淳は廊下を歩いて行く西条の後ろ姿をじっと見ていた。
まるでこれから起こる様々な出来事を、見通すかのような眼差しでー‥。


教室にて着席していた淳に向かって、西条は開口一番こう言った。
「おい。明日担任の誕生日だよな?領収書見せろよ」

西条は以前淳が口にした”領収書を見せる”約束を守ってもらうべく、領収書の開示を要求する。
しかし淳はキョトンとした顔でこう返した。「悪い、まだ買ってないんだ」と。

その返事を聞いた西条は、あからさまに顔を曇らせた。
淳は彼を見上げながら、その表情の意味を図りかねる。西条は不満げに口を開いた。
「おいおい、金ちょろまかすつもりじゃねーだろうな?」
「まさか。昨日行ったんだけど、店が定休日だったんだ」

淳はそう真実を告げた。
しかし西条は到底納得出来ないといった表情を浮かべながら、
フンと息を吐き捨てて淳の元を去る。


そして数時間後、淳は職員室にて、担任の教師に尋問されることとなる。
「あなた、クラスの皆からお金を集めてるんですって?」

担任教師は柔らかな、それでいて厳しさを含んだ口調で淳に問い掛けた。
「どんな理由でかしら?」

キョトンとした表情で「はい?」と聞き返す淳に、
担任はまさかと思いつつも、その真実の追及を続けた。
「あなたが横領してるって聞いて‥」「横‥」

突然降って湧いた横領疑惑‥。淳は脱力しながら質問する。
「誰がそんなことを‥」
「それは聞かないでちょうだい。それで‥事実なの?」

担任は居心地悪そうにしながらも、慎重に言葉を続けた。
「淳君、あなたがそんな子じゃないってことは分かってるけど、確認はしとかなくてはいけないの。
特に校内で行事があるわけじゃないし‥あなたがお金を集める理由が分からないわ」

こんな密告をする人間は一人しか居ない。
淳は頭の中に西条の姿を思い浮かべながらも、素直に真実を打ち明けることにした。
「‥実は先生の誕生日に、プレゼントをあげようって話になってて‥」
「えぇっ?私の誕生日?!」

担任は驚いて声を上げた後、口をつぐんで俯いた。
なんとも気まずい空気が、二人の間に立ち込める。

淳はその真実の詳細を、幾分申し訳無さそうな態度で説明した。
「もともと今日までには買ってくる予定だったんですけど、予定してたお店が定休日だったんで、遅くなってしまって‥。
まさか横領だなんて‥そんなことを考える人がいるなんて思いもしませんでした。お騒がせしてしまってすみません」
「ううん!いいのよ」

真実の在処を耳にした担任は胸を撫で下ろしながら、ようやく口元に微笑みを浮かべた。
そして淳に向かって、担任教師として思う所を口にする。
「そっか、淳君も皆も先生の誕生日のことまで考えてくれてたなんて、嬉しいわ。
今日はまだ誕生日ではないし、当日までに買って来れるなら大事にはならないでしょう。
それでも皆への約束の日に間に合わなかったから、抗議する子が出たのでしょうね。
友達からお金を集めるっていうのはデリケートな問題だから、級長である淳君から、
説明はして然るべきだったんじゃないかな」

教師の話を聞いた淳は、言い返すこと無く素直に頭を下げた。
「はい。すみませんでした」

教師は気まずそうにしながら、淳の気持ちを慮って口を開く。
「嫌な気持ちになっちゃったかしら?
それでも問題になった以上、先生としては確認しなくちゃいけないから‥」
「いえ、大丈夫ですよ」

「皆に聞いて回ったり喧嘩したりしちゃダメよ。
そんな疑惑がわくこともあるんだってことを、分かってちょうだいね」
「はい。勿論です」

少し説教じみた教師の言葉を受けても、淳は微笑みを絶やさず頷いた。
担任はホッとした顔をしながら、いい子ねと口に出す。

その後は友好的なムードだった。淳と担任教師は笑いを交えながら二言三言会話する。
「とにかくありがとうね。サプライズにはならなくなっちゃったけど‥」
「それでもまだどんなプレゼントかは知らないでしょう?楽しみにしていて下さいね」
「あらあら‥ふふふ」

西条が教師に密告した事実は、すぐに教室の皆に知れ渡った。
「おい!西条!お前なんだろ?!」

教室にて、西条を追及する荒い声が響く。しかし西条は、ゲーム片手に知らん顔だ。
「ちげーよ」「何がちげーよだよ!俺職員室でお前のこと見たぞ!
サプライズの意味知ってっか?!しらばっくれてんじゃねーよ!つーか青田が金踏み倒すような真似するわけねーし!」

西条はゲームをしながら、ブツブツと彼らに向かって口を開く。もう教室は大騒ぎだ。
「おいおいそりゃちげーだろ、金持ちの奴らの方がその辺ケチくさいんじゃないかってこと。
まぁ青田がそういう奴だって言ってるわけじゃねーけど」「コイツマジ‥
」
「とにかくこんなことになって‥皆ごめんな。俺が買いそびれたのは事実なんだし‥」

淳は皆に向かって場を治める言葉を掛ける。
「それでもせっかくの先生のバースデーなんだからさ、皆嫌な気持ちは忘れて準備しようよ」

級長の淳に言われては仕方が無いと、皆は溜息を吐きながら三々五々解散した。
その中で河村亮は、淳の姿を探す。

「おい、担任何だって?」「ん?」

亮からの問いに、淳は口を開こうとした。
「ただ‥」

しかしすぐに口を噤む。
「何でもないよ」

淳のその返答を聞いた亮は、軽く舌打ちした。
そして西条和夫の方を向きながら、中指を立てて見せる。
「あのクソ野郎‥F◯CK食らえ!」

聞こえよがしに発された亮の言葉を聞き、西条もまた顔を顰めた。
けれどあの当時、クラスメート全員が同じような感情を西条に抱いていたに違いない。
亮はあの頃を思い出して、現在の淳にこう問い掛ける。
そんでまた、”適当な線”を超えたんだろ

淳の心の前にある、一つのボーダー。
彼が標的を排除する、一つの指標。
”Across the line.”
西条は確かにそれを侵した。
河村亮の、回想は続く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(3)ーでした。
皆様、お久しぶりです

出産報告の記事に沢山の温かいコメント、ありがとうございました

今は日々の育児に奮闘している毎日です
ブログの方ですが、これから一日おきにアップしていく予定です♪
またこれからよろしくお願いします!
次回は<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(4)ー。
西条編、まだまだ続きます‥。
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まるでこれから起こる様々な出来事を、見通すかのような眼差しでー‥。


教室にて着席していた淳に向かって、西条は開口一番こう言った。
「おい。明日担任の誕生日だよな?領収書見せろよ」

西条は以前淳が口にした”領収書を見せる”約束を守ってもらうべく、領収書の開示を要求する。
しかし淳はキョトンとした顔でこう返した。「悪い、まだ買ってないんだ」と。

その返事を聞いた西条は、あからさまに顔を曇らせた。
淳は彼を見上げながら、その表情の意味を図りかねる。西条は不満げに口を開いた。
「おいおい、金ちょろまかすつもりじゃねーだろうな?」
「まさか。昨日行ったんだけど、店が定休日だったんだ」

淳はそう真実を告げた。
しかし西条は到底納得出来ないといった表情を浮かべながら、
フンと息を吐き捨てて淳の元を去る。


そして数時間後、淳は職員室にて、担任の教師に尋問されることとなる。
「あなた、クラスの皆からお金を集めてるんですって?」

担任教師は柔らかな、それでいて厳しさを含んだ口調で淳に問い掛けた。
「どんな理由でかしら?」

キョトンとした表情で「はい?」と聞き返す淳に、
担任はまさかと思いつつも、その真実の追及を続けた。
「あなたが横領してるって聞いて‥」「横‥」

突然降って湧いた横領疑惑‥。淳は脱力しながら質問する。
「誰がそんなことを‥」
「それは聞かないでちょうだい。それで‥事実なの?」

担任は居心地悪そうにしながらも、慎重に言葉を続けた。
「淳君、あなたがそんな子じゃないってことは分かってるけど、確認はしとかなくてはいけないの。
特に校内で行事があるわけじゃないし‥あなたがお金を集める理由が分からないわ」

こんな密告をする人間は一人しか居ない。
淳は頭の中に西条の姿を思い浮かべながらも、素直に真実を打ち明けることにした。
「‥実は先生の誕生日に、プレゼントをあげようって話になってて‥」
「えぇっ?私の誕生日?!」

担任は驚いて声を上げた後、口をつぐんで俯いた。
なんとも気まずい空気が、二人の間に立ち込める。

淳はその真実の詳細を、幾分申し訳無さそうな態度で説明した。
「もともと今日までには買ってくる予定だったんですけど、予定してたお店が定休日だったんで、遅くなってしまって‥。
まさか横領だなんて‥そんなことを考える人がいるなんて思いもしませんでした。お騒がせしてしまってすみません」
「ううん!いいのよ」

真実の在処を耳にした担任は胸を撫で下ろしながら、ようやく口元に微笑みを浮かべた。
そして淳に向かって、担任教師として思う所を口にする。
「そっか、淳君も皆も先生の誕生日のことまで考えてくれてたなんて、嬉しいわ。
今日はまだ誕生日ではないし、当日までに買って来れるなら大事にはならないでしょう。
それでも皆への約束の日に間に合わなかったから、抗議する子が出たのでしょうね。
友達からお金を集めるっていうのはデリケートな問題だから、級長である淳君から、
説明はして然るべきだったんじゃないかな」


教師の話を聞いた淳は、言い返すこと無く素直に頭を下げた。
「はい。すみませんでした」

教師は気まずそうにしながら、淳の気持ちを慮って口を開く。
「嫌な気持ちになっちゃったかしら?
それでも問題になった以上、先生としては確認しなくちゃいけないから‥」
「いえ、大丈夫ですよ」

「皆に聞いて回ったり喧嘩したりしちゃダメよ。
そんな疑惑がわくこともあるんだってことを、分かってちょうだいね」
「はい。勿論です」

少し説教じみた教師の言葉を受けても、淳は微笑みを絶やさず頷いた。
担任はホッとした顔をしながら、いい子ねと口に出す。

その後は友好的なムードだった。淳と担任教師は笑いを交えながら二言三言会話する。
「とにかくありがとうね。サプライズにはならなくなっちゃったけど‥」
「それでもまだどんなプレゼントかは知らないでしょう?楽しみにしていて下さいね」
「あらあら‥ふふふ」

西条が教師に密告した事実は、すぐに教室の皆に知れ渡った。
「おい!西条!お前なんだろ?!」

教室にて、西条を追及する荒い声が響く。しかし西条は、ゲーム片手に知らん顔だ。
「ちげーよ」「何がちげーよだよ!俺職員室でお前のこと見たぞ!
サプライズの意味知ってっか?!しらばっくれてんじゃねーよ!つーか青田が金踏み倒すような真似するわけねーし!」

西条はゲームをしながら、ブツブツと彼らに向かって口を開く。もう教室は大騒ぎだ。
「おいおいそりゃちげーだろ、金持ちの奴らの方がその辺ケチくさいんじゃないかってこと。
まぁ青田がそういう奴だって言ってるわけじゃねーけど」「コイツマジ‥

「とにかくこんなことになって‥皆ごめんな。俺が買いそびれたのは事実なんだし‥」

淳は皆に向かって場を治める言葉を掛ける。
「それでもせっかくの先生のバースデーなんだからさ、皆嫌な気持ちは忘れて準備しようよ」

級長の淳に言われては仕方が無いと、皆は溜息を吐きながら三々五々解散した。
その中で河村亮は、淳の姿を探す。

「おい、担任何だって?」「ん?」

亮からの問いに、淳は口を開こうとした。
「ただ‥」

しかしすぐに口を噤む。
「何でもないよ」

淳のその返答を聞いた亮は、軽く舌打ちした。
そして西条和夫の方を向きながら、中指を立てて見せる。
「あのクソ野郎‥F◯CK食らえ!」

聞こえよがしに発された亮の言葉を聞き、西条もまた顔を顰めた。
けれどあの当時、クラスメート全員が同じような感情を西条に抱いていたに違いない。
亮はあの頃を思い出して、現在の淳にこう問い掛ける。
そんでまた、”適当な線”を超えたんだろ

淳の心の前にある、一つのボーダー。
彼が標的を排除する、一つの指標。
”Across the line.”
西条は確かにそれを侵した。
河村亮の、回想は続く。
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<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(3)ーでした。
皆様、お久しぶりです


出産報告の記事に沢山の温かいコメント、ありがとうございました


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