「おい!!」
夕闇迫る夏空に、亮の大声がこだました。
車のキーを手にした淳の背中に、何度も待てよと声をかける。
そのしつこさに閉口し、淳は振り向き溜息を吐いた。
「なに?」
その人を見下したような視線と態度に、亮は頭に血が昇るのを感じた。
淳の方を指差し、憤慨を明らかにしながら近寄る。
「テメェ!!」
「オレはなぁ!テメーの目つき、言葉遣い、行動、顔、何から何まで気に食わねぇ!反吐が出そうだ!」
「一体何様のつもりだよ?!あぁん?!」
いつも上から目線で人の事を見下してくる彼を、亮はあらん限りに罵り続ける。
「世の中がいつまでもお前の思い通りになると思ったら‥」
そう言いながら右足を上げた。勢いをつけて、思い切り蹴る。
「大間違いなんだよっ!!」
衝撃で、車の前輪上の辺りが凹んだ。
淳はそれを見て、ポカンと口を開ける。
亮はニヤニヤしながら、ゆっくりと淳の出方を窺った。
「ムカつくだろ?腹ン中が煮えくり返りそうだろ?」
「でも残念だったな?テメェの親父さんはオレら姉弟がかわいくてしょうがねーんだとよ?!」
ヒャハハハ、と亮は笑いながら、その後もガンガンと淳の車を蹴り続けた。
ようやく亮の気が済んだ頃には、車はボロボロになってしまっていた。
それでも淳は沈黙を保ったままだ。亮が言葉を続ける。
「手を上げるわけにもいかないし~、問題になるのは尚ゴメンだし~」
亮の態度に、淳は再び溜息を吐く。
「かわいそうな子供達に同情してくれてるだけだってのに」と亮は両手を広げて見せた。
そして心の表面に、鋭い言葉のナイフを突きつけた。
「恵まれて育った一人息子が愛情惜しさにスネちゃって、器がちっせーのなんのってな?」
「あン?」
淳は言葉のナイフを向けられても、微動だにしなかった。
しかしその瞳の奥の深い闇は、亮の言葉が紡がれるたびに、徐々にその帳を下ろして行く。
ゆっくりと淳は、亮の方へ向き直った。
暗い瞳の奥は、吸い込まれそうな闇が広がっている。
「イイね~その顔」と亮が、その顔を見て唸るように言った。
そして淳に向かって顔を近づけると、「殴りてぇだろ?やり返してぇだろ?」とその気持を煽った。
「殴れよ。先に殴らせてやるよ。ほら」
「殴ってみろよ」
「なぁ?」
次の瞬間、予想だにしない方向から、亮の身体に衝撃が走った。
ガッ!
ぐああああ!!
亮の大きな呻き声が、夕焼けの空に響き渡った。
亮はスネを押さえ、ぴょんぴょんと飛びながら悶絶している。
「くあっ…!あっ…!こ…の野郎!いてぇじゃねーかっ…!汚い手使いやがってぇぇ!!」
突然の脛蹴りに抗議した亮に構わず、淳は「これは修理代を貰わない代わりだ」と淡々と言った。
当然亮は怒り顔だ。
卑怯な手で反撃してきたかと思えば、未だに上から目線で言葉を掛けてくるのだ。
しかし亮の反撃を待たずに、淳は言葉を続けた。
「それと、お前には俺がそう見えるのかも知れないけど、
俺にはお前ら姉弟の方がそう見えてならないけどな」
亮は一瞬何を言われたのか分からず、「は?」と言ってまだスネをさすっていた。
そして淳は冷静沈着に、言葉のナイフを返した。
最短距離を、躊躇わずに。
「あらゆる被害妄想に囚われて、現実のせい人のせいにして努力もせずに、人に縋り付いてばかり」
「情けない」
その容赦ない言葉に、亮は声を荒げた。
「んだと…?!」
「そんな捻くれてる暇があったら、もっと慎重に行動したらどうだ」
けれど淳は目を伏せると、ただ淡々と忠告にも似た苦言を繰り返す。
「俺が惜しんでるのは愛情じゃなくてお前らの相手をするための労力だ。何度も言っただろ?」
「なんだと?!」
亮は思わずカッとなったが、淳はそれに構わず車のドアに手を掛けた。
振り返りながら口を開く。
「それと、世の中全部俺の思い通りだって‥?」
淳の記憶の海を、いつもの風景が過っていく。
常に何かを期待して、下心を持って寄って来る人々。
金、成績、見栄、打算。
近付いて来る目的が透けるように見える。
顔の無い人々に囲まれて、毎日毎日疲弊する。
淳が望んでいるのはただ平穏に、静かに暮らすことだ。
物心ついたときからずっと、そう願い続けているのに。
どうでもいいもの、どうでもいい人は思い通りに動かせても、
本当に欲しいものは、いつも手に入らない。
「‥なめてんのか?」
見下すような視線の奥に、暗い炎が燻ぶっている。
「その歳になってもまだそんな考え方しか出来ないなんて、可哀想だな」
「はぁぁ?!」
怒る亮もそのままに、淳は車に乗り込んだ。
バタンとドアを閉めると、亮は「出てこいこの野郎!」と言って窓をガンガンと叩く。
やがて淳は運転席横の窓を開けると、淡々とこう言った。
「そもそも、そんなに俺が嫌なら始めからここへ来なければ良かっただろう?
全く表裏不同もいいとこだ」「ひょ‥何て?」
亮は淳の言った”表裏不同”の意味が分からず、怒りマークの上に疑問符を浮かべた。
そんな亮を見ながら、「お前の姉貴はともかく」と淳は前置きをした後、一つ彼に忠告する。
「お前、これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ」
「はぁ?」
亮の疑問はそのままに、車はエンジンの唸りを上げ走り去っていった。
亮はその場に取り残されたまま、未だ先ほど淳の言った言葉の意味を図りかねていた。
周りの人間?つきまとう?
すると脳内に、あの女の姿が浮かび上がって来た。
顔を顰めながら、淳に言われたらしいことをそういえば口にしていた。
先輩はあなたのこと友達でも何でも無いって言ってましたけど?
淳は亮があの女に近付いたのを知っていた。
そして”友達でも何でもない”とあの女に説明したのだ。
その意図は‥。
「ハッ!」
亮は息を吐いて、ニヤリと口元に笑みを湛えた。
物事に深く執着しない淳が、わざわざ自分に警告して来たことに面白味を感じながら。
「気にしてやがんだな」
赤山雪に淳のことを怪しむよう働きかけた亮だが、淳の方にも何らかのプレッシャーを与えていたことに、亮はほくそ笑んだ。
淳の警告を受けて亮は、ますます復讐心が燃え上がるのを感じていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<三人の幼馴染み(2)>でした。
”表裏不同”というのは、韓国の四字熟語で「表と裏が異なること、言行が一致しないこと」という意味をもつものだそうです。
日本語版を読んだ時に、亮が「ひょ‥なに?」と言っているのに、その前の淳のセリフに「ひょ」なんてついてなくて、「???」だったんですよ。
解決出来て良かったです。(自己満の世界ですいません‥)
今回、淳の車がボロボロになってしまいましたね~。この車はプジョーだそうで。
修理費を請求されたら、亮の数ヶ月分の給料が‥(^^;)スネ蹴りで済んで良かったかもしれませんね。。
今回も、修正版の方で記事作成してます〜(2019年4月)
次回は<重なる二人>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
夕闇迫る夏空に、亮の大声がこだました。
車のキーを手にした淳の背中に、何度も待てよと声をかける。
そのしつこさに閉口し、淳は振り向き溜息を吐いた。
「なに?」
その人を見下したような視線と態度に、亮は頭に血が昇るのを感じた。
淳の方を指差し、憤慨を明らかにしながら近寄る。
「テメェ!!」
「オレはなぁ!テメーの目つき、言葉遣い、行動、顔、何から何まで気に食わねぇ!反吐が出そうだ!」
「一体何様のつもりだよ?!あぁん?!」
いつも上から目線で人の事を見下してくる彼を、亮はあらん限りに罵り続ける。
「世の中がいつまでもお前の思い通りになると思ったら‥」
そう言いながら右足を上げた。勢いをつけて、思い切り蹴る。
「大間違いなんだよっ!!」
衝撃で、車の前輪上の辺りが凹んだ。
淳はそれを見て、ポカンと口を開ける。
亮はニヤニヤしながら、ゆっくりと淳の出方を窺った。
「ムカつくだろ?腹ン中が煮えくり返りそうだろ?」
「でも残念だったな?テメェの親父さんはオレら姉弟がかわいくてしょうがねーんだとよ?!」
ヒャハハハ、と亮は笑いながら、その後もガンガンと淳の車を蹴り続けた。
ようやく亮の気が済んだ頃には、車はボロボロになってしまっていた。
それでも淳は沈黙を保ったままだ。亮が言葉を続ける。
「手を上げるわけにもいかないし~、問題になるのは尚ゴメンだし~」
亮の態度に、淳は再び溜息を吐く。
「かわいそうな子供達に同情してくれてるだけだってのに」と亮は両手を広げて見せた。
そして心の表面に、鋭い言葉のナイフを突きつけた。
「恵まれて育った一人息子が愛情惜しさにスネちゃって、器がちっせーのなんのってな?」
「あン?」
淳は言葉のナイフを向けられても、微動だにしなかった。
しかしその瞳の奥の深い闇は、亮の言葉が紡がれるたびに、徐々にその帳を下ろして行く。
ゆっくりと淳は、亮の方へ向き直った。
暗い瞳の奥は、吸い込まれそうな闇が広がっている。
「イイね~その顔」と亮が、その顔を見て唸るように言った。
そして淳に向かって顔を近づけると、「殴りてぇだろ?やり返してぇだろ?」とその気持を煽った。
「殴れよ。先に殴らせてやるよ。ほら」
「殴ってみろよ」
「なぁ?」
次の瞬間、予想だにしない方向から、亮の身体に衝撃が走った。
ガッ!
ぐああああ!!
亮の大きな呻き声が、夕焼けの空に響き渡った。
亮はスネを押さえ、ぴょんぴょんと飛びながら悶絶している。
「くあっ…!あっ…!こ…の野郎!いてぇじゃねーかっ…!汚い手使いやがってぇぇ!!」
突然の脛蹴りに抗議した亮に構わず、淳は「これは修理代を貰わない代わりだ」と淡々と言った。
当然亮は怒り顔だ。
卑怯な手で反撃してきたかと思えば、未だに上から目線で言葉を掛けてくるのだ。
しかし亮の反撃を待たずに、淳は言葉を続けた。
「それと、お前には俺がそう見えるのかも知れないけど、
俺にはお前ら姉弟の方がそう見えてならないけどな」
亮は一瞬何を言われたのか分からず、「は?」と言ってまだスネをさすっていた。
そして淳は冷静沈着に、言葉のナイフを返した。
最短距離を、躊躇わずに。
「あらゆる被害妄想に囚われて、現実のせい人のせいにして努力もせずに、人に縋り付いてばかり」
「情けない」
その容赦ない言葉に、亮は声を荒げた。
「んだと…?!」
「そんな捻くれてる暇があったら、もっと慎重に行動したらどうだ」
けれど淳は目を伏せると、ただ淡々と忠告にも似た苦言を繰り返す。
「俺が惜しんでるのは愛情じゃなくてお前らの相手をするための労力だ。何度も言っただろ?」
「なんだと?!」
亮は思わずカッとなったが、淳はそれに構わず車のドアに手を掛けた。
振り返りながら口を開く。
「それと、世の中全部俺の思い通りだって‥?」
淳の記憶の海を、いつもの風景が過っていく。
常に何かを期待して、下心を持って寄って来る人々。
金、成績、見栄、打算。
近付いて来る目的が透けるように見える。
顔の無い人々に囲まれて、毎日毎日疲弊する。
淳が望んでいるのはただ平穏に、静かに暮らすことだ。
物心ついたときからずっと、そう願い続けているのに。
どうでもいいもの、どうでもいい人は思い通りに動かせても、
本当に欲しいものは、いつも手に入らない。
「‥なめてんのか?」
見下すような視線の奥に、暗い炎が燻ぶっている。
「その歳になってもまだそんな考え方しか出来ないなんて、可哀想だな」
「はぁぁ?!」
怒る亮もそのままに、淳は車に乗り込んだ。
バタンとドアを閉めると、亮は「出てこいこの野郎!」と言って窓をガンガンと叩く。
やがて淳は運転席横の窓を開けると、淡々とこう言った。
「そもそも、そんなに俺が嫌なら始めからここへ来なければ良かっただろう?
全く表裏不同もいいとこだ」「ひょ‥何て?」
亮は淳の言った”表裏不同”の意味が分からず、怒りマークの上に疑問符を浮かべた。
そんな亮を見ながら、「お前の姉貴はともかく」と淳は前置きをした後、一つ彼に忠告する。
「お前、これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ」
「はぁ?」
亮の疑問はそのままに、車はエンジンの唸りを上げ走り去っていった。
亮はその場に取り残されたまま、未だ先ほど淳の言った言葉の意味を図りかねていた。
周りの人間?つきまとう?
すると脳内に、あの女の姿が浮かび上がって来た。
顔を顰めながら、淳に言われたらしいことをそういえば口にしていた。
先輩はあなたのこと友達でも何でも無いって言ってましたけど?
淳は亮があの女に近付いたのを知っていた。
そして”友達でも何でもない”とあの女に説明したのだ。
その意図は‥。
「ハッ!」
亮は息を吐いて、ニヤリと口元に笑みを湛えた。
物事に深く執着しない淳が、わざわざ自分に警告して来たことに面白味を感じながら。
「気にしてやがんだな」
赤山雪に淳のことを怪しむよう働きかけた亮だが、淳の方にも何らかのプレッシャーを与えていたことに、亮はほくそ笑んだ。
淳の警告を受けて亮は、ますます復讐心が燃え上がるのを感じていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<三人の幼馴染み(2)>でした。
”表裏不同”というのは、韓国の四字熟語で「表と裏が異なること、言行が一致しないこと」という意味をもつものだそうです。
日本語版を読んだ時に、亮が「ひょ‥なに?」と言っているのに、その前の淳のセリフに「ひょ」なんてついてなくて、「???」だったんですよ。
解決出来て良かったです。(自己満の世界ですいません‥)
今回、淳の車がボロボロになってしまいましたね~。この車はプジョーだそうで。
修理費を請求されたら、亮の数ヶ月分の給料が‥(^^;)スネ蹴りで済んで良かったかもしれませんね。。
今回も、修正版の方で記事作成してます〜(2019年4月)
次回は<重なる二人>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ