鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

渦巻文図鐔 太刀師 Tachishi Tsuba

2011-11-12 | 鍔の歴史
渦巻文図鐔 (鍔の歴史)


渦巻文図鐔 太刀師

 素銅地に渦巻文を密に散らし配し、土手耳風の突起を設けて意匠とした作。耳には縄目覆輪を掛け、大切羽として菊花文を打ち施した朧銀地の糸巻形の座金を装着している。この大切羽は外すことが可能。古風な文様を再現したもので、時代は桃山末期から江戸初期であろう。太刀の鐔としても、打刀としても使用されたものであろう。渦巻は毛彫、恐らく、薄い素銅地に毛彫を施し、突起は裏面から打ち出す手法。その地板を下地の上に装着したと考えられる。凝った表現である。線描写になる渦巻文の例である。88ミリ。

風景図鐔 鎌倉 Kamakur Tsuba

2011-11-10 | 鍔の歴史
風景図鐔 (鍔の歴史)


風景図鐔 鎌倉

 文様表現という点では、過去に幾度か紹介した鎌倉鐔と汎称されている作を例に上げねばならない。鎌倉鐔の多くは風景の要素を題に得ているのだが、いずれも文様化された風景である。
 この鐔が典型。薄手に仕立てた鉄地をさらに鋤き込み、異風に文様化された風景を表現している。鋤彫の手法から鎌倉彫に擬えて鎌倉鐔と読んでいる手のもの。各々の素材は関連なしに鐔面を装っているようだが、恐らく作者はこの文様要素の関連性を意識しているのであろう。問題点は鋤彫である。美濃彫や正阿弥のような高彫とはせず、板鐔の厚さを越える高さはない。異風な意匠も大きな魅力である。けっして稚拙ではない。意図してのデフォルメである。78.9ミリ。

桐図鐔 無銘埋忠 Umetada Tsuba

2011-11-09 | 鍔の歴史
桐図鐔 (鍔の歴史)


桐図鐔 無銘埋忠

 江戸時代初期の埋忠派の鐔。ごくわずかに青みを帯びた美しい赤銅地を密に揃った石目地に仕上げ、金の平象嵌で桐樹を線描写し、さらに片切彫を加えて両手法の組み合わせになる表現としている。耳際は地面に比して薄手の仕立てになる碁石形で、さらにごくわずかに小耳に仕立てて覆輪状の構成としている。埋忠明壽には真鍮地などを用いた渋い出来のものと、このような華やかな作風とがある。いずれも後の多くの金工が手本としたようだ。文様を施す技法は、江戸時代初期には既に多様化している。後の金工は、その中から自らが求める作風のために最も適した技術を選択したのである。65ミリ。

葡萄文図鐔 無銘埋忠

2011-11-08 | 鍔の歴史
葡萄文図鐔 (鍔の歴史)


雪華文図鐔 無銘埋忠

素銅地に、小透、金銀平象嵌、櫃穴周りの星形意匠雪の結晶を想わせる意匠を施した、洗練味のある鐔。雪のデザインで紹介したことがある。優れたデザイン性に埋忠派の特質があり、大きな魅力となっている。76.5ミリ。


葡萄文図鐔 無銘埋忠

 葡萄の蔓、葉、花、実などは様々に意匠されている。この鐔は、写実味を含んでいながらも明らかに文様化したことが判る図柄である。こうした洒落た意匠は埋忠派の得意としている。暗くもなく明るくもない、いわば中間色に位置する素銅地を巧みに活かし、金と銀に薄い鋤き下げの高彫を組み合わせている。時代の下がるに従い、埋忠派は平象嵌だけではなく彫刻技法も盛んに用いるようになる。84.3ミリ。

唐草文図鐔 埋忠 Umetada Tsuba

2011-11-07 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 (鍔の歴史)


唐草文図鐔 埋忠

 古典的な意匠と新趣が組み合わされた、洗練味の漂う作。変り木瓜形の造り込みは、太刀鐔からの意匠。これを十字形に意匠している。ここからキリシタン鐔ではないかとみられた方もおられる。文様は牡丹唐草と鉄線唐草を金平象嵌で表わし、四隅に片切彫で牡丹唐草を描いている。赤銅の漆黒地を背景に浮かび上がる金線の鮮やかな様子、その曲線美。何て素敵な鐔であろうか。71.5ミリ。

唐草文図鐔 無銘埋忠 Umetada Tsuba

2011-11-05 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 (鐔の歴史)


唐草文図鐔 無銘埋忠

 先に紹介したことのある古金工極めの鐔と、同じ意匠と造り込みの作。木瓜形に造り込んだ山銅地の地面には揺れるような日足鑢を施し、処々に虫食いの小穴を穿って装飾としており、異なるのは金線象嵌による唐草の処方と、金覆輪の有無。埋忠極めでも時代が上がる作と言え、古金工に極められてもなんらおかしくはない。埋忠明壽に先んじた古埋忠派の作と鑑れば、多々みられる埋忠明壽の作風とは異なる風合いもあり、時には古金工に分類され得る。この鐔も、見方によれば古金工と言えよう。唐草に古風な味わいがあるも、金線の流れる様子に洗練された感性のありようを感じ取ることができる。虫食いの穴は、板塀を意図した意匠だが、江戸時代を通じて間々みられる。91.5ミリ。

唐華文図鐔 埋忠 Umetada Tsuba 

2011-11-04 | 鍔の歴史
唐華文図鐔 (鐔の歴史)


唐華文図鐔 無銘埋忠

 格狭間を意匠したものであろう、上下に古典的な文様の透かしを施し、地には唐草と唐華文を毛彫に表わしている。埋忠派の文様表現になる、大きな特徴の一つとも言い得る作である。この唐華を備えた唐草文も、古典的である。唐華とは、デザイン化された特定できない植物の花で、唐草と組み合わせて描かれることが多い。格狭間とは、足付きの台などの足間や、窓などに採られる建築意匠の一つ。真鍮地の色合いが何とも渋く、古色を積み重ねており、地に生じている自然味のある地文も美しい。76ミリ。

唐草文図鐔 埋忠 Umetada Tsuba

2011-11-01 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 (鐔の歴史)


唐草文図鐔 埋忠

 埋忠明壽の文様表現に背景には京の織物文化がある。この鐔は、古典的な唐草文に宝珠や松皮菱の文様を組み合わせて毛彫で描き表わしたその地に、源氏香のような線状の文様を透かしている。これも真鍮地の渋い色調が魅力。平象嵌の代わりに文透かしは、他の鐔工と同様で、毛彫もまた多くの鐔工や金工が用いている。地は細かな筋状の働きは少なく平滑だが、鎚の痕跡が緩やかに残されて地の景色となっている。動きのある唐草も魅力だ。76ミリ。