不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il vaso greco trafugato

2009-07-14 07:23:56 | アート・文化

Eufronio(エウフロニオ:Euphronios)の壷と呼ばれる
古代ギリシャの陶製壷は
Cerveteri(チェルヴェテリ)近くの遺跡発掘現場から盗まれ、
美術品闇売買裏街道を突き走り、
やがてニューヨークのメトロポリタン美術館にたどり着きます。
30年以上にも亘り、かの地に展示されていましたが、
不法売買による展示であることを理由に
イタリアに晴れて戻ってきたのに、
誰の眼にも触れないところに展示されている
というのがアメリカ側の見解。

アメリカのジャーナリストは
ニューヨークにあったときは日々多くの人に鑑賞され
目玉商品としてスター的な扱いだったのにもかかわらず
イタリアに戻してからは寂れた人気のない美術館に
そっけなく展示されていると酷評していますが、
2008年1月に長い交渉の末
ようやく戻ることになったこの作品も含め
世界各地に散らばっていて祖国に戻ってきた
約70点の作品を集めた
特別展「Nostoi i capolavori ritrovati」で展示され
多くの人を魅了し、
そのあとはローマ市内のVilla Giuliaに常設されています。
確かにVilla Giuliaの美術館は
ヴァチカン美術館やウフィツィ美術館のような
訪問客数があるわけではありませんが
エトルリア時代の作品を中心に
良質の展示をしていることで定評のある美術館です。
実際には2008年以降
イタリア全体の美術館入場者数が減少傾向にあり
小さな美術館は特に入場者が少なかったりするので
ある意味寂れているのかもしれませんが、
決してぞんざいに扱われているわけではないのは明らかです。

紀元前515年に製作された壷は
高さ45,7センチメートル、直径55,1センチメートルで
Eufronioの特徴的な絵画で装飾されています。
正面部分にはトロイ戦争の一場面が描かれています。
Zeus(ゼウス)の息子でトロイ同盟の一員として闘った
英雄Sarpedonte(サルペドンテ)の死を題材にしたもの。
裏面には闘いの準備をする若者たちの姿が描かれています。

Cerveteriの発掘現場付近の墓から
不法に持ち出されたものといわれていますが
詳細は未だ明らかではなく、
現在も採掘場所の確定調査が行われています。
この作品の闇売買に関わったとされる
美術品取り扱い業を営むGiacomo Mediciは
美術品闇売買で逮捕され10年の刑を受けています。

1971年に持ち出された壷は
1972年には当時のメトロポリタン美術館館長の強い希望で
闇売買品であることを承知の上で
100万ドルで買い取られており
その直後からイタリア政府の返還交渉が始まり、
ようやく2008年に返還の運びとなりました。

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ローマ滞在中に時間があれば観ておきたい作品のひとつ。

Museo Nazionale Etrusco di Villa Giulia
Piazzale di Villa Giulia, 9(ボルゲーゼ公園の一角)
開館時間:8:30-19:30
休館日:月曜日
フィレンツェの国立考古学博物館内のエトルリア・コレクションと並び
世界的にも重要なエトルリア・コレクションを所有する美術館