「先輩っ‥?!」

その場所に駆けつけた雪が目にしたのは、予想だにしなかった青田淳の姿だった。
服も顔もボロボロ、見るからに痛々しい。

雪の声を聞いた淳が、閉じていた目を薄く開ける。彼女は血相を変えて、自分の方に駆け寄った。
「どうしちゃったんですか?!」

「顔っ‥!なんで突然こんな‥!」

雪はそう言って彼の顔を触り、キョロキョロと辺りを見回す。
「何があったんですか?!一体誰がこんなこと‥車は?!」
「いてて‥」

一体何が、と言いながら雪はアタフタと慌てふためいた。
腫れた瞼の合間から、彼女の顔がよく見える。

心に刺さっていた刺が、ゆっくりと抜けて行く。
淳は安心したように目を閉じると、彼女の肩に頭を凭れ、雪の名を口にした。
「雪ー‥」

「あぁ‥スゲー痛い‥」

淳はそう言ったきり、雪に凭れたままじっとしていた。
雪は何が起こったのかまるで見当がつかないまま、彼を支えて動揺する。

周りには誰も居ない。
こんな真っ暗な夜更けに、雪は傷だらけの彼を抱えたまま、途方に暮れたのだった。


閉店後の宴麺屋赤山に、小さく明かりが灯った。
雪は淳を椅子に座らせ、薬箱にあった塗り薬や絆創膏で彼を手当てする。

そしてとりあえずの治療が終わったところで、雪は彼に無かって問い質した。
「ねぇ、本当にどういうこと?!何なのこの顔は!」

「明日どうやって出勤するつもりですか?!」

淳は雪から目を逸らすと、沈黙を貫いたままじっとしていた。そんな彼に向かって、雪はハキハキと喋って事を進める。
「こっち側もう一回見せて下さい。まだ薬あんまり塗ってませんから。てか、後のことは何も考えなかったんですか?!」

雪は淳の顔に向かって手を伸ばしたが、淳は目をつむって顔を背けた。
「うう‥」 「我慢我慢!ほら見せて!反対側にも塗らなくちゃ」

雪は厳しくそう言うと、淳の頬を押さえながら自分の方を向かせる。
そして二人は額が触れ合いそうな距離で、互いに向き合った。

真剣な表情で薬を塗る雪の顔を、淳は腫れた瞼越しにじっと見ていた。
息を切らせて自分のもとに駆けつけてくれた彼女。淳は彼女を見つめている。

雪は幾分気まずそうな表情をして、あの時を思い出していた。
似たようなシチュエーションが前にもあったな、と。
なんか状況がアベコベだな‥

清水香織と取っ組み合いの喧嘩をした後、彼が自分の顔に薬を塗ってくれた。
顔中傷だらけになる出来事なんてそうそう無いだろうに、短い期間に自分も彼もそういった状況を迎えていることに、
なんだか雪はしみじみとしてしまう。
多事多難だね‥多事多難‥。
ホントにお祓いしようカナ‥


なんとか反対側も薬を塗り終わると、淳は息を吐いて目を閉じた。
雪は黙ったまま、そんな彼のことをじっと見つめている‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<夜更けの治療>でした。
少し短めの記事で失礼致しました。
雪ちゃん、と言いながら肩に凭れ掛かる淳の安心したような表情が印象的でした。
殺伐とした殴り合いで神経がすり減らされたんだろうな、と。(おそらく亮も然り‥)
キツイですね‥。
次回は<蓄積>です。
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その場所に駆けつけた雪が目にしたのは、予想だにしなかった青田淳の姿だった。
服も顔もボロボロ、見るからに痛々しい。

雪の声を聞いた淳が、閉じていた目を薄く開ける。彼女は血相を変えて、自分の方に駆け寄った。
「どうしちゃったんですか?!」

「顔っ‥!なんで突然こんな‥!」

雪はそう言って彼の顔を触り、キョロキョロと辺りを見回す。
「何があったんですか?!一体誰がこんなこと‥車は?!」
「いてて‥」

一体何が、と言いながら雪はアタフタと慌てふためいた。
腫れた瞼の合間から、彼女の顔がよく見える。


心に刺さっていた刺が、ゆっくりと抜けて行く。
淳は安心したように目を閉じると、彼女の肩に頭を凭れ、雪の名を口にした。
「雪ー‥」

「あぁ‥スゲー痛い‥」

淳はそう言ったきり、雪に凭れたままじっとしていた。
雪は何が起こったのかまるで見当がつかないまま、彼を支えて動揺する。

周りには誰も居ない。
こんな真っ暗な夜更けに、雪は傷だらけの彼を抱えたまま、途方に暮れたのだった。


閉店後の宴麺屋赤山に、小さく明かりが灯った。
雪は淳を椅子に座らせ、薬箱にあった塗り薬や絆創膏で彼を手当てする。

そしてとりあえずの治療が終わったところで、雪は彼に無かって問い質した。
「ねぇ、本当にどういうこと?!何なのこの顔は!」

「明日どうやって出勤するつもりですか?!」

淳は雪から目を逸らすと、沈黙を貫いたままじっとしていた。そんな彼に向かって、雪はハキハキと喋って事を進める。
「こっち側もう一回見せて下さい。まだ薬あんまり塗ってませんから。てか、後のことは何も考えなかったんですか?!」

雪は淳の顔に向かって手を伸ばしたが、淳は目をつむって顔を背けた。
「うう‥」 「我慢我慢!ほら見せて!反対側にも塗らなくちゃ」

雪は厳しくそう言うと、淳の頬を押さえながら自分の方を向かせる。
そして二人は額が触れ合いそうな距離で、互いに向き合った。

真剣な表情で薬を塗る雪の顔を、淳は腫れた瞼越しにじっと見ていた。
息を切らせて自分のもとに駆けつけてくれた彼女。淳は彼女を見つめている。

雪は幾分気まずそうな表情をして、あの時を思い出していた。
似たようなシチュエーションが前にもあったな、と。
なんか状況がアベコベだな‥

清水香織と取っ組み合いの喧嘩をした後、彼が自分の顔に薬を塗ってくれた。
顔中傷だらけになる出来事なんてそうそう無いだろうに、短い期間に自分も彼もそういった状況を迎えていることに、
なんだか雪はしみじみとしてしまう。
多事多難だね‥多事多難‥。
ホントにお祓いしようカナ‥


なんとか反対側も薬を塗り終わると、淳は息を吐いて目を閉じた。
雪は黙ったまま、そんな彼のことをじっと見つめている‥。

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<夜更けの治療>でした。
少し短めの記事で失礼致しました。
雪ちゃん、と言いながら肩に凭れ掛かる淳の安心したような表情が印象的でした。
殺伐とした殴り合いで神経がすり減らされたんだろうな、と。(おそらく亮も然り‥)
キツイですね‥。
次回は<蓄積>です。
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