映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

すばらしき世界

2021年02月24日 | 映画(さ行)

すばらしき世界?

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西川美和監督作品ということで、重い腰を上げて3か月ぶりくらいに映画館へ行きました。

映画館通い再開にはふさわしい作品。

殺人の罪で13年の刑期を終えた三上(役所広司)。
それ以前にも何度も服役しており、
これまで人生の大半を獄中で過ごしてきたといっても過言ではありません。
身元引受人の弁護士らの助けを借りながら、今度こそは、社会復帰を目指します。

そしてまた、子どもの頃生き別れになった母を探そうと三上は思うのですが、
その話に飛びついてきたのが、テレビディレクター津之田(仲野太賀)と
やり手プロデューサー吉澤(長澤まさみ)。
社会に適応しようとあがきながら生き別れの母を探す、
三上の感動ドキュメンタリーを仕立てようというのです・・・。

三上は、一本気で、ある意味優しく、正義感に富んでいるということもできます。
しかし、直情的でキレやすく、いったん火が付くと止められない。
例えば、チンピラに絡まれている人を見ると助けようとするのはいいけれど、
チンピラをたたきのめしてしまい、
そのため相手が命を落とすことになろうとお構いなしという勢い。
まるで爆弾を抱えているようで、ちょっと怖い。

弁護士の先生は「孤独に陥らないことが肝心」と言って、自らも世話役を厭いません。
持病のある三上なので、生活保護を受ける手続きも面倒を見てくれる。
それでも、生保を嫌い、なんとか経済的自立を図ろうとする三上ですが、
前科者の彼にそう簡単に仕事は見つかりません。

そんなことをする内に、三上の事情を知った上で
手を差し伸べてくれる人が何人か出てきます。
津之田も、三上の危うい部分も見てしまいますが、
それでもなんとか彼の社会復帰を支えるようになっていく。
三上のまっすぐな部分は、人間的魅力でもあるのですね。

やはり、孤独に陥りがちな三上を支えるのは人の輪。
人の絆なのです。

だがしかし、私たちは愕然とする事実をも知ることになる。

三上が世間に溶け込んで人並みの生活をするというのはつまり、
人並みに「見てみないふりをする」、
「気づかないことにする」ということなのです・・・。

善と悪。
正しいこと、誤ったこと。
それらは一元的なものではなくて複雑に入り交じっている。
そしてそれこそが「世界」というものなのでしょう。

本作は西川美和監督のオリジナルストーリーではなくて、
佐木隆三「身分帳」をもとにしています。
題名をそのまま「身分帳」ではなく「すばらしき世界」としたのが、
なんともセンセーショナルというか英断というか・・・。
作品を見ていると、これがすばらしき世界?と思えてしまいます。
でも、一言で言い表せない複雑な様相を世界というのならば、
それは「すばらしい」という形容もあながち間違いではないのかも・・・
と、次第に納得していくのです。

 

役所広司さんの危うい感じの元受刑者、さすがです。

そして私は仲野太賀さんを前期テレビドラマでいい感じ、と思い、
本作ですっかりファンになりました!

 

<シネマフロンティアにて>

「すばらしき世界」

2021年/日本/126分

監督・脚本:西川美和

原案:佐木隆三「身分帳」

出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白龍、長澤まさみ

 

キレやすさ★★★★★

満足度★★★★.5

 

※都合により、一週間程度更新をお休みします・・・。
 肩こりが高じて、キーボードを打つのがしんどいのです・・・
 ナサケナイ・・・

 

 


一度死んでみた

2021年02月23日 | 映画(あ行)

一度死んで二日目に生き返る薬

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大学生七瀬(広瀬すず)は、製薬会社社長の父・計(堤真一)と二人暮らし。
母が亡くなるときも研究室にいて、また何かと口うるさく自分に干渉する父を
七瀬は毛嫌いしています。
父の研究者になれという希望に逆らうように、ロックバンドで歌いまくる七瀬。
日々、父には「死んでくれ」と毒づくのです。

そんな時、会社の乗っ取り計画を耳にした計は、
社内に潜むスパイをあぶり出すために、ある秘薬を用いることにします。
それは偶然に開発された「一度死んで二日目に生き返る」ジュリエットと名付けられた薬。
社長が死ねば、何らかの動きがきっとあるはず、という目論見。

そしてその薬を服用した計は、死亡。
すると、計が息を吹き返す前に火葬にしてしまおうという企みが・・・。
七瀬と社長秘書・松岡(吉沢亮)はそのことを知り、
計画阻止のため立ち上がります。

吉沢亮さん演じる松岡は極めて存在感の薄い男。
自動ドアすらも彼を感知せず、開かないという・・・。
そしてまた彼は、強烈な静電気をため込んでいるという設定が
後々に意味を持ってくるあたりが、なんともしゃれています。

七瀬の所属するパンクバンドはその名を「魂‘s」というのですが、
その唄にはちっとも魂がこもっていないのでただの「ズ」だ、などと評されます。
七瀬が父に向かって「death、death」と毒づくのも、
どうやら心底嫌っているわけではない、ということを示しているわけです。

登場人物たちも無駄に豪華といいますか、
ほんのワンシーンにだけ登場する有名俳優を探すのもまた、楽しみの一つ。
佐藤健さんがほんのチョイ役で出ていたのには驚いた・・・。

クスクス、ニヤニヤ、笑ってしまうコネタ満載。
こういうのは好きです。

<WOWOW視聴にて>

「一度死んでみた」

2020年/日本/93分

監督:浜崎慎治

出演:広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦、木村多江、松田翔太

 

コミカル度★★★★☆

満足度★★★.5


テッド・バンディ

2021年02月22日 | 映画(た行)

そら恐ろしい

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1969年、ワシントン州シアトル。
シングルマザーのリズ(リリー・コリンズ)は、
バーで出会ったテッド・バンディ(ザック・エフロン)と恋に落ち、
一緒に暮らし始めます。
子煩悩なテッドはまだ幼い娘の扱いもうまく、幸せな家庭生活が続きます。

あるとき、信号無視で警官に止められたテッドは、
車の後部座席にあった疑わしい道具袋の存在から、
誘拐未遂事件の容疑者として逮捕されてしまいます。
また、その前年に起きた女性誘拐事件の目撃証言による似顔絵が、
テッドによく似ていました。
さらには、他州の殺人事件の容疑もいくつも受けることになりながら、
本人は無実を主張し続けますが・・・。

1974年~78年にかけて、7つの州で30人の女性を惨殺した
実在のシリアルキラー、テッド・バンディその人の物語です。

テッドは陽気で、口が達者。
人の気持ちを引きつける不思議な魅力があったようなのです。
だからこそ30人もの女性が彼にホイホイとついて行って毒牙にかかってしまったのでしょうけれど。
すごく白々しいけれども彼が「自分は無実」と言い続けるのを聞いたら、
もしかしたら、そうなのかも・・・という気もしてくる。
そんな困惑を最も味わったのが、リズなんですね。
テッドはリズに暴力を振るったこともないし、娘には良いパパだった。


不思議です。
どうしてよそで何十人もの女性を惨殺しておきながら、
ごく普通の人物を演じ、リズや娘には何も手出しをしなかったのか・・・。

彼の心のバランスはどこにあるのか・・・。
でもリズを深く愛しているといいながら、拘留中にモトカノと結婚してしまうといういい加減さは、
やはり信用に足る男ではないですよね。

テッド・バンディの実際に残された映像がエンディングに使われていますが、
それを見ると作中のテッドのセリフ等が、
その実際の映像から取られていることがわかります。
世間に向けて、明るく「自分は無罪」と言ってのけ、
大勢のファンまで付いてしまうという・・・

人の言葉と、真実のギャップ。
シリアルキラーの底知れない人格。
空恐ろしい物語なのでした・・・。

DNA鑑定のある今なら、もっと明白な証拠が提示できたのかも・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「テッド・バンディ」

2019年/アメリカ/109分

監督:ジョー・バーリンジャー

出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラーリオ、ジェフリー・ドノバン

 

人格破綻度★★★★★

満足度★★★★☆

 


いのちスケッチ

2021年02月21日 | 映画(あ行)

やりがいは、どこにでもある

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国内で初めて無麻酔採血に成功し、動物福祉に特化した動物園として注目される、
福岡県大牟田市に実在する動物園を舞台としています。

漫画家を目指し手上京するも、芽が出ず、
夢破れ故郷福岡に帰ってきた田中亮太(佐藤寛太)。
特に動物好きではないけれど、地元の延命動物園でアルバイトをすることになります。

この動物園は、動物の健康と幸せを第一に考える「動物福祉」に力を入れています。
しかし予算縮小で、円の運営は危機的状況。
そんな中でも熱意を持って仕事をする園長(武田鉄矢)や、
獣医師・彩(藤本泉)たちを見て、
亮太も仕事にやりがいを持ち始めます。

 

無麻酔採血・・・、聞き慣れない言葉ですが、
作中はライオンの尻尾から採血しようとしているシーンが描かれています。
採血だけなら人間はもちろん無麻酔。
でも相手がライオンや他の大型動物ならば、健康診断のため、といってもわかってもらえない。
暴れると困るので、通常は麻酔を使って眠らせるのですね。
でもこの麻酔薬というのが適量を用いないと時には危険。
できれば使わない方が良いのです。

そこで少しずつ、始めはライオンの尻尾を触り、
次に多少力を入れてつかむところからならしていきます。
竹串を当てて少しチクッとしてみたり・・・。
こんな手間をかけても、極力動物を不自然な状態にはさせない、
負担をかけない配慮を工夫していく、そんな動物園なのでした。

亮太は漫画家の夢を諦めた後、何を目指せばいいのかわかっていません。
動物園のアルバイトも、たまたまという感じで、すぐ辞めようと思っていました。
でもこの仕事の中で、絵を描くという自分の特技を生かす道も見え始めます。

いい感じのお仕事小説でした。

<WOWOW視聴にて>

「いのちスケッチ」

2019年/日本/100分

監督:瀬木直貴

出演:佐藤寛太、藤本泉、芹澤興人、須藤漣、浅田美代子、武田鉄矢

 

仕事愛度★★★★☆

満足度★★★.5

 

 


「いつか、虹の向こうへ」伊岡瞬

2021年02月20日 | 本(ミステリ)

疑似家族でも

 

 

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尾木遼平、46歳、元刑事。
ある事件がきっかけで職も妻も失ってしまった彼は、
売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。
そんな彼のところに、家出中の少女が新たな居候として転がり込んできた。
彼女は、皆を和ます陽気さと厄介ごとを併せて持ち込んでくれたのだった…。
優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。
第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作。

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伊岡瞬さん、私には初めての作家さん。
ミステリ好きでも、まだまだ未読の作家さんはたくさんいらっしゃいます。
全然読み切れない、というのが実のところでしょうか。

さて、本作の主人公は46歳、尾木遼平、元刑事。
ある事件で前科持ちとなってしまった彼は、
警察に復職できるわけもなく、妻とも離婚。
今はその日暮らしの警備の仕事。
ところが、親から譲られた古い家に、ふらりと舞い込んだ同居人が3人。
家はまもなく売りに出される予定とはいいながら、不思議な同居生活をしていたのです。
そんなところへある日また、家出中の少女が新たに転がり込んでくる。
彼女のおかげで家はなんとなく和み、疑似家族のような様相を呈してきたのですが、
そんな3日目、少女は殺人の容疑で逮捕されてしまう・・・。

 

尾木はやっかいごとに巻き込まれて、すぐに殴られたり蹴られたり・・・。
本作中も肋骨の骨折などがあって、身動きするのも大変そうなのに、
なんとか少女の濡れ衣を晴らそうと躍起になります。
・・・というか、そうしなければ組の者に殺されるかもしれない・・・と、
そんなタイムリミットまで背負ってしまうのです。

というわけで、ハードボイルドかつ、「家族」のほんのり感もある、
なかなか興味深い作品なのでした。

「同じ釜の飯を食う」などという言葉がありますが、
何度か家で食卓を共にすればぐっと親近感が増して、
家族のようになってしまうというのはわかります。

そして尾木たちのセリフがなかなかいいのですよ。
ちょっと皮肉めいてしゃれている。
むちゃくちゃびびるようなシーンも強がってキザなセリフ。
好きです、こういうの。

それで本作は、少女の濡れ衣を晴らすという目的で、
特に真犯人を捜すというストーリー運びではないのにもかかわらず、
最後には意外な犯人が浮かび上がるという、アクロバット的展開。

これ、伊岡瞬さんのデビュー作なんですよね。
全く驚かされます。

 

「いつか、虹の向こうへ」伊岡瞬 角川文庫

満足度★★★★.5


レンブラントは誰の手に

2021年02月18日 | 映画(ら行)

絵画の価値って?

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本作は、「映画.com特別オンライン上映会(第5回)」という企画を初めて利用し、
チケットを購入してオンラインで視聴しました。
料金1200円ということで、劇場でのシルバー料金と同じ。
今、映画館にもなかなか行きづらいので、こういう企画はとてもありがたい。
ただ当企画はドキュメンタリー作品が多くて、やや魅力に欠けるといいますか・・・、
もっと通常の作品も乗せてくれるといいのになあ・・・とは思っております。

北海道のコロナ感染者数は少し落ち着いてきていて、
映画館に行っても問題はなさそうなのですが、
実のところ、冬の朝にわざわざ街まで出かける気力がすっかり衰えてしまい、
春までは映画館通いの再開は難しいかな・・・?
と思っている次第であります。

 

さて、本作。

オランダの巨匠レンブラントの絵画を巡る愛と欲を織り交ぜたドキュメンタリー。
主に3つのシーンが交互に語られています。

 

一つは、オランダ貴族の家に生まれた若き画商、ヤン・シックス。
レンブラントが描いた肖像画もある家で生まれ育ったという貴公子。
そんな彼が、競売にかけられた肖像画を
レンブラント作品と直感し、安値で落札します。
そしてその真贋を証明しようとして・・・。

もう一つは、富豪ロスチャイルド家所有のレンブラント絵画2点が売りに出されることになり、
フランスのルーブル美術館と、オランダのアムスレルダム国立美術館が獲得に動き出します。
売りに出されたのは、相続税のため・・・というなんとも世知辛い理由。
そしてあまりにも高額なその絵画の購入は、
美術館同士からさらには政治家も巻き込み、国家間の対立まで呼び起こす・・・。

そして3つめはスコットランド古城に古くから所蔵される一点の絵画。
当主は、痛くこの絵を気に入っていて、
絵を飾る場所を他に移したいと思う。
専門家にも相談して、絵の引っ越しをすることに。

レンブラントの絵画の美しさ、描写の巧みさ、
芸術作品としての価値はすばらしいものですね、確かに。
ところがこれに金銭的価値が絡むと一気に話はゆがんでいく・・・。
物品としては古いキャンバスに古い絵の具が乗っているだけのものなのに。
絵画2点が200億円!?

もう、想像を超えています。
レンブラントがもしこれを知ったら、さぞかしたまげることでしょう。

レンブラントには弟子も多くいたので、似たような絵はとても多いのだそうです。
また、おそらく贋作として描かれたものもあるでしょう。
そんな中から、本物を区別するというのも大変そう・・・。

「嘘八百」のときにも書きましたが、
私はやはり世間的な価値ではなくて、自分が気に入ったものが良いもの、
と思いたいです・・・。

 

三つ目のエピソード、家に代々伝わる絵を大事に愛でること、
これがいちばんまともな絵画の愛し方のような気はしますが、
でも、個人所有の絵は一般の人が見ることができないというのが残念ですね・・・。
やはり美術館にあるのがいいなあ・・・。

でも、ルーブル美術館に展示された肖像画の人物は、
次から次へと押し寄せる鑑賞客に驚いているように見えました・・・(?) 
絵のためを思うと、旧家の一室にひっそりと飾られている方が幸せそうです。

<映画.com特別オンライン上映会にて>

「レンブラントは誰の手に」

2019年/オランダ/101分

監督・脚本:ウケ・ホーヘンダイク

出演:ヤン・シックス、エリック・ド・ロスチャイルド、
   ターコ・デイビッツ、エルンスト・ファン・デ・ウェテリンク

現実のあさましさ★★★★★

満足度★★★★☆


プライベート・ウォー

2021年02月17日 | 映画(は行)

外部の目でしか伝わらないこと

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レバノン内戦や湾岸戦争など、戦地を取材した実在の女性記者メリー・コルビンの半生を描きます。

イギリス、サンデータイムズ紙の戦争特派員、
アメリカ人ジャーナリストのメリー・コルビン(ロザムンド・パイク)。

2001年スリランカ内戦の取材中、銃撃戦に巻き込まれ、左目を失明します。
以後彼女は黒い眼帯を身につけ、再び取材に当たる。
人々の関心を世界の紛争地域に向けたい・・・
その一心で、時にはPTSDに苛まれながらも、彼女は活動を続けます。

そして2012年、シリアの過酷な状況下の市民の現状を伝えるため、
砲弾の音が鳴り響く中で、世界ヘ向けてのライブ中継を行い・・・。

コルビンは特にどこに味方するというような政治的意図は持っていません。
ただひたすらに、戦火の中、
右往左往して生き延びようとしている一介の庶民の姿を世界に伝えたい、
そういう思いで活動していたようです。

時には他の記者たちが尻込みする危険地帯へも足を踏み入れる。
そんな中で、銃撃に巻き込まれ、失明。
普通ならそこで怖くなって、紛争地帯へ行くのをやめそうに思うのですが、
しかし彼女はめげない。
自分しか本当のことは伝えられない、そんな強い自負があるのでしょう。

実際、戦争や内紛で行われている非人道的な多くの出来事は、
その場に踏み込んだ映像や実体験で語られてこそ、
大きなインパクトがあります。
そうした外部の目でしか、世界にはその様子が伝わらない。
見なかったこと、聞かなかったこと、知らないことは、ないことと同じ。

でも理不尽なことは実際に起こっていて、そこにあるのです。
そのことを私たちに示してくれる、このようなジャーナリストたち。
まさに意義のある仕事、頭が下がります。
でも実際あまりにも危険。
命がけ。
誰にでもできることではありませんね。

<WOWOW視聴にて>

「プライベート・ウォー」

2019年/イギリス・アメリカ/110分

監督:マシュー・ハイネマン

出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ

過酷度★★★★☆

満足度★★★.5

 


ロイヤルコーギー レックスの大冒険

2021年02月16日 | 映画(ら行)

コーギー♡

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私、以前にコーギー犬を飼っていまして、
やはり犬の中でもコーギーには特に思い入れがあるのです。
それで見てしまった本作。

エリザベス女王のトップドッグとして
バッキンガム宮殿でわがまま放題のセレブ生活を送っていたロイヤルコーギーのレックス。

あるとき、米大統領との晩餐会をレックスが台無しにしてしまいました。
女王に叱られたレックスは仲間のチャーリーと宮殿を抜け出します。
しかしチャーリーは実はトップドッグの座を狙っており、
レックスを池に突き落として帰ってしまいます。

犬たちのシェルターに保護されたレックスは、
初めて体験する外の世界で、様々な難局に立ち向かう。

まあストーリーは特筆すべきところはないにしても、コーギーの描写はすばらしい!

毛並みのすべすべ、もふもふ感。
長くてピンと立った耳。
お尻プリプリの後ろ姿。
思わず抱き上げたくなります。

そして、女王夫妻もさることながら、
この米大統領夫妻があきれるくらいにそっくりですね。
笑ってしまいます。
女王が犬に夢中で夫のことは二の次だとか、
バッキンガム宮殿の身動きしないことで有名な衛兵たちが、
犬たちにあたふたさせられるシーンとか、
にやりと笑ってしまうシーンたっぷり。

単純に楽しめました。

<WOWOW視聴にて>

「ロイヤルコーギー レックスの大冒険」

2019年/ベルギー/85分

監督:ビンセント・ケステルート、ベン・スタッセン

コーギーのプリティ度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「ハンナのいない10月は」相川英輔

2021年02月15日 | 本(ミステリ)

二重の成長物語

 

 

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狙われた大学公印、学生自治会長選挙の不正疑惑、
大学御用達の定食屋の後継者問題、女子生徒の洋服盗難、
学生への不公平な単位付与―
森川とハンナが辿り着いた、事件の裏にある切なくて苦い真実の数々とは?
優しい涙が溢れる傑作!

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大学内のちょっとした事件を描きます。

就職活動で、「文学」の出席日数がどうしても足りなくなってしまった佐藤大地は、
担当教員である森川の元を訪ね、どうにか単位をくれるように頼もうとします。
ところが、森川はちょっと変人(?)で、
研究室にびっしりとある本の中から、
森川が一番好きな本を当てれば単位をやる、というのです。
せっかく就職が決まったのに、ここで卒業し損ねるわけに行かない・・・、
というわけで、大地の研究室通いが始まります・・・。

という出だしで始まる本作、
大地のストーリーかと思ったら、どうやら主役は森川の方だったようで、
結局森川の成長物語でもあった・・・。

面白く読めたのですが、少し物足りないところもありました。

大地の成長ストーリーなら納得できますが、
こういう場合、指導の立場の教員はもっとクールな大人であって欲しい。
森川も悪くはないのだけれど、イマイチ大人になりきらないというか・・・
結局二重の成長物語であり、探偵役も大地であったり森川であったり、
定まらないのもすっきりしない。

猫がでてくるのはいいけれど、猫に依存しすぎでもある。

大学内のスパイ事件は、なんだか子供だましみたい。

ということで、ちょっと食い足りなかった感じです。

<図書館蔵書にて>

「ハンナのいない10月は」相川英輔 河出書房新社

満足度★★★☆☆

 


「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 

2021年02月14日 | 本(解説)

目が見えるからといって、正しく見ているわけではない

 

 

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私たちは日々、五感―視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚―からたくさんの情報を得て生きている。
なかでも視覚は特権的な位置を占め、
人間が外界から得る情報の八~九割は視覚に由来すると言われている。
では、私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、
身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか―?
美学と現代アートを専門とする著者が、
視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、
生きるための戦略としてのユーモアなどを分析。
目の見えない人の「見方」に迫りながら、「見る」ことそのものを問い直す。

* * * * * * * * * * * *

本巻は、STVラジオパーソナリティ、佐々木たくお氏が
紹介していたのを聞いて興味を持ちました。
私たちは視覚を最も頼りにして生活しているけれども、
目の見えない人は、どのように世界を認識しているか、という主題に迫ります。

私、先頃「デフ・ヴォイス」という小説で、
聴覚障害のことについてこれまで知らなかったことをずいぶん知るようになったので、
視覚障害についても知りたくなったのです。

 

例えば、私たちは富士山といえば、あの銭湯の壁に書かれているような
上が欠けた三角形、つまり平面的な物をイメージします。
でも見えない人は、富士山を上がちょっと欠けた円すい形、
すなわち立体としてイメージするといいます。
同様に、月は見える人にとっては円形、
けれど、見えない人にとってはボールのような球体。
私たちは絵に描かれた物のような文化的に構成されたイメージを持って、
目の前の物を見ている。
けれど、そうした文化的フィルターから自由な見えない人は、
立体の物を正しく立体としてイメージするわけなんですね。

目が見えているからといって、正しく見ているわけではない、
というのが興味深い。

そして見えない人は、視覚情報の代わりに他のあらゆる感覚を使って「見る」のです。
聴覚、触覚、肌で感じる空気感。
視覚が失われているのは不便ではあるけれど、決して不幸ではないですね。

見えない人が、美術館で絵画鑑賞をする、などという話も紹介されています。
見える人も見えない人も普通に共生できる社会だといいですね。

<図書館蔵書にて>

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 光文社新書

満足度★★★★☆

 


ブラインドスポッティング

2021年02月12日 | 映画(は行)

黒人=悪という思い込みの盲点

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カリフォルニア、オークランドで生まれ育った親友同士の二人、
コリン(ダビード・ディグス)と、マイルズ(ラファエル・カザル)。
コリンは黒人青年で、ある事件で罪を犯し、
服役後、保護観察期間を残り3日としています。
そのための施設で寝泊まりし、夜は11時までに戻らなければなりません。

一方マイルズは白人ですが、こちらもかなりの問題児。

オークランドといえば、米国でも上位に入る治安の悪い都市。
でも近年は再開発で地価高騰。
住人の層が変化すると共に治安の悪さも縮小してきている、というところのようです。

さてその、残り3日間をなんとか無事に過ごさなければならないコリンが、
黒人男性が白人警官に追われ、背後から撃たれる場面を目撃してしまいます。
その時すでに夜11時をやや回っており、コリンはそのまま帰るしかありませんでした。
翌日のニュースでは問題など何もなかったように、
反抗した黒人が警官に射殺されたと報じられたのみ。

これもまたBLACK LIVES MATTERの問題なのでした。

先の事件の時も、コリンとマイルズは共にいて、
いっしょにいざこざを起こしたのに、自分だけが刑務所行き。
白人のマイルズは無事でした。
幼い頃からの友人で何もかも知り尽くしている。
だけれども、口にはできないわだかまりがコリンにはあるようなのです。

もう二度と刑務所には戻りたくないと思うコリンは、
努力して生活改善をし、ジョギングをして青汁を飲み始めたりします。
しかしマイルズは相変わらず悪い仲間とつるんで、
拳銃を買ってみたり、キレやすくてすぐに暴力を振るう。

終盤コリンはマイルズにいいます。
「おまえは、世間が“ニガー”だと思う姿そのものだ」。
この犯罪多発の街では、黒人=悪という思い込み、
つまりはそれがBLACK LIVES MATTERの根源なのでしょう。
しかし実はマイルズにとっては近所の悪ガキたち(ほとんど黒人)となじむために、
“ニガー”的にならざるを得なかった、という事情もありそうな気がしますが・・・。

作中で、ある写真家に言われて
二人が向き合って互いの目を見つめ合うシーンがあります。
ゲイじゃあるまいし・・・と照れながら、しばし見つめ合う。
毎日のように会っているのにこんなことをしたことがない。
互いの心の中に何を見たのか・・・。
もちろんそれを語り合ったりはせず、「バカみたいだ」とおちゃらけて
そのシーンは終わったのですが、すごく象徴的でまた、ドギマギするシーンでした。

互いのアイデンティティ。
見えない壁。

どんなに親しいようでも、それはある。
でもそれを認め合うことが大事なのでしょう。

「ブラインドスポッティング」は「盲点」の意味。
二人が向き合っているようにも、ツボのようにも見える絵をご存じでしょうか。
その絵にどちらの意味を見出すかはその人個人の感覚で、
意識しなかったもう一つの意味は、いわば「盲点」なのですね。
でも意識すれば、どちらも読み取ることはできる。
黒人=悪 という思い込みの、盲点となっている部分にも目を向けよう、
と本作はいっています。

ラップミュージシャンのダビード・ディグス、ラファエル・カザルの二人の脚本で主演。
作中もラップを意識したセリフがたくさんあって、
なんとも心憎い作品なのでした。

 

<WOWOW視聴にて>

「ブラインドスポッティング」

監督:カルロス・ロペス・エストラーダ

脚本:ダビード・ディグス、ラファエル・カザル

出演:ダビード・ディグス、ラファエル・カザル、ジャニナ・ガバンカー、
   ウトカルシュ・アンブドゥカル、ジャスミン・シーファス・ジョーンズ

 

問題提起度★★★★★

満足度★★★★★

 


マイ・エンジェル

2021年02月11日 | 映画(ま行)

育児放棄、その残された子

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南仏コート・ダジュールの美しい海岸の町。
シングルマザーのマルレーヌ(マリオン・コティヤール)は、
8歳の娘エリー(エイリーヌ・アクソイ=エテックス)とその日暮らしをしています。

しかし、自らの失態で結婚が破談となったマルレーヌは、
ますます生活が荒れ、あるときエリーの前から姿を消してしまいました。

一人取り残されたエリーは・・・。

 

何しろマルレーヌは結婚式当日の夜、
他の男とヤッているところを新郎に目撃されてしまった・・・。
それであっという間に破談です。
彼女が身持ちの悪い女であることを初っぱなから突きつけるエピソード。
エリーについては一緒にいればベタ甘。
常に酒浸りでむら気はあるけれど、概ね優しい母なのです。

エリーに「マイ・エンジェル」と呼びかける。
そんなマルレーヌは夜な夜な出歩いて留守にすることはいつものこと。
それでもさすがに、こんなに幾日も帰ってこないことはこれまでなかったのです。

元々お金のない家だから、食べ物もエリーが使えるお金もほとんどない。
どこかに助けを求めれば、たちまち母とは引き離されて施設送りになるだろう。
それがわかっているので、何気ないフリをして学校には通います。
時にはサボってしまうけれど・・・。
というのも、エリーは学校では孤立していて、楽しいことは何もありません。
いじめまでとはいわないけれど、嫌がらせを受けることも・・・。
気丈に孤独に耐えるエリーが、一人の青年に気を引かれます。
それはトレイラーハウスに住む孤独な青年。
なぜか自分と同じ匂いを嗅ぎつけたのでしょうか、
エリーはフリオと徐々に心を通わせていきますが・・・。

是枝裕和監督の「誰も知らない」を思い出しました。
あの母親も、子どもたちといるときは妙に優しいのでした。
まるで「私は本当はいい母親」と自分自身に言い聞かせるかのように。
しかしすぐにそれにも飽きて、また育児放棄していなくなってしまいます。
幼児性丸出し。

しかし、取り残された子どもは、自分が生きるために精神は老成していくのです。

 

エリーについてはその憂さを晴らすためにアルコールに頼ったりもする。
いくら精神が老成していくとはいっても、やはり人のぬくもりは欲しい。
そこで、フリオをまるで父親のように慕い始めます。
エリーは自分の本当の父が誰であるかすら知らないのです。
私、フリオが幼女誘拐とか性犯罪者という疑いを持たれるのでは?と、
若干ハラハラしてしまいましたが、幸いそういう展開にはなりませんでした・・・。
ほっ。

エリーの母親への強い思慕が、絶望へ、
そして拒絶へと変化していく様が見事に描写されています。

この、マルレーヌこそが、どんな育ち方をしたのかが気になるところです。

 

<WOWOW視聴にて>

「マイ・エンジェル」

2018年/フランス/108分

監督:バネッサ・フィロ

出演:マリオン・コティヤール、エイリーヌ・アクソイ=エテックス、
   アルバン・ルノワール、アメリ・ドール

 

育児放棄度★★★★★

満足度★★★★☆

 


残された者 北の極地

2021年02月10日 | 映画(な行)

大丈夫、一人じゃない

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飛行機事故で北極地帯に不時着したオヴァガード(マッツ・ミケルセン)。
壊れた飛行機をシェルター代わりにし、
外を歩き回り、魚を釣り、救助信号を発するというルーティンをこなし、
生き延びていました。

そしてついにヘリコプターが現れるも、強風のため墜落。
乗っていた女性パイロットは大けがを負っています。
瀕死の彼女を見て、彼はついに自らの足で窮地を脱することを決意しますが・・・。

札幌の最高気温が-8.4℃という日に、本作を見ました。
寒い、寒い・・・。
厳寒の舞台が身にしみます。
家なら暖房があるけれど、ここではせいぜい寝袋にくるまって暖を取るのみ。
ムリ。私には絶対ムリです。

 

冒頭、オヴァガードはせっせと雪を掘っているのです。
少し雪を掘ると黒い地面が現れる。
それで、彼は雪面に大きなSOSの文字を刻んでいたのでした。
彼がたった一人でこの地で過ごすようになってから
一体どれくらいの月日がたったものなのか、それは語られません。
というか、ほとんどセリフはないのです。
時たま彼が漏らす独り言のみ。
絶望的ではある。
けれども今すぐどうというわけではない。
氷に開けた穴に糸を垂らし、釣った魚でなんとか生き延びている。
ムリはせず淡々と・・・。
氷雪の中でたった一人。
それだけでもずいぶん強靱な精神ではあります。

ところがそんな淡々とした毎日が変わる。
傷ついた一人の女性。
かろうじて意識を取り戻しても、どうやら言葉は通じないようです。
このままなら絶対助からない。
ヘリに積んであった地図を見つけたオヴァガードは、
遠くに観測所があることに気づき、そこまで行こうと思うのです。
女性とわずかな荷物をソリで曳いて・・・。

なんという絶望的な遠さでしょう。
途中でどうしても上れない断崖があり、
かなりの回り道を余儀なくされる。
それでも一歩、一歩。
幾度も外で夜を過ごします。

彼女にオヴァガードは幾度も語りかけます。

「大丈夫、一人じゃない」

それは、彼自身にいっている言葉なんですね。
自分一人なら、こんなには決して頑張れない。
だけど、自分を頼るこの人がいるから頑張るのだ・・・。

そんな彼があるとき、とうとう彼女を見捨てて一人歩き始めようとするのですが・・・。
その時何が起こるのか。
ここが山場ですねえ・・・。

この苦行は神に試されてでもいるかのようです。

動物園で見るシロクマはかわいいものですが、
こんなところで出会うシロクマは怖い、怖い・・・。

不屈の魂とはこういうこと・・・。
執念のサバイバルの物語。

 

<WOWOW視聴にて>

「残された者 北の極地」

2018年/アイスランド/97分

監督:ジョー・ペナ

出演:マッツ・ミケルセン、マリア・テルマ・サルマドッティ

 

極限の選択度★★★★★

満足度★★★★.5


「1日10分のぜいたく」あさのあつこ他

2021年02月09日 | 本(その他)

様々な切り口を味わう、ぜいたくな短編集

 

 

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通勤途中や家事の合間など、スキマ時間の読書でぜいたくなひとときを―。
NHK WORLD‐JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して朗読された小説のなかから、
選りすぐりの8作家の作品を収録したアンソロジー。
夫が遺した老朽ペンションで垣間見た、野生の命の躍動。
震災で姿を変えた故郷、でも変わらない確かなこと。
心が疲弊した孫に寄り添う、祖父の寡黙な優しさ…。
彩り豊かに贈る、好評シリーズ第三弾!

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NHK WORLD‐JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して朗読された小説のなかから、選りすぐり・・・
というアンソロジーシリーズ3冊目です。

 

★「ピアノのある場所」沢木耕太郎

転校が決まったユミコは最後に友だちのマリちゃんの家へ遊びに行きます。
ところが約束したはずなのに、マリちゃんはどこかへ遊びに行ってしまって、いない。
マリちゃんのお母さんが恐縮して、マリちゃんが帰ってくるまで待っていて、と家へ上げる。
マリちゃんの家はピアノもあって優しいお母さんがいて、
紅茶とお菓子なんかも出してくれる。
仕事もせずごろごろしているお父さん、パートにでているお母さんのいる
我が家とは全然違う。
しばらく待っても戻らないマリちゃん。
ユミコはマリちゃんなんか戻らなくてもいい、
このまま自分がここの子になってしまいたいと思いますが・・・。

子どもにはつらい現実だけれども、
最後に家に帰ったユミコへ、お父さんからの意外な一言。
ふっと落ち込んでいく気持ちをすくい上げてくれる、ステキな一作でした。

 

 

★「ムシヤシナイ」高田郁

秋元は駅構内の立ち食い蕎麦の店を営んでいます。
そんな店へある日中学生くらいの少年が訪ねてくる。
よく見るとそれは、5年ぶりに会う孫の弘晃。
弘晃は親の期待が過剰で、勉強漬けの毎日が苦しく、家出してきたのでした。
そんな彼が「立ち食い蕎麦の店」なんて、むなしくないかと聞くのです。

軽く何かを食べて、腹の虫をなだめておくのが「ムシヤシナイ」。
とりあえず駅蕎麦で空きっ腹を養うのもいいのじゃないか、
ちゃんとした食堂ばかりなら息苦しい・・・と、秋元は孫に言うのです。

孫にとっては祖父とのひとときがムシヤシナイであったようです。

 

★「ああ幻の東京五輪」他 山内マリコ

ここにある短編4篇はとてもユニークで、東京の「区」が語り手。
例えば始めの「ああ幻の東京五輪」は、「世田谷区」が語り手で、
1940年に開催されるはずだった東京五輪では世田谷区がメイン会場となるはずだった・・・と、
五輪にまつわる自慢やら悔しさやらを説き始めます。

そして2020年の東京五輪では
「既存施設を利用する」ことをモットーとしながら、
世田谷区内の施設は何にも使用されないことを憤慨しているのです。
面白い切り口もあるものですね。
最後の方に「いまは2020年の東京オリンピックが、
無事に開催されることを祈るばかりでございます」とあるのが、なんとも・・・。

他に、板橋区、江戸川区、そして「東京都」が語り手となります。

何もないところへ家康がやって来て町を造る。
その町はどんどん人が増えるけれど
幾度も火事やら地震やら、戦争やらで壊滅状態になって・・・
という東京の歴史を語る部分は圧巻です。

 

・・・と、好きな作品もありながら、
なんだかもう飽きてきまして、
本シリーズ、次の巻が出たとしてももう買わないかも・・・と思ったりして。

「1日10分のぜいたく」あさのあつこ他 双葉文庫

満足度★★★☆☆


窮鼠はチーズの夢を見る

2021年02月08日 | 映画(か行)

人が人を思う気持ち

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広告代理店に勤める大伴恭一(大倉忠義)は妻がありながら、不倫をしていました。
そんなところへ、大学時代の後輩、今ヶ瀬渉(成田凌)が浮気調査員として現れます。
そして恭一にカラダと引き換えに、不倫の事実をなかったことにしてもいい、というのです。

渉は7年間一途に恭一を思い続けていた・・・。
ゲイの気のない恭一は、始めは気色悪いとしか思えなかったものの、
次第にその心と体になじんでいき・・・。

恭一は、もともと来る者拒まずという感じで、
常に相手を変えては恋愛を繰り返してきたのです。
妻との結婚も、たまたまそんな気になったというだけで、
強い愛を持っていたというわけではありません。
そもそもその恋愛対象者や妻のことを深く知りたいとも思っていなかった。
そんなだから、妻は結婚生活にもむなしさを覚え、
他の男性に惹かれ、不倫し、
妻の方から恭一に離婚を言い渡したのです。

そして、大学時代初めて会ったときから恭一を好きだったという渉は、
そういう恭一のことを知り尽くしていた。
そこも含めて好きだ、というのです。

その一途な思いにほだされたというか、
いないとさみしいという気持ちが恭一に芽生えてくる。

けれども彼は、自分はノンケ、ゲイは単なる寄り道、
本当の自分はこうではない、と、この期に及んでも思っている。
というか、思おうとしている。
そのことが、渉を傷つけるのですね。

接近したと思えば離れていく2人の心・・・。
なかなかに切ない物語。

最近私、ゲイの2人の絡み合いを見ても、
全然気色悪さとかは感じなくなったような気がします。

異性間でも同性間でも、それは2人だけの、
人には見せられない破廉恥な秘め事ということには変わりなし。
・・・と、近頃私は達観しています。
人が人を思う気持ちに変わりはない。

が、現実には同性間のそういう営みは、強い嫌悪感や、差別意識、
宗教によっては犯罪と見なされるといったことがまだまだ根強いですね。
今後こういうことは長い年月をかけて普通のこととなるのか、
それとも、寄せて返す波のように、また逆行していくこともあるものなのか・・・
残念ながら私の生のある内に、結果を見届けることはできそうにありません。

女性差別とこうしたLGBTへの差別意識は非常に強い関係性があると聞いたことがあります。
どこやらの元総理大臣の女性差別意識丸出しの方は、
口ではわかったようなことをいいつつも、きっと強いLGBT差別意識の持ち主だと思います。

ともあれ、本作は結構ディープなシーンもありますが、
私は成田凌さんの「乙女」チックな視線にやられました。

乙女チックなどという言い方も良くないかな・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「窮鼠はチーズの夢を見る」

監督:行定勲

原作:水城せとな

出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ

同性愛度★★★★★

満足度★★★★☆