コンサートからの帰り道、空を見上げると細い月が出ていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/ee/e14d8c4dc10c84f40ca7a10cdbd238d8.jpg)
亮の代わりに聴きに行った、有名ピアニストのコンサート。
サイン入りの楽譜を鞄に入れて、淳は一人家路へと急ぐ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/be/82f2db9f18e076f3d32dc9a8984333e6.jpg)
家の前の通りを歩いていると、不意に門が開くのが見えた。家族が通る為の、小さい方の門が開く。
淳は思わず「あ」と声を漏らした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/66/8a8cddecb0879d2bb82f82a5b66b6d25.jpg)
そこから出てきたのは、河村亮と河村静香だった。
姉弟は会話をしながら、実に自然に淳の家から姿を現す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/7b/49576dd011bc7e77eb54e06bcfbc7194.jpg)
淳は二人の姿を前にして、思わず立ち止まった。
最近よく家に来るな。
コンクールが終わってその足で来たのか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/93/742304bb7fdc2b8850ddc3bc90ed1081.jpg)
今日は亮のピアノコンクールがあったので、その結果報告だろうか。
淳はそんなことを考えながら二人を見ていた。がしかし、今日は彼らの雰囲気が幾分いつもと違っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/7d/a415bd6f9d8aef4875ba9101ff4e8421.jpg)
「?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/8b/46e48cd20ac7c587314d63dd721a8a42.jpg)
何やら言い争っているのだ。そんな二人を見て、不思議そうな顔をする淳。
あ、そうだ楽譜‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/d5/bba809e0060b538d36e8cc5e487a7275.jpg)
そして淳は、鞄の中に入れてある楽譜のことを思い出した。片手を上げ、亮の名を呼ぼうとする。
「りょ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/31/af0c14febdf58d19f24350293379a748.jpg)
しかし淳は、その名前を最後まで口にすることが出来なかった。
なぜならば亮が、ある箇所をじっと見つめて立ち止まっていたからだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/c1/6b14eda96930d9e37f735b9f899ee1e1.jpg)
亮は外壁のある部分を、一人凝視していた。
静香は弟の見ている場所を追って、そこへ視線を落とす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/34/b7f3e842efd04315ea8493c3993de5b3.jpg)
姉弟はその場所を見ながら話をした。
淳の耳に、その会話が切れ切れに聞こえてくる。
「ここんとこさぁ‥」「あーそこ前からよ」「また塗り直して‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/35/e8097efdecedf42e2dc20e18af840556.jpg)
すると亮は二三歩下がり、下がった場所から壁を見上げた。
先程の場所のように塗装の剥げたところが、他にも無いものかと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/7f/b3d5d71c0f27ac8610fdce4b1070ae7a.jpg)
そして今度は壁に近寄り、その剥げた部分にそっと手を這わせた。
まるで古くなったその場所を、労るかのような仕草で。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/92/8d6f5a71e1b7ca437b0c5cd2851cf247.jpg)
それは何てことのない一場面だった。
青田淳以外にとっては、本当に何気ない平凡な一場面。
古い家だからしゃーねーな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/1c/24c74dcdd78672423e5319748c0b6bac.jpg)
てかオレさぁ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/a8/50c6754d73396be2f0eb38dbcbf94cee.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/d3/78d654f4403466f531c218e5e177d5a4.jpg)
亮と静香の声が、徐々に小さくなって行く。
淳は消え入る声を聞きながら、じっとその場に立ち尽くしていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/a3/8929aa7e71196e0129aaed047650fc3c.jpg)
辺りは静かで誰一人居ないというのに、耳の内側でノイズが聞こえる。
ザワザワザワザワと、神経に障る音が聞こえる。
「あ、楽譜」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/ef/c6c7e3a2bc5cf8b6adfc0ce10c9bd22d.jpg)
そんな感覚に気を取られて、サイン入り楽譜を渡しそびれてしまった。
もう二人の姿は見えない。
ま、いいか。明日渡せば
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/9b/23ede229bd7c17d5ac943f387aa26000.jpg)
そう自らを納得させて、淳は家に入ろうとした。
そして目に入って来たのだ、大きな門と小さな門が。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/36/2ff19f0ed257d0531ea43b28495ef1d5.jpg)
家族用の小さな門から、河村姉弟は出て行った。
まるで当然のような顔をしてー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/41/947ca1f296aa95c363f47f9463ee5704.jpg)
心の中で、小さなノイズが鳴っている。
ノイズはじりじりと、心の一箇所を侵食して行く。
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/b2/93a94aeb862afe8ccf4f7881ea5da3f3.jpg)
先程亮が、労るように手を添えていた場所。そこは確かに剥がれていた。
いつも目にしていないと分からないくらい、ほんの小さな箇所だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーでした。
今回の箇所は絵だけでは分からなくて、亮が何しているのか最初かなり謎でした‥。
ハングルがパッパッと読めたらいいのに‥!とジリジリします^^;
でも文字を翻訳機にかけ、翻訳ボタンを押す瞬間のドキドキも、かなりクセになります(笑)
こんなことが出来るのも最終回までと思うと、寂しいです(涙)
次回は<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー です。
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亮の代わりに聴きに行った、有名ピアニストのコンサート。
サイン入りの楽譜を鞄に入れて、淳は一人家路へと急ぐ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/be/82f2db9f18e076f3d32dc9a8984333e6.jpg)
家の前の通りを歩いていると、不意に門が開くのが見えた。家族が通る為の、小さい方の門が開く。
淳は思わず「あ」と声を漏らした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/f4/3bea65837c8327f020ce844b2569cc01.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/66/8a8cddecb0879d2bb82f82a5b66b6d25.jpg)
そこから出てきたのは、河村亮と河村静香だった。
姉弟は会話をしながら、実に自然に淳の家から姿を現す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/7b/49576dd011bc7e77eb54e06bcfbc7194.jpg)
淳は二人の姿を前にして、思わず立ち止まった。
最近よく家に来るな。
コンクールが終わってその足で来たのか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/93/742304bb7fdc2b8850ddc3bc90ed1081.jpg)
今日は亮のピアノコンクールがあったので、その結果報告だろうか。
淳はそんなことを考えながら二人を見ていた。がしかし、今日は彼らの雰囲気が幾分いつもと違っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/7d/a415bd6f9d8aef4875ba9101ff4e8421.jpg)
「?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/8b/46e48cd20ac7c587314d63dd721a8a42.jpg)
何やら言い争っているのだ。そんな二人を見て、不思議そうな顔をする淳。
あ、そうだ楽譜‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/d5/bba809e0060b538d36e8cc5e487a7275.jpg)
そして淳は、鞄の中に入れてある楽譜のことを思い出した。片手を上げ、亮の名を呼ぼうとする。
「りょ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/31/af0c14febdf58d19f24350293379a748.jpg)
しかし淳は、その名前を最後まで口にすることが出来なかった。
なぜならば亮が、ある箇所をじっと見つめて立ち止まっていたからだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/c1/6b14eda96930d9e37f735b9f899ee1e1.jpg)
亮は外壁のある部分を、一人凝視していた。
静香は弟の見ている場所を追って、そこへ視線を落とす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/34/b7f3e842efd04315ea8493c3993de5b3.jpg)
姉弟はその場所を見ながら話をした。
淳の耳に、その会話が切れ切れに聞こえてくる。
「ここんとこさぁ‥」「あーそこ前からよ」「また塗り直して‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/35/e8097efdecedf42e2dc20e18af840556.jpg)
すると亮は二三歩下がり、下がった場所から壁を見上げた。
先程の場所のように塗装の剥げたところが、他にも無いものかと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/7f/b3d5d71c0f27ac8610fdce4b1070ae7a.jpg)
そして今度は壁に近寄り、その剥げた部分にそっと手を這わせた。
まるで古くなったその場所を、労るかのような仕草で。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/92/8d6f5a71e1b7ca437b0c5cd2851cf247.jpg)
それは何てことのない一場面だった。
青田淳以外にとっては、本当に何気ない平凡な一場面。
古い家だからしゃーねーな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/1c/24c74dcdd78672423e5319748c0b6bac.jpg)
てかオレさぁ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/a8/50c6754d73396be2f0eb38dbcbf94cee.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/d3/78d654f4403466f531c218e5e177d5a4.jpg)
亮と静香の声が、徐々に小さくなって行く。
淳は消え入る声を聞きながら、じっとその場に立ち尽くしていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/a3/8929aa7e71196e0129aaed047650fc3c.jpg)
辺りは静かで誰一人居ないというのに、耳の内側でノイズが聞こえる。
ザワザワザワザワと、神経に障る音が聞こえる。
「あ、楽譜」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/ef/c6c7e3a2bc5cf8b6adfc0ce10c9bd22d.jpg)
そんな感覚に気を取られて、サイン入り楽譜を渡しそびれてしまった。
もう二人の姿は見えない。
ま、いいか。明日渡せば
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/9b/23ede229bd7c17d5ac943f387aa26000.jpg)
そう自らを納得させて、淳は家に入ろうとした。
そして目に入って来たのだ、大きな門と小さな門が。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/36/2ff19f0ed257d0531ea43b28495ef1d5.jpg)
家族用の小さな門から、河村姉弟は出て行った。
まるで当然のような顔をしてー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/41/947ca1f296aa95c363f47f9463ee5704.jpg)
心の中で、小さなノイズが鳴っている。
ノイズはじりじりと、心の一箇所を侵食して行く。
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/b2/93a94aeb862afe8ccf4f7881ea5da3f3.jpg)
先程亮が、労るように手を添えていた場所。そこは確かに剥がれていた。
いつも目にしていないと分からないくらい、ほんの小さな箇所だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーでした。
今回の箇所は絵だけでは分からなくて、亮が何しているのか最初かなり謎でした‥。
ハングルがパッパッと読めたらいいのに‥!とジリジリします^^;
でも文字を翻訳機にかけ、翻訳ボタンを押す瞬間のドキドキも、かなりクセになります(笑)
こんなことが出来るのも最終回までと思うと、寂しいです(涙)
次回は<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー です。
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