卓球王国発行人、写真家高橋和幸さんの素敵な記事を紹介します。
地道な努力こそ大切
4月に撮影でスイスに3週間ほど行っていた。フランスとの国境にまたがるジュラ山脈の南端・ジュウ渓谷。ここにリズーと呼ばれる森があり、スプールスという、ギターの材料にとって最高の樹木が自生している。世界最高と言われるバイオリンのストラディバリウスも、この地のここの樹から作られた。冬場はマイナス20度にもなる気象条件の中で350年もの間ゆっくりと生き続けたスプールスは、ねじれもなければ節もない。自然保護と乱伐を防ぐために年に一度しか伐採しない。伐採の日に木こりたちは神に感謝し、祈りを捧げ、斧を入れるという。
そんな大切な材料を使ってギターを製作している、ギター職人の取材のために、私は工房を訪れた。職人は自らの感覚を研ぎ澄まし、素材に無用な傷をつけないために日々鍛錬して、高度な技術を身につけていく。一見自由気ままに生きているように見える職人たちが、意外なことを口にした。「5時に終わって酒場にいるようじゃ、たいしたことないね。何度も何度も同じことを繰り返して、初めて自分の技になるんだよ。良い職人になりたいがために夢中になって仕事をして、気が付くと窓の外が白々明るくなっているんだよ。朝日がのぼっていることすら気が付かない時もある。すると体が覚えているというのかな、いつの間にか手が必要なところに動くようになる。無意識にね。それでやっと一人前かな」。
その話を聞いて、ふと、ある光景が脳裏に浮かんだ。かつて元世界チャンピオンの小野誠治さんを撮影した時のことだ。フォアハンドスマッシュを連続写真で紹介しようとする企画だった。私はカメラを固定し、ファインダー内の方眼マットの角に、スタンバイする小野さんの左足を目安に置いた。動作は何度も何度も繰り返された。優に20回は越えた。10回目を数えるぐらいからぼくの目はファインダーに釘付けになった。小野さんの足がファインダーからずれることがなく、ほとんど同じ位置にあるのだ。僕は最初、単なる偶然だろうと高をくくっていた。ところが連続20数回、ピタリと位置が決まって、すべてファインダーの中におさまっていた。撮影が終わって、そのことを問うてみた。「そんなの当たり前じゃないですか。足の位置、腰、目の高さがいつも同じじゃないといいボールは打てないですよ」。小野さんは涼しい顔で答えた。それは厳しいトレーニングに耐えた結果だった。暗幕で遮られた練習場で何度も同じ練習を繰り返したという。世界一流の技を思い知った瞬間だった。
ギターを作ることと、卓球で世界チャンピオンになることは何の関係もないようだが、その時、私の中では両者の姿勢に共通点のようなものを感じた。何事も時間に関係なく、地道に努力していくことが大切なのではないかと、つくづく感じさせられたのである。
忙しい現在の日常の中で、ついつい合理性・効率ばかりを追いがちな自分に喝を入れられた気がした。
読者の皆さんはどうですか?
ギター作りと卓球の練習、一見相容れない2つの事が実はとても似ているという新たな発見ができて幸せでした。気持ちを込めて木に斧を入れる。足の位置、腰の高さ、目の位置がいつも同じになるようスマッシュする。地道な努力を継続することなんですね~
地道な努力こそ大切
4月に撮影でスイスに3週間ほど行っていた。フランスとの国境にまたがるジュラ山脈の南端・ジュウ渓谷。ここにリズーと呼ばれる森があり、スプールスという、ギターの材料にとって最高の樹木が自生している。世界最高と言われるバイオリンのストラディバリウスも、この地のここの樹から作られた。冬場はマイナス20度にもなる気象条件の中で350年もの間ゆっくりと生き続けたスプールスは、ねじれもなければ節もない。自然保護と乱伐を防ぐために年に一度しか伐採しない。伐採の日に木こりたちは神に感謝し、祈りを捧げ、斧を入れるという。
そんな大切な材料を使ってギターを製作している、ギター職人の取材のために、私は工房を訪れた。職人は自らの感覚を研ぎ澄まし、素材に無用な傷をつけないために日々鍛錬して、高度な技術を身につけていく。一見自由気ままに生きているように見える職人たちが、意外なことを口にした。「5時に終わって酒場にいるようじゃ、たいしたことないね。何度も何度も同じことを繰り返して、初めて自分の技になるんだよ。良い職人になりたいがために夢中になって仕事をして、気が付くと窓の外が白々明るくなっているんだよ。朝日がのぼっていることすら気が付かない時もある。すると体が覚えているというのかな、いつの間にか手が必要なところに動くようになる。無意識にね。それでやっと一人前かな」。
その話を聞いて、ふと、ある光景が脳裏に浮かんだ。かつて元世界チャンピオンの小野誠治さんを撮影した時のことだ。フォアハンドスマッシュを連続写真で紹介しようとする企画だった。私はカメラを固定し、ファインダー内の方眼マットの角に、スタンバイする小野さんの左足を目安に置いた。動作は何度も何度も繰り返された。優に20回は越えた。10回目を数えるぐらいからぼくの目はファインダーに釘付けになった。小野さんの足がファインダーからずれることがなく、ほとんど同じ位置にあるのだ。僕は最初、単なる偶然だろうと高をくくっていた。ところが連続20数回、ピタリと位置が決まって、すべてファインダーの中におさまっていた。撮影が終わって、そのことを問うてみた。「そんなの当たり前じゃないですか。足の位置、腰、目の高さがいつも同じじゃないといいボールは打てないですよ」。小野さんは涼しい顔で答えた。それは厳しいトレーニングに耐えた結果だった。暗幕で遮られた練習場で何度も同じ練習を繰り返したという。世界一流の技を思い知った瞬間だった。
ギターを作ることと、卓球で世界チャンピオンになることは何の関係もないようだが、その時、私の中では両者の姿勢に共通点のようなものを感じた。何事も時間に関係なく、地道に努力していくことが大切なのではないかと、つくづく感じさせられたのである。
忙しい現在の日常の中で、ついつい合理性・効率ばかりを追いがちな自分に喝を入れられた気がした。
読者の皆さんはどうですか?
ギター作りと卓球の練習、一見相容れない2つの事が実はとても似ているという新たな発見ができて幸せでした。気持ちを込めて木に斧を入れる。足の位置、腰の高さ、目の位置がいつも同じになるようスマッシュする。地道な努力を継続することなんですね~