言える。しかし「同質」までには行かない。よって「何となく似通う物体が結晶化するとかなり近似する像を見せる」が正しいだろうが、長すぎる。その意を含んで「異質同像」を理解する。その上、補充的でもあると曰う。
HETEROMORPHEはその逆として「同質異形」と訳す。この訳には「近似する2の物質が(似通うけれど)異なる像を見せる」の含意を持たせるとしよう。さらに補完的がつきまとうとか。
レヴィストロースはもう一対の概念を導入している。supplementaire / complementaire,この意義を片付けるとしよう。
supplementaire(補充的)は1の思想(あるいは形式)を1 の形式(あるいは思想)で説明して「さらに別の形式(思想)で説明補充する」とする。すなわち最初の説明が次の説明を予測している。
complementaire(補完的)とは1の思想を1の実体と比定する「さらに別の実体を課乗し補完的に説明する」としよう。「彼女は美しい(思想)、目が澄んでいる(1の実体)、色白(別の実体)だから」色白がcomplementaire美の思想への課乗。一方



そして鳥の巣あらし、野豚の起源の両神話群に共通するのは(常につきまとう)あの問題(le problem)が潜むのだそうだ。「あの問題」とは文化への移行の妨害要因として行程に立ちはだかる母系社会、そこに孕む「連続」の概念がまず一つ。それに加えての女(嫁)の贈り手貰い手の同盟関係の脆弱さに発する混乱である。
106頁の図をご覧ください。S1は調理起源神話(M1神話群)は火の取得神話です。S2(M16 神話群)は野ブタの創造神話。

M1(基準神話、ボロロ族鳥の巣あらし)を思い起こそう。
主題は母系の「連続」の固執である。成人の通過儀礼とは母系居住から思春期男子の分断である。分断を拒否して(母子の同居、それが上下婚タワケ、近親姦に帰結する)、父と母の同盟を破断させた。同じ部に属する男子との近親姦(水平タワケ)もM2に語られる。母系連続の希求が自然な心情であるとすれば、そこには放縦、瀰漫が熟成してしまうと前述した。
母系連続を通過儀礼を使い社会的に分断して、別の社会制度に移行する時の軋轢をM16 神話群が語る。

同盟維持の原理、その難しさである。
同盟とは女(嫁)の贈り貰いを通じて婚姻同盟を結成する事である。レヴィストロースの言葉では(女の贈り手貰い手の繋がりは)<des liens avec des etres dont la nature lui parait irreductible a la sienne>贈り手は自身の立場とは対立する側(貰い手)と同盟を結ばなければならない。妥協に至らず係争に陥る軋轢がM16以下の神話に語られる。
俗神カルサカイベのM16の行動を見よう。
カルサカイベは(複数の)妹を他支族に贈る。その支族の男達にたいしカルサカイベは女の贈り手となった。貰い手(姻族)には賦役が発生する。ここで婚姻同盟側(カルサカイベallie)を優先するか、己が属する母系集団(filial)を優先するのかの相克に挟まれる。規範は女の貰い手が義務(prestation)を負うとする。故にカルサカイベが持ち込む小禽一羽と、野ブタ一頭の交換を拒否する。神話が語るのはカルサカイベの姉妹が甥(カルサカイベの息子)を侮辱して(交換にブタ皮一枚しか与えない)追い返した。彼女らは自身の社会基盤(同盟維持のための機能部品)を否定して、今の連続性(ブタ肉を喰いたい)を重視した。夫達が負う義務の遂行を妨害した。社会のしきたりに反したから姻族全員はブタに変身させられる。M21では女系(血族)優位に固執する女が夫をブタにした。

ここで2の神話群が孕む思想(scheme)と形体(armature)を以下に整理する
Isomorphe(2の思想1の形式)+Suplementaire(補充)について;
1 文化の創成の過程は2の思想が絡まっている。その1は分断、2には同盟の決まり事。いずれも既述されているので、前段前々段にご参照を。
2 両の思想を縦糸でつなぐ形式は「生から料理」そのものです。ヒーローが放逐されジャガーに拾われ火の利用を知る。火を所有利用していたのは(人の女の)ジャガー妻。彼女を殺害し火を盗み、火を人が所有する。同盟の規範を確立して(規範破りの支族をブタに変身させて)。男が火を所有しブタを狩り、女に与える。分断と同盟を火とブタ、生から料理に結ぶ一つの形式で結んだ。
3 火の取得だけでは文化は完結しない、火の目的であるブタを創造しなければ肉が食えない。バイトゴゴ(S1のヒーロー)で始動した文化がカルサカイベ(S2で無礼支族をブタに変えた)で補充された。

次にHeteromorphe(1の思想2の形式)+Comlementaire(補完) を説明する。


作成したPDF、本文の補完説明です

その一部拡大




1 2群には火を通しての文化生成(共通の思想)がschemeと見えている。
2 S1は火の取得(男が火をジャガーから盗んだ)。料理の萌芽である。火は男の所有物。女が火を利用(権利)を持つ。これは形式である。
3 S2でやっと火の利用形態が見える。ブタである。男が火とブタを女に与え、女が火を使いブタを料理する。これも形式。
4 すなわち1の思想を巡って2の形式を補完的(complemetaire)に確立して文化の生成となった。これがHeteromorphe + Complementaire です。

本書106頁の表に移る。(写真)
S1はシステム1で、調理の起源神話叢は(M1~12)。S2 は野ブタの起源神話(M16~21)。
これら2の神話叢は文化創造における同盟と決裂を反映して、isoformeでありheteroformeでもあるは前述した。Isoでsupple補充的(S2がS1を補強するもう一つの思想である)、heteroでcomple補完(S1がS2の思想を補強するもう一つの物である)とレヴィストロースがのたまう。了
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