映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「光」 道尾秀介

2015年09月30日 | 本(その他)
光に出会いたいと思うなら

光 (光文社文庫)
道尾 秀介
光文社


* * * * * * * * * *

利一が小学生だった頃、仲間といれば毎日が冒険だった。
真っ赤に染まった川の謎と、湖の人魚伝説。
偽化石づくりの大作戦と、洞窟に潜む殺意との対決。
心に芽生えた小さな恋は、誰にも言えなかった。
懐かしいあの頃の記憶は、心からあふれ出し、大切な人に受け渡される―。
子どもがもつ特別な時間と空間を描き出し、
記憶と夢を揺さぶる、切なく眩い傑作長編小説。


* * * * * * * * * *


少年の日の冒険譚。
語り手の少年が利一ですが、
文中、一人称が「僕」ではなく「私」となっているのに少し戸惑います。
つまりこれは彼がおとなになってから、少年の日を回想して書いたもの。
少年たちの冒険、友情、そしてちょっぴり甘酸っぱい思いを、
ノスタルジーを感じながら語っている。
だから少し「スタンド・バイ・ミー」に似た雰囲気があります。


女恋(めごい)湖という湖のある、田舎町。
4年生の夏休みから物語は始まります。
もう冒険がそこに用意されている感じですね。
女恋(めごい)湖には伝説があって、
少し前に教頭先生からその伝説の続きの物語を聞かされたばかり。
ある日彼らは湖岸に洞窟を見つけるのです。
恐ろしい物語を聞かされている彼らは
真っ暗な洞窟に恐る恐る足を踏み入れてみるのですが・・・。
ここで語られるストーリーは、実はほんの序の口で、
この洞窟は後でもっと大変なことの舞台になります。
連作短編風に、エピソードごとに区切られて語られていくのですが、
大きな流れとしても実にうまくつながっていて、完璧。
しかも随所に読者を驚かせるミスリードが仕掛けられているのです。
ストーリーだけをとっても素晴らしい冒険と少年の成長譚であるのに加えて
このような仕掛けまで・・・。
感服させられます。


いつもながら登場人物たちがいいですね。
主人公利一くんは、内省的で人の気持ちがよく分かる。
が、そこはまだ小学生なのでちょっとバカなこともしてしまうけれど、
こういう少年は大好きです。
彼が将来なりたいと思っているものは・・・、
本作中では最後の最後にようやく明かされますが、
そこのところはなんとなく想像がつきますね。

ちょっぴりお調子者だけれど、ムードメーカーの慎司。

あまり級友たちとはなじまず距離をとっていた感じの清孝は、
ある出来事から親しくなったのだけれど、とても優しい子。

そして宏樹は裕福なことを鼻にかけ、
貧乏な清孝とは親しくしたがらないように見えていたのですが・・・。
ある事件で全く意外な面を見ることになります。
うん、面白い。

そして、慎司の2つ上の姉、悦子は、真っ黒に日焼けした活発な少女。
ただちょっと利一にはただの友達以上の何かがあるようです・・・。

そして、後半に登場する劉生くんというのがまたユニークなんですよ。
彼らよりひとつ下の3年生、ちびでやせっぽち。
しかし、恐ろしく頭がいい。
が、どうもその頭脳を使う方向がちょっぴり間違っているというか・・・。
まあ、この子と知り合ったおかげで
彼らは大変な事件に巻き込まれることになってしまうのです。


作中、教頭先生が
「自分がどうして先生になったのかわかった気がした」
とポツリともらすシーンがあります。
それは利一たちが、動機は良かったのですが、
バカなことをしでかしてしまった後のこと。
自分が子供の頃、友だちがいなかったという教頭先生は、
実はこんなふうに仲の良い友達とハメを外してみたかったのかもしれない。
常に無愛想で近寄りがたい教頭先生なんですけどね、
私は好きです。


物語の詳細な年代は書かれていませんが、
アポロの月面着陸より少し後、まだレコードやカセットテープが普通に使われていた頃。
だからこんなふうに、暇さえあれば子供たちは集まって外で遊びまわっていた。
今は子供たちが外で群れて遊んでいるのをほとんど見かけません。
たまに集まっても室内でTVゲームをしたりして・・・。
だからこんな物語を読むと、私自身もなんだか郷愁にかられてしまうのです。
かつてのこどもの日々を思い出し、利一たちと素敵な冒険をさせてもらった、
そんな本です。

「光」道尾秀介 光文社文庫
満足度★★★★★

しあわせへのまわり道

2015年09月29日 | 映画(さ行)
「お一人様」の自由



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米ニューヨーカー誌に掲載された実話の映画化だそうです。


ニューヨーク、売れっ子の書評家ウェンディ(パトリシア・クラークソン)。
長年連れ添った夫が浮気相手の元に去り、
一人取り残されてしまいます。
運転免許を持っていない彼女は、
これまで出かけるときはいつも夫に車を出してもらっていたので、
どうにも不便。
困ったウェンディは、
インド人のタクシー運転手ダルワーン(ベン・キングスレー)に運転を習うことに。
タクシーの運転手が自動車免許のための個人教習を兼業しているのですね。
日本ではこんなことはありませんが、ちょっと面白い制度だと思いました。



ダルワーンは伝統を重んじる堅物で、運転の教習も丁寧で的確。
とても頼りになります。
しかしそんな彼が、女心というものを少しもわかっていない。
彼は妹の世話で結婚することになったのですが、
その妻はインドから来て初めてあったばかり。
英語もろくに話せないので、外へ出るのが怖いのです。
ちょっと、マダム・イン・ニューヨークを思い出しますね。
おまけにこの夫ときたらそんな妻へのいたわりも見せず
食事の味付けに文句を言ったりする。
だから本作、ダルワーンが一方的に運転を教える話ではないのです。
ウェンディは文化も宗教も違うダルワーンとふれあううちに、
自分の結婚生活で自分ができていなかったことを気付き、
そしてまたその気付きが、ダルワーンにも伝わっていくという相互作用なんですね。
運転もこれくらいの歳になるとマスターするのはなかなか大変だけれども
できないことじゃない。

そしてまた、人生における“気付き”もまた、
いくつになっても遅すぎるということはない。
ウェンディは行動の自由とともに心の自由も手に入れたように思います。
「お一人様」の自由を。



さて、髭を生やしてターバン姿というのは、
私達がインド人に抱くイメージそのものなのですが、
これは正しくは「シク教徒」のスタイルだったのですね。
インド人が全てそうだとは限らない。
先日見た「ミルカ」でもそのミルカがシク教徒だったので、
長髪を頭の上でゆってお団子にしていましたし、時にはターバンも。
そしてシク教徒はインド政府と確執があって、
受難の時代があったというのも「ミルカ」で始めて知り、
このたび本作でもまた認識を新たにしました。


様々な民族が入り乱れるニューヨーク。
一人ひとり真剣に向き合ってみれば
学ぶことは双方に多くあるのではないかな? 
そんな気にさせられる作品です。



「しあわせへのまわり道」
2014/アメリカ/90分
監督:イザベル・コイシェ
原作:キャサ・ポリット
出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングスレー、ジェイク・ウェバー、グレイス・ガマー、サリタ・チョウドリー
異文化交流度★★★★★
満足度★★★.5

ニューヨークの巴里夫(パリジャン)

2015年09月27日 | 映画(な行)
子どもと別れた父親は戦士だ


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「スパニッシュ・アパートメント」、「ロシアン・ドールズ」に続く
セドリック・クラビッシュ監督青春3部作の完結編。


とはいえ、どれも見ていないなあ・・・と思ったのですが、
なんと「スパニッシュ・アパートメント」は見ていました!! 
ブログ記事を確認すると、結構気に入ったようなのですが、
綺麗サッパリ忘れていた。
まあとにかく本作、前作を知らなくても十分に楽しめることは確かです。


前作「ロシアン・ドールズ」からは10年ぶりになるそうですが、
グザヴィエ(ロマン・デュリス)は40歳。
小説家としてそれなりに成功していますが、
妻ウェンディが、アメリカ人と恋仲になり、
子供たち二人を連れてニューヨークに行ってしまった。
妻とは別れられるが子どもとは別れられないのですね。
子供たちと会うために、グザヴィエも後を追ってニューヨークへ。



元妻ウェンディ(ケリー・ライリー)だけでなく、
元カノ・マルティーヌ(オドレイ・トトゥ)、
レズビアンの親友イザベル(セシル・ドゥ・フランス)らともニューヨークで再会。
おまけに、アメリカ永住権を得るために
中国系アメリカ人女性と偽装結婚を図ったり、
何やらてんやわんやの人物関係がコミカルに描かれていきます。


本作、原題は「難問」を意味する「チャイニーズ・パズル」ということなのですが、
邦題はひねりすぎましたね。
いっそ、いっそ「ニューヨーク・パズル」とでもすればよかったかも。
でも人種のるつぼニューヨークは本作の舞台としては実にふさわしいと思います。



公園で、グザヴィエと同じく、
別れた妻と交代で子供を育てている男性と出会うシーンがステキでした。

「子どもと別れた父親は戦士だ」。

そう、彼らは日々戦っているのです。
グザヴィエも単に色恋沙汰ではなくて、
この度は無条件に愛する我が子をなんとか守り育てたい、
その点だけはブレない、大人の男の姿があって、
情けないながらもなかなかカッコ良かったです。

ニューヨークの巴里夫(パリジャン) [DVD]
ロマン・デュリス,オドレイ・トトゥ,セシル・ドゥ・フランス,ケリー・ライリー
オデッサ・エンタテインメント


「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」
2013年/フランス・アメリカ・ベルギー/117分
監督:セドリック・クラビッシュ
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、セシル・ドゥ・フランス、ケリー・ライリー、サンドリーヌ・ホルト
ニューヨーク度★★★★☆
満足度★★★★☆

「偽りの楽園 上・下」 トム・ロブ・スミス 

2015年09月26日 | 本(ミステリ)
ミステリは人の心の中にこそ在り

偽りの楽園(上) (新潮文庫)
Tom Rob Smith,田口 俊樹
新潮社


偽りの楽園(下) (新潮文庫)
Tom Rob Smith,田口 俊樹
新潮社


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両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていたダニエルに、
父から電話がはいる。
「お母さんは病気だ。精神病院に入院したが脱走した」。
その直後、今度は母からの電話。
「私は狂ってなんかいない。お父さんは悪事に手を染めているの。警察に連絡しないと」。
両親のどちらを信じればいいのか途方に暮れるダニエル。
そんな彼の前に、やがて様々な秘密、犯罪、陰謀が明らかに。(上)


* * * * * * * * * *

母と対面したダニエルは、スウェーデンの片田舎で蔓延る狂乱の宴、
閉鎖された農場で起きた数々の悪事を聞かされる。
しかも、母は持ってきたショルダーバッグの中から、
それぞれの事件の証拠品を次々と提示していく。
手帳、写真、新聞の切り抜き…。
ダニエルは、その真相を確かめるべく、自身がスウェーデンへと向かった。
そこで彼を待ち受けていたのは、驚愕の事実だった―。(下)


* * * * * * * * * *


「チャイルド44」から始まるレオ・デミトフシリーズを離れた、
トム・ロブ・スミスの新作です。


本作の主人公は、レオのようなタフ・ガイではなく、
ロンドンに住むガーデンデザイナーのダニエル。
ゲイのパートナーの家に住まわせてもらっている貧乏な青年です。
両親はスウェーデンの農場で気楽な隠居生活を楽しんでいる、と
勝手に思い込んでいたのですが、ある日その幻想がガラガラと崩れていきます。
父からの電話で
「お母さんが精神病院に入院していたが脱走した」
と聞いた直後、その母が訪ねてきた。
そして母がスウェーデンでの出来事を事細かく語る。
その話が本作の殆どのストーリーとなっているのです。

「その閉鎖的な田舎町で、ある実力者が思うままによくない陰謀を巡らせている。」

そのように語る母の言葉は、果たして真実なのか。
または狂気なのか。
語るストーリーは、どれもつじつまはあっています。
けれどあまりにも熱を帯びたようなその語り口に
何か危ういものも感じてしまう。
常に冷静に正確に話を聞こうと努めるダニエルですが、
結局彼はその話を信じるのや否や。
そういうところも気になるところです。
本作ダニエルが主人公と書きましたが
本当の主人公はそのお母さんですね。
ダニエルが今まで思っていた「母親」とは全く違う、
生身の「女」であるティルデの、衝撃の半生が浮かび上がってきます。


夜中に一人、ボートで河をゆくティルダ。
老女とは思えない行動力! 
老女の語るストーリーなんて・・・とバカにしてはいけません。
これがなかなかスリルたっぷりなので。
その辺りはさすがに、トム・ロブ・スミスですね。
実は本作、実際にスウェーデン出身という著者のお母さんが
体験したことがモデルとなっているそうで・・・。


家族とはいえ、私たちは両親のあるいは夫や妻の、
なにを知っているのだろうか・・・?
そんなミステリアスな気分も湧き上がってきます。
ミステリは人の心の中にこそ在り。

「偽りの楽園 上・下」 トム・ロブ・スミス 新潮文庫
満足度★★★★☆

ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声

2015年09月25日 | 映画(は行)
わずか数年、神から与えられる奇跡の声



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ステット(ギャレット・ウェアリング)は母と暮らしていましたが、
学校では度々暴力沙汰を起こす問題児。
そんな時に母親が事故で亡くなってしまいます。
その時初めて現れた父(ジョシュ・ルーカス)は、
裕福ではありましたが別に家庭を持っており、
隠し子ステットのことはあくまでも秘密にしようとします。
ステットの歌の才能を見出していた校長(デブラ・ウィンガー)の推薦により、
全寮制の名門少年合唱団へ入学することに。
しかし、音楽の基礎など何も知らず、楽譜も読めないステットは、
さっそくいじめにあってしまうのです。
そんな中ではありながら、カーヴェル(ダスティン・ホフマン)の厳しい指導のもと、
次第に歌うことに喜びを見出していくステット。
でも、ボーイ・ソプラノは、少年から大人へのわずか数年、
神から与えられる奇跡の声。
やがて時が過ぎ・・・。



何にしても、この粗暴で野生的な少年の魅力が光ります。
そしてその彼の透き通るような美しい歌声とのギャップがまたしびれる。
その声だけでも、涙をさそうに十分。
誰一人残っていないクリスマス休暇。
帰るところのないステットは、誰にも内緒で寮でひとりぼっちで過ごします。
う~ん、切ない。
父親のあまりにも不甲斐ない態度にむちゃくちゃ怒りを感じるところでもありますが。
でも本作、ステットの必死の努力や美しい声に感化され、
周りの大人達も徐々に変わっていくのです。
厳格さ一筋のカーヴェルも、
この野生の少年に、ちょっぴり昔の自分を重ねあわせたようでした。
そしてあのどうしようもない腰砕けの父親さえも・・・。



この合唱団が東京公演に行くというので
「ほたるこい」を練習しているシーンがあったりするのがウレシイところでした。
残念ながらこの時のステットは、まだ力不足で留守番組でしたが。
そしてお定まり、ステットの一番のライバルは、
エリート意識丸出しの鼻持ちならない嫌な奴デヴォン。
とんでもない嫌がらせのオンパレード。
まあ、そういう役だから仕方ない。
けれど本当に音楽を愛するならば、楽譜を隠すのはダメでしょう! 
普段は意地悪でもそういう時こそ力を貸すのがプロだよ・・・。
プロじゃないのか?



少年合唱団といえばつい「ウィーン」を連想してしまうのは何処も同じようで、
アメリカの合唱団の経営は決して楽ではないという内情も伺えます。
でも、ウィーンにかぎらず、素晴らしい少年たちの声を満喫しました!!

「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」
2014年/アメリカ/103分
監督:フランソワ・ジラール
出演:ダスティン・ホフマン、ギャレット・ウェアリング、キャシー・ベイツ、デブラ・ウィンガー、ジョシュ・ルーカス
美声度★★★★★
少年度★★★★☆
満足度★★★★★

味園ユニバース

2015年09月23日 | 映画(ま行)
石橋は壊して渡れ、一寸先はきっとハッピー



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大阪のとある広場で演奏していたバンド「赤犬」。
そこへ一人の男(渋谷すばる)が乱入し、マイクを奪って突然歌い始めます。
そのパワフルな歌声に観客は圧倒されるのですが、
男はひとしきり歌うとそこへ倒れてしまった。
男が目を覚ますと、そこは赤犬のマネージャー、カスミ(二階堂ふみ)の家。
男に興味を持ったカスミはやむなく彼を家に連れ帰ったのですが、
実は男は記憶喪失で、自分が誰かもわからない。
とりあえず彼を「ポチオ」と呼ぶことにして、ここに住まわせることに・・・。
ポチオは歌うことだけは覚えているようなのです。
そこで赤犬のボーカルに迎えることになりました。
カスミはこの闖入者にはじめは戸惑っていたのですが、
次第に親しみを覚え心を寄せていきます。
しかし、もしポチオが記憶を取り戻して出て行ってしまったらどうしよう・・・
そんな心配も湧いてくるのです。
けれども、ポチオは徐々に記憶を取り戻してゆく・・・。



いやはや、お恥ずかしいですが、
(というか、私くらいの歳なら当然だと思うのですが)
渋谷すばるが何者なのか、私は全然わかっていませんでした。
関ジャニ∞のメンバーだなんて!!
眼光鋭いその風貌とパワフルでナイスな歌声。
全然ジャニーズのイメージではないのですもの・・・! 
いや、良い意味でイメージが違う。
よくありそうなアイドル作品では全然ありません。
そしてまた二階堂ふみさんも、これはイメージ通りですが、
純情可憐なオンナノコなどではなくて、しっかりもののタフな女性。
その彼女が、でもやっぱりちょっぴり乙女心をのぞかせるところがいいのです。



舞台は大阪。
「赤犬」は実際に活動しているバンドなのだそうですが、
洗練はされていませんが、ちょっとアクを感じさせるパワフルさ、
こういう気取らない雰囲気もまたいいですねえ。
ポチオ自身も記憶など取り戻さないほうがよほど幸せのように思えるのです。
けれど、自分が何者なのかもわからないというのは、やはり不安なのでしょう。
自分を取り戻そうと必死なのが、なんとも切ない。



また、赤犬の正ボーカルがまたいいやつなんだなあ・・・。
彼が怪我をしているうちにポチオに座を奪われて、
恨んでいるのではないかと思えたのですが、そうではなく・・・。
非常にあっけらかんと描写されているのですが、彼の行動は賞賛に値します。
作中の曲で
「石橋は壊して渡れ、一寸先はきっとハッピー」
そんな歌詞が妙に気に入ってしまいました!!



味園ユニバース 通常版 [DVD]
渋谷すばる,二階堂ふみ,鈴木紗理奈,川原克己(天竺鼠),赤犬
ギャガ


「味園ユニバース」
2015年/日本103分
監督:山下敦弘
出演:渋谷すばる、二階堂ふみ、鈴木紗理奈、川原克己、松岡依都美

音楽性★★★★☆
満足度★★★★★

「望遠ニッポン見聞録」ヤマザキマリ 

2015年09月22日 | 本(エッセイ)
もっと自己主張しよ!

望遠ニッポン見聞録 (幻冬舎文庫)
ヤマザキ マリ
幻冬舎


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中国大陸の東の海上1500マイルに浮かぶ、小さな島国--ニッポン。
そこは、巨乳とアイドルをこよなく愛し、世界一お尻を清潔に保ち、
とにかく争いが嫌いで我慢強い、幸せな民が暮らす国だった。
海外生活歴十数年の著者が、近くて遠い故郷を、
溢れんばかりの愛と驚くべき冷静さでツッコミまくる、
目からウロコの新ニッポン論。
アッパレ、ニッポン!


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「テルマエ・ロマエ」でお馴染みの漫画家ヤマザキマリさんのエッセイです。
イタリア人のご主人の仕事の関係で、さまざまな国を渡り歩き、
海外生活歴十数年。
観光客としてでなく実際に暮らしてみて初めて分かるそれぞれの国のお国柄、人々の様子。
そんな中で改めて遠い日本を見て思うことが、率直に描かれています。


外から見た日本。
まさにヤマザキマリさんならではの視点です。
著者は海外暮らしの経験のある祖父や音楽家のお母さんがいて、
もともと「外国」へ行くことには全く抵抗がなかったそうなのです。
そこで油絵を学ぶために17歳でイタリアへ渡る。
しかも家からの費用の援助がなにもなかったというのが凄い!!
イタリア生活の長い彼女はこういいます。
イタリア人は議論好き。
とにかく会話では持論を展開したがる。
そのような場でなにも言わず頷いている人は無能と思われる。
・・・こんな話、最近どこかでも読みました。
それはフランス人について書いてあったものだったような。
まあつまり、フランスでもイタリアでも欧米にはそういう傾向がある。
だからヤマザキマリさんも、イタリア語で話すときはつい戦闘態勢的話し方になってしまうのだとか。
帰国子女がこのやり方を身につけて日本の学校へ入った時に、
周りの子供達と軋轢を起こしてしまうという話も聞いたことがありますね。


周りの空気を読んで、自己主張は最低限・・・、
そんな日本人のあり方は奥ゆかしくはあるけれど、
これからのグローバルな社会でほんとうにそれで良いのか、と感じるところでもあります。
東京オリンピックのロゴ問題も、
結局国内で疑惑が渦巻いて、デザイナーさんへのバッシングがひどくなるばかりでしたが、
「なにを言ってるんだ。たまたま似てるかもしれないけど、
これは我が日本が誇る唯一のデザインだ!!」
と声を大にして言い切る人がいても良かったのでは・・・などと思います。
一人の同朋すらも守れない日本の社会(ネットやマスコミの風潮)って、どうなのか・・・。
まあ、それは余談でした。
でも今後ますますグローバル化する世の中で、
あまりにも空気読みに神経をつかうばかりだと
日本が消え入ってしまうような気がします。
何が何でも
「日本はどこの国とも戦争しないし、戦争の手伝いもしない!!」
と言い張ればいいんですよ。

「望遠ニッポン見聞録」ヤマザキマリ 幻冬舎文庫
満足度★★★.5

天空の蜂

2015年09月21日 | 映画(た行)
推進派も反対派も似たような傷を持って反発しあう



* * * * * * * * * *

東野圭吾さんの原作は1995年に発表されたということで
20年も前の作品になります。
私はそれよりもう少し後かもしれませんが、確かに読みました! 
が、例によって内容はほとんど忘れていたので、
全く新鮮な気持ちでみることができて、それはそれでよかった。


映画の舞台も同じく1995年になっています。
というのも、原発をテーマとしている本作、現代を舞台にすると微妙に成り立たなくなってしまうのですね。
当時には当時の原発観が確かにある。
(個人的には昔も今も不要だと思っていますが)



自衛隊用最新大型ヘリコプター「ビッグB」が、
遠隔操作により何者かに奪われてしまいます。
そのヘリは、福井県原子力発電所「新陽」の真上に静止。
犯人「天空の蜂」は、国内すべての原発を停止するよう要求。
従わなければ爆弾を搭載したビッグBをこの「新陽」に落下させるというのです。
ビッグBを開発した設計士湯原(江口洋介)と
新陽の設計士三島(本木雅弘)は、
この事態になんとか対処しようと力を尽くしますが・・・



とにかくのらりくらりと自分の保身ばかりを考える政治家。
対して気骨のある現場の技術者。
そんな様子は昔も今も同じなのかもしれません。
しかし本作の構造はもう一捻り。
なかなかやられますね。
原発の推進派も反対派も、似たような傷を持って反発しあう。
この泥沼のような様相が、今は多少異なっています。
が、なおまた再稼働してしまうというのがこれまた理解できないんですけど・・・。



本作のもう一つのスリルは、なんと湯原の息子がそのビッグBに乗っていた!
というところなのです。
これでは何が何でも墜落させる訳にはいかない。
しかし、その無人のヘリからどうやってその子を救い出すのか、
というのが第一の難問。
そして、その問題が片付いたらいよいよ、どうやって新陽を守るのか・・・!



忙しいことを理由に息子ときちんと向き合うことができなかった湯原が、
息子を守ることをきっかけとして、どんどんタフになっていく。
最後の最後まで諦めない。
なんとも小気味いいです。
また、事件と戦っているのは技術者だけではない。
犯人を特定するため、原発推進の反対者名簿を虱潰しに当たる刑事。
原発内に犯人の内通者がいると睨んで捜査にあたる警察。
それぞれが持てる知識を総動員し、最後の最後まで粘り抜く。
これはそういう物語でもあるのです。
すべてビッグBが燃料切れで墜落する8時間以内の出来事です。
まさに長い一日。



私が最もぐっと来たのは、最後の最後、
ナイフを持った犯人(綾野剛)を手錠で自分と繋いでしまう刑事。
そしてまた、その手錠から逃れるために犯人のとった行動。
うう・・、凄かった。
私はヘリからの落下シーンよりこっちのほうが怖かった。
綾野剛さんの、このようなやさぐれた役というのがまた決まってます。
本木雅弘さんも良かったー!
日本のパニックものも捨てたものではない。
堪能しました。



ラストが2011年というのがまた泣かせます。
ここにこそ、本作が原作が書かれてから20年後に映画化された意味がありそうです。
向井理さんの出番がそこだけというのが、いかにも残念でしたけれど。

「天空の蜂」
2015年/日本/138分
監督:堤幸彦
出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、柄本明

日本の大問題「10年後」を考えるー「本と新聞の大学」講義録

2015年09月19日 | 本(解説)
悲惨な見通しを受け止めよ!

日本の大問題 「10年後」を考える ─「本と新聞の大学」講義録 (集英社新書)
一色 清,姜尚中,佐藤 優,上 昌広,堤 未果,宮台 真司,大澤 真幸,上野 千鶴子
集英社


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いずれ劣らぬ論客たちが、この先10年に日本が直面するさまざまな課題を明らかにする講義録。
反知性主義、医療問題、グローバル化
、教育問題、超高齢化、格差社会、ナショナリズム
…国家の有り様を根幹から揺るがしかねない重要なテーマについて、
それぞれの知見を駆使して大胆に予測。「
劣化」しつつあるという日本の未来に、リアルにして斬新な処方箋を提示する。
朝日新聞社と集英社の協力による連続講座「本と新聞の大学」第3期の書籍化。


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内田樹さんが、
「現政権は株式会社化しており、目先の利益ばかりを優先し、将来のことを何も考えていない」
とおっしゃっていたので、
よし、ではその10年後のことを考えてみようと手にとったのがこの本。
それぞれの分野に詳しい方々の講座をまとめたもの。
非常にわかりやすいです。
しかし、その内容は非常に厳しい・・・。
もしかするとあまりにも問題山積みなので、
安倍首相は怖くて考えられないのではないかなどと勘ぐってしまうくらいに、厳しい。


はじめに佐藤優氏のいう「反知性主義」というのを私はよく知っていなかったのですが、
「実証性や客観性を軽視、もしくは無視し、自分が欲する様に世界を理解する態度」
とのことで、
集団的自衛権を憲法解釈の変更で認めさせようとすることや
特定機密保護法を制定することもこの流れだと。
そしてまた現在の教育が、このような「反知性主義」に向かった
右肩下がりの状況になりつつあるということ・・・。


大澤真幸さんは2020年の東京オリンピックをこんなふうに言っています。
日本は今タイタニック号のようなものだ。
30分後にはタイタニック号が沈むことがわかっているのに、外に出ても酷寒の海。
だから30分後に死ぬことがわかっていても船にしがみついている。
そんな時に人は幻を見る。
ずっと遠くを見ると何か船があるように見える。
ああ・・助けに来てくれた。
けれどそれは幻の幽霊船である。
つまり今の日本にとっての東京オリンピックはその幽霊船のようなもので、
つまりオリンピックがあるんだからそれまではなんとかなる。
あるいは東京オリンピックでなんとかなるという幻想を見ている・・・。
手厳しい。
しかし昨今の東京五輪に関するいろいろなゴタゴタで、
早くもその幻想は崩れてきているように、私には思えます。
なんともつかの間の幻想でした・・・。


私くらいの年齢の者にとってなんとも他人事ではないのが
上野千鶴子さんの「2025年の介護:お一人さま時代の老い方・死に方」
今は「死ぬのは病院で」という認識が常識だけれども、
今後は自宅で死ぬようになるだろう、と。
病院も、介護施設も決定的に不足するのです。
少子高齢化で家族の介護も期待できない。
だから自宅で巡回介護サービスを受けつつ死を待つという体制になるわけですね。
「ピンピンコロリを希望しても高齢者は突然死は無理だと考えよ。」
一見寂しいことのようにも聞こえますが、
施設でなくあくまでも自宅で、お一人様の死。
読んでいるうちに何だかそれも悪くないような気がしてきました。
ローンを長年払って家族との思い出もある住み慣れた我が家。
そこで死ねるならそのほうがいいなあ・・・。
何一つ自分の持ち物のない病院の、
ましては相部屋の喧騒の中で死んだりするよりは・・・。


何かと悲惨な見通しばかりではありますが、問題点がわかれば解決策も浮かぶもの。
だから、最悪の事態にならないように、きちんと対策を立てておく。
そこが重要です。
この本も、安倍晋三氏はしっかりと読むべきですね。
反知性主義者では無駄か・・・?

日本の大問題「10年後」を考えるー「本と新聞の大学」講義録 集英社新書
満足度★★★★☆

MAMA

2015年09月18日 | 映画(ま行)
森の奥の一軒家で、子供たちを育てたMAMAとは・・・!



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珍しくホラーなのですが、本作はニコライ・コスター・ワルドウ見たさで見ました。


精神を病み、共同経営者と妻を殺害したジェフリー(ニコライ・コスター=ワルドウ)。
3歳ヴィクトリアと1歳リリー、二人の娘を連れ出して逃走。
森の中の小屋で彼女たちを手に掛けようとするのですが、
小屋に潜んでいた怪しい影に殺されてしまいます。
えー!!せっかく出てきたニコライ・コスター=ワルドウの出番がこれだけ!?
と思ったのですが、いやしかし、大丈夫。
その直後にジェフリーの弟ルーカスとして再登場します。
5年後、行方不明のままの兄と子供たちを探し続けていたルーカスが、
森の奥の小屋で子供たちが二人だけで生き延びていたのを発見。
まだ幼かった子供たちは人との関わりも忘れ、
ほとんど野獣のようになっていたのですが・・・。
ルーカスは姪を引き取り、恋人のアナベルと共に共同生活を始めますが・・・。



彼女たちには何かがついてきたようなのです。
そもそもこんな幼い子供たちがどうやって5年をも生き延びてきたのでしょう。

彼女らを育ててきたMAMAとは・・・?
母親の、行きどころのない子への思いが生んだ悲しい物語なのでした。



でも本作、そのニコライ・コスター=ワルドウが奮闘して魔物と闘う物語と思ったら、
むしろその恋人アナベル(ジェシカ・チャステイン)が奮闘する物語だったんですね。

さすが昨今は女性のほうが強い!! 
いや、母性愛がテーマだから、どうしてもそうなりますか。
子供たちが人里から離れたのが3歳と1歳ということも
後ほど重要な意味が出てきます。
なかなか興味深い作品でした。



MAMA [DVD]
ジェシカ・チャステイン,ニコライ・コスター=ワルドー,ミーガン・シャルパンティエ,イザベル・ネリッセ,ダニエル・カッシュ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「MAMA」
監督:アンドレス・ムシェッティ
製作総指揮:ギレルモ・デル・トロ
出演:ジェシカ・チャステイン、ニコライ・コスター=ワルドウ、ミーガン・シャルパンティエ、イザベル・ネリッセ、ダニエル・カッシュ

恐怖度★★★☆☆
哀愁度★★★☆☆
満足度★★★.5

キングスマン

2015年09月17日 | 映画(か行)
徹底的にエンタテイメント



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スパイアクションといっても本作、徹底的にエンタテイメントです。
ヒリヒリした政治性はなし。
生死をかけたハラハラドキドキはもちろんあります。
というかキョーレツな修羅場がどっさり。
けれどそこはあえてフィクションを強調したかのように、
例えば人の頭が破裂するシーンなどはまるで花火のよう。
ここまでになると過度な残虐性ももう笑うしかありません。



表向きは高級スーツ店。
しかし実は世界最強のスパイ組織、「キングスマン」への出入り口なのであります。
さて、その組織の一員が謎の組織に殺害されてしまいます。
その欠員を補充するため、
ベテラン要員のハリー(コリン・ファース)は、
かつての命の恩人の息子エグジー(タロン・エガートン)を候補としてスカウト。
新人候補として集められた数人のうち、選ばれるのは一人のみ。
命がけの厳しい訓練と試験の日々が始まります。
一方ハリーは、頻発する科学者失踪に絡む謎の人物、
ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)の調査を開始します。
彼はなんと前代未聞の人類抹殺計画を実行しようとしているのでした!!



「キングスマン」は、どこの国にも属さない独自の“正義”の組織。
ここの諜報員になるための試練というのが並大抵じゃない。
まずいきなり水攻めですからね! 
この撮影が、俳優さんたちはもちろんスタッフにとっても
一番大変だったそうですが・・。
見ている方も、とにかく度肝を抜かれました・・・。



ナイフを仕込んだ靴、銃にもなるし防弾用具にもなる傘、
色々な仕組みのある指輪やら万年筆やらライターやら。
非常に古典的なスパイ映画にオマージュを捧げているのも楽しい! 
54歳コリン・ファースがアクションに挑むというのも驚きですが、
さすがに高級スーツが決まっていて、なんともカッコイイ~。
予告編にも登場する、酒場でチンピラとやり合うシーンがもう、たまりません。
が、後々このシーンがまた別人によって繰り返されるところでまたニヤリ。
なんともイカした演出です。



ヴァレンタインの主張、
「人類は地球を滅ぼす病原体だ。地球を救うために大部分の人間を抹消しなければならない。」
というのも、変な「世界征服」より説得力はありますよね。
その用心棒役のガゼルという女性がまたキョーレツ!!
というわけで、実際全く退屈しないインパクトの強い作品なのでした。
しかし、若干“キングスマン”の特権階級意識が鼻につく。
エグジーのような下層の出身がスカウトされるのも異例という・・・
なんという格差社会。
その金持ちに見出されて、しっぽを振って意のままに動くというのは
なんだか悔しいぞ!
同じく高級スーツに身を包む必要がほんとうにあるのか???
いっそ、パンクスタイルでやって欲しいです。



ところで、キングスマンの登用試験の最終試験が、
自ら世話をしていた犬を殺すこと。
これ、福井晴敏のパクリではないでしょうか? 
それとも、元ネタはまた別なところにあるのでしょうか???

「キングスマン」
2014年/イギリス/129分
監督:マシュー・ボーン
出演:コリン・ファース、マイケル・ケイン、タロン・エガートン、マーク・ストロング、サミュエル・L・ジャクソン

キメッ決め度★★★★★
満足度★★★★☆

KANO 1931海の向こうの甲子園

2015年09月15日 | 映画(か行)
台湾で、野球にかけた青春



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実話に基づく台湾作品。
知られざる熱き物語です。

1929年、日本統治下の台湾。
嘉義農林学校(通称嘉農)の弱小野球部に
日本人近藤(永瀬正敏)が監督として就任します。
近藤は「甲子園を目指す」という目標のもと、
生徒たちに厳しい練習を課します。
近藤は日本で野球監督をしていたのですが、うまく行かず、
その道を絶つ形で台湾に渡ってきていたのです。
彼は、めちゃくちゃだけれどパワフルで天真爛漫な子供たちの何かに
動かされたようでもありました。

その野球部は日本人と漢人、そして台湾原住民の混合チーム。
これが意外とそれぞれの民族の特性を活かして良い構成になっているのです。
厳しい練習に耐えた彼らはメキメキと力をつけて、
31年には台湾予選大会で優勝。
ついに目標の甲子園の土を踏みます。
そしてそこでも次々と勝ち続けてついに決勝戦!!
2回戦で対戦したのが、札幌商業で、
そこのピッチャーが本作の紹介役のような役割で登場するのが、
北海道民としてはちょっとウレシイところ。


太平洋戦争前夜の社会は、
なんだか人々が皆パワーにあふれて感じられます。
台湾では日本語教育がなされていて、
台湾作品でありながらほとんどが日本語。
実際は現地の方には鬱屈した思いもあったのだろうと思うのですが、
本作をみる限りは、生徒たちの中には民族の壁も偏見もなし。
そしてまた、本筋とは関係はないのですが、
水利技術者八田與一(大沢たかお)が登場。

彼はダムを作り、台湾でも、今も知らない人はいないくらいに敬愛されていた人物だそうです。
日本統治下・・・などと聞くと
暗く抑圧された状態ばかりがイメージされてしまうのですが、
現地の人々にとって悪いことばかりではなかったようなのが、
なんだか救われる感じがします。



本作では、甲子園に来た彼らに、
一人の新聞記者が心ない言葉を投げつけるシーンがあるだけで、
特別差別的なことは描かれていません。
だからこそ本作、3民族の融和などというテーマ性は殆ど無くて、
単純に野球に青春をかけた熱き若者たちの物語に仕上がっているところが、
素直に心に響いてきます。



作中、農業の教師が「大きくて立派なパパイヤの実らせ方」を
子供たちに説くところがあります。
根もとに釘を打つと大きく立派な実をつけるという。
そうすると近くに植えた釘を打たない木も大きく立派な実をつける・・・。
なにそれ?! 
若干微妙な挿話に思えたのですが、
その意味が最後の決勝戦でよーくわかりました!
185分という大作。
でも全然長く感じなかった、感動の物語。
松坂桃李さん似のツァオ・ヨウニンくんもカッコ良かった。



KANO~1931 海の向こうの甲子園~ [DVD]
ウェイ・ダーション,チェン・チャウェイ
アニプレックス


「KANO 1931海の向こうの甲子園」
2014年/台湾/185分
監督:マー・ジーシアン
出演:永瀬正敏、坂井真紀、大沢たかお、伊川藤東吾、ツァオ・ヨウニン
熱血度★★★★★
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★

ブラック・シー

2015年09月14日 | 映画(は行)
海底の密室。緊迫感が続く。



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本作、さほど話題には上がっていなくて、
私もジュード・ロウ主演でなければ見なかっただろうと思えるのですが、
それがあなた、意外と面白かったのです。


潜水艦を舞台とするサスペンス・アクションです。
海洋サルベージの専門家として潜水艦で長年働いてきたロビンソン(ジュード・ロウ)は、
突然会社から解雇を言い渡されます。
失業し途方に暮れているロビンソンに、ある情報が舞い込みます。
第二次世界大戦中、莫大な金塊を積んだドイツのUボートが
グルジア沖で沈没し、未だに深海に眠っているというのです。

ロビンソンはディーゼルエンジンのおんぼろロシア製潜水艦を使い、
ロシア人・イギリス人の荒くれ男12人で急ごしらえのチームを結成し、
金塊獲得に挑むことに。

しかしいずれも食い詰めた一癖も二癖もあるメンバーたち。
儲けは平等に山分けとの話に、
人数が減れば一人分の分前が増えるなどと考えるものが出始める・・・。
そしてまた、ようやく金塊を見つけはしたものの、
艦の運航が危機的状況に・・・。



何しろ、異様な緊張状態がずっと続きます。
潜水艦というのはもう、逃げ場のない密室なので、ただでさえ怖いですよね。
しかもものすごい年代物なんでいつ故障しもおかしくない。
その上、人物関係がまた異常な緊張感をはらんでコワイ、コワイ・・・。
しかし、金塊と命を秤にかければ、やっぱり命のほうが大事。



通常、主役で艦長という役割が振られていれば、
真っ先に金塊を捨て、生命維持を優先するのではないでしょうか。
ところがこのロビンソン、
別れた妻が連れて行った息子を取り戻すために何としてもお金が欲しかったのです。
だから、かなり無理をしてしまった・・・。
幾つか、生還のための選択肢があるのですが、
その都度彼は金塊の方を優先してしまうのです。

でもそんな彼にも歯止めがあります。
それは18歳のトビン(ボビー・スコフィールド)という唯一若いメンバーがいること。
彼は潜水艦乗りとしては全くのド素人だったのですが、
とにかく急場で人員が必要だったため、
つい思いつきのように仲間に加えてしまったのです。
18歳というのが保護意欲を持つのにぎりぎりくらいの年齢ですよね。
それより年下ならばそもそも潜水艦のメンバーは無理。
それ以上なら一人の大人として自分の身は自分でなんとかしろ、ということになる。
自分とほかの奴らはともかく、トビンだけはなんとか無事に返したい、
ロビンソンにはそんな思いもあるわけです。

そしてまた実際むくつけきオジサンたちばかりなので、
私たちは若いトビンについ感情移入してしまう。
そういうところで本作は人員配置が非常にうまくできているのです。
そしてまたラストがいい。
ハッピーエンドではないのですよ。
でも、このラストこそにジュード・ロウを充てた意味があるような・・・。
エンディングロールも余韻をかみしめ、立ち上がる気には全然なりません。



さて、それにしても、ジュード・ロウのこういう役は珍しい。
薄くなった頭髪を惜しげもなくさらし、
肉体労働者らしく体重もかなり増やしたそうですが、
確かにがっしりしている。
タフなジュード・ロウ。
全然イメージダウンではありません。
これもまた悪くないなあ・・・。
ブラック・シーはその名の通り「黒海」のことですが、いかにも不吉な感じ。
まさにぴったりでした。

「ブラック・シー」
2014年/イギリス・ロシア/115分
監督:ケビン・マクドナルド
出演:ジュード・ロウ、スクート・マクネイリー、ベン・メンデルソーン、デビッド・スレルフォール、ボビー・スコフィールド

緊迫度★★★★★
ジュード・ロウの魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

「街場の戦争論」 内田樹 

2015年09月13日 | 本(解説)
襟を正してして読むべし!!

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)
内田樹
ミシマ社


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改憲、特定秘密保護法、集団的自衛権、グローバリズム、就職活動…。
「みんながいつも同じ枠組みで賛否を論じていること」を別の視座から見ると、
まったく別の景色が見えてくる!
現代の窒息感を解放する全国民必読の快著。


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本巻の帯の言葉。
安倍政権の暴走を止める!
「戦争のできる国」にしないための「想像力の使い方」。
全国民必読のベストセラー。


まさしく・・・、
もはや手遅れなのかもしれないけれど、今読むべき本だと思います。


曰く・・・・・・・・・・・

今の日本は主権国家ではない、アメリカの従属国だ。
しかし従属国家があたかも主権国家であるようにふるまっている。
不愉快な現実に直面したくないので、目を閉じて思考停止している。

・・・・・・・・・・・・・

アメリカの国益を損なう人間は日本の国益を損なう売国奴だ
という奇妙なロジックが横行している。

・・・・・・・・・・・・・


日本はもう、主権を回復すべきではないのか???
しかるに、あの方は未だに、アメリカのために日本が戦いに参加できるようにしようとヤッキになっています。
なんのためにそれほどまでにアメリカの「お気に入り」でいようとするのか、
私には理解できません。


そしてまた、先に読んだ「最終講義」の中でも触れていましたが、
今の日本政治は株式会社化しているというのです。
民主制も立憲主義も意思決定を遅らせるためのシステム。
だから効率を目指す人々にとっては「無駄なもの」。
未だに安倍政権が高い支持を得ているのは
「民主制や利権主義を守っていると経済成長できないから、そんなもの要らない」
と思っている人がいるから。


目先の効率や利益ばかりを追う「株式会社」は、
本来それが目的だからそれでいいし、短期で潰れることも充分ある。
でも国家はそれではダメなんですね。
とにかく存続することが本来の目的なのに、
今の政権は長期的視野が全く無い。


とにかく手厳しい意見満載ですが、いちいち納得できてしまい、
そしてこのまま今の政権が続くとしたら日本はどうなってしまうのか、
恐ろしくてなりません。
少しでも多くの方にこの本を読んで欲しいと切に思います。
いえ、真っ先に読んで欲しいのは当の安倍晋三氏なんですけどね・・・。

「街場の戦争論」内田樹 ミシマ社

満足度・・・というより説得力★★★★★

さよなら歌舞伎町

2015年09月11日 | 映画(さ行)
サエない自分のままでもいい



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歌舞伎町のラブホテルにまつわる5組の男女の一日を描きます。


徹(染谷将太)は、このしがないラブホテルの店長。
しかしその日、彼の妹がAV女優として撮影の一行と共に現れる。
そしてまた、一緒に暮らしている沙那(前田敦子)が、
見知らぬ男とともに客として現れる。
動揺を隠せない徹だが・・・。



時効が直前に迫っている逃亡カップル。


韓国人デリヘル嬢とその恋人。


風俗スカウトマンと家出少女。


不倫中の刑事カップル。


微妙に交差しながら語られるそれぞれの人生の片鱗。
共通していえるのはこの表題で分かる通り、
彼らは皆この猥雑な町、歌舞伎町の一夜、あるいはこの数年の生活から
去ることになるというところです。


徹は、本当の自分はこんなラブホテルではなくて、
一流ホテルに勤めるべき人間だと思っています。
いわば底辺にいながら、これは、本来の自分ではないと思っている。
でもそれは彼だけではなく、登場人物皆に当てはまることなんですね。
では皆がこの生活を捨て、本来の自分を見つけるためにここを去るのかといえば、
そういうわけでもないのです。
おそらく何処へ行ってもそう変わりはないのだろう。
だけれども、サエない自分のままで何とか生きている、
そんな人々の姿を見ていたら、
そう多くは望まない、そんなに大それた夢は持たない、
だけれどもほんのちょっぴり希望を持って一歩踏み出して行こう。
ラストには、なんだかそういった優しい気持ちに包まれていることに気付きます。


私はデリヘル嬢のヘナが好きでした。
そして彼女の仕事を知ってしまったチョンスの行動も。
悪いけど本作の主役は染谷&前田ではなくて、
この2人のように思えました。

さよなら歌舞伎町 スペシャル・エディション [DVD]
染谷将太,前田敦子,イ・ウンウ ロイ,樋井明日香,我妻三輪子
Happinet(SB)(D)


「さよなら歌舞伎町」

2014年/日本/135分
監督:廣木隆一
出演:染谷将太、前田敦子、イ・ウヌ、ロイ、大森南朋、田口トモロヲ

それぞれの人生度★★★★☆
猥雑さ★★★☆☆
満足度★★★.5