
教室に着いてからも、雪は自身の取った行動を悔いていた。
無意識とはいえ、先輩に失礼な態度を取ってしまった‥。

落ち込む雪を見て、淳は当たり障りの無い話題を振った。
「そういえば雪ちゃんてどんな音楽聴くの?よく聴いてるなぁと思って」

その質問に、雪はMCプレイヤーを取り出して説明した。

「そうですね、私は最近流行りの歌とか‥
あ、もしかしてこのバンド知ってます?」

雪は好きなバンドについて嬉しそうに語った。
そんな雪に先輩は微笑み、「俺も今度聴いてみよう」と言った。
雪は是非聴いてみて下さいと勧めた後、「先輩はどんな曲聴くんですか?」と彼に質問した。
「え? 俺?」

先輩は、少し考えてから特に好きな曲は無いと言った。

たまに運転しながらクラシックを聴くくらいだと。

運転もクラシックも無縁な雪は、相槌を打ちながら固まった‥。
「あ、それじゃあ!好きな食べ物は何ですか?」

続けて好きな食べ物の話を振る雪に、淳は微笑んだ。
彼女は、一番好きな食べ物を教えて下さいと言う。
「今度私がご馳走しちゃいま‥」
「んー‥、ヨーロッパ行った時‥」

またしてもキーワードは雪と無縁のヨーロッパ‥。

雪の意図を今知った先輩も、思わず苦笑いだ。
まだヨーロッパにダメージを受けている雪に、先輩はフォローする。
「雪ちゃんが好きなものでいいからさ」

それでもせっかく夕飯を食べに行くんだから、一番好きなメニューが良いんじゃないかと雪が言いかけると、
先輩は微笑みながらこう返した。
「俺は何でも大丈夫だから。雪ちゃんが好きなものなら俺も好きだよ」

「ね?」

雪はそれきり何も言えなかったが、心の中では少し引っかかっていた。
せっかくご馳走すると言っているのに、「なんでもいい」とは少しテキトーすぎやしないか‥。

そんな雪の考えを解さない先輩をよそに、雪は鋭い視線を彼に送っていた‥。
一方大学のPCルームでは、聡美と太一が夏休みの旅行先を一生懸命考えていた。

今のところの最有力候補は海の近くの県で、行くからには美味しいものをいっぱい食べようと太一が意気込んでいた。
「でも雪の意見も聞いてみないと‥」

そう言って頬杖をつく聡美に、太一が「聞かなくても賛成だと思いますけど‥」と言った。
はぁ、と聡美が溜息を吐く。

雪がもう少し積極的にものを言ってくれればいいのにと、聡美は項垂れた。
「どこでも~とか、なんでも~とかじゃなくてさぁ」

気ぃ遣いの雪は、いつだって自分の意見を通さない。
二人の好きにしていいよと言われるのが、聡美はいつも寂しかった。
「あたし一人で浮かれてバカみたいじゃんか‥」

そう言った聡美を、太一は何も言わず見つめていた。
旅行先はまだ本決まりではない。
二人は雪が自分から言い出してくれるのを、内心ずっと待っているのだ‥。
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<なんでもいいから>でした。
人は”なんでもいい”と気を遣って言うことも多々ありますが、
言われた方は案外困ってしまうこともありますね。
雪にしても聡美にしても、言われた方は戸惑っていますね。
そして先輩に音楽を聴く趣味はないということも明らかになりました。
運転しながらクラシック、一番おいしかったのはヨーロッパ行った時に食べたもの。
やっぱり坊ちゃんですね‥。
私事ですが、今日でブログ開設から100日を迎えました(^0^)!
毎日コメント頂いて、楽しんで頂けて、本当に感謝感謝です。
これからもよろしくお願い致します!
次回は<徹夜の発表準備>です。
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