うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

茨木のり子さんの詩3 「おんなのことば」

2012年08月13日 17時44分24秒 | 俳句・短歌、またはエッセイ

 今回の詩を、60過ぎの親父が取り上げると(わたし自身のことです。)、なんだか薄気味悪い。多分、そうに決まっている。それが世間の通り相場だ。
 だが、わたしには、口語体の詩にある軽さに見え隠れする諧謔味と口吻に温かみを感じる。どこか、ふっと、日常生活から昇華した気分を感じる。良質の詩想につつまれる。
 男性の場合は、どこか、しゃちこばらずにはいられないスタンスだ。やってみるとわかるが、なかなか日常をこんなふうに表現できない。

「おんなのことば」   (詩華集「おんなのことば」より)

いとしい人には
沢山の仇名をつけてあげよう
小動物やギリシャの神々
猛獣なんかになぞらえて
愛しあう夜には
やさしい言葉を
そっと呼びにゆこう
闇にまぎれて

子供たちには
ありったけの物語を話してきかせよう
やがでどんな運命でも
ドッジボールのように受けとめられるように

満員電車のなかで
したたか足を踏まれたら
大いに叫ぼう あんぽんたん!
いったいぜんたい人の足をなんだと思ってるの

生きてゆくぎりぎりの線を侵されたら
言葉を発射させるのだ
ラッセル姐御の二丁拳銃のように
百発百中の小気味よさで

ことば
ことば
おんなのことば
しなやかで 匂いに満ち
あやしく動くいきものなのだ
ああ
しかしわたくしたちのふるさとでは
女の言葉は規格品
精彩のない冷凍もの
わびしい人口の湖だ!

道でばったり奥様に出会い
買い物籠をうしろ手に 夫の噂 子供の安否
お天気のこと 税金のこと
新聞記事のきれっぱし
蜜をからめた他人の悪口
喋っても
喋っても
さびしくなるばかり
二人の言葉のダムはなんという貧しさだろう
やがて二人はいつのまにか
二匹の鯉になってしまう
口ばかりぱくぱくあけて
意味ないことを喋り散らす
大きな緋鯉に!
そのうち二匹は眠くなる
喋りながら 喋りながら
だんだん気が遠くなってゆくなんて
これは
まひるの惨劇でなくてなんだろう
私の鰭は痺れながら
ゆっくり動いて
呼子を鳴らす
しぐさになる

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