不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Gianfrnco Ferre e L'arte

2007-02-20 03:29:33 | アート・文化

イタリアを代表する一流ブランドに名を連ねるジャンフランコ・フェッレ
(Gianfranco Ferre)と世界の至宝を集めるウフィツィ美術館の関係。
フィレンツェのピッティ宮殿内にある「衣装博物館」に
自らのコレクションの一部を贈呈した経緯もある、
このデザイナーが今度はウフィツィ美術館の作品の修復に貢献。
重要修復リストの中にありながら
長年ウフィツィの保管庫に眠り続けた
ヨハン・カール・ロス(Johann Carl Loth)の
「アベルの死を嘆くアダム(Adamo piange Abele)」。
フェッレの経済支援により8400ユーロを投入して修復を完了し、
2007年2月よりウフィツィ美術館の常設作品となりました。

1670年に描かれたこのドイツ人画家の作品は
マニエリスムからカラヴァッジョ派の影響を多少なりとも受けたもので
闇の世界の中の光と影を巧妙に描き分けた大作。

Johann_carl

地上の楽園を追放されたアダムとイヴの間に生まれた
カインとアベル。
旧約聖書の中では対照的に前者が悪、後者が善として描かれ、
やがてはアベルがキリストに、
カインはユダにイメージを重ねられていきます。
兄弟間に起こった人類初のこの殺人事件は
禁断の実を食べて神の怒りに触れ、
楽園を追放され苦行を重ねることになった人類が
初めて善悪を決定するという象徴的なエピソードでもあります。

カインは農業に携わり、
アベルは牧畜業を生業として暮らしていました。
それぞれの仕事から生産される貢物を神の前に捧げるのですが
カインは一束の麦を、
アベルは群れの中で一番良質の子ヤギを選びます。
これを受けて神はアベルの捧げ物を受け取り、
カインの捧げ物を拒否します。
この神様の不公平さ加減が人類初の殺人事件の発端。
両方受け取ってあげればこんな悲劇は生まれなかったのかも?

この神の行為を不快に感じたカインは
「罪を犯してはならない」という神の戒告に耳を傾けず
弟を畑に連れ出し、
そこで弟の頭を鈍器で殴りつけて殺してしまいます。
神から尋問を受けたカインは何も知らないと嘘をつきますが
アベルの流した血が神に訴え、事実が明らかになり
神はカインを追放し永遠に放浪する罰を与えます。
永遠に放浪する罰を受けたカインは
いずれ自分は殺されるのではないかという不安に駆られますが
神は自らの手で殺すことはないのです。
そのことを諭しても気づけないカインは苦しみ続けるしかありません。
ただし、後にカインはその放浪する姿を
野生動物と勘違いした狩人によって
過って撃ち殺されてしまうのですが。

次男の死を知ったアダムとイヴは遺体に駆けつけ、
その死を嘆くのですが、
この修復が完了したばかりの
ヨハン・カール・ロス(Johann Carl Loth)の作品では
前面に額に傷を負い息絶えているアベルを描き、
その脇にうずくまるようにして
静かに死を悲しむアダムが描かれています。
背景には不安の叫びを上げながら逃げていくカインの姿が
わずかな光の中に対照的に描かれています。

この作品中の嘆くアダムは良いとして
息絶えて横たわるアベルの肉体が筋肉隆々で違和感。
聖書では「繊細な」少年として描かれているのに
マニエリスムを通すとこうなるのかと感心。
こんなに筋肉モリモリなのに
兄と取っ組みあいになって
反撃もせずに一撃で殺されてしまったとは想像しにくいのですけど。