互いに殴り合い、蹴り合い、倒し合い‥。
河村亮と青田淳は、肩で息をしながら立ち上がる。

高校二年生の時に起きた、西条和夫の事件。
二人はその事件のことを、たった今回想し終えたところだ。
「誰がお人好しのカモだか‥」

亮は口元の血を拭いながら、皮肉るように嘲笑した。
淳は無言でそれを聞いている。

亮はもう一度、あの時仁に向かって言った自分の言葉を思い出した。
「おいおい、淳がどんなヤツかってのはよく知ってんだろ?
仁、お前の兄貴だから仲良くしてたってだけで、一緒に酒飲みに行くなんてー‥」

地面に手を付き、立ち上がりながら、目の前の淳を睨みながら言う。
「あん時、どうしてお前のことなんて庇ったんだろうな‥。
オレも同じように稚拙なやり方で潰されるって、気づくべきだったのに」

拭っても拭っても消えない傷。心の中にこびりついた毒。
その性質に気がついた今、淳のことを見過ごすことなどもう出来なかった。
「ダメージにつきまとうなだって?オレがダメージに迷惑ばっか掛けてるだって?」

「どうだか」

希望から絶望まで全てを知った左手が震える。
亮はぐっと拳を握り締め、淳に向かって言葉を続けた。
「オレもお前も、もうそんなこと突き詰める意味なんてねーだろ‥」

「お前だって、また問題を起こさねぇっつー保証は無ぇ」

そして亮は、最後にその真実を淳に突き付けた。
「お前の周りは、いつもそうだったじゃねーか」


彼の周りには深い溝があり、”線を超えた人間”は尽くその溝に落とされていった。
そして亮が懸念するのは、いつかその溝に雪も落とされるんではないかということー‥。
あれが、私達が共にテーブルを囲んだ、最初で最後の晩餐だった。


シンクに並ぶ、沢山の洗い物。
雪は少しウトウトしながら、夕食に使った食器を洗っている最中だった。

ふと携帯が震えたので、手袋を外して見てみると、メールが一通届いていた。
こんばんは、財務学会MST‥

雪は思わずうわっと声を上げた。
もしかしたら財務学会に受かったのかもしれないと、テンションが上がる。

するともう一度携帯が震えた。
見てみると、そこには先輩からのメールが一通届いていた。
ちょっと出てきてくれないか

たった一行のメッセージ。
先輩はとっくに家に帰ったはずなのに‥。雪は疑問符を浮かべて画面を凝視する。

決して入り込めない、私の知らない世界


駆け抜ける風で、落ち葉が舞った。
雪は夜道を疾走する。

タイマン勝負の果てに、亮は立ち去り、淳は公園で座り込む。

あの二人の間には何があっても埋まることのない、とても深い溝がある

だから皆で顔を揃えて集まったとしても

不可能は覆らないのだ。

最後のディナーショーが終わりを告げる。
決裂の結末は、決して覆ることは無かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<深い溝>でした。
最初で最後の晩餐‥。
意味深なモノローグですね。先が気になります。。
次回は<夜更けの治療>です。
*ブログのテンプレを変更してみました。(*PC版のみご覧になれます)
ワイドになって字が大きくなりました~。また感想頂ければ嬉しいです♪
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河村亮と青田淳は、肩で息をしながら立ち上がる。

高校二年生の時に起きた、西条和夫の事件。
二人はその事件のことを、たった今回想し終えたところだ。
「誰がお人好しのカモだか‥」

亮は口元の血を拭いながら、皮肉るように嘲笑した。
淳は無言でそれを聞いている。

亮はもう一度、あの時仁に向かって言った自分の言葉を思い出した。
「おいおい、淳がどんなヤツかってのはよく知ってんだろ?
仁、お前の兄貴だから仲良くしてたってだけで、一緒に酒飲みに行くなんてー‥」

地面に手を付き、立ち上がりながら、目の前の淳を睨みながら言う。
「あん時、どうしてお前のことなんて庇ったんだろうな‥。
オレも同じように稚拙なやり方で潰されるって、気づくべきだったのに」

拭っても拭っても消えない傷。心の中にこびりついた毒。
その性質に気がついた今、淳のことを見過ごすことなどもう出来なかった。
「ダメージにつきまとうなだって?オレがダメージに迷惑ばっか掛けてるだって?」

「どうだか」

希望から絶望まで全てを知った左手が震える。
亮はぐっと拳を握り締め、淳に向かって言葉を続けた。
「オレもお前も、もうそんなこと突き詰める意味なんてねーだろ‥」

「お前だって、また問題を起こさねぇっつー保証は無ぇ」

そして亮は、最後にその真実を淳に突き付けた。
「お前の周りは、いつもそうだったじゃねーか」


彼の周りには深い溝があり、”線を超えた人間”は尽くその溝に落とされていった。
そして亮が懸念するのは、いつかその溝に雪も落とされるんではないかということー‥。
あれが、私達が共にテーブルを囲んだ、最初で最後の晩餐だった。


シンクに並ぶ、沢山の洗い物。
雪は少しウトウトしながら、夕食に使った食器を洗っている最中だった。

ふと携帯が震えたので、手袋を外して見てみると、メールが一通届いていた。
こんばんは、財務学会MST‥

雪は思わずうわっと声を上げた。
もしかしたら財務学会に受かったのかもしれないと、テンションが上がる。

するともう一度携帯が震えた。
見てみると、そこには先輩からのメールが一通届いていた。
ちょっと出てきてくれないか

たった一行のメッセージ。
先輩はとっくに家に帰ったはずなのに‥。雪は疑問符を浮かべて画面を凝視する。

決して入り込めない、私の知らない世界


駆け抜ける風で、落ち葉が舞った。
雪は夜道を疾走する。

タイマン勝負の果てに、亮は立ち去り、淳は公園で座り込む。


あの二人の間には何があっても埋まることのない、とても深い溝がある

だから皆で顔を揃えて集まったとしても

不可能は覆らないのだ。

最後のディナーショーが終わりを告げる。
決裂の結末は、決して覆ることは無かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<深い溝>でした。
最初で最後の晩餐‥。
意味深なモノローグですね。先が気になります。。
次回は<夜更けの治療>です。
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