あれは高校三年生の、秋のことだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a4/0176ccfae11bf3cd5ee33f81c68ef0c5.jpg)
有名ピアニストの来日公演。河村亮は心底その演奏を聞きたがっていた。
しかし彼は自身のピアノコンクールに出席せねばならず、代わりに淳が足を運んだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/9c/9d580381f6fd3e19a37ce04411830cba.jpg)
目を閉じ、その音色に耳を澄ます。
鮮やかに奏でられるシューベルト「楽興の瞬間」。亮の弾けるようなそれとはまた違う、重厚な音の響きー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/43/83712cd5ecc2d165acd94c7c11a9cc8b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/4a/347f476cc2898115e4074a8fc40ab668.jpg)
遠目に見えるピアニストの横顔は、髪も肌も白人種のそれであり、彼の横顔に淳は亮の面影を見る。
脳裏に、いつか自分を肯定してくれた時の亮の姿が浮かんだ。
「お前はいっこも間違ってねーぞ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/a2/c8c8b5cf238e25c4ad6be0c0480d97f6.jpg)
ずっと集めていた野球のボールをクラスメートに譲ることになった時のことだ。
亮は何の疑いもなく淳を肯定した。
「何がおかしいんだ?全然おかしくなんかねーだろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/b0/6ee1262f8d26defcd94837416ff30b62.jpg)
嬉しかったのだ。
自分のことを肯定してくれる幼馴染の存在が、あの時何よりも嬉しかった。
「あ~~~つーかマジコンサートよぉぉぉ!お前代わりに行けよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/94/67e2fef63fef3461ed043e510f2c4306.jpg)
だからそんなに興味があるわけでもないコンサートにも、亮の代わりに足を運んだのだ。
今日のこの演奏の感想を口にした時、亮はどんな顔をするだろう‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/9f/98e9e81a5d23af26da51cd14657cdadd.jpg)
コンサートは盛況の内に幕を閉じた。
ステージの中央に立ち頭を下げるピアニストに、豪雨のような拍手が鳴り響く‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/66/2d5936c85d1eeaa58cdb4a62986bbd35.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/db/83a0bc8d90dc62490c19e41c1caab6c3.jpg)
演奏後、淳はピアニストの楽屋に足を運んだ。
青田家が有するスポンサーの特権で、入ることが出来たのであった。
「あれ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/1b/b1fbacd04f44e4580947f975f522722f.jpg)
淳が手にしていたのは、「楽興の瞬間」の楽譜だった。
それを見たピアニストは嬉しそうに、淳に向かって話し掛ける。
「これは僕の楽譜じゃないかい?素晴らしい!」「ファンですので」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/d1/71badc4b3d33092a2602c9be102bb5e2.jpg)
淳はニッコリと笑顔を浮かべ、更に言葉を添える。
「”楽興の瞬間”、原曲も良いですが、この編曲の方が好きなんです」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/a0/bdfd3834f8bfda5f3a1805030e89994e.jpg)
淳のその言葉を聞いて、ピアニストは豪快に笑った。
「僕にもスゴイファンがいたもんだな!ハハハ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/3a/c4607b63f192aa9297c5649516d783a4.jpg)
そして彼はペンを取り、淳に向かって口を開く。
「そうそう、サインの依頼だったね。名前は?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/ce/d47babcd64dc5ec1350286ad21eb1e98.jpg)
「河村亮です」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/71/b3700bb94870a77e5de55253b351ee24.jpg)
淳は自身の名前ではなく、亮の名前を口にした。
ピアニストは聞いた通りに、楽譜に亮の名前をサインを共に書き落とす。
「河‥村‥亮‥と」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/61/790f5b108d15a99648bf8548c2b8f1a0.jpg)
サインを終えたピアニストは、ニッコリと笑って淳に楽譜を手渡した。
「僕の演奏を聴きに来てくれてありがとう、河村亮君」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/f5/ccfc9a01f1943d162d5c2e26e8f5bb0a.jpg)
そしてTo.Ryo Kawamuraと入ったそれを、淳は笑顔で受け取ったのだった。
「いえ、こちらこそ。お時間を割いて頂いて、ありがとうございました」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/fa/08b7cd66ba3de5d2bb8acb243e87472f.jpg)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(17)ーサインーでした。
かなり短めな記事で失礼致しました。
演奏を聴きながら、目を閉じて亮のことを思い出す淳。
良い友達なのになぁ‥。この後だんだんと関係が歪んでいくのですね‥(T T)
次回は<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーです。
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有名ピアニストの来日公演。河村亮は心底その演奏を聞きたがっていた。
しかし彼は自身のピアノコンクールに出席せねばならず、代わりに淳が足を運んだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/9c/9d580381f6fd3e19a37ce04411830cba.jpg)
目を閉じ、その音色に耳を澄ます。
鮮やかに奏でられるシューベルト「楽興の瞬間」。亮の弾けるようなそれとはまた違う、重厚な音の響きー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/43/83712cd5ecc2d165acd94c7c11a9cc8b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/4a/347f476cc2898115e4074a8fc40ab668.jpg)
遠目に見えるピアニストの横顔は、髪も肌も白人種のそれであり、彼の横顔に淳は亮の面影を見る。
脳裏に、いつか自分を肯定してくれた時の亮の姿が浮かんだ。
「お前はいっこも間違ってねーぞ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/a2/c8c8b5cf238e25c4ad6be0c0480d97f6.jpg)
ずっと集めていた野球のボールをクラスメートに譲ることになった時のことだ。
亮は何の疑いもなく淳を肯定した。
「何がおかしいんだ?全然おかしくなんかねーだろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/b0/6ee1262f8d26defcd94837416ff30b62.jpg)
嬉しかったのだ。
自分のことを肯定してくれる幼馴染の存在が、あの時何よりも嬉しかった。
「あ~~~つーかマジコンサートよぉぉぉ!お前代わりに行けよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/94/67e2fef63fef3461ed043e510f2c4306.jpg)
だからそんなに興味があるわけでもないコンサートにも、亮の代わりに足を運んだのだ。
今日のこの演奏の感想を口にした時、亮はどんな顔をするだろう‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/9f/98e9e81a5d23af26da51cd14657cdadd.jpg)
コンサートは盛況の内に幕を閉じた。
ステージの中央に立ち頭を下げるピアニストに、豪雨のような拍手が鳴り響く‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/66/2d5936c85d1eeaa58cdb4a62986bbd35.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/db/83a0bc8d90dc62490c19e41c1caab6c3.jpg)
演奏後、淳はピアニストの楽屋に足を運んだ。
青田家が有するスポンサーの特権で、入ることが出来たのであった。
「あれ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/1b/b1fbacd04f44e4580947f975f522722f.jpg)
淳が手にしていたのは、「楽興の瞬間」の楽譜だった。
それを見たピアニストは嬉しそうに、淳に向かって話し掛ける。
「これは僕の楽譜じゃないかい?素晴らしい!」「ファンですので」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/d1/71badc4b3d33092a2602c9be102bb5e2.jpg)
淳はニッコリと笑顔を浮かべ、更に言葉を添える。
「”楽興の瞬間”、原曲も良いですが、この編曲の方が好きなんです」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/a0/bdfd3834f8bfda5f3a1805030e89994e.jpg)
淳のその言葉を聞いて、ピアニストは豪快に笑った。
「僕にもスゴイファンがいたもんだな!ハハハ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/3a/c4607b63f192aa9297c5649516d783a4.jpg)
そして彼はペンを取り、淳に向かって口を開く。
「そうそう、サインの依頼だったね。名前は?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/ce/d47babcd64dc5ec1350286ad21eb1e98.jpg)
「河村亮です」
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淳は自身の名前ではなく、亮の名前を口にした。
ピアニストは聞いた通りに、楽譜に亮の名前をサインを共に書き落とす。
「河‥村‥亮‥と」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/61/790f5b108d15a99648bf8548c2b8f1a0.jpg)
サインを終えたピアニストは、ニッコリと笑って淳に楽譜を手渡した。
「僕の演奏を聴きに来てくれてありがとう、河村亮君」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/f5/ccfc9a01f1943d162d5c2e26e8f5bb0a.jpg)
そしてTo.Ryo Kawamuraと入ったそれを、淳は笑顔で受け取ったのだった。
「いえ、こちらこそ。お時間を割いて頂いて、ありがとうございました」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/fa/08b7cd66ba3de5d2bb8acb243e87472f.jpg)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(17)ーサインーでした。
かなり短めな記事で失礼致しました。
演奏を聴きながら、目を閉じて亮のことを思い出す淳。
良い友達なのになぁ‥。この後だんだんと関係が歪んでいくのですね‥(T T)
次回は<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーです。
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