Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

他者であるということ

2015-05-27 01:00:00 | 雪3年3部(夜更けの治療~影響)
「あの時から歪んでしまったんだ。俺と、亮との関係は」



高校三年生の時の回想を終えた淳は、そう言って話を締め括った。

初めて淳の気持ちを聞いた雪は、思わず言葉に詰まる。

「先輩‥」



淳は雪とは目を合わさず、幾分俯きながら更に過去を辿った。

押し込めていた記憶や感情が、負った傷口からじわじわと漏れて行く。



「祖父から孫まで‥俺のテリトリーを徐々に侵害して、結局家にまで立ち入って来た。

俺はいつもそれはおかしいと思ってたのに‥」




思い出すのは、だだっ広く暗い部屋。父はいつでも息子を見ていた。

「けど父はいつも」



「俺の肩を掴んで、こう要求するんだ」



‥いや、父はいつも息子を監視していたのだ。

おかしな子供を見るような目つきで。

「”おとなしくしてろ” ”欲張るな” ”常に譲歩しろ”」



「まるでどこかから俺のことを見ていたかのように、それが間違っていると言うかのように」



肩を掴んだ、両手が微かに震えていた。

目の前の雪を通り越した何か‥いや誰かに、怯えたように淳の瞳が揺れる。

「そんなに‥」



「そんなに俺はおかしく見えたのかな‥」









そう彼に問われても、雪は何も言えなかった。

いつか目にした彼の中の少年が、今自分の肩を強く掴んでいる。

「それでそれを正そうと‥」



淳はそう言うと、ぐっと手に力を入れた。

そして雪の瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼女に向かって問い掛ける。

「雪ちゃん、君もそうだったろ。初めから俺のことおかしいと思ってたろ」



瞬きもしないまま、淳は雪のことを凝視し続けた。

彼女の揺れる瞳の中に、その答えを探す。







敢えて今まで言及しなかった彼の核心について、雪はなんと答えて良いか分からなかった。

言葉に詰まっていると、淳は俯いてこう続ける。

「おかしいと思ってるのが父さんだけじゃないんだとしたら‥」

 

「そうだとしたら‥本当に俺は‥」



淳はそう言いながら、雪の肩に頭を凭れ、力を抜いた。

ノックダウンしたかのような彼を支えながら、雪は言葉を掛ける。

「先輩‥あの‥」



すると彼は、小さい声でこう言った。

「俺って本当にそんなにおかしい?」

 

呟くようなその問いを聞いて、雪は目を丸くして彼を見た。

傷だらけの顔で俯きながら、淳はぐっと歯を食い縛っている。



今まで頭を抱えてうずくまっていた少年は、今彼女に身を預けて震えていた。

一番受け入れて欲しかった人に、奇異な目で見られ続けた少年‥。



雪は自然と彼に手を伸ばした。

彼女を求めて震える彼を、雪は優しく受け入れる。

「先輩‥」










沈黙を分かち合いながら、二人は暫く抱き合っていた。

雪は彼を抱き締めながら、ゆっくりと口を開く。

「私達って、最初すごく仲が悪かったでしょう?」



「お互い、変で嫌な奴だって思って」



優しくそう問い掛ける雪の言葉に、淳は顔を上げぬまま小さく頷く。

「うん」



「あの時はそうだったけど、去年は私が悪かった面もあったし‥。

未だに先輩の言動が理解出来ない時もあるけど‥」




雪は丁寧に一つ一つ、頭の中で考えをまとめて言葉にして行った。

そして出した結論を、あやふやながらも彼に伝える。

「改めて考えると‥おかしいっていうより”違う”って感じ?です」



その雪の答えを聞いて、淳の目が開いた。

彼を肯定する、”違う”というその答え‥。



淳は雪の肩から頭を上げ、彼女の顔をじっと見た。

雪は微笑みを浮かべながら、もう一度その結論を口に出す。

「そう、”違う”んですよ。私達は」









我々は他者であるということ。雪はもうそれに気がついていた。

その核心が理解出来なくて苦しむこともあるけれど、それでも互いが別の人間であるということを忘れなければ、

きっと前に進むことが出来る‥。








淳の瞳に、光が灯った。

雪はなんだか恥ずかしくなって、ウハハと笑いながら弁解する。

「ちょ、ちょっとキザだったかな?こじつけっぽいかもだけどー‥」



ギュッ



淳は何も言わず、もう一度雪に抱きついた。

子供のようなそんな彼の背中を、雪はポンポンと優しく叩いてやる。



甘えるように自分を抱き締める淳。

雪はその広い背中を撫でながら、柔らかな声で語りかけた。

「先輩の全部を理解するのは難しいかもしれないけど‥」 「うん」

「先輩の気持ちが楽になったら嬉しいです。落ち込んじゃうより」 「うん」

「怪我も早く治るといいな‥」



「うん‥」



その優しい声と温かな言葉に、淳は甘えるように頷いた。

それでも無数についた傷はチクチクと痛み、脳裏には先程の亮の言葉が甦っていた。

「オレがダメージに迷惑掛けてるだって?そういうお前は‥?」



頭の中で、声がする。

声は、自身に問い掛ける。

お前は自信あるのか?







その言葉が、チクリと心を刺した。

どちらが正常でどちらが異常なのか‥。


淳の中の指針が、微かに揺れていた。


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<他者であるということ>でした。

優しく淳を抱き締める雪を見て、二人の仲もここまで深くなったか‥とジーンとした私です。

しかし淳の性格を”違う”という考えで受け入れることが出来る雪ちゃん、改めてスゴイですよね‥。

いや~本当おもしろいですね‥チートラ‥(今更)


次回は亮さんのターン! <乖離>です。

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