「あそこにある焼肉屋に来いって、先輩達からメールが来たろ?」

西条と淳がこの会話をした翌日、小さな事件が起こった。
西条が廊下を歩いていた河村亮の足を引っ掛け、「青田の子分野郎」と絡んだのだ。

日頃の鬱憤も相まって亮は切れ、思わず拳を振るった。

翌日。
その日、河村亮は青田淳のことが気になって仕方がなかった。

授業に集中しようとしても、やはり気になってしまう。
亮は何度も前方の席に座る淳の背中に目をやった。

先生の声など耳に入って来ない。亮は一人心の中でその疑問を呟いた。
今日って‥その集まる日なんじゃねーのか?

一昨日淳は、確かにこう言っていた。
「ふぅん‥一緒に遊んだらいいじゃないか。
明後日、◯◯区にある店に皆が集まることは知ってるよな?」

そして今日が、その日なのだ。
しかし亮はやはり自分には関係の無いことだと、自らに言い聞かせて心を誤魔化す。


時刻は十一時を指し、体育の時間になった。
淳に変わった様子は無い。


一時。昼食。
亮はやはり淳を度々窺ってみるが、変わった様子は無い。


そして更に時間は流れ、下校前の掃除の時刻になった。
亮はモップの柄にもたれかかりながら、モヤモヤとした思いを抱え続けていた。

自分には関係ない、と何度繰り返してみても、晴れない胸の内‥。

結局亮は意を決して、淳に聞いてみることにした。
「淳ー‥」

するとその亮の声を聞いたクラスメートが、淳の席の辺りを指さしてこう言った。
「青田探してんの?もういねーけど‥」

淳の席は既に空席だった。亮は眉を寄せて不思議に思う。
早くね?掃除もしねーで?

級長の淳が、掃除もせずに下校するなどいつもならあり得ない。
亮の胸中がザワザワと騒ぐ。
そしてその後ろでは傷だらけになった西条(昨日亮にやられた傷だ)が、同じく淳の席を睨んでいた。

西条は意を決したように頷くと、パッと踵を返して何処かへ向かった。
亮は西条の存在に気づき、「あん?」と声を掛ける。

しかし西条は振り向きもせずに歩いて行ってしまった。
亮は舌打ちをしながら「んだぁ?
」と苛立った。

しかし今は西条を気にしている場合ではない。淳のことを考えるべきだ。
なぜ淳は、掃除もせずに居なくなってしまったのかー‥。

亮の頭の中に、遅咲きの思春期を楽しむ淳の姿が浮かんで来た。
うう‥

飲酒、喫煙、女遊び‥。
いくら遅咲きの思春期といっても、これはちょっといただけない。亮は堪らず駆け出した。
「ったくよぉ!一応ちょっくら探さねーと!いくらなんでもそれはちょっと間違‥」

そう言いながら廊下を走る亮。
しかし角を曲がりかけた時、いきなり探していた人物に出くわした。
「どわああああーっ!」

「な‥なんだぁ?!」

突然亮からそう言われた淳は、キョトンとその場で立ち止まった。
二人は目を丸くして、暫し互いの姿を凝視する。

亮は人差し指で淳を指しながら、大きな声でこう問うた。
「お前なんでここにいんの?!」「え?」

淳は不思議そうに小首を傾げながら、自分がここに居る理由を話し出した。
「なんでって‥。雑用に行って、帰る途中だよ。
終わったら帰宅するつもり」「はぁ?!」

まだその理由が理解しきれていない亮。しかし淳は平然と問い掛ける。
「一緒に行く?これ重くてさ」 「??」

亮の胸中がモヤモヤと曇る。そのまま二人は並んで歩き出した。
「え‥雑用って何の?てか掃除は?」「明日の一限に使う資料だって。今持って行って欲しいって先生が」
「てかなんでそれをお前一人に‥」
「別に俺一人ってわけじゃないさ。もう一人連れて来いって言ってたから、一緒に行こう。
掃除はしなくていいってさ」 「お?おー‥」

行かねーことにしたってことか?と亮は、その平然とした淳の顔を見ながら考えた。
鼓膜の裏に、一昨日耳にした淳の台詞が過る。
”俺も呼ばれたんだ” ”西条も行く?”

淳は確かにそう言った。亮はその意味を考え直して合点が行く。
そっか‥自分が「行く」とは言ってねーわけだ

そんじゃアイツが一方的にムカついてたってワケか。
くく‥ウケるww

淳の巧みな言い回しに、西条も亮も勘違いをさせられていた。
亮は含み笑いを漏らしながら、淳の持っていた資料を半分持ってやる。
「手伝ったら何か奢ってくれるか~?」「分かったよ」

そうして二人は雑用を済ませ、共に帰宅した。
そして翌日、教室に西条の姿は無かった。



その時の淳の横顔を、亮はハッキリとその眼で見ていた。

そしてその眼を疑ったのだ。

亮は淳から目を逸らすと、一人思案に耽った。
いや‥元々仲悪かったんだから、嘲笑もあり得るか‥。
西条のことだから、あの性格のせいで三年をムカつかせて殴られたんだろうし‥。
それでも先輩達を裏切るってのは予想外だったな

周りではクラスメートが各々好きなようにお喋りを続けている。
「青田にも無駄に突っかかってたもんなー」「いつかこんなことになると思ってたよ」

亮は再び、淳の方へと視線を送った。
現在の亮はこの時のことを思い出し、こう回想している。
<あの時、気づくべきだったんだ>と。
「まーアイツ元から性格悪かったからなぁ」「何かやらかすと思ってたよ」

淳は何も言わずに前を向いていた。
その後姿を見ながら、亮はとあることに思い至る。
そういやあの先輩、仁の兄貴じゃなかったっけ?

そして亮は友人らと共に、城崎仁の嘆きを聞くことになるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(7)ーでした。
日本語版では切れ切れにしか分からなかった西条事件が、今回時系列で描いてあるのでようやく流れが掴めた感じですね。
あと、ブログ記事を本家版と日本語版を混ぜて構成してみました。ちょっと読みにくいかな~^^;
次回は<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(8)ーです。
ようやく西条編、ラストです!
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西条と淳がこの会話をした翌日、小さな事件が起こった。
西条が廊下を歩いていた河村亮の足を引っ掛け、「青田の子分野郎」と絡んだのだ。

日頃の鬱憤も相まって亮は切れ、思わず拳を振るった。

翌日。
その日、河村亮は青田淳のことが気になって仕方がなかった。

授業に集中しようとしても、やはり気になってしまう。
亮は何度も前方の席に座る淳の背中に目をやった。


先生の声など耳に入って来ない。亮は一人心の中でその疑問を呟いた。
今日って‥その集まる日なんじゃねーのか?

一昨日淳は、確かにこう言っていた。
「ふぅん‥一緒に遊んだらいいじゃないか。
明後日、◯◯区にある店に皆が集まることは知ってるよな?」

そして今日が、その日なのだ。
しかし亮はやはり自分には関係の無いことだと、自らに言い聞かせて心を誤魔化す。


時刻は十一時を指し、体育の時間になった。
淳に変わった様子は無い。


一時。昼食。
亮はやはり淳を度々窺ってみるが、変わった様子は無い。


そして更に時間は流れ、下校前の掃除の時刻になった。
亮はモップの柄にもたれかかりながら、モヤモヤとした思いを抱え続けていた。

自分には関係ない、と何度繰り返してみても、晴れない胸の内‥。

結局亮は意を決して、淳に聞いてみることにした。
「淳ー‥」

するとその亮の声を聞いたクラスメートが、淳の席の辺りを指さしてこう言った。
「青田探してんの?もういねーけど‥」

淳の席は既に空席だった。亮は眉を寄せて不思議に思う。
早くね?掃除もしねーで?

級長の淳が、掃除もせずに下校するなどいつもならあり得ない。
亮の胸中がザワザワと騒ぐ。
そしてその後ろでは傷だらけになった西条(昨日亮にやられた傷だ)が、同じく淳の席を睨んでいた。

西条は意を決したように頷くと、パッと踵を返して何処かへ向かった。
亮は西条の存在に気づき、「あん?」と声を掛ける。

しかし西条は振り向きもせずに歩いて行ってしまった。
亮は舌打ちをしながら「んだぁ?


しかし今は西条を気にしている場合ではない。淳のことを考えるべきだ。
なぜ淳は、掃除もせずに居なくなってしまったのかー‥。

亮の頭の中に、遅咲きの思春期を楽しむ淳の姿が浮かんで来た。
うう‥

飲酒、喫煙、女遊び‥。
いくら遅咲きの思春期といっても、これはちょっといただけない。亮は堪らず駆け出した。
「ったくよぉ!一応ちょっくら探さねーと!いくらなんでもそれはちょっと間違‥」

そう言いながら廊下を走る亮。
しかし角を曲がりかけた時、いきなり探していた人物に出くわした。
「どわああああーっ!」

「な‥なんだぁ?!」

突然亮からそう言われた淳は、キョトンとその場で立ち止まった。
二人は目を丸くして、暫し互いの姿を凝視する。


亮は人差し指で淳を指しながら、大きな声でこう問うた。
「お前なんでここにいんの?!」「え?」

淳は不思議そうに小首を傾げながら、自分がここに居る理由を話し出した。
「なんでって‥。雑用に行って、帰る途中だよ。
終わったら帰宅するつもり」「はぁ?!」

まだその理由が理解しきれていない亮。しかし淳は平然と問い掛ける。
「一緒に行く?これ重くてさ」 「??」

亮の胸中がモヤモヤと曇る。そのまま二人は並んで歩き出した。
「え‥雑用って何の?てか掃除は?」「明日の一限に使う資料だって。今持って行って欲しいって先生が」
「てかなんでそれをお前一人に‥」
「別に俺一人ってわけじゃないさ。もう一人連れて来いって言ってたから、一緒に行こう。
掃除はしなくていいってさ」 「お?おー‥」

行かねーことにしたってことか?と亮は、その平然とした淳の顔を見ながら考えた。
鼓膜の裏に、一昨日耳にした淳の台詞が過る。
”俺も呼ばれたんだ” ”西条も行く?”

淳は確かにそう言った。亮はその意味を考え直して合点が行く。
そっか‥自分が「行く」とは言ってねーわけだ

そんじゃアイツが一方的にムカついてたってワケか。
くく‥ウケるww

淳の巧みな言い回しに、西条も亮も勘違いをさせられていた。
亮は含み笑いを漏らしながら、淳の持っていた資料を半分持ってやる。
「手伝ったら何か奢ってくれるか~?」「分かったよ」

そうして二人は雑用を済ませ、共に帰宅した。
そして翌日、教室に西条の姿は無かった。



その時の淳の横顔を、亮はハッキリとその眼で見ていた。

そしてその眼を疑ったのだ。

亮は淳から目を逸らすと、一人思案に耽った。
いや‥元々仲悪かったんだから、嘲笑もあり得るか‥。
西条のことだから、あの性格のせいで三年をムカつかせて殴られたんだろうし‥。
それでも先輩達を裏切るってのは予想外だったな

周りではクラスメートが各々好きなようにお喋りを続けている。
「青田にも無駄に突っかかってたもんなー」「いつかこんなことになると思ってたよ」

亮は再び、淳の方へと視線を送った。
現在の亮はこの時のことを思い出し、こう回想している。
<あの時、気づくべきだったんだ>と。
「まーアイツ元から性格悪かったからなぁ」「何かやらかすと思ってたよ」

淳は何も言わずに前を向いていた。
その後姿を見ながら、亮はとあることに思い至る。
そういやあの先輩、仁の兄貴じゃなかったっけ?

そして亮は友人らと共に、城崎仁の嘆きを聞くことになるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(7)ーでした。
日本語版では切れ切れにしか分からなかった西条事件が、今回時系列で描いてあるのでようやく流れが掴めた感じですね。
あと、ブログ記事を本家版と日本語版を混ぜて構成してみました。ちょっと読みにくいかな~^^;
次回は<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(8)ーです。
ようやく西条編、ラストです!
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