東京五輪、あえてもの申す 招致反対していた人は… 異論も許容を/被災地考えて
2020年東京五輪を招致する過程では、幅広い賛否の声があった。「防災の街づくりを」「被災地の復興に意識を」――。開催が決まり、反対を唱えてきた人たちは提言する。
「日本人なら立場に関係なく祝うべきだ」「喜んでないのは非国民」。東京開催決定後、ネット上にこんな書き込みが目立っている。
「なぜ水をかけるんだっていう同調圧力がある。反論しにくくならないか心配してます」。9日、東京都内のイベントでコラムニストの小田嶋隆さん(56)は言った。
「経済効果の期待を、復興や夢という言葉に包んだ違和感」を招致活動に抱いてきたという小田嶋さん。五輪開催に招致委員会は3兆円の経済効果を見込むが、競技施設整備に約4500億円かかる計画が示されている。「お金がどう使われるのか目を光らせたい」
内田樹・神戸女学院大名誉教授(62)は「商業化の進んだ最近の五輪が嫌いで、招致も同じだった」という。1964年東京五輪では、閉会式で選手たちが国籍に関係なく腕を組み、手を振りあった光景が胸に残る。「世界は仲良くできるんだと感動を覚えた」
街頭で隣国を声高にののしる姿が珍しくない今の東京。「本来、五輪は排外主義と相いれない。偏狭なナショナリズムを乗り越え、国民が成熟する機会になるなら開催の意味もある」
評論家の大宅映子さん(72)は開催決定後、テレビ番組で「イスタンブールの方がよかった」と話した。結婚直後に経験した64年東京五輪ほどの熱気がな いと感じていたからだ。ただ、元々五輪は好き。「ハード面のみの充実ではだめ。外国客のもてなしなど、センスのいい五輪になってほしい」
「被災地を思えば東京だけ浮かれるわけにいかない」と唱えてきた漫画家のやくみつるさん(54)。「せめて五輪を機に防災に目配りした都市整備が進めば、開催もむだにはならないと思うが」と話す。
東京電力福島第一原発事故の問題に向き合うジャーナリストの津田大介さん(39)は「廃炉への道筋がついてから東北で開催してほしい」と述べてきた。 「決まった以上、盛り上がってほしい」と語りつつ、注文をつける。「原発事故の対応に政府が本腰を入れ、東京に来た人が被災地など地方を訪れるような観光 動線をうまく作ってほしい」
(松川敦志)
■都が準備会議
2020年東京五輪開催に向け、東京都は11日、猪瀬直樹知事をトップに都局長ら33人でつくる「五輪実施準備会議」を設置した。
招致活動は都スポーツ振興局を中心に進めてきたが、インフラ整備や輸送計画づくりなどに都全体でのぞむという。
■指摘されてきた2020年東京五輪の長所と短所
●長所
・経済効果(東京招致委は3兆円と試算)
・観光客が増える(招致委は大会中1010万人と試算)
・スポーツを楽しむ文化の広がり
・首都のインフラ整備促進
●短所
・東京への一極集中、地方との格差拡大
・福祉政策や教育政策が後回しになる可能性
・資材高騰による被災地の復興事業への悪影響
・首都直下地震など大災害の際の安全性
「おめでとう東京」もアウト 五輪商戦、言葉にご注意
経済効果数兆円とも言われる2020年の東京五輪――。多くの企業や商店街などがお祝いムードに商機を見いだそうとするが、ちょっと待った! その宣伝文句が五輪をイメージさせるだけでも、日本オリンピック委員会(JOC)から思わぬお叱りを受ける可能性がある。
大阪府の画像処理会社は「2020年東京開催決定記念」とうたい、9日からアルバム製作料を値下げした。前回の東京五輪(1964年)が開かれた60年代の写真を含むアルバムなら、通常より7割近く安い「2020円」でデジタルデータ化し、CDに焼き付ける。社長は「五輪をきっかけに昔の写真を見返してもらい、話題作りに役立てば」。
大阪市内のスーパーマーケット。食品売り場の一角には「やったぞ! 東京」と銘打った特設コーナーが登場した。有名店の味を再現したレトルトカレーや、東京スカイツリーにちなんだせんべい、もんじゃ焼きセットなど約10種類が山積みされている。「2020年」「オリンピック」などの文字はなくとも、東京五輪の開催決定にちなんだ企画であることは一目瞭然だ。
大阪・道頓堀(大阪市中央区)の名物人形「くいだおれ太郎」には、東京五輪の開催決定が決まった8日朝、「東京五輪! こんどは わても観(み)にゆけるやろか…」というふきだしが付けられた。多くの観光客らが足をとめ、記念撮影が続くなか、すぐ脇ではくいだおれ太郎の人形焼きが売られている。
「便乗」というより、お祝いムードの演出に見えるが、こうした催しも思わぬ警告を受ける可能性がある。
それがオリンピックの知的財産権だ。オリンピックという言葉や五輪マークなどは国際オリンピック委員会(IOC)とJOCが特許庁に商標登録している。JOCの担当者は「JOCやIOCの公式スポンサー以外は、五輪を想起させる言葉などの商業利用は認められない」と釘を刺す。
JOCによると、公式スポンサー以外が、パッケージに招致成功と表示した商品を販売したり、「五輪招致おめでとう」とうたったセールを催したりすれば、知的財産権の侵害とみなすという。今のタイミングは「東京2020」「4年に1度の祭典」といったあいまいな文言でも五輪を示すと判断され、「アウト」というのがJOCの主張だ。
ただし、自治体などが祝いの垂れ幕をつくったり、市民が自宅前に個人的に喜びを表す看板を設置したりするのは、商業目的や営利目的ではないのでOKだ。
JOCが不正利用と判断した場合は、相手に使用を控えるよう要請する。これまで裁判になったケースはないが、98年の長野冬季五輪でも複数例が確認され、使用をやめさせた。東京開催が決まって以降も「便乗セールをしている」との情報を得て、すでに小売店に警告した例もあるという。JOCは「悪質な場合は法的手段も検討することになる」と話している。
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■JOCが「アウト」とする使用例(※いずれも公式スポンサー以外の商業利用の場合)
4年に1度の祭典がやってくる
おめでとう東京
やったぞ東京
招致成功おめでとう
日本選手、目指せ金メダル!
日本代表、応援します!
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■商標権、厳しい管理は当然
知的財産権に詳しい平野恵稔(しげとし)弁護士(大阪弁護士会)の話 スポンサーに限って「五輪」や「オリンピック」の名称やイメージの使用を認めることが五輪の財政基盤にもなっており、IOCが管理を厳しくするのは当然と言える。呼び方や見た目、イメージなどから商標権侵害の有無は判断されるが、五輪のような巨大イベントであればあるほどイメージは強く、広くアウトとみなされる可能性が残る。安易に使うと、裁判で商標法や不正競争防止法に抵触すると判断されるおそれがある。
■張り紙まで問題視、無粋では
経済評論家の森永卓郎さんの話 1984年のロサンゼルス五輪以降、商業五輪の傾向が強まり、JOCとしては商標管理に厳しくならざるを得ないのだろうが、お祝いムードを盛り上げたいという気持ちは日本経済にとってはプラスだ。小さな商店の企画や「おめでとう」の張り紙まで、商業利用とみなして問題視するのは無粋では。
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〈公式スポンサー〉IOCやJOCに協賛金を納め、両団体がそれぞれ日本国内で商標登録する「オリンピック」などの名称の独占的な商業利用が認められている。IOCとパートナー契約を結んだ企業はワールドワイドパートナー、JOCと結んだ企業はゴールドパートナー、オフィシャルパートナーに分かれ、協賛金額に差がある。パートナーごとに選手の肖像権の使用範囲などが異なる。1業種1社が原則。補助金や寄付金などを除いても、JOCだけで4年間に約100億円の収入があるが、大半を協賛金が占める。