映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゴヤの名画と優しい泥棒

2024年06月11日 | 映画(か行)

志の高いドロボウ・・・

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1961年に実際に起こったゴヤの名画盗難事件をもとにしています。
おまけにその知られざる秘話も・・・。

1961年、ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれました。
犯人はタクシー運転手、ケンプトン・バントン60歳。
妻と息子との年金暮らし。

ケンプトンは、テレビで孤独を紛らわしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、
盗んだ絵画の身代金で、公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようとしたのです。
が、事件にはもう一つの真相が・・・。

NHKの受信料を巡る攻防戦を知る私たちにとっても、切実な問題でありましょう。
公共放送(BBC)の受信料とは!

ケンプトンはかねてからこの受信料問題を考えていたのです。
せめて高齢者は無料で見ることができないものか、と。

そうした思惑が根底となっているために、単なる絵画の窃盗とは違って、
人々の賛同や同情を集めたわけですね。
しかも最終的には本人が絵画を美術館に持参して返したという・・・。

この裁判の結末も、あっぱれというか、なかなか感動的ではあります。

こんなことがあったためかどうか、後にBBCの受信料について、
高齢者は免除されるようになったのだとか。
え~っ。
NHKもそうしてほしい・・・。

<Amazon prime videoにて>

「ゴヤの名画と優しい泥棒」

2020年/イギリス/95分

監督:ロジャー・ミッシェル

出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、マシュー・グード

 

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆


碁盤斬り

2024年06月04日 | 映画(か行)

武士って生きにくい・・・

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白石和彌監督、初の時代劇。
古典落語「柳田格之進」をもとにしています。

身に覚えのない罪を着せられた上に妻も失い、
故郷彦根藩を追われた浪人・柳田格之進(草なぎ剛)。
娘・お絹(清原果耶)とともに江戸の貧乏長屋で暮らしています。
実直な格之進は囲碁が得意で、その人柄を表わすように、嘘偽りのない勝負を心がけています。
そんなことがきっかけで格之進は、江戸の大店・萬屋の主(國村隼)と知り合い、
親交を深めていきます。

そんなところへ、旧知の藩士からかつての彦根での冤罪事件の真相を知らされ、
格之進は復讐を決意。

ところがそんな中、萬屋で大金の紛失事件が発生。
その時に居合わせた格之進に疑いがかかりますが・・・。

武士たるもの、常に清廉潔白でなければならない。
あらぬ疑いをかけられることこそが恥。
それは命をかけても晴らさなければならないこと。
そうした思想がバックボーンとなっているわけです。
そんなストイックな有り様が、草なぎ剛さんに合うんだなあ・・・。

ネタばらしになってしまうかもですが、
萬屋でお金を盗んだと疑いをかけられた格之進は、思わず切腹しようとしますが、
そこは娘・お絹がかろうじて引き留め、
それならばと自分から遊郭に身を売ってお金を作り、
そのお金を萬屋に渡すようにと言うのです。

そんなことをすればかえって自分の盗みを認めるようなモノなのでは?
と思ってしまうのですが・・・。
なんとしてもいざこざの中心に自分がいることに耐えられないということなのか。
それでも、自分は盗みなど働いていない、いつかきっと疑いを晴らす、
その時には番頭と主の首をいただく、と言い捨て、姿を消す格之進。

いやいや、格之進の覚悟もさることながら
武家の娘、お絹さんの決断がまたすごすぎます・・・。

ともあれ、なんとも武家だの武士だのは生きにくい。
こんなに肩肘張って生きなければならないのは本当に、つらそう・・・。

 

ところで「碁盤斬り」の題名の意味は、最後に分ります。
ウソ!!と思います。

そうそう、齊藤工さんの武士姿というのもなかなかイケてた。
敵役ですが。

 

<シネマフロンティアにて>

「碁盤斬り」

2024年/日本/129分

監督:白石和彌

脚本:加藤正人

出演:草なぎ剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢磨、齊藤工、國村隼、小泉今日子

 

ストイック度★★★★★

ハラハラ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


神さま聞いてる? これが私の生きる道?!

2024年05月24日 | 映画(か行)

どの神さまに言ってる?

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1970年に発表された小説「神さま、わたしがマーガレットです」の映画化。

 

ニューヨークで暮らす11歳少女、マーガレット(アビー・ライダー・フォートソン)。
父の仕事の都合でニュージャージーへ引っ越します。
そこで出会った友人たちと、恋や生理などについて話す、秘密の女子会を結成。
そしてまた、ユダヤ教徒の父とキリスト教徒の母の間に生まれた彼女は、
自身の信仰する宗教についても考えるようになっていきます。

マーガレットは作中で12歳を迎える、日本で言えば小学校6年生の女の子。
生まれ育ったニューヨークからニュージャージーに引っ越すのは、
すごくイヤだったのですが、すぐに親しい友人ができました。
特にナンシーは、ほぼ強引に女の子4人の秘密の会を作り、
好きな男の子の話とか、まだ体験していない生理のこと、
ブラジャーのことなど、ここだけの秘密の話を打ち明け合います。

女の子が大人になるための道のり。
期待、戸惑い、不安、リアルに丁寧に描かれています。
そして本作はそのことだけにとどまらず、
宗教のことに触れているのが特筆すべき所。

マーガレットの父の家はユダヤ教徒。
母の家はキリスト教徒。
母の両親は娘がユダヤ教徒と結婚することに大反対し、
母は、親との縁を切る形で結婚したのでした。

そのような事があったため、マーガレットの両親は家で宗教の話をしないようにし、
そしてクリスマスなどの宗教的行事もせず、
マーガレットが大人になってから自分の信仰を決めれば良い、としたのです。
そういう所は徹底しています。
クリスマスが近づき、近所の家がイルミネーションでキラキラしてきても、
この家にはそういうモノが全くない。

さて、そんなマーガレットは、いつも「神さま、聞いてる?」というように、
心の中で「神さま」に疑問や悩みを語りかけるのです。

では彼女が語りかける、「神さま」とは何者なのか?
これ、欧米の方なら奇異に感じるのかも知れません。
でも、日本人ならぜんぜん疑問にも感じない。
よくあることですよね。

どこのどんな方かは存じないけれど、
でもどこか人知を越えた彼方(あるいはすぐそば)に「神さま」がいて、
私たちの動向をうかがっている・・・と、そのような感覚。
無宗教として育てられたマーガレットが、
妙に日本人っぽくなっているというのが実に興味深い。

でも日本人のすごいところは、特別に信仰していない宗教行事も、
なんのハードルも感じずにスンナリ受け入れて、
クリスマスを祝い、神社にお参りし、お経をありがたがるというところ。
いっそ世界中がこうなら、世の中もう少し平和になるのでは?などと思ったりします。

ともあれ、女の子の成長を描くステキな作品でした。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「神さま聞いてる? これが私の生きる道?!」

2023年/アメリカ/106分

監督・脚本:ケリー・フレモン・クレイグ

原作:ジュデュ・ブルーム

出演:アビー・ライダー・フォートソン、レイチェル・マクアダムス、
   ベニー・サフディ、キャシー・ベイツ、エル・グレアム

女子の秘密度★★★★☆

宗教考察度★★★★☆

満足度★★★★.5


彼女のいない部屋

2024年05月10日 | 映画(か行)

彼女がいないのではなくて・・・?

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本作、本国フランスでの劇場公開前に明かされたストーリーは
「家出をした女性の物語のようだ」という一文のみだそうで・・・。
マチュー・アマルリック監督・脚本のちょっと謎めいた作品です。

主人公は一家の主婦らしき女性クラリス。
夫とピアノが好きな娘、やんちゃ盛りの息子の4人家族。

冒頭で、早朝なぜかクラリスがそっと家を出ていくシーン。
どうやら家出らしいのですが。

その後、夫・娘・息子が残されて暮らす様子が描かれていきます。

しかし時系列は必ずしも一直線ではなく、クラリスを軸にしながらも
一見すると1シーン1シーンがバラバラのピースとなってつなぎ合わされている感じ。

その全体像が次第に露わになり、私たちはある真実にたどり着くのです。

うーむ、ネタばらしを避けようとすると、
何も言えないというやっかいな作品であります。

あえて言うとすれば、これはクラリスの心の物語ということでしょうか。

せつないなあ・・・。

<Amazon prime videoにて>

「彼女のいない部屋」

2021年/フランス/97分

監督・脚本:マチュー・アマルリック

出演:ビッキー・クリープス、アリエ・ワルトアルテ、アンヌ=ソフィポーエン=シャテ、サシャ・アルディリ

 

ジグソーパズル風度★★★★☆

満足度★★★★☆


グリーンランド 地球最後の2日間

2024年05月03日 | 映画(か行)

誰もが自分だけが助かりたい

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ある時、突如地球近辺に現れた彗星の破片が隕石となり、地球に降り注ぎ始めます。
さらなる巨大隕石による世界崩壊まで、残り48時間。

政府に選ばれたごく一部の人々の避難が開始されます。
建築技師の能力を見込まれたジョン・ギャリティ(ジェラルド・バトラー)は、
妻のアリソン、息子ネイサンとともに避難所を目指す輸送機のある空港へ向けて出発します。
ところが、ネイサンの持病により受け入れを拒否され、
おまけに空港の大混乱の中、家族離ればなれになってしまいます。

人々がパニックに陥り、無法地帯と化した町。
果たして彼ら家族は無事避難シェルターまでたどり着くことができるのか?

かつて恐竜の絶滅を招いたとされる隕石よりも、
さらに大きな隕石という設定になっています。
その前触れであるさほど大きくはない隕石落下の衝撃波だけでも、
大きな都市が壊滅するという・・・。

ギャリティ家の3人は、政府からの避難通知をテレビ画面で受信しますが、
その時、調度ホームパーティを開いていて、近所の人々が大勢集まっている。
そんな中彼らだけが避難対象となったことで、大騒ぎになってしまいます。
そりゃ、できればそっと密かに出発したかったですよね・・・。

こんな感じで本来秘密のはずの避難情報が多くの人の知るところとなり、
軍の空港へ向かう道は大渋滞だし、入り口でも大混乱。
資格を得ていない人もなんとか避難させてもらおうと必死なのです。

ということで、本作は地球に隕石が降り注ぐということよりも
それによる人々のパニックを描く作品なのでした。
こうしたときに人間性が露骨に表れるものですよねえ。

でもどうにも始めから、この選ばれた家族が、自分たちが助かるためにだけ必死になればなるほど、
なんだか見ている方は冷めてしまうという・・・
どうにも割り切れないものが残りました。

 

避難所は世界中に何カ所かあるのですが、
この地区の人はグリーンランドの地下にある巨大シェルターに避難することになります。
人選は極秘裏に政府によって行われたようで、
医師とか技術者とか、新しい社会を築くのに必要な人材とその家族・・・。

このような選別もちょっと疑問が湧きます。
ここでネイサンが病ではじかれてしまったように、
病がある者や、おそらく障がい者は始めから除かれているでしょう。
必要な人とそうでない人など区別があって良いものなのか。

そして結局この家族は、規定外のネイサンを引き連れて
強引にグリーンランドまでたどり着いてしまうわけで・・・。
自分たちが助かるためには、他の人を排除したりもします。
(あちらから襲ってきたのではありますが)

自分だけが・・・というこの意識。
自己犠牲を美しいものととらえる日本人にはちょっと受け入れがたいと思う・・・。

そんなわけで「なんだかなあ・・・」と思ってしまう作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「グリーンランド 地球最後の二日間」

2020年/アメリカ/119分

監督:リック・ローマン・ウォー

出演:ジェラルド・バトラー、モリーナ・ガッカリン、デビッド・デンマン、
   ホープ・デイビス、スコット・グレン

危機感度★★★★☆

満足度★★☆☆☆


キングダム 運命の炎

2024年04月20日 | 映画(か行)

飛信隊

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「キングダム」シリーズ第3作。

魏との戦いで勝利を収めた秦。
本作では次に秦に積年の恨みを持つ隣国・趙の軍隊が攻め込んできます。
エイセイは、長らく戦場から離れていた伝説の大将軍・オウキを総大将に任命。

そして、100人の兵士を率いる隊長となったシンは、
オウキから「飛信隊」という部隊名を授かり、
オウキ直属の特別部隊として動くことになります。

兵力に於いては不利な秦軍。
果たしてオウキは飛信隊にどんな役割を命ずるのか・・・?

作中でエイセイは、自分が「中華統一」を成し遂げたいと思った理由をオウキに語ります。
それは、かつての恩人・紫夏との記憶・・・。

第一作は、秦の内乱の話。

第二作で、魏との戦い。

そして本作、第3作で趙との戦いになりますが、
しかし趙との戦いは本作だけでは終わらない。
趙軍には3人の勇猛な将がいるのですが、本作で倒れたのは1人のみ。
いやいや、そうしてみただけでも、全編がどれだけ長いのかと思ってしまいます。
さすが、壮大な物語・・・。

登場人物もビッグなタレントを起用しつつ、どんどん増えていきます。
原作を読んでいないので分らないのですが、
映画としてはどこまで続くのやら・・・?

この続きの第4作は間もなく7月に公開予定ですが、
それは劇場に見に行ってもいいかな?と思っております。

<WOWOW視聴にて>

「キングダム 運命の炎」

2023年/日本/129分

監督:佐藤信介

原作:原泰久

出演:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、山田裕貴、
   片岡愛之助、玉木宏、大沢たかお、萩原利久、山本耕史

 

壮大さ★★★★☆

満足度★★★★☆


キングダム2 遥かなる大地へ

2024年04月19日 | 映画(か行)

魏との戦闘

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映画版の「キングダム」はシリーズ第一作を見たきり、
その後はみていなかったのですが、
別に面白くないと思っていたわけでもなく、
この度、第3作目まで続けて放映していたので、
せっかくだから見てみようと思った次第。
ちなみに、ストーリーをほとんど忘れていたので、第一作も見直しました。

ご参考までに → 第一作「キングダム」

 

紀元前、春秋戦国時代の秦。

第一作は、弟のクーデターにより王座を追われた若き王・エイセイと
運命的出会いをしたシンが、
テンや山の王と協力しながらエイセイの王座奪還に成功するというストーリーでした。
しかしこれは長い物語のほんの始まりにしか過ぎません。
まだ秦国内部の話ですしね。

ということで本作は、その半年後。
隣国・魏が秦への侵攻を開始。
いよいよ他国との戦いが始まります。

蛇甘(だかん)平原で戦闘が繰り広げられますが、
シンは歩兵として戦場へ赴きます。

しかし敵は圧倒的多数。
シンのいる歩兵部隊は厳しい状況にさらされます・・・。

秦軍を率いるのがヒョウコウ(豊川悦司)ですが、
始めは全くやる気のない無能な将軍(?)のように見えていましたが、
すべて読み込み済みの名将軍であったという・・・。
そりゃトヨエツですからそんなおバカの役はないですよね。
が、それにしても時には多くの兵を見殺し同然、
使い捨てのようにせざるを得ないこともあり、
戦略というのは非情なモノであります・・・。
これが戦争というものですね・・・。

シンはここでキョウカイという新たな心強い仲間も得ます。
キョウカイの悲しい身の上も本作の見所の一つ。

シンは国王・エイセイの信頼を得ながらも、まずは無名の歩兵からの第一歩。
きっとここから上り詰めていくのでしょう。

第3作へ、GO!

<WOWOW視聴にて>

「キングダム2 遥かなる大地へ」

2022年/日本/134分

監督:佐藤信介

原作:原泰久

出演:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、

   三浦貴大、豊川悦司、大沢たかお

 

満足度★★★★☆


交換ウソ日記

2024年04月13日 | 映画(か行)

言わなきゃならないけど、言えない

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高校生男女の胸キュン青春ラブコメ。

なんというか、私にとってこういう作品はスウィーツみたいなもので、
毎日じゃなくてもいい、時々食べてhappyになりたいと、そういう感じです。
若きイケメンくんを見るのは好きだし・・・。

高校2年、黒田希美(桜田ひより)は、移動教室の机の中に
「好きだ」と描かれた手紙が入っているのを見つけます。
送り主は、学校一の人気者、瀬戸山くん(高橋文哉)。
希美はおそるおそる返事を彼の靴箱に入れます。
そして2人は互いのことを知るために秘密の交換日記を始めることに。
ところが実は、瀬戸山からの手紙は、希美の親友・松本江里乃へあてたものだったのです。

希美はそのことに気がついたものの、今さら瀬戸山には言い出せなくなってしまいました。
そしてまた、当の江里乃にも、言うことができません。
後ろめたさを感じながらも、江里乃のフリをして交換日記を書き続ける希美。
瀬戸山とは、江里乃の親友という立場で直接会って話すことも多く、
そんなうちに、瀬戸山にどんどん惹かれるようになっていきます・・・。

希美は積極的に自分の意見を言うような子ではなくて、
いつも誰かの後ろにいて、「私はどっちでもいい」などというのが常。
自分に自信がなくて引っ込み思案。
そしてそんな自分にコンプレックスを持っています。

でもある時、瀬戸山は言うのです。
「黒田さんは自己主張しないけど、何かいつもみんなを良い方に向けてくれる」と。
そんなところに気がついてくれる、瀬戸山くんは、イイ奴だなあ・・・♡

周囲の子たちも、それぞれ人のことを考えられる良いヤツ。
やっぱスイーツでしょ、こういうドラマ。
好きです。

<WOWOW視聴にて>

「交換ウソ日記」

2023年/日本/110分

監督:竹村謙太郎

原作:櫻いいよ

脚本:吉川菜美

出演:高橋文哉、桜田ひより、茅島みずき、曽田陵介、齊藤なぎさ、板垣瑞生

 

青春度★★★★☆

逡巡度★★★★★

満足度★★★.5


恋は光

2024年03月25日 | 映画(か行)

光っているのは本当に「恋」なのか

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秋★枝の同名コミック実写映画化。

「恋をする女性が光って見える」という特異体質の大学生・西条(神尾楓珠)。
自身は恋愛とは無縁の生活をしています。
ある日、「恋というものを知りたい」という文学少女・東雲(しののめ)(平祐奈)と出会い、一目惚れ。
二人は、恋の定義について語り合う交換日記を始めます。

一方、西条にずっと片想いをしてきた幼馴染みの北代(西野七瀬)は、
そんな二人のことが気になってしまいます。

そしてまた、彼女がいる男性ばかりを好きになってしまう宿木(やどりぎ)(馬場ふみか)は、
西条を北代のカレシと思い込み、西条へアプローチを始めます・・・。

恋をしている女性が光を発している・・・
キラキラと光の雫がこぼれ落ちるような・・・
確かに美しくてまばゆい映像。
そんなものが見えてもどうにもならない・・・と、西条は思っています。
さてところが、西条は幼馴染みの北代が光っているのを見たことがないというのです。

ずっと西条にひそかに思いを寄せている北代にとってその言葉はショック。
私の西条に向ける思いは「恋」ではないというのか・・・? 
それともハナから対象の相手という認識すらないからなのか・・・? 
いつも愚痴を言ったり聞いたり、気兼ねなく話をすることのできる相手
という互いの認識とは裏腹に、どうも恋に発展することはなさそう・・・。

 

そんなだから北代は、西条がめずらしく東雲という女子に興味を持っていることを知って、
つい応援してしまうのです。
いじらしいぞ、北代。

さて、西条という男はちょっと変わっていて、話し言葉が文語調で理屈っぽい。
まるで森見登美彦さんの小説の登場人物のよう。
そして、彼が思いを向ける東雲さんというのもまた、西条と似ていて、理屈好き。
だから、「恋の定義」などというめんどくさそうなテーマで、
盛り上がって論議できるのです。

似たもの同士で良いカップルのようにも思えますが、
必ずしも自分と似た相手がよいとも限らないわけで・・・。

東雲さんもまた、聡明な子なので、
自分と西条のことだけでなく、北代との関係についても考えを巡らせることができるのが良いです。

それで、結局西条が見る「光」とは何なのかという問題になっていくのですが・・・。

私は思うのです。
西条は「恋」を光で見ることができるけれど、「愛」は見えていないのではないかと・・・。
例えば何十年も連れ添った夫婦の女性側を見てみる。
おそらく恋の光は見えないでしょう。
だってそこにある感情は「恋」ではなくて「愛」だから。

だから北代が幼い頃から育ててきた西条への感情は、
もはや恋ではなくて愛なのでは・・・?と。
映画の結論はこうではないのですけれど・・・。

 

そもそも、本作中で西条が見るのは若い女の子の光ばかり。
オバサンだって、婆さんだって、恋ぐらいするぞ!!

 

<Amazon prime videoにて>

「恋は光」

2022年/日本/111分

監督・脚本:小林啓一

原作:秋★枝

出演:神尾楓珠、西野七瀬、平祐奈、馬場ふみか、伊東蒼

 

変人男子度★★★★☆

片想い度★★★★☆

満足度★★★☆☆


コンペティション

2024年03月06日 | 映画(か行)

監督と俳優、三つ巴の競合

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大富豪の実業家が、自身のイメージアップを図るため、
一流の映画監督と俳優を起用した、傑作映画を制作しようと思いつきます。

そこで白羽の矢が立ったのは、変わり者の天才監督、ローラ(ペネロペ・クルス)、
世界的スター、フェリックス(アントニオ・バンデラス)、
老練な舞台俳優、イバン(オスカル・マルティネス)。
ベストセラー小説の映画化に挑みます。

本作は主にこの3人の練習風景をとらえています。

奇想天外な演出論を振りかざす監督。
そして各々独自の演技法を貫こうとする俳優たちがぶつかり合います。
映画のストーリーは、2人の兄弟が対立し合うというもので、
まさにライバル関係である2人の俳優が互いを出し抜こうと必死。
いえ、時にはキスの演技を監督も含めて3人で競い合ったりする・・・。

ということで、劇中劇、「演技をしている演技」が重要となる本作。
さすがの名優揃いで楽しませてもらいました。

ペネロペ・クルスが映画監督役というのも極めて意表を突く感じなのですが、
名うての変人監督ということで、これもまた悪くないのです。

そしてまた、終盤は思いも寄らない展開となりまして、ビックリさせられました。
コメディっぽい作品ながら、ちょっとブラックでもあります。

映画界で生きてきた彼、彼女ら自身にも楽しい作品だったのではないでしょうか。

<Amazon prime videoにて>

「コンペティション」

2021年/スペイン・アルゼンチン/114分

監督:ガストン・ドゥプラット、アリアノ・コーン

出演:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス、ホセ・ルヌス・ゴメス

 

競合度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


コットンテール

2024年03月05日 | 映画(か行)

かみ合わない、父と息子

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兼三郎(リリー・フランキー)は、妻・明子(木村多江)の葬儀で
しばらく疎遠となっていたひとり息子・トシ(錦戸亮)と
その妻さつき(高梨臨)、孫のエミに久しぶりに会います。

明子が残していた手紙に、明子が子どもの頃好きだった「ピーターラビット」の発祥地、
イギリスのウィンダミア湖に散骨してほしいとありました。
明子の願いを叶えるため、兼三郎とトシ一家は、
イギリス北部、湖水地方のウィンダミア湖へ向かいます。

父と息子の確執・・・。
よくあるテーマですが、本作でも、兼三郎とトシはどうも折り合いが悪く、
2人の間を取り持つのはいつも明子だったのでしょう。
父は息子にどのような言葉をかけて良いのかわからず、
息子は父を敬い近づきたい思いはあるのに、
いつも拒絶されているように思い、気安く話せない。

 

明子は認知症で、最後にはほとんどわけがわからなくなっていて、
下の世話も兼三郎が行うようになっていたのです。
兼三郎はそんな明子の姿を、息子やその家族には見せたくないと思うのですが、
それがまた、息子は遠ざけられていると感じてしまう・・・。

 

そんなわけで、葬儀の時の対面は父子関係も最悪になっていたのですが・・・。

でも、兼三郎は息子家族とともにイギリスへ向かいます。
本当は1人の方が気楽で良かったのでしょうけれど、
トシにとってはたった1人の大事な母のことでもありますし。

しかし、イギリスに到着してもギクシャクしたまま口論が起きて、
兼三郎は先に1人で列車に乗って出発するのですが、
誤って逆方向へ向かってしまい、1人迷子になってしまうのです。

どうするのこれ・・・、とハラハラしながら見て行きましたが、
結局どんなにギクシャクしても家族は家族。
楽しかった頃の同じ気持ちは持っていて、大事だった人の思い出もたくさん。
湖水地方の穏やかな風景のなかで、ほんの少しずづわだかまりも解けていくのかも知れません。

ちなみにコットンテールは、「ピーターラビット」の作中に出てくるウサギの名前ですね。
実は私も、湖水地方には憧れていて、
散骨してほしいとまでは思わないけれど、行ってみたい場所ではあります。

<シネマフロンティアにて>

「コットンテール」

2023年/イギリス・日本/94分

監督・脚本:パトリック・ディキンソン

出演:リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨、キアラン・ハインズ、イーファ・ハインズ

 

父子の相克度★★★★☆

満足度★★★.5


金の国 水の国

2024年02月28日 | 映画(か行)

互いの国の命運を背負う、嫁と婿

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2017年「この漫画がスゴイ!」第一位となった同名コミックのアニメ映画化。

 

商業国家で、水以外は何でも手に入る金の国。
豊かな水と緑に恵まれているが、貧しい水の国。
隣国同士ですが、長年いがみ合い戦争を繰り返しています。
そのためある時、互いに嫁と婿を贈り合うという友好策が取り決められ、
続けられていましたが・・・。

さてそんな中、金の国のおっとり王女サーラと、水の国のお調子もの建築士ナランバヤルが
不思議な縁で出会い、偽りの夫婦を演じなければならなくなります。 
けれど二人は気づかぬうちに互いに惹かれ合う・・・。

この度サーラの元に贈られた婿は犬で、
ナランバヤルの元に贈られた嫁が猫だったのです!
双方の王はよほど相手国が好きではないらしい・・・。

サーラもナランバヤルも聡明なので、このことで騒ぎ立てればきっと戦争になってしまうと思い、
秘密にするのです。
でも周囲の人々に知られてしまうのも危険。
国境付近で出会った二人は、互いに贈られてきた嫁と婿のふりをすることにしたわけですね。

始めからこの二人が政略結婚させられるという設定でないところが、
なんともナイスなのです。
犬と猫が贈られてきたというところも、意表を突いていてつい笑ってしまいました。
つまりはやはり、原作がいいのです。
「この漫画がスゴイ!」1位も納得です。

そして物語は、この二人のラブストーリーだけではなく、
金の国の王家内のいざこざや、
両国の和解への道を図ろうとするストーリーもしっかり描かれていて
実に見応えのあるものになっているのです。

サーラの姉・レオポルディーネはただ意地悪な長女かと思えば、
しっかりと国の将来を憂う聡明な女性だし、
その愛人もイケメンだけが取り柄の役者かと思えば、
これもまた知的なレオポルディーネの援助者。
その元で働く工作員らしき人々もまた魅力たっぷり。

なんとも見所満載、楽しめる作品でした。
オススメです。

<Amazon prime videoにて>

「金の国 水の国」

2023年/日本/117分

監督:渡邉こと乃

原作:岩本ナオ

脚本:坪田文

出演(声):賀来賢人、浜辺美波、神谷浩史、沢城みゆき、戸田恵子

 

戦争を考える度★★★★☆

ロマンス度★★★★☆

満足度★★★★★


コンパートメント No.6

2024年02月27日 | 映画(か行)

同じ客室に乗り合わせた2人

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1990年代モスクワ。

フィンランドからの留学生ラウラは、恋人と一緒に
最北端駅ムルマンスクのペトログリフ(古代の岩面彫刻)を見に行く予定でした。
しかし恋人は仕事のためにドタキャン。
やむなく一人で出発します。

寝台列車の6号客室に乗り合わせたのは、ロシア人炭鉱労働者のリョーハ。
ラウラは彼の粗野な言動や失礼な態度にウンザリ・・・。
しかし長い旅の中で、2人は互いの不器用なやさしさや魅力に気づいていきます。

言語や習慣、文化が全く違う二人。
始めのうち反発するのは仕方のないことかも知れません。
とくにラウラはせっかくの恋人(実は女性)との旅がダメになり、
淋しくて落ち込んでいるところに
この、ロマンのかけらもなさそうな粗野な男と同室となり怒りさえ覚えます。

それでも、いやでも顔をつきあわせていなくてはならないこの環境。
次第にその人のことが見えてきますね。

結局は人と人。
わかり合い共感し会うことは、そう難しくはない。
車掌の女性も、始めはつっけんどんで冷淡なように見えたのですが、
終盤ではそっとラウラを気遣う様子も見せて良い感じになっています。

同じ列車に乗り合わせる、いわば運命共同体。
そんな中で育っていく連帯感のようなものもあるのでしょう。

ステキなロードムービーでした。

<Amazon prime videoにて>

「コンパートメント No.6」

2021年/フィンランド・ロシア・エストニア・ドイツ/107分

監督:ユホ・クオスマネン

原作;ロサ・リクソム

出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ、ユリア・アウグ

 

最悪の出会い度★★★★☆

友愛度★★★☆☆

満足度★★★★☆

 


孤児院

2024年02月20日 | 映画(か行)

孤児は金儲けの道具・・・?

* * * * * * * * * * * *

1900年初頭。
孤児院で1人の少年・ガストンが死亡します。
院長への反抗のため倉庫に1人隔離された上、肺炎をこじらせ、
なんの治療もされず、放置されたまま亡くなったのです。

ガストンはシングルマザーの母親が住む家を探すまでほんの数週間だけ、
ということでここに預けられていたのです。

そして孤児院の院長は、国から孤児を受け入れ、補助金を着服していたのでした。
しかし孤児には教育も受けさせず、近所の農園で働かせ、
粗末な衣服を着せ、ろくな食べ物を与えない・・・。
反抗すれば酷い体罰。

全く言語道断な場所。
少年たちは、他に行く当てもなく、反抗すれば体罰を受けることになるので
ただ耐えていたのですが、ガストンは視察に来た役人に思い切って真実を告げようとします。
でも結局そのことが彼の命取りとなってしまったのでした・・・。

院長らは、ガストンを保健室に入れたけれど、
手の施しようがなく亡くなったと事実を隠蔽します。
それが嘘だと知ったガストンの母親は若手検事ガイドンの力を得て、
裁判へ持ち込もうとしますが・・・。

 

 

私、見終わってからこれが実話に基づいていると知って驚いてしまいました。
いいえ、でもいかにもありそうな話ではあります。

とにかく権力者、金持ちの言動を人々はまず信じて、
他の取るに足らない人々のことばは、信じようとしない。
もし、うすうす感じたとしても、たいしたことはないと目をつぶってしまう。

現在わたし達の身の回りで起きている多くのことも、これに近いかも知れません。
性加害のこと。
政治家の裏金のこと。
児童虐待のこと・・・。

この真実を表に引き出すための労力がまた、ハンパなものではないのです。
権力者はあらゆる手を使って、告発者を潰そうとします。
脅したり、他から圧力をかけたり、妨害行為をしたり・・・。
自らは金に任せて有能な弁護士を雇ったりもする・・・。

正しく物事を見極める眼と耳と心がほしいですね。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「孤児院」
2018年/フランス/96分

監督:フィリップ・ニアン

出演:ジュリー・フェリエ、ブルーノ・デブラッド、テオ・フリル、エミリー・ドゥ・プレザック

 

児童虐待度★★★★★

悪辣度★★★★☆

満足度★★★.5

 


CLOSE クロース

2024年02月14日 | 映画(か行)

心とは裏腹な態度で

* * * * * * * * * * * *

BLもの・・・?と思ってみていくと、
思いのほか切なく悲しい、涙・涙の物語・・・。

13歳のレオとレミは幼馴染みで、学校でも放課後も一緒に時間を過ごす大親友。
ある時、2人の親密すぎる間柄をクラスメイトにからかわれてしまいます。
そのことが非常に気になってしまい、
レオはレミに素っ気ない態度を取るようになります。
そして急にアイスホッケーのチームに入ったり、
別の友人たちと過ごすことも増えてきます。
急におきざりにされたような気になってしまうレミ。

気まずい雰囲気の中、2人は些細なことで大げんかとなってしまい・・・。

幼い頃から昼も夜も共に過ごす、レオとレミはほとんど一心同体なんですね。
ところがクラスメイトに2人は付き合っているの?と聞かれたことで、
レオは激しく動揺してしまうのです。
その場では強く否定。
でも実は自分の本当の気持ちを言い当てられたような気がしたのかも知れません。
けれどもそんな気持ちを、周囲の人々はもちろんですが、レミにも知られたくはない。
だからとにかくレミから遠ざかって、
そんな気持ちをなかったことにしてしまいたかったのでしょう。

でも、彼の過ちは肝心のレミの気持ちを考えていなかったこと。
レミは音楽を愛する繊細な子で、
レオといつも共にいたいという気持ちを別に悪いことだとも思っていなかった。

それだから、急に何も言わずに自分から遠ざかっていくレオのことがわからない。
ただ嫌われた、放り出された、と感じてしまっているのです。

だから、悲劇は起きます。

なんて悲しい気持ちの行き違い。
自分のねじれた態度が原因で起こった悲劇のことを、
レオは誰にも打ち明けられずにいて、
1人心の底で思い悩み続けるのです・・・。

レオの家は、花き農家で、広く美しい花畑の中を駆け回る2人や、
農作業を手伝うレオの姿も映し出されます。

その美しさと対比するように、暗く沈んでいくレオの心・・・。

 

美しく悲しい物語でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「CLOSE/クロース」

2022年/ベルギー・フランス・オランダ/104分

監督:ルーカス・ドン

出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール

 

少年の孤独度★★★★★

美景度★★★★☆

満足度★★★★☆