映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

それいけ!ゲートボールさくら組

2024年05月31日 | 映画(さ行)

ほっこり

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76歳、織田桃次郎は、カレー店を営み、息子家族とともに暮らしています。

ある日、かつて高校ラグビーでマネージャーを務めていたサクラが経営する
デイサービス・桜ハウスが倒産の危機に瀕していることを知ります。

桃次郎は元ラグビー部の仲間を集め、サクラを助けようと相談を始めます。
銀行から立て直しの融資を得るためには、まずは加入者を増やす必要があります。
そのため試行錯誤の末、ゲートボール大会に出場して優勝し、
施設の知名度を上げようということに。

彼らは「チームさくら組」を結成し、高校時代に培ったチームワークで奮闘します。
しかし、彼らの前に悪徳ゼネコン企業の陰謀が立ちはだかる!!

良い感じにちょっと枯れた面々の、ほっこりする人情コメディです。

かつての鬼マネージャー(?)サクラは実はちょっと認知症で、
この度のゲートボール大会も若き日のラグビーの試合と混同しているようなのですが・・・。

でも周囲のみんなもそんなことを指摘したりはしない。
普通に皆の日常と溶け込んでいるのがなんともステキでした。

森次晃嗣さんの登場シーンでは、さりげなく少しアレンジした
「ウルトラセブン」のテーマ曲が流れたりして・・・。

そしてまた、故三遊亭円楽さんがゲートボール決勝戦の解説者役で出演されていて、
なんだか感慨深い。

<WOWOW視聴にて>

「それいけ!ゲートボールさくら組」

2023年/日本/107分

監督・脚本:野田孝則

出演:藤竜也、石倉三郎、大門正明、森次晃嗣

 

老人コメディ度★★★★☆

満足度★★★★☆


せかいのおきく

2024年05月29日 | 映画(さ行)

江戸のSDGs

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江戸時代末期。

武家育ちのおきく(黒木華)は、寺子屋で子供たちに読み書きを教えながら、
父(佐藤浩市)と2人で貧乏長屋に暮らしています。

ある雨の日、厠のひさしの下で雨宿りをすると、
紙くず拾いの中次(寛一郎)と、下肥買いの矢亮(池松壮亮)に出会います。
それから3人は少しずつ心を通わせるように。

ところがその後、お菊はある事件に巻き込まれ、
父を亡くし、自身は喉を切られて声を失ってしまいます・・・。

 

ほとんどがモノクロ、ごくわずか画面に色が差す部分もあります。

下肥買いという矢亮の商売。
作中では「汚わい屋」と呼ばれていましたが、
つまり人家の厠の糞尿をくみ取って買い上げ、
運搬し、農家へ肥料として売るのです。

糞尿を汲んでお金を払うと言うのにちょっと驚きました。
でも、このシステムのおかげで江戸の町はとても清潔だったと言いますね。
パリの町などは路地が糞尿にまみれていたといいますから・・・。
紙くず拾いの中次も、結局下肥買いのほうが儲かるので、
矢亮と組んで仕事をするようになります。

ともあれ、何もムダにしない江戸のSDGsをしっかり堪能させていただきました。

・・・と言うわけで、本作その糞尿のシーンが実に多い!! 
だから、これは白黒で良かった~と思う次第。
カラーはリアルすぎてちょっと恐い。
そして映像に匂いがなくて良かったなあ・・・。

おきくは、感情豊かで思い切りの良い性格。
ほとんど強情と言ってもいいくらい。
一応武家の娘ですが、すでに本人にはそんな自覚もなく、
汚わい屋の中次になんの差別も持たずに心惹かれていきます。
ところが、声を失ってしまったおきく。
おきくの思いを伝えるにはジェスチャーしかありません。
中次は読み書きができないのです・・・。
しかし2人にはそんなことはなんの障害にもなっていないというのも、いっそ心地よいですね。

佐藤浩市さんと寛一郎さんの親子共演も見所です。

 

<WOWOW視聴にて>

「せかいのおきく」

2023年/日本/89分

監督・脚本:阪本順治

出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、真木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司

 

SDGs度★★★★☆

ばっちい度★★★★★

満足度★★★★☆


猿の惑星 キングダム

2024年05月14日 | 映画(さ行)

凶悪なのは猿よりも・・・

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最近私は、この手のSFアクション超大作というような作品を
あまり見なくなってきているのですが、
このシリーズはずっと見てきているので、やはり見なければ、と。

「猿の惑星」創世記(ジェネシス)→新世紀(ライジング)→聖戦記(グレート・ウォー)
に続く第4弾です。

300年後の地球。
人類は退化し、高い知能と言語を得た猿たちが地球の新たな支配者として君臨していて、
中でもプロキシマス・シーザーは宗教的カリスマ性と強大な軍団を率いることで
巨大な帝国「キングダム」を築こうとしていました。

本作の主人公ノアは、そんな帝国からは少し離れた
山岳部の小さな集落に暮らしています。
彼らはワシを飼い慣らして生活する部族で、ノアは族長の息子なのでした。
ところが突然プロキシマス配下の一団が襲撃し、
父は殺され、他の村人はさらわれてしまいます。

ノアは村人を取り戻すため、プロキシマスの元へ向かうことに。
そんな中でノアは、年老いたオランウータンや、
人間の女性ノヴァと出会い同行することに。

人間は知性に欠け、言葉も話さないはずなのですが、
ノアはノヴァの目に知性のきらめきを感じます・・・。

 

ノアの部族は言ってみれば少数民族。
プロキシマスらからみれば取るに足らない貧しい田舎者。
ノアの村の一族は奴隷のように使役するために捕られ、連行されたのです。

猿の社会でも結局このように格差が生じているのも興味深いですね。
けれどノアの部族は自然と共に生きる誇り高い一族。
こうした設定がステキなのです。

そしてかつて人間が築いた都会の街並みは多くが崩れ去り緑に覆われて、
廃墟というよりもむしろ美しい光景を生み出しています。
そうした地上の様子がなんとも興味深い。

そして、ノアと旅の道連れになるノヴァは、実はしっかりとした知性を持つ「人間」。
始めはそのことを隠していましたが、次第に正体を現していきます。
彼女は何かの意図を持って、プロキシマスの元へ行こうとしている。
彼女の秘密とは一体何・・・?

と言うことなのですが、う~む、
結局一番凶悪のは「人間」なんだな、と私は思ったのでした。
ノアの村が無性に懐かしく居心地良く思えてしまいます。

それにしても今さらですが猿の表現が素晴らしいです。
今はもう特殊メイクではなくて、「パフォーマンスキャプチャー」なんですね。
猿の顔の表情、口元、なんの違和感もなく、感情が表現されます。
ストーリー、映像共に、思いのほか満足できました!

余談ではありますが、これまで創世記、新世紀、聖戦記と、
ステキに文字数をそろえ・韻を踏む題名で来たのに、
ここでいきなり「キングダム」になってしまったのは、いかにも残念。
なんとかそろえられなかったのかあ・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「猿の惑星 キングダム」

2024年/アメリカ/145分

監督:ウェス・ボール

出演:オーウェン・ティーブ、フレイヤ・アーラン、ケビン・デュランド、
   ピーター・メイロン、ウィリアム・H・メイシー

人類衰退度★★★★☆

自然回復度★★★★★

満足度★★★★☆


ジュリア(s)

2024年04月15日 | 映画(さ行)

分岐する人生

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ピアニストを目指す女性、ジュリアの人生を描きます。
が、その描き方が普通ではない。
些細な偶然や選択の積み重ねで分岐したいくつかの人生を、
平行して描いているのです。

それがつまり、題名の(s)の意味。
一つの物語を生きるジュリアだけではなく、
分岐したいくつかの生を生きる複数のジュリアを描いているわけです。

ピアニストを夢見ていた17歳の秋。
ベルリンの壁の崩壊を知り、友人たちとベルリンへ向かった日。



バスに乗りベルリンへ到着して様々な出会いのあったジュリア。
バスに乗り遅れて、何も起こらずに過ごしてしまったジュリア。

本屋で運命的な出会いがあったジュリア。
出会い損ねてしまったジュリア。

シューマンコンクールで受賞し、ピアニストの道を歩み始めたジュリア。
受賞を逃し、希望の道へ進めなくなったジュリア。

 

バイクを自分が運転したジュリア。
そうではなかったジュリア・・・。

 

自分の選択であれ偶然であれ、運命が良い方に転がったりそうでなかったり、
結果が変わってきます。
例えば書店で偶然出会った男性と恋をし、結婚することになったとしても、
人生はそこで終わりというわけではない。
その結婚の末どうなるかはまた別の話。

 

この物語で最後にこれまでの人生、
あの時こうしていれば、ああしていれば、また違った人生になったのかも知れないと
想像を巡らせるジュリアは、
実は多くの分岐で良くない方へ良くない方へとたどった道の結果ではなかったか。

けれど、彼女は思うのです。
でも今、とても満ち足りて幸せな心地がする。
結局はやはりこの道が正解だったのではないかと・・・。

 

こんな風に思うと、実際「今」が不満足なことばかりに思えようとも、
先のことは分らない、だからそう悲観することもない・・・
というように思うことも大切なのかな、と思う次第。

 

<WOWOW視聴にて>

「ジュリア(s)」

2022年/120分/フランス

監督:オリビエ・トレイナー

脚本:カミーユ・トレイナー、オリビエ・トレイナー

出演:ルー・ドゥ・ラージュ、ラファエル・ペルソナス、イザベル・カレ、
   グレゴリー・ガドゥボワ、エステール・ガレル

平行世界度★★★★☆

満足度★★★.5


正欲

2024年04月08日 | 映画(さ行)

地球に留学してきた宇宙人

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横浜で検事として働く寺井啓喜(稲垣吾郎)。
不登校になった息子の教育方針を巡り、妻と諍いを繰り返しています。

広島のショッピングモール契約社員、桐生夏月(新垣結衣)。
実家で代わり映えのない日々を送っています。

そんな夏月とは幼馴染みの佐々木佳道(磯村勇斗)は、東京で就職していましたが、
両親が亡くなったのを機に、広島に戻ってきます。

 

大学のダンスサークルに属する諸橋大也(佐藤寛太)。
準ミスターに選ばれるほどの容姿ですが、誰にも心を開こうとしません。

学園祭実行委員を引き受けた神戸八重子は、男性が苦手で、
不意に触られたりすると過呼吸を起こしそうになるほどですが、
なぜか大也には魅せられてしまいます。

 

このように群像劇なのではありますが、終盤、それぞれに関係ができてくる所も見所。

登場人物の多くは世間一般で言うところの「普通」ではなく、生きにくさを感じています。
夏月はいう。
「自分は地球に留学してきた宇宙人のようだ。」

人と違う。
普通ではない。
わかり合えない。
・・・そんな中で、彼らは次第に孤独の淵に沈んで行きます。
けれど、もしその「普通」でない部分を共有できる相手がいるとしたら。

人と人は、何もセックスという関係でなくともつながりあえるのではないか。
いわゆるアセクシュアルというのともちょっと違うのだけれど、
人のあり方は千差万別、様々であるのと同じく、
人と人とのあり方も自由自在。
それでいいと思います。

さて、これら登場人物の中であくまでも「普通」にとらわれるのが、寺井です。

彼は不登校の息子を困ったものだと思い、
なんとか学校へ行ってほしい、このまま道を踏み外していたら、
将来も望めないと思っているのです。
でも妻は、息子の思いを汲んで、
なんとか息子が息子らしく不登校のままでも毎日を明るく過ごしてほしいと思っている。

 

寺井は作中では、多様化を理解しないダメな父親というような役柄なのですが、
でもつまりこれは、社会一般のありようを代表しているだけなんですね。
そうした「普通」の押しつけがなければ、どれだけ多くの人々が生きやすくなることか・・・。

このような作品を多く見れば、少しは私たちの意識も変わっていくのかな・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「正欲」

2023年/日本/134分

監督:岸善幸

原作:朝井リョウ

脚本:港岳彦

出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、諸橋大也、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり

 

普通逸脱度★★★★☆

満足度★★★★.5


The Son 息子

2024年04月06日 | 映画(さ行)

父と息子

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フロリアン・ゼレール監督の戯曲「Le Fils 息子」が原作です。

妻と、まだ生まれて間もない息子とともに、充実した日々を送る弁護士・ピーター(ヒュー・ジャックマン)
ある日、前妻ケイトから彼女の元で暮らす17歳の息子・ニコラス(ゼン・マクグラス)の
様子がおかしいと相談を受けます。
ニコラスは心に闇を抱え、学校にも行けず、絶望の淵にいます。
そして、ピーターの元に引っ越したいと懇願します。
ピーターは妻を説き伏せ、息子を受け入れて一緒に暮らし始めますが、
親子の距離はなかなか埋まらず・・・。

ガッツリと父と息子の確執を描く物語。
ここで父と息子というのはもちろんピーターとニコラスのこと。
ニコラスは、母と自分を捨てて、新たな恋人と結婚し子どもまでなしてしまった父に
複雑な感情を抱いているのです。
大好きで敬愛する父親。
だけれども、自分は捨てられてしまった・・・。
そのことが彼の中でいつまでも大きく心を占めているのでしょう。


そしてまた、ピーターは自分自身の父親・アンソニー(アンソニー・ホプキンス)との関係に
いまだに緊張感を覚えているのです。
ピーターが子どもの頃の父は、仕事に忙しくいつも不在。
そして威圧感が大きい。
そんなことで、つい疎遠になっています。

こうしたことが、自分がうまく父としてニコラスと関係を結べない
要因なのではないかとも思えてしまう・・・。

でも、ピーターも頑張ったと思うのですよ。
17歳というただでさえ不安定な年頃の疎遠だった息子を引き取り、
極力会話を持とうと努めた・・・。
学校へはなんとしても行かなければダメだと、
いささか言うことが独善的ではありましたが・・・。
ニコラスの暗い淵に沈んだ心はなかなか浮上しない・・・。

 

では一体ピーターはどうすれば良かったのか。
答えはありませんが、その都度1人1人が互いにまっすぐ向き合って
考えていくほかないのでしょう・・・。

輝くような笑顔を見せる幼かったニコラスの記憶が切ないですね・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「The Son 息子」

2022年/イギリス/123分

監督・原作・脚本:フロリアン・ゼレール

出演:ヒュー・ジャクマン、ローラ・ダーン、バネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス

 

父子確執度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


セールス・ガールの考現学

2024年04月01日 | 映画(さ行)

自立する自信を持てば、光る

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モンゴル首都ウランバードル。

サロールは、家族と暮らしながら大学で原子工学を学んでいます。
ある時、友人から代役を頼まれて、
怪しげなアドルトグッズショップで、アルバイトをすることに。
人生経験豊富な女性オーナー・カティアが営むその店には、
大人のおもちゃがところ狭しと並んでいて、毎日様々な客がやって来ます。
サロールはカティアとも交流するようになり、
奔放ではあるけれど孤独なカティアの人生が浮かび上がります。

モンゴルの作品。
こういっては何ですが、素晴らしく洗練されていて、
そしてちょっぴり力が湧いてくる、オシャレでステキな作品。
モンゴルという国への認識を一新しました。
今やどこの国も、特に都市部は状況が似ているようです。
モンゴルでもおそらく若きクリエイターが自分の力を発揮できる環境が
きちんと整っているのでしょう。
良きかな。
自分の中の古くさい世界観は一掃しなくては、とつくづく思いました。

サロールは始め、あどけなくてちょっぴりイモ姉ちゃん風ですらある女の子なのですが、
ストーリーが進むにつれて次第に洗練されていきます。

何もカティアからオシャレの仕方を教えてもらったわけではない。
彼女との交流の中から、
親に言われたとおりの道ではなく、本当に自分がやりたいことを自分の足で歩むように、
彼女自身が自覚し始めたから。
そしてその意志が内側から光り始めたから。

アダルトグッズのショップ・・・あまりにも怪しげと思ったのですが、
サロールは割り切って、照れたり怪しんだりもせず淡々と売り子を務めます。
こんなにも様々なものがあるのか?と私も驚いてしまいましたが・・・。
映像としても一つにじっくり焦点をあてたりはぜず、チラリと見せる程度。
だから意外とそんなにイヤらしい感じはしません。

それと、この「セールス・ガールの考現学」という邦題をつけた方には拍手を送りたい。
ショップの売り子がセールス・ガール。
あえて、怪しいお店のことには触れていません。
そして「考現学」などという言葉は多分ないけれど、
考古学をもじって現代を考えるという学問風の言葉を作ったのでしょう。
サロールが原子工学などと言う堅い勉強をしていたことにも繋がります。
ということで、ちょっとスタイリッシュに決めたこの題名が、
なんともマッチしています。
すっかり気に入ってしまいました!!
途中で歌が入るのも、楽しい!!

<Amazon prime videoにて>

「セールス・ガールの考現学」

2021年/モンゴル/123分

監督・脚本:ジャンチブドル・センゲドルジ

出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ

 

女子成長度★★★★★

満足度★★★★★


春画先生

2024年03月27日 | 映画(さ行)

笑って楽しもう

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肉筆や版画で人間の性的な交わりを描いた「春画」の研究者、
「春画先生」こと芳賀一郎(内野聖陽)。
妻に先立たれて以来、世捨て人のように研究に没頭する日々を送っています。
春野弓子(北香那)は、まるで吸い込まれるように芳賀の誘いに乗り、
春画鑑賞を学ぶことに。

弓子は春画の奥深い魅力にのめり込み、
そしてまた、芳賀に恋心を抱くように・・・。

芳賀が執筆する「春画大全」の完成を急ぐ編集者・辻村(柄本佑)。

そして、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)。

ねじれた性愛の行き着く先は・・・?

ちょっと危ない雰囲気の題名に、若干見るのを躊躇していたのですが、
実際に見てみると、やっぱり・・・でした(!)
でも、作中で江戸時代には「春画」は、もっとカラリとしていて、
皆で笑い楽しんで見るものだった、という先生の説明があります。
すなわち本作も、そのようにカラリと笑い飛ばしながら見るのが正解なのでは、
と思いました。

春画といえば、いかにもあからさまなその部分にばかり目が行ってしまいますが
その他の部分によく目をこらせば、
さまざまな技巧に尽くされた仕草、表情、小道具など
計算された表現。
ちょっと興味が湧いてきます。
あまり表に出ない、これも貴重な日本文化でありましょう。

 

弓子役は北香那さん。
私、Snow Manの渡辺翔太さん主演ということで
『先生、さようなら』いう深夜枠のドラマを見ていたのですが、
そこに登場する由美子先生が、この北香那さんであります。
本作の弓子とはかなり雰囲気が違う。
というか、こんな体当たりの役もこなす方だったのだなあ・・・と、ちょっと驚きました。

この方、今後有望だと思うので、要チェックです。

<Amazon prime videoにて>

「春画先生」

2023年/日本/114分

監督・原作・脚本:塩田明彦

出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実

性愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆


四月になれば彼女は

2024年03月26日 | 映画(さ行)

10年前の恋と、消えた恋人

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精神科医の藤代俊(佐藤健)の元に、かつての恋人・伊予田春(森七菜)から手紙が届きます。
ボリビアのウユニ塩湖から出されたその手紙には、10年前の初恋の記憶が綴られています。
そしてその後彼女の手紙は、プラハ、アイスランドからも。

一方、藤代は現在の恋人・坂本弥生(長澤まさみ)との結婚準備を進めていましたが、
ある日突然、弥生は姿を消してしまうのです。

春からの手紙の意味は?

そして、弥生の失踪の意味は?

ウユニ塩湖、プラハ、アイスランド・・・
学生当時、写真部仲間だった藤代と春は、これらの場所をぜひ訪れたいと思い、
実際に計画して旅立つ寸前の所まで行っていたのです。
ところがある事情から計画は崩れ、二人もそれきり別れてしまった。

以来10年間、この破れた恋のことがトラウマとなって、
藤代は他の人と付き合うこともなかったのですが、
弥生と出会い、心が打ち解けてきていた所ではあるのです。

結局の所、坂本は自分の中で春への思いを捨てきることができずに、
10年を過ごしていたということなのでしょう。

今さら春が坂本へ手紙を送ってきた、というのは
実はちょっと押しつけがましいような気がしないでもないのですが、
まあ、彼女にも彼女の事情があって、それもまた仕方のないことなのかも知れない・・・。

本作で、ハッとする部分があるとすれば、弥生の行動なんですね。
いじいじうじうじの藤代に比べたら、思い切った行動力。
ここだけが唯一の見所。

映像は美しいのですが、イマイチ響かないかなあ・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「四月になれば彼女は」

2024年/日本/108分

監督:山田智和

原作:川村元気

出演:佐藤健、長澤まさみ、森七菜、仲野太賀、中島歩、竹野内豊

映像の美しさ★★★★☆

満足度★★★☆☆


少女は卒業しない

2024年03月18日 | 映画(さ行)

かけがえのない時間

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新築校舎への移転のため、現存の校舎取り壊しが決まっている高校。
卒業式の前日と当日、2日間の出来事が
4人の少女を通して語られて行きます。

進学のため上京する予定のバスケ部部長・後藤由貴(小野莉奈)。
地元に残るカレシ・寺田との関係が気まずくなっています。

軽音学部長、神田杏子(小宮山莉渚)は、幼馴染みの森崎に思いを寄せています。
卒業式後にライブを控えていますが・・・。

クラスになじめず、図書室に通う作田詩織(中井友望)。
図書室を管理する坂口先生(藤原季節)に淡い恋心を抱いていて・・・。

そして、卒業生代表の答辞を務める山城まなみ(河合優実)は・・・。

この、山城まなみについての出来事がなんといっても心を打ちます。
彼女は料理クラブに属していて、ときおり意中の相手にお弁当を作り、
家庭科室で他愛のないことをあれこれ語り合うことを楽しみにしていたのですが・・・。
彼女にとっては思いも寄らない出来事が過去にあったようなのです。
唯一ショートヘアの山城さんの清楚なたたずまいが、素晴らしく印象に残りました。

 

必ずしも楽しかったことばかりではない3年間。
それでも、将来に向かって旅立つ前のこの場所で、
彼女たちはかけがえのない大切な時を過ごした。

その思い出の校舎が、間もなく消え去ってしまうという切なさも相まって、
少女たちの漂うような淡い思いが美しく描かれていたと思います。

 

<WOWOW視聴にて>

「少女は卒業しない」

2023年/日本/120分

監督・脚本:中川駿

原作:朝井リョウ

出演:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流、藤原季節

 

青春度★★★★☆

せつなさ★★★★☆

満足度★★★.5


ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう

2024年03月16日 | 映画(さ行)

とある街の日常で巻き起こるファンタジー

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ヨーロッパの桃源郷と言われるジョージアの古都、クタイシ。

街中で、本を落としたリザとすれ違いざまにそれを拾ったギオルギは、
夜の道で偶然にも再会します。
2人は互いの名前も連絡先も聞かないまま、
翌日白い橋の近くにあるカフェで逢う約束をします。

しかし翌朝、彼らは邪悪な呪いによって、外見を変えられてしまうのです!!

穏やかで美しい日常の風景をずっととらえて行きつつ、この展開にはちょっと驚かされます。
いきなり、ファンタジー?!

2人は外見が変わっただけではなくて、
それぞれのスキルまでも奪われてしまいます。

リザは薬剤師としての知識。

ギオルギはサッカー選手としての才能。

外観が変わってしまった2人は、相手も姿が変わっていることを知らず、
約束のカフェで互いを待ち続けますが、
当然、巡り会うことはできません。

さて、能力を失った2人はこれまでの仕事を続けることができず、
リザはこのカフェでアイスクリームを売る仕事に、
ギオルギはカフェの近くでおかしな商売の仕事につきます。
顔見知りとなった2人は、次第に親しくなっていって・・・。

まあ、なんとなく結末は予想がつくファンタジックなラブストーリー。
でも最後にどうやって2人が互いを運命の相手と気がつくのか、
というところがミソであります。

さて、本作全編がこの穏やかで美しい街中でストーリーが進んでいきます。
町の人々の日常がじっくりと描き出されます。
折しも、サッカーのワールドカップが開かれている時期。
子供たちがサッカーを楽しんだり、
カフェのプロジェクターで人々がサッカー観戦を楽しんだり。
この町の舞台自体が素晴らしい雰囲気を醸し出していて、
こんな街でなら、不思議な出来事も起こるかも・・・という気もしてきます。

ジョージア・・・。
いや、そもそもジョージアってどこ?という地理音痴の私。
えーと、ヨーロッパの東端であり、アジアの西端でもあるというくらいの位置。
かつてロシアやソ連に長く支配されていて、
ソ連崩壊時にグルジアとして独立した場所。
しかしその後また、ロシアの侵攻があったりして、
地域により政情が安定していないようです。
ウクライナと同じくロシアとの関係で長く辛酸をなめてきたのですね。
そのような長い歴史の上に成り立つこの街。
なるほど、魔法の力が宿るというのにも説得力を感じてきました。

ごくごく日常の舞台でありながら、巻き起こるファンタジー。
ステキです。

白い橋のカフェの店長さんが、いかにも人が良さそうで好きです。

<WOWOW視聴にて>

「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」

2021年/ドイツ・ジョージア/150分

監督・脚本:アレクサンドレ・コベリゼ

出演:ギオルギ・アンブロラゼ、オリコ・バルバカゼ、ギオルギ・ボチョリシビリ、
   アニ・カルカラゼ、バフタング・パンチェリゼ

日常度★★★★☆

ファンタジー度★★★★★


シルバー 夢の扉

2024年02月17日 | 映画(さ行)

夢の世界へ入り込む

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ロンドンへ引っ越してきたばかりの女子高校生・リヴ。
夢の中で、ミステリアスな雰囲気を持つ4人の男子と出会います。
そして、転校先の学校で実在の彼らと遭遇。
彼らは皆、夢の世界に入り込むことができるドリーマーで、
リヴもまたその力があると言います。
そして、ハロウィンを目前に控えたとある夜、
どんな夢も現実となるという儀式を5人は行います。

しかし、実はこのことには落とし穴がある。
夢は叶うけれど、しかし・・・!!

 

夢と現実の世界を行き来する、不思議な雰囲気を漂わせる本作。
魅力的です。

誰か、自分以外の人の持ち物を身につけて眠ると、
その人の夢の中に入り込むことができるという設定も面白いですね。

 

ミステリアスな雰囲気が楽しめる作品。

 

<Amazon prime videoにて>

(Amazon オリジナル)

「シルバー 夢の扉」

2023年/ドイツ/92分

監督:ヘレナ・ハフナゲル

出演:ジャナ・マッキノン、リス・マニオン、シャニール・クラー

 

ミステリアス度★★★★☆

満足度★★★☆☆


シャイロックの子供たち

2024年01月31日 | 映画(さ行)

ヒリヒリするお金の話

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テレビドラマにもなった、池井戸潤さん原作の、東京第一銀行長原支店を巡るストーリー。

ある時この支店できっかり100万円の現金紛失事件が発生します。
ベテランお客様係・西木(阿部サダヲ)は、
同じ支店勤務、北川(上戸彩)、田端(玉森裕太)と共に事件の裏側を探っていきます。

その鍵となるのは、100万円を束ねていた一つの帯。
この帯が見つかる経緯が結構ひねりがあって面白い。
そのことで北川が犯人扱いされてしまったりします。
銀行内の行員同士の不和って、やっぱりあるのでしょうね・・・。

そしてまた、この帯封は、また別の事件にも通じるところがあって、
うまいアイテムの使い方になっています。
解いてしまえばゴミ。
でも、現金の出所や日時、触った人の指紋など、証拠の情報たっぷりなんですね。

本作の冒頭、「ベニスの商人」の舞台劇が行われていて、
本作の題名「シャイロックの子供たち」の原点が語られているところがいいですね。

まさに、お金、犯罪、正義、良心・・・
複雑に絡んだ人の心が語られていて、見応えがあります。

「やられたら倍返し」などと言うセリフもあって、ニヤリとさせられました。

<Amazon prime videoにて>

「シャイロックの子供たち」

2023年/日本/122分

監督:本木克英

原作:池井戸潤

脚本:ツバキミチオ

出演:阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介

 

お金のヒリヒリ度★★★★★

倍返し度★★★★☆

満足度★★★★☆


サイレントラブ

2024年01月30日 | 映画(さ行)

純愛だなあ・・・

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以前のある出来事をきっかけに声を発することをやめ、
淡々と生きているだけの青年・蒼(あおい)(山田涼介)。
とある音大の清掃員のバイトをしています。

ある時、不慮の事故で視力を失ったピアニスト志望の音大生・美夏(浜辺美波)と出会います。
絶望の淵に追い込まれながら夢をあきらめない美夏に、蒼は惹かれていき、
彼女に知られぬようにそっと見守るようになります。
蒼の不器用なやさしさは、美夏の心に届き始めますが・・・。

声を発しない青年と、目の見えない少女。
二人の意思疎通は極めて困難ではあります。

美夏から譲られたガムランボールの鈴音と、
そっと手のひらに触れる指の合図<一つならyes、二つならno>というのが主な交流手段。

蒼は、自分が清掃員だとは美夏に言うことができず、
ピアノ講師・北村(野村周平)に、自分のフリをしてピアノを弾いてほしいと依頼します。
この北村というのが、賭博で莫大な借金を背負ったやさぐれた男。
そのため、蒼の依頼にはこたえますが、その都度大金を礼金として要求します。
その支払いのために、夜間別のバイトまでする蒼。

特に見返りも期待していない。
なんともピュアなラブストーリーなのでした・・・。

やさぐれ男・北村も、美夏に惹かれながら、
あまりにもピュアな蒼に対して後ろめたさをも感じていくという役どころであります。

山田涼介さんはあえて自前の美しいお顔を目立たないようにして役に臨んでいるようです。
まあ確かに、作業服であってもいつもの彼なら悪目立ちして
学校の中で評判になってしまいそう・・・。

 

さてさて、3人は大きな事件に巻き込まれることになるのですが、
ナイトたちはお姫様を守り抜きます。
そしてお姫様は、次第に視力も回復して・・・。

さあ、どうなる!?

お楽しみに。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「サイレントラブ」

2024年/日本/116分

監督・脚本:内田英治

出演:山田涼介、浜辺美波、野村周平、吉村界人、古田新太

 

純愛度★★★★★

満足度★★★★☆


65 シックスティ・ファイブ

2024年01月02日 | 映画(さ行)

6500万年!!

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本作の主人公ミルズ(アダム・ドライバー)は、地球の人類ではなくて、
どこか遠い宇宙の惑星の生き物。
・・・といっても人類とそっくりそのままなのですが。

彼は、長期探査ミッションのため宇宙船で飛び立ち、
長い任務を終えて帰還の途に就く所だったのですが、
小惑星帯と衝突し、付近のとある惑星に墜落します。
船体は大破して航行不能。
生き残ったのは、ミルズともうひとり、コアという少女のみ。
さてところでようやくここで、本作の題名の意味が明かされるのですが、
「65」というのは、つまり・・・。
この惑星は6500万年前の地球だったのです!! 
巨大な恐竜たちが闊歩する時代。
そして、恐竜を絶滅させたというあの、巨大隕石の衝突寸前の時!!

二人はこの二つの脅威からの脱出を図ることになります。

ところでこの二人、言葉が通じない。
翻訳機もダメになっていて使えません。
こまかな意思疎通はできないままに、
二人は脱出用の宇宙船が落下している山頂を目指します。

なんと言っても本作の時代設定、状況設定に拍手!!
話には聞く、巨大隕石の衝突寸前の地球だなんて、なんとスリリング。
タイムマシンでではなくて、こんな状況設定もありだったのか。
眼からウロコの気分ですね。

そして、少女とオジサンのコンビ、
少女はお荷物になるだけかと思いきや、さすが昨今の物語、
少女は頭もよくて勇気があって、たくましい。
ミルズは何度か彼女に命を救われます。

ユニークな設定を、興味津々で見ました。
ジュラシックパークばりに恐竜も恐いですよ~。

さてそういうことならば、そのあたり、
恐竜の化石と一緒に宇宙船の残骸の化石もあるかも・・・?

<WOWOW視聴にて>

「65 シックスティ・ファイブ」

2023年/アメリカ/93分

監督・脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ

出演:アダム・ドライバー、アリアナ・グリーンフラット、クロエ・コールマン

 

設定のユニーク度★★★★★

恐竜の恐怖度★★★★☆

満足度★★★.5