絶望書店 頭木弘樹 編 河出書房新社
「夢をあきらめるな」という言葉が世の中に満ちています。夢は叶えるもの、いつかは夢はかなうなどなど、励ましの言葉、勇気を与える言葉ですし、それはそれで素晴らしい言葉のひとつなのでしょう。でも、世の中の多くの人は夢が叶わなかった人生を生きているはずだとこの本では書かれていました。夢のかなえかたの本は世の中にたくさんあるでしょうが、夢の諦め方の本が1冊でもあったらいいのにと思った作者の話がこの本のあとがきに書かれていました。作者は、20歳のときに難病になられ、13年間、闘病生活を送られたそうです。入院されていたときに、ベッドの上で読まれていた本は、「夢を持つことは素晴らしい」、「夢をあきらめないで」、「信じていれば夢はかなう」といったものばかりで、これらの本を読むととてもきつく感じられ、そのときの夢をあきらめる気持ちの寄り添ってくれるような本があってもいいのにと思われたのがこの本を書かれたきっかけだったようです。この本は、夢をあきらめなければいけない人に寄り添ってくれるような、救いになるような物語や話を紹介したいと集められています。このような心に寄り添ってくれるような「救い」を描くのは文学だけにしかできないことだと作者は強調されていました。この趣旨で集められたこの本の中で紹介されていた話の中で、私が一番印象に残ったのは、山田太一さんのエッセイ「断念すること」でした。可能性に次々と挑戦していくということだけでなく、人間にできることが無限ではないという無力さ、はかなさに気づき、心を平安を保つこと、心の持ちようが大切なのだと書かれていたのには目からうろこのような内容の文章でした。ベートーヴェンの耳が聞こえなかったときの気持ちや友人に送った手紙などが紹介されている「希望よ、悲しい気持ちでおまえに別れを告げよう」を読むと、ベートーヴェンが耳が聞こえなくなったときの気持ちがよく伝わってきたお話も心に沁みました。図書館でだいぶん前に予約して通勤途中の電車の中で読み終えた本でした。