(2021年1月20日)
第2章「Le problème de l’inceste近親婚の問題」の2
自然から文化へ;
<la prohibition de l’inceste est à la fois au seuil de la culture , dans la culture, et en un sens la culture elle-même>(14頁)
「近親婚…」は文化との関連では、文化に入り込む敷居であり、かつ文化そのものである。
上引用のseuilは敷居。日本語の感覚で敷居は玄関の「内側」、フランス語の感覚では「境界線上」まだ玄関の内ではない。よって「その始まりはまだ文化ではない」と訳したいが、それが正統との根拠はあるのか。Petit Robertではその意味は概ね境界線上だが、一つこんな用法を見つけた「sol autours de la porte d’entré」玄関戸の周りの土とある。ならば外側にも使える。これがスタンダード辞典の「一歩手前」とも整合する。すると新石器革命以前を前社会として未だ文化には一歩手前であるけれど、文化範疇でもある「…禁止」は実施していた。そのような雰囲気としてとらえたい。(冷や汗タラリ~)
文化の一歩手前を「前社会」としてレヴィストロースは「自然」の範囲内とする。
文化の「外か内か」になぜ拘るかというと、「…禁止」のuniversalité(汎人類性、世界のどの民族もそれを規則として持つ、前回)の説明に「自然状態の時期」から禁止していたからと説明するから、ここを文化を囲む自然、外枠として捉えたい。
続く文、
<Leurs tentatives peuvent se ramener à trois types principaux, que nous bornerons ici à caractériser et à discuter dans leurs traits essentiels>(同)
彼ら(前文の過去の社会学者達を受ける)の意図は3に分けられる、それら学説をここに定形化して内容を確認しよう。3通りの説明とは;
1 生物学 2 心理 3歴史の残滓
1の説明;
生物学観点からの説明は比較的新しい、16世紀以前には誰も語っていなかったとの前置きのあと、LewisMorgan(1818~81年アメリカ、白人至上主義、先住民は未開人説を展開した)説の紹介にはいる、
<La proposition de l’inceste seraitt une mesure de protection visant à mettre l’espèce à l’abri des resultas néfastes des mariages consanguins>(15頁)
「近親婚...」は血族結婚を重ねる生じる不吉な(遺伝的)結末から種族を守るための手段であるかもしれない。(動詞のseraitはetre(be)の条件法で断定していない「かも知れない」が訳)
多くの部族で近親婚の結末として「子は化け物(monstre)」が伝えられる。しかしそれら先住民は近い血族(曽叔父と姪、オーストラリア)でも「近親婚ではない」として婚姻が許される。その結合による子は化け物にならない。<tels châtiments sont communément prévus par la tradition primitive pour tous ceux qui transgressent les règles, et ne sont nullement réservés au domaine particulier de la reproduction>(15頁)このような懲罰(子が化け物)は多くは社会の「(いろいろな」規則破り」で出現する、原因は近親婚での再生産に限っていない。
続いてJochelson(Waldemar、1937年没シベリア民族の研究)の報告にある「Yakut族はいとこ婚で生まれた子は早死するし、子の両親も長生きはしない」伝承を取り上げ、こうした(先住民信心の)報告をどのように解釈したら良いかと自問する。しかし答えはすぐに出る。次の文節;
<Voilà pour les sanctions naturelles. Quant aux sanctions sociales , ells sont si peu fondées sur des conditions physiologiques que….>(16頁)
これらは自然(生物学的)からの裁定である。しかるに社会として裁定が控えるのだが、それは生物(生理)学の視点など持たない。
ボルネオ・Kenyah族の「近親婚...」の制度と罰則を取り上げている。
母、姉妹、娘...などとの婚姻を禁止し、さらに姻戚の母(義母)などにも適用され、「この違反は罰則が更に重い」。義母、義姉妹、義娘(妻の連れ子)は婚姻を経た「社会の制度」で定義されるわけで、「生物的つながり」を持つ血族ではない。にもかかわらず罰則を設ける背景は「遺伝的虚弱化」を彼らが念頭におく訳ではない。社会の決まりとしての罰、すなわち禁止が文化に由来する証明でもある。
民族学の先学に報告され、畸形を生む原因などの言い伝えを残すYakut族など先住民。それ故に禁止とした解釈にレヴィストロースは;
「まず規則がある、規則破りへの予告的戒め」との解釈も、あわせ評価しなければ片手落ちと指摘する。
(日本でもこの規則、近親姻戚との婚たはけの禁止、は古代からあった。古事記ではそれをも罪(穢れ)と、近親血族と同列にして禁止する。「本朝たはけ考」を後に投稿する)
「近親婚の禁止」の生物学的説への批判は続く。2点を上げる。
1 近親婚が遺伝劣化を引き起こす、この主張は正しいか
2 近親体を掛け合わせて優秀な個体(栽培種、飼育種)を人は作っていたではないか。
牛は1万年前、野生種(オーロックス)を飼育種に改良したものとされる。体躯の小型化、従順性格を「かけ合わせ」で引き出した。ヨーロッパでは飼育種を抜粋してオーロックスを再現する試みがある。写真はその一頭。形体はともかく、体躯大型化はまだたどり着いていない。それは新石器人が躯体の小さい野生種をかけた事を説明している。種牛が体重1tを越す事は少ないが。オーロックス雄は1.5tあったとされる(写真はネットから)
2について;
<On ne doit d’ailleurs pas perdre de vue que, depuis la fin du paléolithique, l’homme utilise des procédés de reporoductions endogamiques qui ont amené les espèces cultivées ou domestiqués vers un degré croissant de perfection. Comment donc, à supposer que l’homme eut été conscient des résultas de tells méthodes 、et qu’il eut jugé, en la matière de façon rationelle , expliquer qu’il ait abouti dans le domaine des relations humaines à des conclusions opposées à celles que son expérience…後略(16頁)
しかしながら学に関わる者(on人)たるは視線の基準点を失ってはならぬのだ!旧石器時代の終焉時期から人々は近親交配(reproductions endogamiques)の手法を用いて栽培種(小麦など)、飼育種(牛豚…)の育成を手がけ、完璧なまでに育種の生産性水準を高めたではないか。その事実を持ってして、人間の遺伝分野(domaine des relations humaines)にのみ、それら結果とは真逆とも言える思考判断を、どのようにして人が取るのか。
レヴィストロースが得意とする「そもそも」論の神髄とも言える指摘です。
第2章「Le problème de l’inceste近親婚の問題」の2 了(2021年1月20日)
第2章「Le problème de l’inceste近親婚の問題」の2
自然から文化へ;
<la prohibition de l’inceste est à la fois au seuil de la culture , dans la culture, et en un sens la culture elle-même>(14頁)
「近親婚…」は文化との関連では、文化に入り込む敷居であり、かつ文化そのものである。
上引用のseuilは敷居。日本語の感覚で敷居は玄関の「内側」、フランス語の感覚では「境界線上」まだ玄関の内ではない。よって「その始まりはまだ文化ではない」と訳したいが、それが正統との根拠はあるのか。Petit Robertではその意味は概ね境界線上だが、一つこんな用法を見つけた「sol autours de la porte d’entré」玄関戸の周りの土とある。ならば外側にも使える。これがスタンダード辞典の「一歩手前」とも整合する。すると新石器革命以前を前社会として未だ文化には一歩手前であるけれど、文化範疇でもある「…禁止」は実施していた。そのような雰囲気としてとらえたい。(冷や汗タラリ~)
文化の一歩手前を「前社会」としてレヴィストロースは「自然」の範囲内とする。
文化の「外か内か」になぜ拘るかというと、「…禁止」のuniversalité(汎人類性、世界のどの民族もそれを規則として持つ、前回)の説明に「自然状態の時期」から禁止していたからと説明するから、ここを文化を囲む自然、外枠として捉えたい。
続く文、
<Leurs tentatives peuvent se ramener à trois types principaux, que nous bornerons ici à caractériser et à discuter dans leurs traits essentiels>(同)
彼ら(前文の過去の社会学者達を受ける)の意図は3に分けられる、それら学説をここに定形化して内容を確認しよう。3通りの説明とは;
1 生物学 2 心理 3歴史の残滓
1の説明;
生物学観点からの説明は比較的新しい、16世紀以前には誰も語っていなかったとの前置きのあと、LewisMorgan(1818~81年アメリカ、白人至上主義、先住民は未開人説を展開した)説の紹介にはいる、
<La proposition de l’inceste seraitt une mesure de protection visant à mettre l’espèce à l’abri des resultas néfastes des mariages consanguins>(15頁)
「近親婚...」は血族結婚を重ねる生じる不吉な(遺伝的)結末から種族を守るための手段であるかもしれない。(動詞のseraitはetre(be)の条件法で断定していない「かも知れない」が訳)
多くの部族で近親婚の結末として「子は化け物(monstre)」が伝えられる。しかしそれら先住民は近い血族(曽叔父と姪、オーストラリア)でも「近親婚ではない」として婚姻が許される。その結合による子は化け物にならない。<tels châtiments sont communément prévus par la tradition primitive pour tous ceux qui transgressent les règles, et ne sont nullement réservés au domaine particulier de la reproduction>(15頁)このような懲罰(子が化け物)は多くは社会の「(いろいろな」規則破り」で出現する、原因は近親婚での再生産に限っていない。
続いてJochelson(Waldemar、1937年没シベリア民族の研究)の報告にある「Yakut族はいとこ婚で生まれた子は早死するし、子の両親も長生きはしない」伝承を取り上げ、こうした(先住民信心の)報告をどのように解釈したら良いかと自問する。しかし答えはすぐに出る。次の文節;
<Voilà pour les sanctions naturelles. Quant aux sanctions sociales , ells sont si peu fondées sur des conditions physiologiques que….>(16頁)
これらは自然(生物学的)からの裁定である。しかるに社会として裁定が控えるのだが、それは生物(生理)学の視点など持たない。
ボルネオ・Kenyah族の「近親婚...」の制度と罰則を取り上げている。
母、姉妹、娘...などとの婚姻を禁止し、さらに姻戚の母(義母)などにも適用され、「この違反は罰則が更に重い」。義母、義姉妹、義娘(妻の連れ子)は婚姻を経た「社会の制度」で定義されるわけで、「生物的つながり」を持つ血族ではない。にもかかわらず罰則を設ける背景は「遺伝的虚弱化」を彼らが念頭におく訳ではない。社会の決まりとしての罰、すなわち禁止が文化に由来する証明でもある。
民族学の先学に報告され、畸形を生む原因などの言い伝えを残すYakut族など先住民。それ故に禁止とした解釈にレヴィストロースは;
「まず規則がある、規則破りへの予告的戒め」との解釈も、あわせ評価しなければ片手落ちと指摘する。
(日本でもこの規則、近親姻戚との婚たはけの禁止、は古代からあった。古事記ではそれをも罪(穢れ)と、近親血族と同列にして禁止する。「本朝たはけ考」を後に投稿する)
「近親婚の禁止」の生物学的説への批判は続く。2点を上げる。
1 近親婚が遺伝劣化を引き起こす、この主張は正しいか
2 近親体を掛け合わせて優秀な個体(栽培種、飼育種)を人は作っていたではないか。
牛は1万年前、野生種(オーロックス)を飼育種に改良したものとされる。体躯の小型化、従順性格を「かけ合わせ」で引き出した。ヨーロッパでは飼育種を抜粋してオーロックスを再現する試みがある。写真はその一頭。形体はともかく、体躯大型化はまだたどり着いていない。それは新石器人が躯体の小さい野生種をかけた事を説明している。種牛が体重1tを越す事は少ないが。オーロックス雄は1.5tあったとされる(写真はネットから)
2について;
<On ne doit d’ailleurs pas perdre de vue que, depuis la fin du paléolithique, l’homme utilise des procédés de reporoductions endogamiques qui ont amené les espèces cultivées ou domestiqués vers un degré croissant de perfection. Comment donc, à supposer que l’homme eut été conscient des résultas de tells méthodes 、et qu’il eut jugé, en la matière de façon rationelle , expliquer qu’il ait abouti dans le domaine des relations humaines à des conclusions opposées à celles que son expérience…後略(16頁)
しかしながら学に関わる者(on人)たるは視線の基準点を失ってはならぬのだ!旧石器時代の終焉時期から人々は近親交配(reproductions endogamiques)の手法を用いて栽培種(小麦など)、飼育種(牛豚…)の育成を手がけ、完璧なまでに育種の生産性水準を高めたではないか。その事実を持ってして、人間の遺伝分野(domaine des relations humaines)にのみ、それら結果とは真逆とも言える思考判断を、どのようにして人が取るのか。
レヴィストロースが得意とする「そもそも」論の神髄とも言える指摘です。
第2章「Le problème de l’inceste近親婚の問題」の2 了(2021年1月20日)
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