蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

近親婚の禁止が文化の始まり、親族の基本構造2

2021年01月08日 | 小説
2021年1月8日
「親族の基本構造」主題について
いかにして人が社会、文化を形成したかを書き綴ります。用いられる主要な概念はrègle ,ordre、inceste、filiation-allience、échange,(規則、制度、近親婚(の禁止)、系統と同盟、交換)など。文化形成とはこれら概念を人が獲得し、制度に取り込み展開しています。文化への第一歩は近親婚の禁止=prohibition de l’inceste;

1 規則(règle)と制度(ordre)、第一歩が「近親婚の禁止」
2 婚姻制度に女の交換をからめ、社会(文化)を維持してきた

交換する女を確保するには、家族内で女を消費してはならない。ここに「近親婚の禁止」規則が生まれ、制度として社会に定着する。これが文化への第一歩であり必須の過程である。では近親婚禁止とは何か。

Prohibitionの訳語に「禁止」を取る。

Incesteインセストの意は日本語、近親(相)姦そのものです。密通、隠しとおす姦淫、こんな語感で受け止める。情念の過ちゆえに忌み嫌われる、忌避される。「禁忌」なる語で表現してきた。prohibition de l’incesteは「近親相姦の禁忌」が正しい。邦訳本(青弓社)もincesteを近親相姦としprohibitionを「禁忌」としている。語感に準じた訳である。
しかし「禁忌」とすると解釈が進まないし、その語を持って訳とすると著者の訴えかけ(メッセージ)から離れる。
小筆はprohibition de ….に「近親婚の禁止」を訳に当てる。

精神分析者はそれをオイデプスコンプレックスと類型し、研究課題に取り上げた。しかし情念の世界を人類学者レヴィストロースは取り上げない。なぜなら、

「近親と姦淫を犯す人はいるし隠されるけれど実例は多いだろう」との表現が本書に見えるが、それ以上の追求はない。心情、情念を彼は語らないのだ。尽くす論は制度、決まり事、しきたりに限られる。規則からはみ出し、制度の枠にもはまらない情念事情などは「自然から文化」という大通りの脇に転がる小石であると無視している。(本人に聞いたことがないけど)。
incesteを近親「姦」とせずに近親「婚」と訳す理由はそれを制度として禁止するからである。私通密通の隠れ姦淫をウンヌンするは社会科学の主題ではない。

姦を婚にした。幾分ねじ曲げ解釈に根拠は見いだされるか。困った時の辞書頼み。GrandRobertにincesteを当たる;
relations sexuelles entre un homme et une femme parents ou alliés à un degre qui entraine la prohibition du mariage.婚姻が許されない親族あるいは姻戚の男女の(幾たびか繰り返す)性的関係―とある。小筆はmariageに付く “prohibition”に注目する。mariageは制度である、するとprohibitionは制度上の禁止を意味する。この語に「禁止」を当てても見当違いではない。同じくrobert….
用例にprohibition de l’inceste が載せられている。その意味は「règle fondamentale gouvernant l’échange des femmes」女の交換の基本的規則とあった。これってまさにレヴィストロースの学説を引用しているんじゃ(彼の名の引用はない)。prohibition…が規則règle則る決まり事としている。
勝手決めつけの感があった「prohibition de l’incesteを近親婚の禁止」は、正訳であり本書理解への直通バイパスだった。

本投稿とprohibition de l’incesteを「近親相姦の禁忌」とする訳本(青弓社)との差異は、文言の異なりに留まらない。incesteを近親「婚」、prohibitionを禁忌でなく「禁止」と訳さないと本書は理解できない。

邦訳本青弓社、福井和美訳
微妙なところをどのように解釈するかで、当訳本のお世話になった。


近親婚禁止が文化の始まり;

家族内で通婚していてはどの家族も孤立する。その禁止を持って家族が成り立ち、女を交換する単位が設定される。社会の始まりです。後にはより大きな単位、バンド、村落、族社会に発展してゆく。
では如何にしてそれを禁止するか、どこまで禁止かどこからは許されるのか。

先住民たちは親族(parenté)定義をfiliation(系統)とallience(婚姻同盟)に分けた。
Filiationは同じ系統、集団、族統に属する人々である。男系を系統原理とすれば「私ego」の母は父とは別の系統filiationから嫁にきて(allience)、生まれた私と兄弟姉妹は父の系統に入る。これに「兄弟姉妹」の語を当てる。
兄弟と姉妹は婚姻できない。この決まりがそれらにも適用され、平行イトコ同士の通婚の禁止が制度として多くの先住民社会で確立している。

母は別のfiliationから父に嫁にきた。母の兄弟はその別filiationに属し、その子らをして交差イトコとする。多くの先住民で交差イトコには「兄弟姉妹」以外の語を用いる。その女子と婚姻は可能。父が母を嫁に迎えたと同じく、母の系統に属する子女と「私ego」は結婚できるし、推奨あるいは義務づけされる。

交差イトコのもう一系統、父の姉妹の娘と通婚できるか。
男系系統を前提として、父の姉妹の子女らの処分権(どこに降嫁させるか)は彼女らの父に属し、彼は規定に則り特定の系統に娘を渡す。その系統は私egoのそれではない。交差イトコを婚姻相手に選ぶ際に「母方女系」か「父方男系」かの分別は重要で、いずれかを選択すればもう一方はかならず忌避される。

(親族の基本構造 2 の了 2021年1月8日)

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