連日暑い日が続く。
週末が明けて、またアルバイトの日々が始まった。
雪はこの日、出勤時刻の9時ギリギリに事務室に到着する。
事務員さん達は雪の挨拶に笑顔で「おはよう」と返してくれたが、あの男だけは違った。
遠藤は雪のことを呼び止めると、ネチネチとした説教を始める。
「就業の10分前までに出勤しろと言っただろ?バイトならバイトらしく、
8時50分までには出て来いっつんだ。助手だからって甘く見てるんじゃないだろうな?」
違います、という雪の言葉には耳を貸さず、遠藤はしつこく雪に絡む。
「誰かさんが楽に見つけてくれた仕事だからって、やりたい放題出来ると思うなよ?え?」
雪は小さく「すみませんでした」と謝り、早々に自分の席に着いた。
他の事務員さん達が、遠藤の言い過ぎをやんわりと指摘するのを耳の端で聞きながら、
雪は釈然としない思いでいっぱいだった。
一体私が何をしたっていうの?コネで入って来たのがそんなに気に食わないのか?
推薦も受け入れるって言ってたんじゃなかったの‥。
雪は目の前の仕事に向き合った。
とにかくやることをやるしか解決法は無い。文句をつけられないように、精一杯やるしか。
それから雪はあらゆることを遠藤から言いつけられた。
コップを洗う雑用から、事務室の物を二階へ持って行く役目、そして全部打ち込めと言われて渡された膨大な資料。
雪は遠藤から指示されたそれらの仕事に、文句も言わず没頭した。
お昼を過ぎる頃になると、疲れのあまり頭がぼうっとした。
息もつけない忙しさに目が回る‥。
ふと携帯を見ると、メールが届いていた。
仕事はうまくいってる?てか暑いね。 聡美
雪は聡美からのメールに、思わず顔がほころんだ。
そのまま返信メールを書き出す。
うん、でもここはまだエアコンがきいてて涼しいかな。
仕事自体は何ともないんだけど、遠藤さんが‥
そこまで書いたところで、後ろからまたあの男が声を掛けてきた。
「おい何やってる?まさかサボってるんじゃないだろうな?」
不機嫌MAXの彼は、ブツブツと小言を言いながら、大きな音を立ててドアから出て行った。
‥本当にいつまで続くんだろ‥。
雪は遠藤が出て行ったドアを睨みながら、憂鬱が心を支配していくのを感じた‥。
五時までめいっぱい働いた後は、英語塾での勉強が待っている。
雪が塾の廊下を歩いていると、空き教室で机や椅子などを移動させている河村亮を見た。
「あとはもう移動させるもんないっすか?」
亮に仕事を言いつけた人物は、亮の体力に感心し、もうこれで終わりだと言った。
廊下に出て来た亮は、女生徒たちに携帯番号を聞かれている。
「トーマス~ケータイ教えてよ~」
「無理。オレの美貌に惚れて電話した日には、でかい怒号が飛ぶと思え」
キャラキャラと賑やかな笑い声が響く中、亮が”トーマス”と呼ばれていることに雪は若干引いた‥。
そんな中、彼と目が合う。
おつかれさん、と亮が言った。
「そっちもお仕事大変そうですね‥」
雪がそう返したのは社交辞令のつもりだったのだが、
亮は「ったりめーだろ」と、さも当然のように肯定した。
「勉強ばっかりしているお前にはわかんねーだろうけどな」と言うので、雪はそれにカチンと来て言い返した。
私だって今まで結構アルバイトをして来たと。今もしているというその言葉に、亮が聞き返す。
「何のバイト?」
「事務補助です」と雪が言うと、亮はバカにしたように笑う。
「うひゃーそれ神バイトじゃねーか。超楽ちんじゃん!」
雪は乾いた笑いを立てながら口にした。
「なんも楽ちんじゃないんですけど‥」
そんな雪の態度に、亮はちょっとからかうつもりでこう言った。キヒヒと笑いながら。
「誰かにいびられたりでもしてんじゃねーのかぁ?要領悪そうだしな~」
その言葉に、雪は何も返せなかった。
そんな彼女の反応を見て、亮は彼女の図星を突いたことを知るのである‥。
雪は職場のことを亮に話した。
遠藤助手からされている嫌がらせにも似た行為について言及すると、
亮は「それは黙ってる方がおかしい」と、その理不尽さを指摘した。
「オレだったらこっそり路地裏に呼び出して、
ワンパンかまして前歯3つほどへし折ってやるけどな」
亮が恐ろしいことを言うので、雪は「そんなことをしたらクビになる」と冷静に返した。
すると、亮の頭に「?」マークが浮かぶ。
「だったら他の仕事探せばいいじゃねぇか。そんな大した給料でもないんだろ?」
それなら辞めてしまえと亮は言った。
何も言えずに耐えてばかりでは、お前が辛いだけだろうが、と。
その単純明快な答えに、雪は困惑した。そんな簡単に言わないで下さいと、亮に向かって意見する。
けれど亮は思い直すばかりか、雪を見て嘲るようにこう言った。
「お前はオレに向かって生意気な口利くし大胆不敵だし、随分と骨のある女だなと思ってたけど、
実は自分の意見もロクに言えない、自分で自分のメシも用意出来ねぇような小娘だったとはな」
亮の言葉に、雪は開いた口が塞がらなかった。
しかし黙ってばかりもいられず、雪は身を乗り出す。
「あの!それじゃおたくはさぞ立派な生き方なんでしょうねぇ?!
レストランであんな大立ち回りして!その方がもっと迷惑じゃないですか?!」
「オレァ別に損してねーし」
自分さえ良ければいいと堂々と言う亮に、
雪はあんぐりと口を開けて二の句が継げなかった。
そんな雪に向かって、亮は「人生の先輩として、オレが一つ忠告してやる」と改めて言った。
「お前、そんな生き方じゃ一生苦労して損ばっか見て生きることになるぞ」
「バカ正直に一人で仕事こなしても、結局何も残んねぇんだから」
雪は何も言えなかった。
亮の言うことは理不尽なようで、横暴なようでもあったが、どこか胸をズキンと抉る。
亮は続けた。
「世の中真面目に生きてる人間ほど損を見るんだ。
バカみたいに全部一人で泥をかぶるハメになるからな」
雪の脳裏に、あの苦い記憶が蘇った。
グループ5は全員Dです。
そんな雪の目の前で、亮は手を出してヒラヒラと振って見せた。
「オレを見てみろよ。手が不自由なのに辺鄙な所でこき使われて必死に働いた挙句、
優しいのにつけこまれ、見くびられ、給料だってガメられて‥。世の中ってのは汚ねぇんだぞ‥」
地方で働いていた時のことであるが、亮はそんな職場でもタダでは転ばず、
「勿論しっかり復讐してやった」とドヤ顔だ。
(実際は給料を前借りしたまま上京して、逃亡中の身であるが‥)
亮は「まぁ、オレが口出しすることでもないけどな」と締めくくった。
これからどう生きようが、それはお前次第だと。
そして壁に掛かっている時計の時刻を見ると、もう時間だと言って去って行く。
授業が始まってからも、雪は亮から言われた言葉の意味を考えていた。
お前、そんな生き方じゃ一生苦労して損ばっか見て生きることになるぞ
雪の頭の中に、あのグループワークの記憶が浮かんできた。
赤山悪かったな‥ 色々事情があって‥
でもあの人達、個人の課題はやってきてた‥。
確かにグループワークの件では、そういうところもあったかもしれない。
けれど、雪だって黙ってばかりのお人好しなわけじゃない。
私だって言う時は言うんだからと、人と争った近年の記憶を引き出した。
和美の時や、横山の時だって、雪はちゃんと自分の意見を相手にぶつけた。
「オレ様サイコー!バンザーイ!」な河村亮のドヤ顔が浮かぶ。
状況が違うじゃん!お前と一緒にするな‥!
雪は脳内亮に怒りつつ、気を静めて授業に集中しようと自らを戒めた。
結局漫然としたまま授業は終わり、教室から出た雪が廊下を歩いていた時だった。
雑用をこなしながらも、ワイワイと生徒たちに囲まれる河村亮の姿があった。
雪はそんな彼を、なんとなく釈然としない気持ちで眺めた。
沢山の人に囲まれているし、もうそのまま通りすぎようとした時だった。
「ダメージ、帰んの?」
不意に声を掛けられて驚いた雪は、小さく「はい」と答えた。
お疲れ様でした、と続けようとしたが、既に彼はまた大勢の人に囲まれていて、その言葉は届かなかった。
雪が心に抱えたモヤモヤも、
些細に感じていた気まずさも、
亮はいつも簡単に飛び越えてしまう。
バンカラな彼の考えはいつも雪のそれとは180度違っていたが、不思議といつまでも心に残った。
生徒たちから慕われる彼の背中を見ながら、そんなことを雪は考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<バンカライズム>でした!
亮の考えや生き方が良く表れた回でしたね。
生徒から携帯番号を聞かれたときの亮のセリフ、「無理。オレの美貌に惚れて電話した日には、でかい怒号が飛ぶと思え」と言うのは、実はとある事件のパロディなのだそう。
リンクです。
http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=adjordan&logNo=30002938348&widgetTypeCall=true
おおまかな説明です。↓
占い師の女性が顔写真付きで新聞にその広告を載せた。
それだけなら一般的なのだが、問題はその顔写真の横に「私の美貌に惹かれて好奇心で電話してきたなら、大きな怒号が飛ぶわよ!」と書かれていたことである。
そこに載った顔写真はどうみても美人とは言えないおばさんで、読者からは失笑に次ぐ失笑で一時話題になった。
というキャッチフレーズ(?)のパロディらしいです。
これは説明されないと、日本人には分かんないですよね‥。
そして今回の記事ですが、日本語版の亮と雪の対話場面の会話がシックリ来なくて、本家版に寄り添いつつ自分なりにアレンジして結構変えました。
翻訳って本当に難しいですね。。
日本語版の「自分のケツも自分で拭けねぇ女だったとはな」という亮のセリフは、
「自分で自分のメシも用意出来ねぇような小娘だったとは」に変えました。というのも、韓国にしかない慣用句「 お椀も用意できないまま食べる子」が使われていて、意味合いとしては「幼い、だらしない、無力な」というものを含んでいるそうで。
そこを組み入れたりする内に、普段の記事製作時間の倍はかかりました‥。
それでも元の訳の方がシックリクル!という方も勿論いらっしゃると思います。それで全然OKですが、
ちょっとした違いを楽しんで頂けたら嬉しいなぁと思います☆
長くなってしまいました(^^;)
次回は<消えたあの感情>です。
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週末が明けて、またアルバイトの日々が始まった。
雪はこの日、出勤時刻の9時ギリギリに事務室に到着する。
事務員さん達は雪の挨拶に笑顔で「おはよう」と返してくれたが、あの男だけは違った。
遠藤は雪のことを呼び止めると、ネチネチとした説教を始める。
「就業の10分前までに出勤しろと言っただろ?バイトならバイトらしく、
8時50分までには出て来いっつんだ。助手だからって甘く見てるんじゃないだろうな?」
違います、という雪の言葉には耳を貸さず、遠藤はしつこく雪に絡む。
「誰かさんが楽に見つけてくれた仕事だからって、やりたい放題出来ると思うなよ?え?」
雪は小さく「すみませんでした」と謝り、早々に自分の席に着いた。
他の事務員さん達が、遠藤の言い過ぎをやんわりと指摘するのを耳の端で聞きながら、
雪は釈然としない思いでいっぱいだった。
一体私が何をしたっていうの?コネで入って来たのがそんなに気に食わないのか?
推薦も受け入れるって言ってたんじゃなかったの‥。
雪は目の前の仕事に向き合った。
とにかくやることをやるしか解決法は無い。文句をつけられないように、精一杯やるしか。
それから雪はあらゆることを遠藤から言いつけられた。
コップを洗う雑用から、事務室の物を二階へ持って行く役目、そして全部打ち込めと言われて渡された膨大な資料。
雪は遠藤から指示されたそれらの仕事に、文句も言わず没頭した。
お昼を過ぎる頃になると、疲れのあまり頭がぼうっとした。
息もつけない忙しさに目が回る‥。
ふと携帯を見ると、メールが届いていた。
仕事はうまくいってる?てか暑いね。 聡美
雪は聡美からのメールに、思わず顔がほころんだ。
そのまま返信メールを書き出す。
うん、でもここはまだエアコンがきいてて涼しいかな。
仕事自体は何ともないんだけど、遠藤さんが‥
そこまで書いたところで、後ろからまたあの男が声を掛けてきた。
「おい何やってる?まさかサボってるんじゃないだろうな?」
不機嫌MAXの彼は、ブツブツと小言を言いながら、大きな音を立ててドアから出て行った。
‥本当にいつまで続くんだろ‥。
雪は遠藤が出て行ったドアを睨みながら、憂鬱が心を支配していくのを感じた‥。
五時までめいっぱい働いた後は、英語塾での勉強が待っている。
雪が塾の廊下を歩いていると、空き教室で机や椅子などを移動させている河村亮を見た。
「あとはもう移動させるもんないっすか?」
亮に仕事を言いつけた人物は、亮の体力に感心し、もうこれで終わりだと言った。
廊下に出て来た亮は、女生徒たちに携帯番号を聞かれている。
「トーマス~ケータイ教えてよ~」
「無理。オレの美貌に惚れて電話した日には、でかい怒号が飛ぶと思え」
キャラキャラと賑やかな笑い声が響く中、亮が”トーマス”と呼ばれていることに雪は若干引いた‥。
そんな中、彼と目が合う。
おつかれさん、と亮が言った。
「そっちもお仕事大変そうですね‥」
雪がそう返したのは社交辞令のつもりだったのだが、
亮は「ったりめーだろ」と、さも当然のように肯定した。
「勉強ばっかりしているお前にはわかんねーだろうけどな」と言うので、雪はそれにカチンと来て言い返した。
私だって今まで結構アルバイトをして来たと。今もしているというその言葉に、亮が聞き返す。
「何のバイト?」
「事務補助です」と雪が言うと、亮はバカにしたように笑う。
「うひゃーそれ神バイトじゃねーか。超楽ちんじゃん!」
雪は乾いた笑いを立てながら口にした。
「なんも楽ちんじゃないんですけど‥」
そんな雪の態度に、亮はちょっとからかうつもりでこう言った。キヒヒと笑いながら。
「誰かにいびられたりでもしてんじゃねーのかぁ?要領悪そうだしな~」
その言葉に、雪は何も返せなかった。
そんな彼女の反応を見て、亮は彼女の図星を突いたことを知るのである‥。
雪は職場のことを亮に話した。
遠藤助手からされている嫌がらせにも似た行為について言及すると、
亮は「それは黙ってる方がおかしい」と、その理不尽さを指摘した。
「オレだったらこっそり路地裏に呼び出して、
ワンパンかまして前歯3つほどへし折ってやるけどな」
亮が恐ろしいことを言うので、雪は「そんなことをしたらクビになる」と冷静に返した。
すると、亮の頭に「?」マークが浮かぶ。
「だったら他の仕事探せばいいじゃねぇか。そんな大した給料でもないんだろ?」
それなら辞めてしまえと亮は言った。
何も言えずに耐えてばかりでは、お前が辛いだけだろうが、と。
その単純明快な答えに、雪は困惑した。そんな簡単に言わないで下さいと、亮に向かって意見する。
けれど亮は思い直すばかりか、雪を見て嘲るようにこう言った。
「お前はオレに向かって生意気な口利くし大胆不敵だし、随分と骨のある女だなと思ってたけど、
実は自分の意見もロクに言えない、自分で自分のメシも用意出来ねぇような小娘だったとはな」
亮の言葉に、雪は開いた口が塞がらなかった。
しかし黙ってばかりもいられず、雪は身を乗り出す。
「あの!それじゃおたくはさぞ立派な生き方なんでしょうねぇ?!
レストランであんな大立ち回りして!その方がもっと迷惑じゃないですか?!」
「オレァ別に損してねーし」
自分さえ良ければいいと堂々と言う亮に、
雪はあんぐりと口を開けて二の句が継げなかった。
そんな雪に向かって、亮は「人生の先輩として、オレが一つ忠告してやる」と改めて言った。
「お前、そんな生き方じゃ一生苦労して損ばっか見て生きることになるぞ」
「バカ正直に一人で仕事こなしても、結局何も残んねぇんだから」
雪は何も言えなかった。
亮の言うことは理不尽なようで、横暴なようでもあったが、どこか胸をズキンと抉る。
亮は続けた。
「世の中真面目に生きてる人間ほど損を見るんだ。
バカみたいに全部一人で泥をかぶるハメになるからな」
雪の脳裏に、あの苦い記憶が蘇った。
グループ5は全員Dです。
そんな雪の目の前で、亮は手を出してヒラヒラと振って見せた。
「オレを見てみろよ。手が不自由なのに辺鄙な所でこき使われて必死に働いた挙句、
優しいのにつけこまれ、見くびられ、給料だってガメられて‥。世の中ってのは汚ねぇんだぞ‥」
地方で働いていた時のことであるが、亮はそんな職場でもタダでは転ばず、
「勿論しっかり復讐してやった」とドヤ顔だ。
(実際は給料を前借りしたまま上京して、逃亡中の身であるが‥)
亮は「まぁ、オレが口出しすることでもないけどな」と締めくくった。
これからどう生きようが、それはお前次第だと。
そして壁に掛かっている時計の時刻を見ると、もう時間だと言って去って行く。
授業が始まってからも、雪は亮から言われた言葉の意味を考えていた。
お前、そんな生き方じゃ一生苦労して損ばっか見て生きることになるぞ
雪の頭の中に、あのグループワークの記憶が浮かんできた。
赤山悪かったな‥ 色々事情があって‥
でもあの人達、個人の課題はやってきてた‥。
確かにグループワークの件では、そういうところもあったかもしれない。
けれど、雪だって黙ってばかりのお人好しなわけじゃない。
私だって言う時は言うんだからと、人と争った近年の記憶を引き出した。
和美の時や、横山の時だって、雪はちゃんと自分の意見を相手にぶつけた。
「オレ様サイコー!バンザーイ!」な河村亮のドヤ顔が浮かぶ。
状況が違うじゃん!お前と一緒にするな‥!
雪は脳内亮に怒りつつ、気を静めて授業に集中しようと自らを戒めた。
結局漫然としたまま授業は終わり、教室から出た雪が廊下を歩いていた時だった。
雑用をこなしながらも、ワイワイと生徒たちに囲まれる河村亮の姿があった。
雪はそんな彼を、なんとなく釈然としない気持ちで眺めた。
沢山の人に囲まれているし、もうそのまま通りすぎようとした時だった。
「ダメージ、帰んの?」
不意に声を掛けられて驚いた雪は、小さく「はい」と答えた。
お疲れ様でした、と続けようとしたが、既に彼はまた大勢の人に囲まれていて、その言葉は届かなかった。
雪が心に抱えたモヤモヤも、
些細に感じていた気まずさも、
亮はいつも簡単に飛び越えてしまう。
バンカラな彼の考えはいつも雪のそれとは180度違っていたが、不思議といつまでも心に残った。
生徒たちから慕われる彼の背中を見ながら、そんなことを雪は考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<バンカライズム>でした!
亮の考えや生き方が良く表れた回でしたね。
生徒から携帯番号を聞かれたときの亮のセリフ、「無理。オレの美貌に惚れて電話した日には、でかい怒号が飛ぶと思え」と言うのは、実はとある事件のパロディなのだそう。
リンクです。
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占い師の女性が顔写真付きで新聞にその広告を載せた。
それだけなら一般的なのだが、問題はその顔写真の横に「私の美貌に惹かれて好奇心で電話してきたなら、大きな怒号が飛ぶわよ!」と書かれていたことである。
そこに載った顔写真はどうみても美人とは言えないおばさんで、読者からは失笑に次ぐ失笑で一時話題になった。
というキャッチフレーズ(?)のパロディらしいです。
これは説明されないと、日本人には分かんないですよね‥。
そして今回の記事ですが、日本語版の亮と雪の対話場面の会話がシックリ来なくて、本家版に寄り添いつつ自分なりにアレンジして結構変えました。
翻訳って本当に難しいですね。。
日本語版の「自分のケツも自分で拭けねぇ女だったとはな」という亮のセリフは、
「自分で自分のメシも用意出来ねぇような小娘だったとは」に変えました。というのも、韓国にしかない慣用句「 お椀も用意できないまま食べる子」が使われていて、意味合いとしては「幼い、だらしない、無力な」というものを含んでいるそうで。
そこを組み入れたりする内に、普段の記事製作時間の倍はかかりました‥。
それでも元の訳の方がシックリクル!という方も勿論いらっしゃると思います。それで全然OKですが、
ちょっとした違いを楽しんで頂けたら嬉しいなぁと思います☆
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