遂にグループワークの期末課題である、班別発表の時間がやって来た。
グループ1から順に、各グループの発表が始まる。

まとまっているグループもあれば、途中しどろもどろになるグループもあり、
そういった時はすかさず教授のチェックが入った。

順調に発表は進み、次はグループ4、青田淳の居るグループの発表だった。
冒頭の佐藤から始まり、スムーズに発表は進行した。

中でも淳のプレゼンはスマートで上手だった。

女子たちは目をハートにして彼を眺めていたし、

教授もその出来に感嘆の溜息を吐いた。
「グループ4は完璧でしたね。とても良かったですよ」

あまり褒めないことで有名な教授が、珍しく拍手をした。
そんな雰囲気の中で、雪たちのグループ5の名が呼ばれた。

よりによって青田の次なんて‥と言う健太先輩のボヤきを聞きつつ、雪たちは壇上へと向かった。
一応はそれなりにはまとめたし‥。A+じゃなくてもAくらいは貰えるだろう‥。
発表さえ上手く行けば!

雪は神に祈るような気持ちだった。
ぶっつけ本番に近い発表だ。上手くいくだろうか。
しかし健太先輩はこう見えて瞬発力がある方だし、直美さんも普段から勉強熱心な人だ。香織ちゃんも真面目だし‥。
いける。
やれる。
雪達グループ5は、鬼気迫る気迫で壇上へと上がった。
よし!どうにかなる!!

ドドンと4人は胸を張った。
一番手の清水香織が、パワーポイントの電源を点ける‥。
「えーっと‥ということで時間厳守とは全ての国家の文化的習慣でありながら‥えーっと‥」

プリントを持つ手が、ブルブルと震えている。
清水香織はプリントにかぶりつきで、たどたどしくその文章を読み上げていた。
その発表の下手さに教授は開いた口が塞がらず、雪達3人もその出来にドン引きだった。

「あれ?えーっと、韓国‥じゃなくてアメリカが‥」

言葉に詰まりまくりの香織に、雪は顔面蒼白になった。

その後も何かにつけ文章を前後させて読む香織に、遂に教授がストップをかけた。
先ほどからプリントばかり見ていて、聞く側への配慮が全く出来ていないと指摘された。

平謝りの香織に、尚も教授は続ける。
「それに発表中にプリントを参考にするにしても、基本的な内容は覚えておくべきじゃないのかな?」
それを受けて、直美さんと健太先輩はバタバタと慌てた。

清水香織のプレゼンは失敗‥。それでもあと3人残っている。Aは無理でもBは貰えるはず‥。
そう思っていた雪に、教授は決定的な一言を香織に言った。
「‥見るからに君は自身の発表内容を全く理解してないみたいだが‥」

「ちゃんと自分で調べたんだろうね?」
ギクッと、雪の表情が固まった。他3人も同様だ。

香織が、小さな声で肯定した。
その自信の無さそうな返事を受けて、教授は香織に先ほど彼女がプレゼンした部分の質問をして来た。
「我が国が国際通商でなだらかな交渉を進めることが出来なかった原因には、
どのようなことが挙げられるかな?」

香織はおどおどと下を向いて口ごもるばかりで、答えられなかった。
見かねた雪が口を開きかけたが、教授の容赦無い言葉が香織に浴びせられた。
「さっきはっきりと自分で調べたと言いましたよね?!」

事態の成り行きに教室はざわめき、雪は頭を抱えた。

そんな雪を、淳は心配そうに見つめていた。

グループ5、と教授から声が掛かった。
「我が国の交渉の問題点を、そこの長髪のキミ、答えてみなさい」

いきなり当てられた雪は始め戸惑ったが、その後きちんと正解を答えた。
「アメリカのスーパー301条とは?」

続けてされた質問にも、雪は完璧と言える回答をした。
「スーパー301条とは‥。米国通商法で交渉対象国に関する政策や慣行を‥」

そこまで答えた所で教授は雪の言葉を遮り、全く同じ質問を健太先輩にした。
アメリカのスーパー301条とは何か、と。
「ア‥アメリカが‥貿易をする上で‥貿易を‥」

しどろもどろである。
続けて直美さんも教授から同じ質問をされたが、彼女も答えられなかった。
もう結構、と教授は呆れたように言った。

教室がざわめきに揺れる。
雪は事態がどんどん悪い方向へ進むのが、信じられない思いだった。


教授は一つ溜息を吐くと、教室全体の方を向いて話をした。
「我々は今、経営交渉論を学んでいます。これは単なる課題や外部問題ではなく、
これから皆さんが直面するであろう問題なのです」

「それなのに対外的な経営交渉論を学んでいる学生が、
たかがグループ内での交渉さえもまともに成立出来なかったようですね」
事態は想定し得る最悪の結果に辿り着きそうだった。
雪の心は焦れる。
おしまいだ‥BどころかC‥。
後で個人的に一人でやったことを談判して、成績をどうにか上げてもらうしかない。

しかし続けて、教授はグループ5への所存を話し始めた。
私の授業は私のルールに従ってもらいます、と前置きをして。
「グループ5のレポートに目を通してみても、そしていまの発表の状況を見た上でも、
一人でやったということが丸見えだ」

そう言って教授は、雪の方を見た。

そしてレポートに視線を移し、正直内容的にはとても上等だと言った。
それを受けて、雪は幾分気分が和らいだ。
案外相談してみたら幾らか希望が見えてきそうだぞ?私だけでもBくらいは貰わないと‥

「しかし、」と教授は強い口調で言った。
「一人で頑張ってくれた学生には悪いが、事前に伝えたように判断を下すつもりです」

ルールはルールですからね、と教授は続けた。
グループ作業を最重視する、と何度もそう彼は言っていたのだ。
そして雪たちのグループ5は、問題外だと言った。
「グループ5は全員Dです」

3人は顔面蒼白になった。

ざわめく学科生達は、雪に同情の視線を送った。

バカな奴ら、と嘲る佐藤の隣で、淳もその様子を見守っていた。

重ね合わせた雪の手が、小刻みに震えている。

雪は顔を上げて教授を見た。私一人だけでも成績を上げて貰いたい‥

雪と目が合った教授は、フンと息を吐いて首を傾げた。
そして宣告するように、強い口調で言った。

「例外は認めません」

窓の外は、夏休み目前の青い青い空が広がっていた。
雪の一縷の望みは、その青い空に吸い込まれるように、散って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<発表>でした。
これで雪三年の一部は終わりです。
記事数は大体雪二年時と同じくらいの数になりました!
二部も、よろしくお願いします♪
次回は<ぶちまけた不満>です。
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グループ1から順に、各グループの発表が始まる。

まとまっているグループもあれば、途中しどろもどろになるグループもあり、
そういった時はすかさず教授のチェックが入った。

順調に発表は進み、次はグループ4、青田淳の居るグループの発表だった。
冒頭の佐藤から始まり、スムーズに発表は進行した。

中でも淳のプレゼンはスマートで上手だった。

女子たちは目をハートにして彼を眺めていたし、

教授もその出来に感嘆の溜息を吐いた。
「グループ4は完璧でしたね。とても良かったですよ」

あまり褒めないことで有名な教授が、珍しく拍手をした。
そんな雰囲気の中で、雪たちのグループ5の名が呼ばれた。

よりによって青田の次なんて‥と言う健太先輩のボヤきを聞きつつ、雪たちは壇上へと向かった。
一応はそれなりにはまとめたし‥。A+じゃなくてもAくらいは貰えるだろう‥。
発表さえ上手く行けば!

雪は神に祈るような気持ちだった。
ぶっつけ本番に近い発表だ。上手くいくだろうか。
しかし健太先輩はこう見えて瞬発力がある方だし、直美さんも普段から勉強熱心な人だ。香織ちゃんも真面目だし‥。
いける。
やれる。
雪達グループ5は、鬼気迫る気迫で壇上へと上がった。
よし!どうにかなる!!

ドドンと4人は胸を張った。
一番手の清水香織が、パワーポイントの電源を点ける‥。
「えーっと‥ということで時間厳守とは全ての国家の文化的習慣でありながら‥えーっと‥」

プリントを持つ手が、ブルブルと震えている。
清水香織はプリントにかぶりつきで、たどたどしくその文章を読み上げていた。
その発表の下手さに教授は開いた口が塞がらず、雪達3人もその出来にドン引きだった。

「あれ?えーっと、韓国‥じゃなくてアメリカが‥」

言葉に詰まりまくりの香織に、雪は顔面蒼白になった。

その後も何かにつけ文章を前後させて読む香織に、遂に教授がストップをかけた。
先ほどからプリントばかり見ていて、聞く側への配慮が全く出来ていないと指摘された。

平謝りの香織に、尚も教授は続ける。
「それに発表中にプリントを参考にするにしても、基本的な内容は覚えておくべきじゃないのかな?」
それを受けて、直美さんと健太先輩はバタバタと慌てた。

清水香織のプレゼンは失敗‥。それでもあと3人残っている。Aは無理でもBは貰えるはず‥。
そう思っていた雪に、教授は決定的な一言を香織に言った。
「‥見るからに君は自身の発表内容を全く理解してないみたいだが‥」

「ちゃんと自分で調べたんだろうね?」
ギクッと、雪の表情が固まった。他3人も同様だ。


香織が、小さな声で肯定した。
その自信の無さそうな返事を受けて、教授は香織に先ほど彼女がプレゼンした部分の質問をして来た。
「我が国が国際通商でなだらかな交渉を進めることが出来なかった原因には、
どのようなことが挙げられるかな?」

香織はおどおどと下を向いて口ごもるばかりで、答えられなかった。
見かねた雪が口を開きかけたが、教授の容赦無い言葉が香織に浴びせられた。
「さっきはっきりと自分で調べたと言いましたよね?!」

事態の成り行きに教室はざわめき、雪は頭を抱えた。


そんな雪を、淳は心配そうに見つめていた。

グループ5、と教授から声が掛かった。
「我が国の交渉の問題点を、そこの長髪のキミ、答えてみなさい」

いきなり当てられた雪は始め戸惑ったが、その後きちんと正解を答えた。
「アメリカのスーパー301条とは?」

続けてされた質問にも、雪は完璧と言える回答をした。
「スーパー301条とは‥。米国通商法で交渉対象国に関する政策や慣行を‥」

そこまで答えた所で教授は雪の言葉を遮り、全く同じ質問を健太先輩にした。
アメリカのスーパー301条とは何か、と。
「ア‥アメリカが‥貿易をする上で‥貿易を‥」

しどろもどろである。
続けて直美さんも教授から同じ質問をされたが、彼女も答えられなかった。
もう結構、と教授は呆れたように言った。

教室がざわめきに揺れる。
雪は事態がどんどん悪い方向へ進むのが、信じられない思いだった。


教授は一つ溜息を吐くと、教室全体の方を向いて話をした。
「我々は今、経営交渉論を学んでいます。これは単なる課題や外部問題ではなく、
これから皆さんが直面するであろう問題なのです」

「それなのに対外的な経営交渉論を学んでいる学生が、
たかがグループ内での交渉さえもまともに成立出来なかったようですね」
事態は想定し得る最悪の結果に辿り着きそうだった。
雪の心は焦れる。
おしまいだ‥BどころかC‥。
後で個人的に一人でやったことを談判して、成績をどうにか上げてもらうしかない。

しかし続けて、教授はグループ5への所存を話し始めた。
私の授業は私のルールに従ってもらいます、と前置きをして。
「グループ5のレポートに目を通してみても、そしていまの発表の状況を見た上でも、
一人でやったということが丸見えだ」

そう言って教授は、雪の方を見た。

そしてレポートに視線を移し、正直内容的にはとても上等だと言った。
それを受けて、雪は幾分気分が和らいだ。
案外相談してみたら幾らか希望が見えてきそうだぞ?私だけでもBくらいは貰わないと‥

「しかし、」と教授は強い口調で言った。
「一人で頑張ってくれた学生には悪いが、事前に伝えたように判断を下すつもりです」

ルールはルールですからね、と教授は続けた。
グループ作業を最重視する、と何度もそう彼は言っていたのだ。
そして雪たちのグループ5は、問題外だと言った。
「グループ5は全員Dです」

3人は顔面蒼白になった。


ざわめく学科生達は、雪に同情の視線を送った。

バカな奴ら、と嘲る佐藤の隣で、淳もその様子を見守っていた。

重ね合わせた雪の手が、小刻みに震えている。

雪は顔を上げて教授を見た。私一人だけでも成績を上げて貰いたい‥

雪と目が合った教授は、フンと息を吐いて首を傾げた。
そして宣告するように、強い口調で言った。

「例外は認めません」

窓の外は、夏休み目前の青い青い空が広がっていた。
雪の一縷の望みは、その青い空に吸い込まれるように、散って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<発表>でした。
これで雪三年の一部は終わりです。
記事数は大体雪二年時と同じくらいの数になりました!
二部も、よろしくお願いします♪
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