鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

瓢箪図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-10-11 | 鍔の歴史
瓢箪図鐔 古金工


瓢箪図鐔 古金工

参考例で示している埋忠明壽の拡大写真を再度ご覧いただきたい。光忠の地金と良くにた肌合いとなっている。この肌模様を表わすためには単純に真鍮地の表面を酸などで腐らかし処理をするだけでは生まれないだろう。真鍮という亜鉛と錫を主体とする合金に、別の金属や半金属が混ぜ込まれており、おそらく複雑な素性となっているはずである。似たような複雑な組成の合金が山銅である。だが、下写真のような山銅の地相は、腐らかしが施されてはいても風合いが異なり、やはり結果として違った肌合いが出来上がるようである。また、合金の混合の均一さも影響しよう。表題の鐔は山銅地に瓢箪図。瓢箪の周囲は微細な鋤込みを施した上に腐らかしを加えたように思われる。鏨を打ち込んだ石目地とは違って微細な凹凸に自然味が感じられる。

埋忠明壽


猛禽に葡萄図鐔 光忠 Mitsutada Tsuba

2014-10-09 | 鍔の歴史
猛禽に葡萄図鐔 光忠


猛禽に葡萄図鐔 銘光忠

 光忠は、埋忠明壽に近い金工であると考えられている一人。明壽に比較してさらに時代の上がる風情を示していることから、先行しているのではないだろうかともみられている。確かに明壽は、似たような地造りや、仕立てをしているが、光忠のような布目象嵌があるものの、さらにここから洗練された平象嵌へと進化させている。逆に見ると光忠の魅力は素朴さに溢れている点にある。真鍮地を拡大観察してほしい。以前に光忠の似た作風になる塩屋図鐔を紹介したことがある。その地造りと全く同じ。何年か前までは、この地文様は鑢目の一種であると考えられていた。即ち作者が文様として切り施したものであると。近年、研究が進んで金属組織であることが確認されたものである。実は筆者は、以前からこれは鑢目ではなく、合金からなる金属の自然な肌文様であることは認識していた。子供の頃、鉛などを加熱して融かし遊んだことがある。その作業の中で、金属が固化する際、その表面に微妙な皺が生ずることを確認していた。それは、あたかも金属が結晶面を示しているかのような、方向性が顕著なもので、また、合金がうまく混合されていない場合には、固化した表面に異風な皺が現れることも認識していた。だから、この種の鐔を見たとき、鑢目ではない、頗る面白い表情を巧みに採り入れていることに感心したものだが、それが金属の組織であることが確認され、一般に理解されるまでにはずいぶんと時間がかかったようだ。

文散し図鐔 Tsuba

2014-10-08 | 鍔の歴史
文散し図鐔


文散し図鐔

 これも作者不明、時代も不明な作。古金工と推考している。山銅地を平滑に仕上げ、金銀の平象嵌を配し、線状の平象嵌も加えているが、だいぶ脱落している。仔細に観察すると、彫り込んだ線の所々に金が斑で残っている。しかも金線が少し低い仕上がりとなっている部分もある。平象嵌ではないのかもしれない。金の残欠からの推測だが、アマルガムを利用した色絵の可能性もある。とはいえ、線が頗るシャープであり、アマルガムを利用したとも断じられない。とにかく面白い作品である。

文字散し図小柄 Kozuka

2014-10-07 | 鍔の歴史
文字散し図小柄


文字散し図小柄

 作者系統不明の作だが、埋忠派のようなごくわずかに肉高い平象嵌が施されている。使用中に脱落したものであろう、象嵌の落ちた部分の様子が観察される。象嵌の下地を見ると、彫り込まれた底の部分に、さらに深く彫り込みが加えられているのが判る。底部を複雑にすることにより、平象嵌の金属が食い込むような工夫をしているわけだ。象嵌の落ちた作品は健全度と美しさに乏しいことから刀屋などの店頭で見る機会は少ないと思う。江戸時代中期の細野惣左衛門の平象嵌の例だが、脱落した底部には、これと同様にいくつもの鏨の打ち込みが、オロシガネのように施されていた。平象嵌の周りを寄せて固定するだけではないことが、この作品からも判る。

瓢箪図笄 古後藤 Kogoto Kogai

2014-10-04 | 鍔の歴史
瓢箪図笄 古後藤


瓢箪図笄 古後藤

 赤銅地金銀平象嵌。現在は桃山時代以前の後藤家の作(古後藤)と極められてはいるが、かつては埋忠の作と鑑られていたもの。拡大写真でも判るように、平象嵌部分が地面よりわずかに肉高く処理されているという特徴がある。この点から埋忠とみられていたのであろう。図柄は文様化された瓢箪であり、この文様表現という点においても埋忠派と捉えられたと推考される。平滑に仕上げられた赤銅地に、金銀の線状の平象嵌がくっきりと施されている。

秋草に鹿図鐔 美濃 Mino Tsuba

2014-10-03 | 鍔の歴史
秋草に鹿図鐔 美濃


秋草に鹿図鐔 美濃

 美濃彫様式を展開した江戸時代初期の鐔。秋草の布置に文様的な構成から絵画的な展開が窺いとれる。植物と鹿のバランスは古典的であり、それゆえに文様風でもある。赤銅魚子地高彫色絵、鹿の斑文は栄乗のそれと同様に平象嵌のように見える。だがこの場合、鹿は赤銅地高彫に金色絵であり、そこに平象嵌を加える必要はない。斑文部分は色絵を丸く抜いているのであろうか、複雑な処理である。だがその切り口は意外とシャープであり、即ち効果的に文様表現されていると言えよう。

夫婦鹿図目貫 後藤栄乗 Eijo-Goto Menuki

2014-10-02 | 鍔の歴史
夫婦鹿図目貫 後藤栄乗


夫婦鹿図目貫 後藤栄乗

 後藤宗家六代栄乗の作と極められた目貫。先に紹介した祐乗極めの笄と比較して鑑賞されたい。裏面の観察では、象嵌が施されている部分にのみ表面からの打ち込みが観察される。深い象嵌処理を施すのであれば当然のことであろう。こうして作品を眺めてみると、赤銅の斑文の存在によって金が一層鮮やかに感じられる。
 この平象嵌という技術は比較的古くからあり、正倉院収蔵の刀子などに瑞雲などの線状文様が平象嵌されている例がある。七星剣なども平象嵌による装飾である。ただし、剣などのように表面を研磨する器物は、後に表面と同じ高さに仕上げざるを得ないため、初期の様子が不明である。この技術を装剣金工に採り入れようと祖考えたのはどの時代の金工だろう。より鮮やかで剥がれることのない技術的展開と、豪奢な装飾性の二面で考える必要がありそうだ。

二疋馬図笄 祐乗 Yujo-Goto Kogai

2014-10-01 | 鍔の歴史
二疋馬図笄 祐乗


二疋馬図笄 銘祐乗作光理(花押)

 後藤家初代祐乗の作であることを、同十二代光理が極めて銘を刻したもの。後藤家らしい二疋の動物を併走させた図で、阿吽の相が窺いとれる。くっきりとした高彫に色絵と平象嵌が施されている。鬣が色絵、斑文が平象嵌。色絵に比較して象嵌部分の色合いが鮮やかであるのは当然、金の厚さが異なっているからだ。平象嵌の脱落部があるので、その処方が想像できよう。彫り込んだ円形が、腰の辺りは比較的深く、喉の辺りのはかなり浅いように感じられる。異金属を象嵌して表面を平滑に仕上げるこの表現は、特に金を鮮やかに見せる効果がある。古くは線状の平象嵌と点状の平象嵌が多く、技術が確立されるに従い、大きな面を平象嵌で施すようになる。後藤家の場合、平象嵌は高彫の表面に、特に着物の文様などを施す程度であったたため、大きな平象嵌は見ない。