急勾配(こうばい)の難所として知られ、長野新幹線の開業に伴い平成9年に廃線となったJR信越線の横川(群馬県)-軽井沢(長野県)間11.2キロ に、再び鉄道が走ることになりそうだ。群馬県安中市の「碓氷(うすい)峠交流記念財団」が、平成12年3月施行の改正鉄道事業法で新設された観光用の「特 定目的鉄道」として来年10月の復活を検討。自動車のエンジンブレーキに当たる装備の導入など安全面に配慮した計画を9月上旬にもまとめる。許可申請が認 められれば全国初。峠に鳴り響く汽笛を心待ちにしている人は多い。(大竹直樹)
両県境の碓氷峠を越える路線は「横軽」と呼ばれ、明治26(1893)年に官営鉄道中山道線として開通。約550メートルの標高差で、1キロ進んで 66.7メートル登る急勾配のため、歯型のついたレールと機関車台車部分の歯車をかみ合わせた「アプト式」技術を採用した。その後、レールとの摩擦力を高 めたEF63形電気機関車2両の連結運行で、列車を押し上げながら20~30分かけて峠を越える光景は鉄道ファンらに親しまれてきた。
廃線後も線路は残り、横川駅前のテーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」を運営する財団が整備を続けている。昨年3月からは、廃線を利用した2.6キロの観光トロッコ列車も園内遊具として走っている。
財団は今年6月、構造改革特区としての復活を政府に提案したところ、国土交通省は許可基準が緩い「特定目的鉄道」の検討を指示。財団は9月上旬にも運行 計画案をまとめて、「安全性が課題だが初の適用路線となる可能性も十分ある」とする国交省関東運輸局との詰めの協議を急ぐ。
計画には、信越線特急「あさま」(189系)の保存車両の活用や中型ディーゼル機関車の新造案が盛り込まれている。安全面では一般の鉄道事業と同じ取り 組みが求められるため、自動車のエンジンブレーキに相当する「抑速ブレーキ」の導入をはじめ、「できることはすべてしたい」と財団側は強調する。
財団の桜井正一理事長は廃線当時のJR東日本・長野新幹線開業準備室長。「横軽は私が切ったも同然なので、罪滅ぼしをしたい」と話す。採算面は不透明だが、赤字運行となっても「毎年黒字を計上している財団の収益で補える」という。
長野県軽井沢町を訪れる年間780万人の観光客の利用も期待できるため、群馬大社会情報学部の小竹裕人助教授(公共政策)は「集客力は十分ある」と指摘する。
横軽が走っていた当時、横川駅の名物駅弁「峠の釜めし」の売り子だった桐生富作さん(73)は「復活してくれたら、こんなうれしいことはない」と話した。
■特定目的鉄道 平成12年4月施行の改正鉄道事業法で新設され、同法施行規 則5条の2で「景観の鑑賞、遊戯施設への移動その他の観光の目的を有する旅客の運送を専ら行う」と規定された鉄道。通勤や生活路線を前提としないため採算 面での要件が緩和され、運行本数や運賃を弾力的に設定できる。ただし、通常の鉄道事業者と同水準の安全性が必要となる。
【2006/08/28 東京朝刊から】
廃止まで碓氷峠を走り続けたEF63形電気機関車。新しい車両で復活へ向けた動きが進んでいる=1997年8月
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