あれは高校三年生の、秋のことだった。

有名ピアニストの来日公演。河村亮は心底その演奏を聞きたがっていた。
しかし彼は自身のピアノコンクールに出席せねばならず、代わりに淳が足を運んだ。

目を閉じ、その音色に耳を澄ます。
鮮やかに奏でられるシューベルト「楽興の瞬間」。亮の弾けるようなそれとはまた違う、重厚な音の響きー‥。


遠目に見えるピアニストの横顔は、髪も肌も白人種のそれであり、彼の横顔に淳は亮の面影を見る。
脳裏に、いつか自分を肯定してくれた時の亮の姿が浮かんだ。
「お前はいっこも間違ってねーぞ?」

ずっと集めていた野球のボールをクラスメートに譲ることになった時のことだ。
亮は何の疑いもなく淳を肯定した。
「何がおかしいんだ?全然おかしくなんかねーだろ?」

嬉しかったのだ。
自分のことを肯定してくれる幼馴染の存在が、あの時何よりも嬉しかった。
「あ~~~つーかマジコンサートよぉぉぉ!お前代わりに行けよ!」

だからそんなに興味があるわけでもないコンサートにも、亮の代わりに足を運んだのだ。
今日のこの演奏の感想を口にした時、亮はどんな顔をするだろう‥。

コンサートは盛況の内に幕を閉じた。
ステージの中央に立ち頭を下げるピアニストに、豪雨のような拍手が鳴り響く‥。


演奏後、淳はピアニストの楽屋に足を運んだ。
青田家が有するスポンサーの特権で、入ることが出来たのであった。
「あれ?」

淳が手にしていたのは、「楽興の瞬間」の楽譜だった。
それを見たピアニストは嬉しそうに、淳に向かって話し掛ける。
「これは僕の楽譜じゃないかい?素晴らしい!」「ファンですので」

淳はニッコリと笑顔を浮かべ、更に言葉を添える。
「”楽興の瞬間”、原曲も良いですが、この編曲の方が好きなんです」

淳のその言葉を聞いて、ピアニストは豪快に笑った。
「僕にもスゴイファンがいたもんだな!ハハハ!」

そして彼はペンを取り、淳に向かって口を開く。
「そうそう、サインの依頼だったね。名前は?」

「河村亮です」

淳は自身の名前ではなく、亮の名前を口にした。
ピアニストは聞いた通りに、楽譜に亮の名前をサインを共に書き落とす。
「河‥村‥亮‥と」

サインを終えたピアニストは、ニッコリと笑って淳に楽譜を手渡した。
「僕の演奏を聴きに来てくれてありがとう、河村亮君」

そしてTo.Ryo Kawamuraと入ったそれを、淳は笑顔で受け取ったのだった。
「いえ、こちらこそ。お時間を割いて頂いて、ありがとうございました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(17)ーサインーでした。
かなり短めな記事で失礼致しました。
演奏を聴きながら、目を閉じて亮のことを思い出す淳。
良い友達なのになぁ‥。この後だんだんと関係が歪んでいくのですね‥(T T)
次回は<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーです。
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有名ピアニストの来日公演。河村亮は心底その演奏を聞きたがっていた。
しかし彼は自身のピアノコンクールに出席せねばならず、代わりに淳が足を運んだ。

目を閉じ、その音色に耳を澄ます。
鮮やかに奏でられるシューベルト「楽興の瞬間」。亮の弾けるようなそれとはまた違う、重厚な音の響きー‥。


遠目に見えるピアニストの横顔は、髪も肌も白人種のそれであり、彼の横顔に淳は亮の面影を見る。
脳裏に、いつか自分を肯定してくれた時の亮の姿が浮かんだ。
「お前はいっこも間違ってねーぞ?」

ずっと集めていた野球のボールをクラスメートに譲ることになった時のことだ。
亮は何の疑いもなく淳を肯定した。
「何がおかしいんだ?全然おかしくなんかねーだろ?」

嬉しかったのだ。
自分のことを肯定してくれる幼馴染の存在が、あの時何よりも嬉しかった。
「あ~~~つーかマジコンサートよぉぉぉ!お前代わりに行けよ!」

だからそんなに興味があるわけでもないコンサートにも、亮の代わりに足を運んだのだ。
今日のこの演奏の感想を口にした時、亮はどんな顔をするだろう‥。

コンサートは盛況の内に幕を閉じた。
ステージの中央に立ち頭を下げるピアニストに、豪雨のような拍手が鳴り響く‥。


演奏後、淳はピアニストの楽屋に足を運んだ。
青田家が有するスポンサーの特権で、入ることが出来たのであった。
「あれ?」

淳が手にしていたのは、「楽興の瞬間」の楽譜だった。
それを見たピアニストは嬉しそうに、淳に向かって話し掛ける。
「これは僕の楽譜じゃないかい?素晴らしい!」「ファンですので」

淳はニッコリと笑顔を浮かべ、更に言葉を添える。
「”楽興の瞬間”、原曲も良いですが、この編曲の方が好きなんです」

淳のその言葉を聞いて、ピアニストは豪快に笑った。
「僕にもスゴイファンがいたもんだな!ハハハ!」

そして彼はペンを取り、淳に向かって口を開く。
「そうそう、サインの依頼だったね。名前は?」

「河村亮です」

淳は自身の名前ではなく、亮の名前を口にした。
ピアニストは聞いた通りに、楽譜に亮の名前をサインを共に書き落とす。
「河‥村‥亮‥と」

サインを終えたピアニストは、ニッコリと笑って淳に楽譜を手渡した。
「僕の演奏を聴きに来てくれてありがとう、河村亮君」

そしてTo.Ryo Kawamuraと入ったそれを、淳は笑顔で受け取ったのだった。
「いえ、こちらこそ。お時間を割いて頂いて、ありがとうございました」

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<亮と静香>高校時代(17)ーサインーでした。
かなり短めな記事で失礼致しました。
演奏を聴きながら、目を閉じて亮のことを思い出す淳。
良い友達なのになぁ‥。この後だんだんと関係が歪んでいくのですね‥(T T)
次回は<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーです。
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