晴れ上がった空のように・・

日常の出来事や読んだ本の紹介

切羽へ

2010年11月07日 | 
切羽へ   井上荒野 著

2008年直木賞受賞作です。

「切羽」とは、トンネル工事、または鉱石、石炭などを採掘する坑内作業の現場である・・

チリの落盤事故で坑内に取り残された作業員の救命作戦がニュースで盛り上がったのも、ついこの前でした。が、この小説はトンネル工事とは全く関係ありません。

しかし、この「切羽」の言葉の意味がキーワードとなっているに違いないなぁ、と思いながら読みました

舞台はある、小さな島です。方言からして北九州か、長崎あたり。昔、鉱山があったらしい。大河ドラマ「龍馬伝」盛んにでてくる長崎弁が耳に覚えがあるので、きっとそのあたりでしょう。

そこに小学校の養護教諭として働くセイと、画家で夫の陽介。同じく学校の先生で奔放な月江。身寄りのない老女しずかさん・・都会とはかけ離れたのどかな暮らしです。東京から石和という若い男性教師が赴任してきて・・セイは秘かに恋心を抱いてしまう。

帯のキャッチコピーからは、もっと激しい恋愛ものかと思いました。だって、冒頭、「明け方、夫に抱かれた。」ですもの・・こんなはじまり方をする小説は真理子さんかとおもった!でも、違った。物語はゆっくり流れる叙情歌のようにとても丁寧に繊細に心情が描かれていて、上質だな、と感じました。

最期まで石和の正体が全くわからなかったけど、それはまた読者の想像にお任せ、ってことなんだろうか?

しかし、島のどこへ行くにも徒歩か走るかで、間に合ってしまう。学校から近所の人たちの生活もまるで家族のような近い付き合いで・・現代の希薄な人間関係とはまるで違う世界です。ほのぼのとして暖かい暮らしぶりがいいですね。

セイさんは夫、陽介さんを愛していた。こよなく。
なのに、石和に会ったとたん、心を奪われてしまう。彼のほうでも気持ちをキャッチする。しかし、決して不倫ではありません。
だって誰にも告白しないんですから。もちろん手さえ触れない。でも、激しい恋情がセイさんを支配して、、その複雑な女心が上手く描かれています。とても濃密です

「切羽」までいく・・
トンネルを掘っていくいちばん先を切羽という。トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまう・・
セイと石和はまさにその「切羽」にいたんでしょう。失う寸前の。

そんな思い、大人のあなたなら一つや二つありませんか・・?^^

幸せな結末で読後感はさわやかでした。


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2 コメント

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 (airplane)
2010-11-07 22:23:45
心身ともに恋に陥る・・・
その方が苦しくないかも。

心だけ奪われ、自分ではどうしようもないときほど苦しい恋愛はないのではないでしょうか。
でも、これは不倫ではないのですか・・・

トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまう・・・・
でも、トンネルがつながり先へ進むと明るくなりますよ~~

恋する、愛を貫く・・・いつの世も難しい課題ですね
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甘美 (yuyupure)
2010-11-08 08:46:58
airplane さん、コメントありがとうございます!

この小説は読みようによってはとても甘美で魅惑で、哀しくもあり美しい物語だと思います・・
心の中の世界、拠り所がわかっていて、逃れることができないあきらめとかですね。何が善で何が悪か、ということではなくてその人の生き方の問題だと思います。

いつも読んでくださってありがとう^^
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