Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー

2015-05-25 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」



この場から立ち去ろうとしていた淳の足は、固まってしまったかのように動けなくなった。

父と母の口論が、淳の耳に雪崩れ込んで来る。

「たった今話したじゃないか。友達の髪を掴んで、レンガにぶつけようとしたと!」

「そんなの、単なる喧嘩の流れでしょう?!」



それは数カ月前、亮と岡村泰士の喧嘩に巻き込まれた時のことだった。

淳は岡村の髪を掴み、レンガにぶつける寸前で手を止めたのだった。



口論は続いていた。

「それに西条社長の息子にしたことも聞いてただろう?結果上級生達から袋叩きに遭わせてー‥」



それは去年、西条和夫が上級生に殴られた時の話だった。

淳は西条に実質的な手を加えたわけではない。ないけれど‥。



開いたドアの隙間から、二人の声が漏れる。

「淳は今反抗期なんです。あの年頃の子はそんなものでしょ?

それにその子達の方が、先に淳にちょっかい出して来たっていうじゃありませんか!」


「いやお前‥だとしても、こういった形で対処して良いと思うのか?!」

「ええ。私は淳の判断は間違ってないと思ってる」



「‥‥‥‥」



母は父の言葉を基本的に取り合わず、終始彼を責める口調で口論を重ねた。

黙る父に向かって、母の高い声が続く。

「それよりも子供の学校生活を逐一監視する親がどこにいますか?!

一体誰が監視してるんだか!」




「それはお前、あちらこちらでー‥」

「は、白々しい。よく分かってますわ」



そして母親はキッパリとこう言った。まるで全て分かっていたかのような口調だった。

「その為に河村教授の孫を同じ学校に通わせてるくせに」



淳の頭の中で、過去の場面場面が急激に蘇って来た。

岡村泰士にレンガをぶつけようとした淳を見て、戸惑ったような顔をした亮。



西条が入院したとクラスの皆が騒いでいた時、

疑うような視線を送って来た亮。



「お前なんでここにいんの?!」



そうだ、それまでにも亮はそういう目で自分のことを見ていた。

疑うような、怪訝そうな、理解出来ないものを見るかのようなー‥。








なぜ今日二人は家に来たのだろう。

淳が出掛けていることを知りながら。自分はコンクールの帰りだというのに。



何かを言い争っていた。

もしそれが、自分のことを父に報告する関連の件で揉めていたのだとしたら?



それならば辻褄が合う。どこかよそよそしかった父の態度にも納得がいく。

一つ一つの点が、線になって繋がって行くー‥。


「何てことを言うんだ!」



母だけでなく、とうとう父も荒い口調で話し始めた。淳はその場から動けない。

「亮と静香は純粋に淳を友達としてだな!」

「たとえあの子達はそうだとしても、現にあなたが変だと思ってるじゃないですか!

もういい加減あの子達に執着するのは止めて。私達の子供は淳ですよ?!」




「それは私も当然分かっているさ。淳の為なんだから」



”淳の為”、父はその免罪符を掲げ、妻にその行動の理解を求める。

「河村教授から言われたこと、お前も知っているだろう?

淳はおかしな問題のある子だって!」




脳裏に、幼い頃会った教授の姿が浮かんだ。

穏やかな笑みを浮かべながら、頭を優しく撫でられた。

「やぁ」



「私は淳の社会性が心配だった。それで幼い時から注意して‥」

「河村教授が、淳の面倒を見てくれたとでも?せいぜいあなたはあの人の言葉を鵜呑みにしてー‥」

「お前だっていつも外国にいて、淳を見てなかったじゃないか!」



責任を押し付け合いながら、夫婦は口論を続ける。父は河村教授のことを信じ、己のことも信じていた。

「私は見て来たさ。私が見ても、あの子は幼い時から普通ではなかった」

「だからそれは‥他の子たちよりも淳がちょっと頭の回転が早いってだけでしょう?!

問題なんてないわ!」




母はそんな夫のことが気に食わなかった。河村教授のことを盲信しているようにしか思えないのだ。

「いい加減その河村教授河村教授っていうのは止めて。

いきなり人の子を変わり者扱いした挙句、それを口実に自分の孫を押し付けて!」




「一番狡猾なのはあの人よ」「止めないか。そんな人じゃない」「あのヤブ医者」



「ヤブ医者とは何だ!私を治療して下さった方だ。お前も分かっているだろう?」

「治療?あなたは私が見る限りどこも治ってなんかないわ。河村教授の治療とやらは失敗ね」

「お前‥!」



母の暴言に、父が歯を食い縛る表情が見て取れるようだった。

そして母は父に向かって、彼の根本を指摘する言葉を口にした。

「あなたは怒りを表に出しこそしないけど、その矛先をいつも変な方向へ向ける」



「他人を勝手に判断して、強引に操作して!」



「挙句自分の子供にまで烙印を押した‥!」



淳はそのままフラフラと自室へと歩いて行った。どうやって帰ったのかは覚えていない。

耳の奥でノイズが鳴っている。

母の高い声が鼓膜の裏に反響し、感覚が麻痺していた。

「淳に問題はありませんわ」



「何の問題も」



机の上に乗った楽譜が、ふと目に入った。

To Ryo Kawamuraと入れてもらった、サイン入りの楽譜が。







先程耳にした母の言葉が蘇って来る。

「それよりも子供の学校生活を逐一監視する親がどこにいますか?!

一体誰が監視してるんだか!」




岡村泰士の一件も、西条和夫の一件も、そのどちらにも亮が絡んでいた。

今手元にあるこの楽譜にさえも、自分ではなく亮の名前があるー‥。



ノイズは徐々にボリュームを上げ、既に身体の内部まで侵害されていた。

幾分乱暴な仕草で、淳は楽譜を本棚に仕舞う。

バンッ



ザワザワ、ザワザワと、徐々に己が侵されて行く。

最近よく家に来るな‥



家族用の通用門から当たり前のように出てきた二人。

最近よく喧嘩してる‥



彼らが自分の家族を狂わせて行く。


ジワジワと、奪われて行くのだ。

自分も、自分の家族も。




母親の甲高い声が自分を責める。

「おかしいわ」




父親の低い声が自分を責める。

「おかしいんだ」




いつか優しい笑みを浮かべていた老人も、自分を責める。

「おかしな子供」




塗装の剥げた壁。

僕だけが知らなかった。




僕だけがおかしいのか?

他の皆ではなく僕だけがー‥


おかしい! おかしい! おかしい! おかしい!




僕だけがー‥





ノイズが頭の中で、叫ぶように鳴っていた。


おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい

おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい




おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい

おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい




淳は頭を抱えてうずくまった。

それは少年が己を奪われゆく時に無意識に取る、己を守る姿勢だった。





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<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー でした。

今回はガッツリ書かせてもらいました。ふー‥


裏目夫妻の口論‥自分の子供を「おかしい」と言う父と、ただ闇雲に「おかしくない」と否定する母。

どちらも淳を理解しようという気持ちがうかがえないと感じるのは‥私だけでしょうか?


前回出てきた壁の剥がれた箇所というのが今回に繋がって、

「自分だけが知らなかった→自分だけがおかしいのか?」という考えを示唆するモチーフになってますね。


そして今回すごいな、と思ったのがここ↓

「淳に問題はありませんわ。何の問題も」


何の問題もない、と淳を肯定する言葉が書いてありながら、このコマの淳の表情には絶望しかない。

それだけ母が淳を理解した上でこの台詞を言っているわけではない、ということが分かりますよね。


ここで歪んでしまった淳→亮への感情が、どう左手事件に繋がって行くのか‥気になります。


さて次回から現在に戻ります。<他者であるということ>です。



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