酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 この時期必ず思い出す噺2 中篇

2009-04-02 11:01:19 | 落語の話?
長屋の花見を語っております。名人「柳家小さん」師匠の十八番です。
このお話は、やはり師匠をおいて他に「上手い!」と思う噺家さんはないと考えております。が、ですが、単に「おもしろい」を通り越した「何か」があるのでした。淡々と話す口調から、長屋の住人全員のキャラクターが見事に描写されております。しかも場面をも演出できる仕等等・・・
とてもまねできる噺ではありません。
小さん師匠を事の他愛しておりました東北福祉大学落語研究会初代会長「蟻巣家米やん」さんが酔漢にこう言いました
「まだまだだね」(テニプリ風!?)そして「場面展開を急ぎすぎる!もっと丁寧に演じないと・・」とも。今度これにばかり注意しておりますと「誰が誰だかわからない!」と。
正直、この噺を仕上げるのをあきらめかけたのでございました。

大家さん家の前。長屋連中が月番を先頭にやってまいりました。

「いいか、おめぇら、なるべく頭を低くしてろよ。だってそうじゃぁねぇか、そうしときゃぁ、大家が小言を言ったって、小言がスーッと頭の上を通り越しちまうから。・・・着いたっと・・・大家ん家だ・・・あ、いるよぉ・・おい!見ろよ、小難しい面しやがって。新聞なんぞ読んでるぜ・・・あの顔つきからして、いよいよ店立てだな、こりゃぁ、間違いねぇなぁ・・」
「おい!脅かすなよ」
「じゃぁ、いいかい!入るからな!頭、下げてろよ。(大家に挨拶)えぇ、大家さん、おはようございます。えぇ、お言葉どおり、長屋の連中、雁首揃えてやって参りました。なんかご用でございましょうか?」
「なんだぁ。そんな戸袋ンところへかたまって・・いいから、いいから。みんなこっちィ入ンな」
「いえ、ここで結構です。すいませんが、店賃のことでしたら、もう少し待っていただきてぇんですが・・・」
「店賃?あぁ、そうかぁ、俺が呼びにやったてんで、店賃のことだと思ったのかぃ?そんなら心配いらないよ。今日は店賃のことで呼んだんじゃぁねぇんだから」
「えっ?店賃じゃねぇ?もう諦めましたか?」
「そりゃぁ。諦めちゃぁいねぇ」
「おぉ、こりゃぁ執念深けぇじゃぁねぇか・・」
「執念深いてぇことがあるか。ま、店賃はいずれ入れてもらわなきゃならねぇが、今日はそんなことで呼んだんじゃぁねぇ。まぁ、いいからこっちへ入ぇんな」
「へぃ、どうもおはようごさいます」
「おはようござんす」
「おはようございます」
「おはようす!」
「おはようさんです」
「おはようございます」
「もういいよ、そう、みんなで、『おはよう、おはよう』と言わなくても、ひとり言えば分かるんだから・・」
「じゃぁ、あっしが月番ですから、みなに成り代りまして、えぇ、大家さん、おはようございます」
「ああ、おはよう。そうだ。お前さんが月番だから、これもまとめて言うけどね、おれだってあんな小汚ねぇ長屋貸しとくんだから、店賃はそう気にしちゃあいねんだ・・」
「そりゃぁそうですよぉ、あっしたちだって、あんな薄汚ねぇ長屋借りてるんですから、店賃なんてぜんぜん気にしちゃあいませんから、大家さんもどうかご安心なすって」
「だれが安心なんぞするもんか!まあ、みんな楽じゃぁねぇんだろうが、少しずつでも入れてくんなくちゃぁいけねぇ。だけど、楽じゃぁねぇと言えば、巷じゃぁ、家の長屋のことをことを『貧乏長屋』なんて言ってるそうだな」
「え?えぇ、もうねぇ、貧乏長屋の戸無し長屋って言っちゃぁ、もう、音に響いておりやす」
「なんだぃ、その戸無し長屋てぇなぁ?」
「長屋全部、戸がねぇんで・・」
「そんなはずはねぇ。仮にも人が住んでるんだ。家に戸がねぇなんてぇことがあるかぃ」
「えぇ、まぁ、はじめのうちは確かに戸があったように思います。けどねぇ、なにしろ湯を沸かすったって、飯を炊くったって、燃すものがなきゃあできねぇでしょ。だから、しょうがねぇんで、雨戸をだんだん燃しちまったんで」
「おいおい、いけねぇな、それは。戸締まりがしてなくっちゃぁ不用心でしかたあるめぇ。泥棒でも入ぇったらどうするつもりだぃ?」
「泥棒? おぅ、うちの長屋に泥棒なんぞ入らねぇよなぁ!?」
「そうそう、入らねぇよ。出たこたァあるけど」
「おいおい、そんな人聞きの悪いことを言うな・・まぁ、話しは違うが、「銭湯で上野の花のうわさかな」なんてぇことを云うだろ。いい陽気になってきたなぁ」
「ええ、まったくいい陽気ですねぇ」
「表をぞろぞろと人が通るじゃぁねぇか」
「へぇ、どこへ行くんですかねぇ」
「決まってるじゃぁねぇか。花見に行くんだ」
「へぇ、結構な身分ですねぇ。あっしたちだって、おんなじ人間なんですから、あんな身分になってみてぇもですねぇ」
「そうなんだよ。みんなを呼んだ用てぇなぁ・・」
「へぇ?」
「家の長屋を『貧乏長屋』なんて言われんのは癪に障ってしょうがねぇ。どうだい、ひとつ陽気に花見にでも出かけて、貧乏神を追っ払っちまおうと思うんだが、どうだい?なまじっか、女っけのねぇほうがいいや。野郎だけで繰り出そうと思うんだが、どうだい?」
「へぇぇぇぇ。花見ねぇぇぇぇで、どこへ行こうてぇんです?」
「上野の花が満開だそうだ。近間でいいから、どうだい?」
「上野ですかぃ?するてぇと、長屋の連中がぞろぞろ出かけて、花ァ見て、ぐるっと一回りして帰ってこようってぇわけですかぃ?」
「何を言ってるんだい!そんなぐるっと歩くだけの花見なんてぇ間抜けな花見があるか。酒、肴をもってって、わーっと騒がなくっちゃあ、行った甲斐てぇものがねぇじゃぁねぇか」
「酒、肴ですかぃ?どこにそんなものがあるんですかぃ?どっかでかっぱらって来ますか?」
「おい、ダメだい、そんなことを言っちゃぁ。そっちの方はおれが用意したから安心しな。おめぇらは身体だけもってってくれりゃぁいいんだから・・」
「へぇ!大家さんが酒、肴を心配してくれたんですか!?」
「ああ、そうだ!ここに一升瓶が三本あらぁ。それにこの重箱の中にゃぁ、かまぼこと卵焼きがへぇってる。酒肴ったってこれだけなんだが、どうだい? みんなで出かけるかぃ?」
「えっ?一升瓶が三本に?かまぼこと卵焼き?それだけみんな大家さんのおごりですかい!?」
「どうだい?上野の山ぁ、行くかい?」
「行きます!!!行きますとも!!!それだけ用意ができてりゃぁ、上野はおろか、アラスカへでも行っちまいます」
「白熊と花見しようてぇんじゃぁねぇ。上野でいいんだよ。じゃ、みんな行くかい?そうかい。そうと決まれば善は急げだ。さっそく繰り出そうじゃぁねぇか。それじゃぁ、今月の月番、おめぇさん、今日はひとつ幹事を務めておくれ」
「えぇ、あっしがですかぃ?幹事ぃ?幹事てぇことになりますてぇと、お毒味役てぇことで、ひとより余計に飲み食いもしなきゃぁなりませんねぇぇ」
「おぃおぃ、幹事になるとそんな役得があるかい?じゃぁ、大家さん、あっしゃぁ来月の月番ですから、あっしも幹事に立候補しやす」
「あぁ、じゃぁ、おめぇさんも幹事をおやりよ!」
「じゃぁ、これで出かけましょう。さぁ、みんな、これから大家さんにごちンなろうてぇんじゃぁねぇか。よーっく、お礼を申し上げろ!」
「どうもありがとうござんす」
「ごちそうさまです」
「哀れな親子が助かりますぅ」
「おぃおぃ、物乞いじゃぁねぇんだ・・そんなにみんなに礼を言われるてぇと、ちょぃと決まりが悪いってもんだなぁ・・・まぁ、後の喧嘩、先にしとかなきゃならねぇてぇから、ちょぃと種明かしをするとだなぁぁぁ・・」
「種明かし?手品ですかい?」
「あぁ、実はこの一升瓶の中身は本物じゃぁねぇぇぇ」
「えっ!?本物じゃぁねぇって言うとぉぉ・・」
「番茶を煮出して水で割って薄めた。どうだぃ。酒に見えるだろう?」
「え?・・・あ・・・・あ・・の・・こ・・・れ・・・・茶ですかぃ?それじゃぁ『酒盛り』じゃぁなくて、『茶かもり』ですかぃぃ?」
「まぁ、そうも言うかもしれん・・・」
「でも、大家さん、かまぼこと卵焼きは本物なんでしょう?」
「さすがに月番。いいとこ突いて来るじゃぁねぇか!本物を買うくらいなら、五合でも酒を買うに決まってる!」
「すると、何ですねぇ・・・こっちぁ、何ですぅぅ?」
「まぁ、論より証拠だ。ふたを取って、自分で見てみなよ!」
「そうですかぃ・・・じゃぁ、蓋をとって・・・っと・・・あ・・あれっ?・・・こいつぁ、あれですねぇ・・・大根のこうこと・・んでもって・・沢庵だ!」
「その通り!沢庵は黄色いから卵焼き。大根のこうこは月形に切ってあるだろ。この包丁の使い方が難しくてなぁ・・これで誰が見たってかまぼこだ」
「そりゃぁ、見た目にゃ、ねぇ・・しっかし、こりぁゃ驚いたねぇぇ・・がぶがぶのぼりぼりときたもんだ!」
「まぁ、いいじゃぁねぇか。あっちへ行って、『かまぼこがおつだぜ!』とかなんとか言いながら、歯に当てねぇように喰って、小さいもので呑んでりゃぁ、かまぼこで酒呑んでるようにみえるじゃぁねぇか」
「まぁ、よくもそこまで考えましたねぇぇ・・そりゃぁ見えるでしょうよ。見えますけどね、やってる当人としちゃぁ・・・どうだい? みんな、これでも出かけるかい?」
「『がぶがぶのぼりぼりィ?』御免こうむろうじゃぁねぇか、なぁ、みんな!」
「そうだよ、おれぁこの頃胃の具合がよくねぇんだ。たくあんなんぞ齧りながら番茶がぶ飲みなんぞした日にゃぁおっちんじまわぁ!」
「 ほう、そうかい。おめぇさんたち、そういう了見かい?そうかい。分かったよ。それなら、明日にでも溜まってる店賃、耳ぃ揃えて・・・」
(手を大きく挙げて)「いきまぁぁすぅ!行くぅ・・!もう、大家さん脅かすんだから・・」
「なぁ、みんな!大家さんが、せっかく用意してくれたんだから、その気持ちにすまねぇから、行こうじゃぁねぇか!なぁ!・・忍びがたきも忍んでぇ・・」
「ま、向こうへ行っちまえば、こっちのもんでぇ・・・皆して浮かれちまってるしさぁ・・」
「うん・・うん・・」
「がま口のひとつや二つは・・・」
「そうそう、落っこちてねぇとも限らねぇ・・・・」
「おう!それを頼りに、ひとつ心丈夫に・・・・」
「出かけようじゃぁねぇか...」
「おい、おい!変なことを言うもんじゃぁねぇ。ともかく、みんな出かけるんだね!」
(半分べそそかくような、やけっぱち口調で)「へぃ、出かけますとも。えぇ、こっちゃぁ焼けクソですから」
「焼けクソで花見ィ行く奴がぁあるかい。おいおい、それじゃぁ幹事、さっそく働いてもらうよ!」
「えっ!? あっしも幹事ですかぃ?」
「お前ぇさんが立候補したんじゃぁねぇか!」
「あぁ、えれぇ時に幹事になっちゃったなぁ・・・へぃ、大家さん、なんでござんしょう?」
「後ろの毛氈を持ってきておくれ」
「毛氈? 毛氈なんかありません・・むしろ・・筵しかぁぁ・・・」
「俺が毛氈だって云ったら、毛氈だと思ゃあいいんだよ」
「何だか、本当に無茶苦茶な事になっちまったなぁ・・・へい!持って来やした。筵の毛氈!」
「余計なことを言うもんじゃぁねぇ。いいか、それを向こうへ行ったら下へ敷くんだ・・えぇと、そうだなぁ。その重箱を包んだ風呂敷きをくるんで、縄を掛けて・・そうそう。そこの竹の棒を通してっと・・・よし、これで担げるだろう。今月と来月の月番。おめえら、幹事二人でそれを担いで来な」
「これを担ぐんですか?へぇ、筵の包みを担いでねぇ・・こいつぁ、花見行こうってぇ格好じゃぁねぇや・・ネコの死んだのを捨てに行くようだ・・・」
「変なことを言うんじゃぁないよ・・・さぁ、一升瓶は手の空いたもンが持って、湯飲み茶碗も忘れるんじゃぁないよ。さぁ、したくはいいかい?では、出かけようじゃねぇか。月番、出かけとくれ!」
「へぃ、じゃぁ担ぐよ、上げるよ・・・よっ、と・・・じゃぁ、大家さん、出かけます。ご親類のかた、揃いましたか?」
「弔いの行列じゃぁねぇ。さぁ、ひとつ陽気に出かけよう。そら、花見だ、花見だ!」(歌を歌うように、やたら?陽気に)
「ほれ、夜逃げだ!夜逃げだ!」(辛気臭く、すこしふてくされているような口調で)
「おい 誰だぃ?後ろで、おかしなこと言ってんのは!」

長屋の連中の行列が始まりました。
さて、花見ですが、金がないのは、どこも一緒でございます。ですが、やはり花見はしたいものです。学生時代に、中山の空き地でもって(住宅はそばにありませんでした・・今はあるかも・・)一本の桜をみながら、花見をしました。
電気はありあませんでした・・予定では。ですが、さすが漁師の息子です。酒の話しで登場しました「しんぺい君」が自宅(釜石)から発電機を持って来たのでした。これ、すごいです。おかげで照明をてらして、桜をライトアップ!(音がうるさいのですが)ホットプレートで焼肉(安い肉!)をしました。
ワイルドな花見でした。
貧乏なのか贅沢なのか・・・。サントリーレッドの一番でかいボトルを薄めて呑んでました。しんぺい君は自前のスキットルで彼だけ「ワイルドターキー8年」を呑んでいたのでした。

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6 コメント

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ひー様へ (酔漢です )
2009-04-05 01:14:55
ぐずら様より、コメントを頂戴いたしました。
「柳家小さん」師匠の「長屋の花見」はお持ちのようです。
是非、お聞き下さい。
これ、酔漢が思うに「一家に一落語」の噺です。
と、勝手に思っております。
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クロンシュタット様へ (酔漢です )
2009-04-05 01:12:39
会議が吉祥寺で行われる事がございます。と、言いましても、今はそんな事はございませんが、三軒茶屋の時分はそうでした。
お花見の時期は、あの改札はそうでした。
千葉は松戸の常盤平のお店へ参りますと、「お手伝い」は花見の時期と決まっておりました。

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私のお花見は (クロンシュタット)
2009-04-04 06:42:46
花見の時期の週末の吉祥寺駅。
改札から出られないほどの混雑です。
井の頭公園の花見は学生が多いためか阿鼻叫喚もまた別の雰囲気です。
騒いで暴れたい時期が誰にでも存在するものではあります。

やがてもうすぐ私が井の頭公園で最も好きな日々がやってきます。
散った桜の花びらが池を地面を公園中を埋め尽くすのです。
早朝の人けが少ない時間に桜吹雪に包まれてにやけ顔で公園を歩き回ります。
これが私のお花見でございます。


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なるほどねぇ~ (ひー)
2009-04-03 20:51:10
落語は想像を越える展開をしますね。
実に面白い、落語を聴くと言うより見たくなりますね。

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ぐずら様へ (酔漢です)
2009-04-03 16:58:30
本当ですね。私も文章を打つたびに「小さん師匠」の声が聞こえてまいりました。
それにしても、聞けば聞くほど、出来ないのがわかってきます。
本当に奥の奥が深いです。
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小さん師匠~! (ぐずら)
2009-04-02 22:14:05
お久しぶりです m(_ _)m

「長屋の花見」は字面で読んでいても頭の中で
小さん師匠の声に変換されていきます。
師匠の噺はだいたいが大ネタといえるものより
飄々として軽い感じの噺が多いような気がしますが
耳について離れない声と、同じような語り口ながら
登場人物がはっきりと聞き分けられる絶妙な間が
さすが北辰一刀流免許皆伝!
さすが人間国宝!と呻らせられますねぇ~
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