電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

アレンスキー「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く

2022年02月23日 06時00分08秒 | -室内楽
有名な曲がお目当てでLPやCDを購入し、それがきっかけでカプリングされたもう一つの曲がお気に入りになることがあります。それがあまり知名度の高くない作品だった場合には、なんだか得をしたような気分になります(^o^)/ たとえば、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」がお目当てで購入したCDに併録されていたアレンスキーのピアノ三重奏曲第1番ニ短調のように。「アレンスキー? 知りません」から始まって、「うん、いい曲じゃないか」となり、ちょいと憂鬱な気分のときに妙に聴きたくなります。

1861年生まれのアレンスキーは、1840年生まれのチャイコフスキーよりも21歳下の世代にあたるロシアの作曲家です。Wikipedia(*1) および「日本アレンスキー協会」のサイト(*2)によれば、富裕な家庭に生まれて幼児期から音楽に親しみ、ペテルブルグ音楽院でリムスキー=コルサコフに師事し、21歳で卒業した後はモスクワ音楽院で作曲法の講師、6年後に教授となりますが、年齢の近い学生たちに作曲を教えるというのは難しい面があるのか、教育者としてはいささか問題があったようです。34歳で教職を辞し、サンクトペテルブルグの宮廷礼拝堂の楽長に就任、1901年までピアニスト、指揮者として多忙な生活を送りますが、生活はかなり荒れていたようで、飲酒やギャンブル癖があり、1906年に結核で病死しています。ムソルグスキーとはまた違ったタイプの破綻型かも。

ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.32 は、教職を辞める前年の1894年(33歳)に、友人であったカルル・ダヴィドフというチェリストの追悼のために作曲されたものだそうです。
第1楽章:アレグロ・モデラート。ピアノに続くヴァイオリンの第1主題、チェロの第2主題、いずれも哀調を帯びた旋律で、友人の追悼のために作曲されたという由来を知ると、納得します。
第2楽章:アレグロ・モルト。弦楽器はスピッカートやピツィカートで軽やかな感じを出し、ピアノが活躍するスケルツォ楽章です。
第3楽章:アダージョ。チェロが奏でる旋律、そしてピアノも美しい。大げさな身振りで嘆き悲しむのではなく、静かに優しく追悼するという風情の悲歌です。
第4楽章:アレグロ・ノン・トロッポ。活発に動きながらヴァイオリン、チェロ、ピアノ、それぞれの持ち味を発揮しますが、明るく解決されるのではなく最後まで追悼の気分を保ちながら終結するフィナーレです。

時代を越えて高い評価を受け続ける、ベートーヴェンの「エロイカ」のような偉大なる名作群の中にはおそらく入らないのでしょうが、世紀末ロシアの混沌の中で生きた音楽家が残した証のような音楽。革命的な作品ではないかもしれないけれど、魅力あるこういう音楽も、いいものだと思います。ふだん私が聴いているのは、ヴォフカ・アシュケナージ(Pf)、リチャード・スタンパー(Vn)、クリスティーン・ジャクソン(Vc)によるナクソス盤です。

■ナクソス盤 8.550467
I=9'46" II=6'30" III=7'01" IV=6'15" total=29'32"

YouTube にもありました。ズーカーマン・トリオによる2019年の演奏。
Zukerman Trio: Anton Arensky Piano Trio in D minor, Op. 32


もう一つ、YouTube で見つけました。アレンスキーのピアノ協奏曲。Arnold Kaplan のピアノ、ボリス・ハイキン指揮モスクワ・フィルハーモニックの演奏、1962年。
Arnold Kaplan plays Arensky Piano Concerto in F minor, op. 2


(*1): アントン・ステパノヴィッチ・アレンスキー〜Wikipedia の解説
(*2): 日本アレンスキー協会:アレンスキーの生涯

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