鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波に貝図揃金具

2013-09-13 | 鍔の歴史
 比較的古くからある文様の一つとして波文を採りあげる。波文は、唐草文と同様に動きを秘めた文様である。網状に構成される唐草文の先端は、繰り返される生命の存在を暗示し、その蔓草の伸延の様子は時に丸みを帯び、発芽のその様子を先端に感じさせる。絶えることなく繰り返し寄せ来る波も永遠を意識させる自然現象であり、それを文様とした背景には無限に連続する生命への憧れが窺いとれるのである。


波に貝図揃金具


箱根神社伝来曽我五郎所持と伝える腰刀の残欠

 鎌倉時代の曽我五郎が所持したと伝えられる腰刀拵の残欠が、箱根神社に伝来しているという。これについては写真でしか見たことがないので、「実際に見た作品しか解説しない」というこのシリーズの規則から外れてしまうが、これを手本として製作されたと思われる腰刀拵が存在するため、本歌の代わりとしてこれを主に簡単に説明する。
 写真の腰刀拵は、赤木鞘と呼ばれているように下地は赤味のある堅木製で、筒金を柄と栗形辺りに備え、それらに波文が施されているのである。正確には曽我五郎使用と伝う拵を写しているわけではなく、雰囲気が似ていると言うべきで、銀地金具には毛彫で青海波と呼ばれる端整な波文を連続させ、その合間に貝の文様を散らし配している。即ち波は貝の図の地文。本歌は青海波文ではなく濤瀾風で、散らし配されている文様も貝ではなく唐花菱紋である。赤木柄鞘の拵は江戸時代後期の作。遠い昔を想定して再現しているのであり、江戸時代の武家の中でも古作への想いを具象化し、楽しむという意識の持ち主は多かった。加えて、江戸時代後期には復古思想が高まり、古作の再現は拵だけでなく刀身そのものにも向けられたことは良く知られている。