スイバの葉影にちらっと見えた。
鋭い棘を持ち、接触時痛みを感じ、軽い発赤や丘疹を生ずる。短時間で治癒するとある。
こちらもナシケンモンのようだ。
白い斑紋が見えない。
(アシナガグモ類は必ず水平円網を張るのですか) クモの研究者が新種などに名前をつけることは、外からみるとなかなか楽しそうです。でも、そのあたりの事情を分類学者にたずねると、いろいろな苦労もあり、必ずしも楽しいだけとは限らないようです。一般には形態や色彩などの特徴に基づいて名付けられることが多いようです。 たとえば、オナガグモというクモは文字通り「尾(実は腹部)」が長いことに由来します。このクモは江戸時代の本草書にも「尾長ぐも」と書き留められおり、この時代の人も同じ認識であったことがわかります。トリノフンダマシは「鳥の糞だまし」ですし、クロマルイソウロウグモは体が黒くて丸く、他のクモの網に「居候」生活をしているところから名付けられました。 また、献名といって発見者や恩師などに贈った名前もあります。キムラ(木村)グモやキシノウエ(岸上)トタテグモ、カヤシマ(萱嶋)グモなどです。 土曜の前は金曜日 さて、この節の主人公であるキンヨウグモの名前の由来も愉快なものです。キンヨウグモと聞けば、だれもが「金曜」日のことかと思うでしょう。その通り、このクモは「金曜グモ」なのです。 「金曜日になるときまって採集されるクモ!」。そんなクモがいるわけないじゃありませんか。 (谷川明男 キニョウグモ写真を挿入予定) 実は、キンヨウグモが名づけられる以前に、ドヨウグモというクモがいました。これは「土用の丑の日」で有名な土用の頃に成体が出現するところからつけられたものです。命名者・千国安之輔さんは「土用」を転じて「土曜」とし、「土曜」があるなら「金曜」があってもいいじゃないかと、ユーモアたっぷりに名づけたようです。 このキンヨウグモは円網を張っているアシナガグモ科に属しています。そのオスやメスが採集されるのは決まって葉っぱの先っちょなのです。そのまわりをよく見ても、数本の糸はあるのですが、網らしきものなどは見当りませんでした。たまたまなら別にあやしむこともないのですが、いつもなのです。 さらによく調べてみると、なんと幼体のときには円網をちゃんと張っていたのです。つまり、「幼体は水平円網を張るが、その後は網を張らず、近くを通る昆虫を捕らえる」ようになるという、成長につれて円網を捨て去ったクモだというわけです。 餌捕獲の瞬間を見た! 私は、富士山の須走というところでたくさんのキンヨウグモに出会いました。やはり葉の先にいるものが多かったのですが、家の壁ぎわなどにもいました。クモの調査は夜が勝負です。夜間調査をしているとキンヨウグモは昼間と同様に葉の先にいるのですが、少々様子が違いました。葉先にクモは宙ぶらりんになっています。懐中電灯でよく見ると糸が下方に向かっていました。葉の周囲にも何本か張られています。クモはこの糸につかまっていました。 ある晩のことです。いつものように葉先のキンヨウグモを観察をしていたら、下方の糸を伝って一匹のクモが上がってきました。するとキンヨウグモの様子が一変したのです。 前方の糸を慎重に巻き上げていきました。そして、あるところまで両者が接近した瞬間にキンヨウグモは弾かれたように落下し、下方のクモに咬みついて捕らえてしまいました。 私には、このキンヨウグモの行動が偶然の産物とは見えませんでした。今までの経験から餌捕獲のための定型的な行動であると直感しました。「この糸は網なのではないのか」という疑問がわいてきたのです。 そこで、私はキンヨウグモの一匹ずつについて、その居場所と周囲の糸の見直しをしてみることにしました。夜間にクモがつかまっていた糸をもう一度よく見ると、クモのいる付近に糸が集まってきているように見えました。 これらの糸は円網のタテ糸だけが残されたものなのではないでしょうか。もしそうならば、これらの糸を用いた餌捕獲行動が見られるはずです。さっそく、餌用のクモを下方の糸に入れてみました。結果はまったく同じだったのです。ちなみに、ガガンボを捕らえて羽をピンセットでつまんでこの糸に触れさせました。これもまた同じように反応して捕らえました。キンヨウグモの雌雄の成体はその円網をまったく捨て去って狩りをしていたわけではなく、「立派な」網を張っていたわけです。ただ、その網にはヨコ糸がなく数本のタテ糸だけからなる特殊なものだったのです。そして、これを網とは知らずに伝ってくるクモや糸のそばをを飛翔する昆虫をひっつかんで捕らえていたわけです。生物学的にはこのような網をリダクション・ウェッブと言い、クモの仲間ではときどき見られるものです。 キンヨウグモがなぜヨコ糸をなくしたのかは、まだよくわかりません。しかし、ヨコ糸には粘着物質がありその本数も多いことから、これを少なくしてもそれなりの餌が捕れるのならば、少ない経費でそれなりの利益が挙げられるわけですから、十分に採算がとれると考えられます。今後、このような観点からの研究がすすめばリダクション・ウェッブの出現の理由が解明されることでしょう。 |