「ただいま帰りました‥」

靴を脱いで家に上がると、ふと視線を感じた。
淳が顔を上げると、そこに父親が立っていたのだった。

親子は何気ない会話を交わす。
「帰ったか」
「はい。ここに居られたんですね」

淳がそう声を掛けた後、父は無言で息子に背を向けた。
淳はそんな父の態度を不思議に思う。

父はそのまま歩いて行こうとしたが、淳はその背中に話し掛けた。
「亮が来てたみたいですね。コンクールの話をしたんですか?」「ああ。よく弾けたと言っていた」

そっけなく答える父。そして父は自室へと向かって行く。
向けられた背中に、微かな無言の拒絶を感じる。

どこか胸が騒いだ。
淳は父に向かってもう一度声を掛ける。
「何かあったんですか?」

「ん?いや」

父はそう口にして、早々に階段を上った。
口元に湛えたその微笑は、その場をやり過ごす為の虚飾のそれだった。
淳は即座にそれを感じ取る。

階段を上がる父に向かって、淳は先程のことを話題に出した。
父は、足を止めることなくそれに答える。
「ところで‥門の横隅の塗装が剥げていること、ご存知ですか?」
「あぁ、そうらしいな。あそこだけ塗り直さないと」

「ご存知だったんですね」

淳がそう言った後、父は自室へと姿を消した。
淳は頭の後ろに手をやりながら、耳の奥で鳴るノイズを聞く。

誰も居ないリビング。淳は一人呟いた。
「俺はそのことを今日知ったんです」

「この家で幼い頃から育って来たのは、俺の方なのに」


自分の家のことなのに、淳は壁の剥がれた箇所を知らなかった。
でもあの二人は当然のように知っていたのだ。
そう、まるで家族のように。

勉強の為に机に向かった淳だが、内容は全く頭に入って来なかった。
耳の裏側で鳴るノイズが、心に不安の陰を落とす。


気分転換がてら、淳はコーヒーを取りに台所へと向かった。
ゆっくりと廊下を歩いていると、不意に母親の声がした。
「なんですって?!」

立ち止まると、両親の部屋のドアが少し開いているのが見えた。
室内から漏れる明かり。声はそこから聞こえて来る。

「父親ともあろう人が何を言っているんですか!」

母親の声は大きく、それは廊下に居る淳の耳にもハッキリと入って来た。
聞いてはいけないかと思い、足早にそこから立ち去ろうとする淳。
最近よくケンカするな‥

前にもこんなことがあった。
確か両親は、河村姉弟のことについて口論していた。
「あの子達はあたし達の子供じゃないわ」

亮と静香が原因で、しばしば口論するようになった両親。
耳の内側で鳴るノイズが、徐々に大きく心を掻き乱して行く。
そして次の瞬間母親が言った言葉に、淳は耳を疑った。
「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」


心を侵食する、不快なノイズ。
それは徐々に、加速して行く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー でした。
塗装の剥がれた壁を、淳だけが知らなかったというこのエピソード。
本当の家族に憧れる亮と、本当の家族なのに満たされない淳。
二人の関係性の歪みが、このエピソードから露呈して行くんでしょうね。
しかし淳も淳父もよくカップ持って歩いてますよね。
いやだから何だって言ったら何もないですが‥(苦笑)この光景よく見るなと思って見てます。。
次回は<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー です。
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靴を脱いで家に上がると、ふと視線を感じた。
淳が顔を上げると、そこに父親が立っていたのだった。

親子は何気ない会話を交わす。
「帰ったか」
「はい。ここに居られたんですね」

淳がそう声を掛けた後、父は無言で息子に背を向けた。
淳はそんな父の態度を不思議に思う。

父はそのまま歩いて行こうとしたが、淳はその背中に話し掛けた。
「亮が来てたみたいですね。コンクールの話をしたんですか?」「ああ。よく弾けたと言っていた」


そっけなく答える父。そして父は自室へと向かって行く。
向けられた背中に、微かな無言の拒絶を感じる。

どこか胸が騒いだ。
淳は父に向かってもう一度声を掛ける。
「何かあったんですか?」

「ん?いや」

父はそう口にして、早々に階段を上った。
口元に湛えたその微笑は、その場をやり過ごす為の虚飾のそれだった。
淳は即座にそれを感じ取る。

階段を上がる父に向かって、淳は先程のことを話題に出した。
父は、足を止めることなくそれに答える。
「ところで‥門の横隅の塗装が剥げていること、ご存知ですか?」
「あぁ、そうらしいな。あそこだけ塗り直さないと」


「ご存知だったんですね」

淳がそう言った後、父は自室へと姿を消した。
淳は頭の後ろに手をやりながら、耳の奥で鳴るノイズを聞く。

誰も居ないリビング。淳は一人呟いた。
「俺はそのことを今日知ったんです」

「この家で幼い頃から育って来たのは、俺の方なのに」


自分の家のことなのに、淳は壁の剥がれた箇所を知らなかった。
でもあの二人は当然のように知っていたのだ。
そう、まるで家族のように。

勉強の為に机に向かった淳だが、内容は全く頭に入って来なかった。
耳の裏側で鳴るノイズが、心に不安の陰を落とす。


気分転換がてら、淳はコーヒーを取りに台所へと向かった。
ゆっくりと廊下を歩いていると、不意に母親の声がした。
「なんですって?!」

立ち止まると、両親の部屋のドアが少し開いているのが見えた。
室内から漏れる明かり。声はそこから聞こえて来る。

「父親ともあろう人が何を言っているんですか!」

母親の声は大きく、それは廊下に居る淳の耳にもハッキリと入って来た。
聞いてはいけないかと思い、足早にそこから立ち去ろうとする淳。
最近よくケンカするな‥

前にもこんなことがあった。
確か両親は、河村姉弟のことについて口論していた。
「あの子達はあたし達の子供じゃないわ」

亮と静香が原因で、しばしば口論するようになった両親。
耳の内側で鳴るノイズが、徐々に大きく心を掻き乱して行く。
そして次の瞬間母親が言った言葉に、淳は耳を疑った。
「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」


心を侵食する、不快なノイズ。
それは徐々に、加速して行く。
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<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー でした。
塗装の剥がれた壁を、淳だけが知らなかったというこのエピソード。
本当の家族に憧れる亮と、本当の家族なのに満たされない淳。
二人の関係性の歪みが、このエピソードから露呈して行くんでしょうね。
しかし淳も淳父もよくカップ持って歩いてますよね。
いやだから何だって言ったら何もないですが‥(苦笑)この光景よく見るなと思って見てます。。
次回は<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー です。
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