映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

エリート・スクワッド

2014年05月30日 | 映画(あ行)
秩序があるとは言いがたい国で・・・


* * * * * * * * * *

自分でレンタル予約をしておきながら、
果たしてどうしてこれを見ようと思ったのだったか、
記憶していいないことがたまにあります。
本作もそんな作品の一つですが・・・
ベルリン国際映画賞金熊賞受賞作ですか。
まあ、そんなところでしょう。
これがブラジル作品ということで、なかなか異色です。


ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのスラム街。
武器で武装した麻薬のディーラーたちが取り仕切る大変危険な場所。
しかし、それを取り締まるべき警察が腐敗しきり、
権力を傘にギャングからうまい汁を吸ったりして、
ギャング以上に厄介な存在に成り果てている。
たまに正義感にもえた警察官がいると、
そこはたいへん生きにくい世界だったりするわけです。
新任のネトとマチアスもそんなやる気に満ちた警官です。
さてしかし、その警察内にエリート特殊部隊BOPE(ボップ)がある。
彼らこそは腐敗を憎み非常に過酷な入隊試験をパスした屈強な者達の集団。
その隊長ナシメントは、しかし妻の妊娠を機に引退を考えています。
あまりにも過酷で危険な任務が重く感じられてきた。
そんな折、ローマ法王の来訪に伴い、
スラム街の麻薬密売組織掃討を命じられ、BOPEが動き出す・・・。
BOPE入隊を果たしたネトとマチアスは・・・。


ここに描かれる社会が凄まじいですね。
BOPEとギャングたちの抗争は既に“戦争”です。
相手が武器を構える以上、こちらも武装せずには何もできない。
逮捕とか裁判とか、そんな制度が存在しないかのように、
敵はその場で即射殺です。
そうしてまで腐った部分を切り捨てなければ、
正常な社会を維持できないという・・・
恐るべき世情にただただ唖然とさせられました。


そういう意味で、ものすごく力のある作品だと思います。
でもこれは単にそういう荒くれたバイオレンス作品なのではありません。
ナシメントが非情に徹するあまり自分を保てなくなったりする、
そのストレス。
抗争に巻き込まれたようにして死んだ「息子の遺体を探して欲しい」と訴える母親の言葉に、
返す言葉がありません。
自分もまた一人の子どもの父親になろうとしている時なのでなおさらに。


肉体も精神も極めて屈強。
そんな男たちでさえ出会う心の動揺が描かれているところが秀逸です。


それにしても、まもなく始まるブラジルのサッカーワールドカップ。
本当にこの国で大丈夫なのか・・・?
などと、にわかに不安になってくるのでありました・・・

エリート・スクワッド [DVD]
ヴァグネル・モーラ,アンドレ・ラミロ,カイオ・ジュンケラ,ミルヘム・コルタス,フェルナンダ・マシャード
トランスフォーマー


「エリート・スクワッド」
2007年/ブラジル/115分
監督:ジョゼ・パジャーリャ
出演:バグネル・モーラ、アンドレ・ハミロ、カイオ・ジュンケラ、ミリュム・コルタス
警察の腐敗度★★★★★
満足度★★★★☆

マグノリア

2014年05月29日 | 映画(ま行)
天気予報でも予測不能



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本作、公開時に劇場で見たのですが・・・1999年作品?
もう15年も前になるんですね・・・。
3時間の長さで、作中のクイズ少年と同じく、
トイレに行きたくて耐えられなかった記憶が・・・。
ラストの驚愕的出来事のほかは、なんだかたいくつだった記憶ばかりがあり、
今回見なおしてみました。


ロス郊外に住む男女12人の24時間を描く群像劇です。


病でイマワの際にあるテレビの大物プロデューサー。
その若き妻(ジュリアン・ムーア)。
彼が昔捨てた息子(=人気上昇中のSEX伝道師)(トム・クルーズ)
その看護人(フィリップ・シーモア・ホフマン!)

ガンを宣告されたクイズ番組の司会者。
彼を憎む娘。
その彼女に一目惚れをする警官。

クイズ番組で活躍する天才少年。
かつてクイズ番組で活躍した天才少年→今はダメ男


老若男女、一応は成功者と呼ばれる人から、落ちこぼれのダメ男まで・・・、
立場はそれぞれですが、
みな心の底に深い鬱屈や後悔を抱え込んでいます。
特に、死を目前にした男性二人は、
もはや取り返しがつかない人生の汚点に悩んでいる。
終盤、インターバルのように流れるメロディがいいですね。
登場人物たちが皆その歌を口ずさんでいる。
それぞれが後悔をしつくし、考えも煮詰まったそんな時・・・!


途中何度か挿入される気象情報でも予測できなかった、
とんでもないものが降り注ぎます!!


通常は考えられない出来事。
そんなことが起こることもある。
人生の今の苦境は、過去の自分が行ったことの結果で、
どうしようもないことなのだけれど・・・、
だけどこんなとんでもないことが起こったりするのもまた人生だ。
くよくよ悩んでいたってしかたない・・・と、
そんな気にさせられるわけです。
当初見た時にも感じたのですが、意外なものが降ってきた、
それは心理的に彼・彼女らに大きな働きかけをするのですが、
直接的・具体的にどうということではないんですね。
そんなところがちょっと物足りない気がします。


そして、やっぱり長すぎでした・・・。

マグノリア<DTS EDITION> [DVD]
ポール・トーマス・アンダーソン
日本ヘラルド映画(PCH)


「マグノリア」
1999年/アメリカ/187分
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、ジョン・C・ライリー、ジュリアン・ムーア、フィリップ・シーモア・ホフマン、フェリシティ・ハフマン、アルフレッド・モリーナ

意外性★★★★☆
満足度★★★☆☆

ブルージャスミン

2014年05月28日 | 映画(は行)
はじめは嫌悪しか感じないが・・・



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軽妙なロマンチックコメディの名手ウッディ・アレン監督。
私はどちらかと言えば、さほどのファンではなく、積極的には見ないのです。
でも本作、何しろケイト・ブランシェットが第86回アカデミー賞主演女優賞を獲得した作品ということで、
やはり見なくては!という気持ちに駆られました。
でも本作は“軽妙”というのとは少し風合いが異なります。



ニューヨークの資産家ハル(アレック・ボールドウィン)と結婚したジャスミン(ケイト・ブランシェット)は、
セレブリティとしてゴージャスな生活を送っていました。
しかし、結婚生活と共に地位も資産も失い、
サンフランシスコの妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)の家へ身を寄せることになります。
ジンジャーは全く庶民的生活をしているシングルマザー。
ジャスミンはセレブな生活意識から抜けることができず、
再び華やかな世界へ返り咲こうとするのですが・・・。



ジャスミンというのは本名でなく、本当はジャネットというのです。
そういうありふれた名前でなく、
少しでも自分を素敵に見せたいという虚栄心のカタマリの彼女。
この名前にすべてが現れています。
もともと彼女は自分で働いたことがありません。
お金持ちの妻ということだけで、
自分自身が他の人よりも『上』であるかのような・・・、
そんな鼻持ちならない彼女に、始めのうちは嫌悪しか感じません。


彼女は、妹が結婚を考えている相手(作業員)を、つまらない男と見下す。
地道に働いて、時々みなで集まって野球を見ながら飲んで騒いで
・・・いいと思うんですけどねえ。
彼女の価値観ではこういうのは「くだらない」わけなのです。
しかし、こんななにもできなくてプライドばかり高い彼女に
いったい何ができるでしょう。
気持ちばかりが高じて、どうにもならなく、
次第に精神の変調をきたしていく始末。
しかし、“人物”よりも人物の後ろにある“お金”でしか人の価値を測れない彼女の道は、
やはり一つしかない・・・。



ただひたすら、嘘をつき、もがき続ける彼女の姿が、
逆に次第に愛おしく感じられて来ます。
気の毒・・・というのとも違う。
もっと身の丈にあった幸せを見つけようと思えばいくらでもあるのに、
手の届かない夢ばかりを追いかける、
そんな彼女の姿は、実は自分の中にもあるわけなのです。
求める方向性は全く感心できないけれども、
やっぱり普通にちっぽけで悲しい人間。
そして最後にわかる驚きの真実。
彼女は多分自分の行為の非を認めたくないのでしょう。
自分がまたセレブに返り咲くことで
自分の行為を正当化しようとしているように思える。
本人にそういう自覚はないのかもしれませんが。
悲しいほどに、もがき続ける“憂鬱なジャスミン”・・・。
なんだか彼女を見つめる目が優しくなっていく自分に気づきます。
これこそがウッディ・アレンのマジックなのかな?
なかなか興味深い作品なのでした。
主演女優賞には納得。

「ブルージャスミン」
2013年/アメリカ/98分
出演:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ルイス・C・K

女のみっともなさ★★★★★
満足度★★★★☆

ザ・コール 緊急通報司令室

2014年05月26日 | 映画(さ行)
ドキ!ドキ!



* * * * * * * * * *

緊急通報911番。
ジョーダン(ハル・ベリー)はそのオペレーターです。
以前自分のミスから、不法侵入の通報をした少女を死なせてしまったと悔いており、
新人の指導にあたっていました。
そんな時に彼女は、
誘拐され車のトランクから911通報をした少女ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)の通話を受けます。



ずっと現在進行形なんですよね。
ジョーダンは少女を落ち着かせ勇気づけながら、
彼女の居場所を何とか探ろうとします。
彼女が使っているプリペイド携帯にはGPS機能がついていない。
犯人の様子は?
車の状況は? 
ケイシーの声だけが頼りです。 
時にはケイシーの悲鳴を聞き絶望感に打ちのめされながらも、
以前のような後悔をしたくない、絶対に救い出す
という強い心で事態に対処しようとします。
しかし、もう少しというところまでこぎつけながら、
連絡は途絶えてしまいます。

次第に夜は更けて、犯人の心の闇の世界へ入り込めば、
状況はサスペンスからサイコ・サスペンスへと移り変わっていきます。
ジョーダンも司令室を出て、危険な行動に踏み出していく。



なにしろ異常に緊迫し、恐怖に満ちたシーンの連続。
こんなに本当にドキドキしっぱなしの作品も珍しい。
しかし、ラストがまた予想外!で、
そうか、彼女は警官ではないのだからこういうこともありなのか、
と唖然とさせられるのです。
女をもてあそぶ男性たちよ。
女の怨嗟の怖さを見よ。




94分とコンパクトな中にぎっしりサスペンスを詰め込んだ良作。

緊迫度★★★★★
満足度★★★★☆

ザ・コール 緊急通報指令室 [DVD]
ハル・ベリー,アビゲイル・ブレスリン,モリス・チェスナット,マイケル・エクランド,マイケル・インペリオリ
ポニーキャニオン



「ザ・コール 緊急通報司令室」
2013年/アメリカ/94分
監督:ブラッド・アンダーソン
出演:ハル・ベリー、アビゲイル・ブレスリン、モリス・チェスナット、マイケル・エクランド、マイケル・インペリオリ

「信長協奏曲 10」 石井あゆみ 

2014年05月25日 | コミックス
祝 アニメ化&TVドラマ化&映画化!!!

信長協奏曲 10 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
石井 あゆみ
小学館


* * * * * * * * * *

本巻の帯を見て驚いてしまいました。
フジテレビ開局55周年プロジェクトとして、
本作がTVアニメ、TVドラマ、そして実写映画となる同時企画。
なんとも喜ばしいことです。
・・・が、こんな面白いものは、密かに独り占めしていたかった
・・・などという身勝手な思いも、チョッピリ抱いております。
実写版のサブロー役は、小栗旬さんということです。
・・・ははあ、なるほど。
なんとなくイメージはあってますね。


そんなわけで、ますます期待の高まる、本作。
10巻目。
織田家に信長の妹、おイッチャンとその3人の娘たちが戻ってきたところです。
相変わらず、おイッチャンは誰よりもサブロー信長が大好き。
ブラコンすぎるところが難点だなあ・・・と、
悩めるサブロー。


一方、森蘭丸くんが、ミッチーこと明智光秀(=本物の織田信長)の素顔を見てしまいます。
サブロー信長とウリ2つの顔を・・・。
そうして、今に光秀が信長を殺して、入れ替わってしまうのではないかと、
密かに恐れ始めます。


このおイッチャンと蘭丸くんのことが、
今後のストーリーに微妙に影を落としていくのではないか・・・と思うのですが、
まあ、注目していきましょう。
そんなこんなのうちに、対武田勝頼、「長篠の闘い」へ突入していきます。
なんだかこの辺りになると、さすがのサブローも貫禄が出てきますね。
相変わらず歴史オンチで、
「でえと」とか、「リフティング」などと言って、
周りの者達を戸惑わせたりもしますが、
しっかりとしたリーダーシップで、人望も熱い。
感情の起伏が激しくて癇癪持ちで、決して部下にはつきたくない・・・というような
一般的信長の印象とはちょっと違います。
本作には黒田官兵衛は出てこないのかなあ・・・? 
ちょっとでいいから、出てきて欲しいですが、時期的にはもっと後ですね。


さてさて、テレビドラマついでながら、
2年後のNHKの大河ドラマが真田幸村に決まったそうで、これがまたウレシイ!
・・・大ファンなもので。
ドラマ誘致活動を続けていた上田市の皆様も
さぞかしお喜びのことと思います。
しかも脚本が三谷幸喜。
う~ん、来年をすっ飛ばして、早く「真田丸」が見たーい!!

「信長協奏曲 10」石井あゆみ ゲッサン少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆

チョコレートドーナツ

2014年05月24日 | 映画(た行)
マイノリティが寄り添って・・・



* * * * * * * * * *

1970年代アメリカの実話を元にしています。
同性愛に対して差別と偏見がまだまだ根強かった時代。
ショーダンサーで日銭を稼いでいたルディ(アラン・カミング)。
カリフォルニアで歌手になるのが夢です。
そして、正義感に萌え、世の中を変えたいと思い弁護士になったポール(ギャレット・ディラハント)。
この二人が好意を持ち付き合い始めますが、
その矢先、母の愛を受けずに育ったダウン症の少年マルコ(アイザック・レイバ)と共に暮らすことになります。
世間からは差別と偏見の目で見られるマイノリティの3人ですが、
寄り添い、慈しみ合ってささやかな幸せの日々を過ごしていました。
しかし、それもほんの一時。
ルディとポールがゲイのカップルであるということで、
マルコを奪われてしまうのです。



自由と平等の国アメリカで、
ゲイであることが原因で子供の親権が得られないというのが信じられません。
そのことが「子どもの教育に悪い」というのですね。
最も公正であるべき裁判の場でこの始末。
しかし、実の母は薬物使用で逮捕されているのです。
ほとんど育児放棄、というよりもむしろ児童虐待の向きさえある母親のほうが、
より親としてふさわしいだなんて・・・。



ポールはゲイであることが知られ、職を失ってしまいながらも、
マルコを守ろうとします。
そこまでしてマルコを守りたいという気持ちをなぜ汲み取ってもらえないのか・・・。
嘆いても仕方がない。
そんな時代なのです。


いつまでたっても国家紛争はなくならず、貧富の差もなくならない。
そんなしようもない世の中だけど、
少しづつ前進していることもあるのだということが救いです。
人種差別や、性同一性障害、身体障害者への偏見や差別・・・。
決してなくなってはいませんが、かつてよりはましになっていますよね・・・。



ルディは、母性本能脳のカタマリみたいな人です。
そういう面では女性的ですが、
目的のためにはまっしぐらで行動的、という点では男っぽいところもある。
いや、こういうのは男性的とか女性的とか言う問題ではないですね。
人間として素晴らしい!
そしてまたこのアラン・カミングの心震わす歌声が素晴らしいのです。
ずっと聞いていたかったな・・・。



しかし現実はなんて、酷いのでしょう。
ラストは衝撃的ですが、だからこそなお、
ほんのひと時の3人の幸せだった日々が、愛おしく感じられる・・・

「チョコレートドーナツ」
2012年/アメリカ/97分
監督:トラビス・ファイン
出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイバ、フランシス・フィッシャー、グレッグ・ヘンリー
原題 Any Day Now
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆


ザ・マスター

2014年05月22日 | 映画(さ行)
不思議な吸引力のある二人



* * * * * * * * * *

この2月に46歳で亡くなった、フィリップ・シーモア・ホフマン氏を偲んで
・・・ということになりましょう。
新興宗教の教祖という役どころです。
まあ、新興宗教といってしまうと、いかにも危ない人物を想像してしまうのですが、
もっと知的で深みを感じさせる演出となっています。
で、そのマスターと呼ばれる教祖ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)が主人公かと思えば
むしろ、彼の友人であり右腕であり人生の落伍者でもあるフレディ(ホアキン・フェニックス)に焦点があたっている。
本作はこの二人の不可思議な関係性を描いているのです。

 

二次大戦終了直後。
海軍でアルコール依存症となり精神的ダメージのどん底にいたフレディは、
密航した船の主であるドッドと知り合います。
酔っぱらい暴れて、しかしそのことを翌朝には何も覚えていないという彼を、
ドッドはなぜか家族同様の待遇で受け入れます。
自らの考案したメソッドでフレディを救済したかった、
ということもあるのでしょうけれど、
荒みきって何をしでかすかわからない、そのようなスリルにも惹かれている。
互いに理解し合っているとも信頼しているとも思えない二人なのですが、
二人の間には不思議な吸引力がある。
(性的な意味合いではなく。)



留置所で荒れるフレディの描写がすごかったですね。
隣に入っていたドッドが言う。

「誰もおまえなんか好きではない。
おまえを好きなのは俺だけだ。」



ところで「ザ・コーズ」を支えている実体は
実はドッドの妻(エイミー・アダムス)というところも見えてきますね。
もしかするとドッドには妻へのコンプレックスがあって、
その反発としてフレディを求めるのか・・・。


ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマン、
二人の名優のやり取りの凄まじさがずっしりと来る作品ではありましたが・・・、
個人的にはなんだかのめり込めずピンと来ない作品・・・。

ザ・マスター [DVD]
ホアキン・フェニックス,フィリップ・シーモア・ホフマン,エイミー・アダムス,ローラ・ダーン
東宝


「ザ・マスター」
2012年/アメリカ/138分
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ラーラ・ダーン、アンビル・チルダース

迫真の演技度★★★★★
満足度★★★☆☆

「女がそれを食べるとき」 楊逸選 日本ペンクラブ編

2014年05月21日 | 本(恋愛)
「食べ物」よりも、小説の時代的変遷を感じる

女がそれを食べるとき (幻冬舎文庫)
楊 逸,日本ペンクラブ
幻冬舎


* * * * * * * * * *

あの人を思うと食べることを忘れる。
彼が欲しい気持ちと同じくらい、食欲が止まらない。
好きな人と共にする食事は、身体を重ねることに似ている
―恋愛と食べることの間には、様々な関係がある。
女性作家の描いた"食と恋"を巡る傑作小説を、芥川賞作家・楊逸が選出。
甘美なため息がこぼれるほど美味なる9篇を味わえる、贅沢なアンソロジー。


* * * * * * * * * *

女性作家"食と恋"の小説集、ということで、
この柔らかな水彩のイラスト表紙に心惹かれ、つい手にとってしまったこの本。
うーん、しかしちょっと期待した内容よりもビターです。
もう少しオリーブオイルやハーブ、あるいはスイーツ的なものを期待していましたが・・・。


そもそも著者陣をご覧あれ。
井上荒野、江國香織、よしもとばなな
・・・あたりはおなじみですが、
岡本かの子、幸田文、河野多恵子、田辺聖子と来るとかなりの風格が感じられます。
私はこの本、「食べ物」のことよりも小説の時代的変遷の方を強く感じてしまいました。


例えば幸田文「台所のおと」は、なんともきめ細やかな描写にため息が出るくらいですが、
その女性心理は時代がかっていてどうもしっくりこない。
私くらいの年でそう感じてしまうくらいなので、
若い人にはどうなのか。
いえ、かえって新鮮に思うかもしれませんけれど。
河野多恵子「骨の肉」についてはなおさらで、
いや、正直これはちょっと受け入れがたい。


本巻で一番しっくり来たのは、最終話よしもとばなな「幽霊の家」。
決してホラーではないのですが、
男女の心の機微というかそういうものの切り取り方が
やっぱり"今"なのだなあ。
今まで当たり前のように受け止めていましたが、
時代によって男女の関係性とか心の機微の捉え方が
ずいぶん変わってきているものなのでした。
どこがどう違うのか? 
もはや「国文」を学んで40年弱を経た私には説明のしようがありません。
それをまとめることができれば一冊の本ができましょう・・・。

「女がそれを食べるとき」 井上荒野他 楊逸選 日本ペンクラブ編 幻冬舎文庫
満足度★★☆☆☆

野のなななのか

2014年05月20日 | 映画(な行)
“祈りの言霊”が漂う



* * * * * * * * * *

初めてこの題名を目にした時に、
この言葉はどこで区切るのか? 早口言葉?
と面食らったものですが、
何の事はない「なななのか」は七・七日で四十九日のことでした。


我が北海道の芦別市が舞台。
といっても、道外の方には位置がピンと来ないかもしれませんが、
北海道の中央部にあるかつて炭鉱で栄えた町です。
本作の上映館シアターキノではたまにある、補助椅子も出る盛況でした。
館長さんの事前アナウンス。
「芦別の方が大勢映っていらっしゃいますが、
気がついても他の方の迷惑になりますので『あ、○○さんだ!!』などと声を上げませんように。」
そこでどっと受けていたりするのも、地元ならではですねえ・・・。
多分実際にそんなことが何回かあったのだとお察しします。



さてしかし、本編が始まったところで
すぐにこの世界に引きこまれてしまいました。
物語はまず一人の老人の死から始まります。
元病院長鈴木光男(品川徹)92歳。
急に自宅で倒れ、息を引き取っていました。
その日の朝まで元気だったわけですから、まあ、大往生ですね。

そして、この郷里芦別に親族たちが帰ってきます。
そんな中に一人、謎の女、清水信子(常盤貴子)の姿も。
お通夜、告別式、初七日、・・・そして四十九日。
家族たちの様々なやり取りの中で、
この老人の人生に大きな影響を及ぼした戦争体験が明らかになっていきます。



冒頭から引き込まれてしまうのは、
本作の途切れないセリフ回しのためでしょうか。
一人のセリフの語尾と次の人のセリフの第一声が重なりあうようにして、
途切れなく会話が続いていきます。
まるでほんの少しでも言葉の空白ができることを恐れるかのように。
だけれども、息せき切っているふうでも、たたみ掛けるふうでもない、
というこの不思議な感覚。
映画によっては、極端にセリフを押さえ、間を多くとって、
映像に語らせる作品もありますよね。
そういうものから本作は対極にあります。
この途切れなさは、そうか、お経に似ているのです。
流れるように連なっている“祈りの言霊”が、
ずっとその辺に漂っているかのようです。


四十九日までは、亡くなった人の霊がまだこの世にとどまっているといいます。
だから本作では亡くなった光男老人が、映像のあちこちに姿を現すのです。
家族たちの会話に加わったり、ある時は若い時の姿であったりして。
それはまるで生者と死者が時空を超え交流しているかのようでもある。




最後まで謎なのが、この清水信子と山中綾野(安達祐実)の関係なのですが・・・。
生と死は繋がっている。
本作のテーマを最も強く具現しているこの二人なのです。



光男老人が亡くなったのは3月11日。14時46分。
あの震災の年ではありませんが、この数字が本作のキーワード。
北海道に生まれながら私もよくわかっていなかった、
昭和20年の9月5まで続いたというソ連との戦争の話が解き明かされていくのですが、
それもひとつのエピソードであり、
戦争のみならず震災など、これまでに亡くなったすべての人にむけての
『祈り』の映画なのだと思います。


パスカルズの音楽は、はじめ正直言って少し田舎臭いと思ったのです・・・。
けれど、次第にこれしかない!!と思えてきました。
これが流暢に洗練されたオーケストラではダメだし、
ポップスやロックはもちろん違う。
さだまさしも、ここはダメ。
葬列のように野を歩みながら、音楽をかき鳴らし、
それが陰々滅々のレクイエムでないところがいいじゃないですか。
つまり死は生へと繋がることでもあるのだから・・・。



何しろインパクトの強い作品で、
しばらくその余韻にぼーっとしてしまった、私には近年まれな作品。

「野のなななのか」
2014年/日本/171分
監督・脚本:大林宣彦
原作:長谷川孝治
出演:品川徹、常盤貴子、村田雄浩、松重豊、寺島咲、安達祐実

祈り度★★★★★
満足度★★★★★

素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー

2014年05月18日 | 映画(さ行)
ロボットに人格はあるか



* * * * * * * * * *

近未来のオハナシ。
物忘れがひどくなってきた父・フランク(フランク・ランジェラ)を心配し、
息子ハンター(ジェームズ・マースデン)が、介護用のロボットをプレゼントします。

はじめのうち、ロボットなんて、と毛嫌いしていたフランクが、
次第にロボットと心を通わせていく。
このロボットは介護用に作られたもので、
老人の健康管理はもちろんのこと、生きがいを持たせることすらプログラムされているのです。
ところでこのフランクは、かつて宝石を専門とする泥棒だった・・・! 
もう一花咲かせたい、そう思ったフランクは、
ロボットを弟子に仕立てて泥棒の計画を練る。
すると次第に活き活きと元気になってくるのですね。



ロボットは、この行為が法に触れることはわかっているのですが、
それよりもなお主人の健康を優先とする。
だから泥棒にも加担するのです。
フランクにとってはロボットが家族よりも頼りになり親しみを感じる存在となっていく。
「鉄腕アトム」世代の私は、
こうしてロボットと心を通わせていくことには全く違和感を覚えません。
いいですよねー、介護ロボットでなくても
家事ロボットとして一家に一台欲しい。
相当高いでしょうけどねえ・・・。



ところで、フランクは最後までこのロボットに名前をつけませんでした。
最後まで「ロボット」と呼んでいましたね。
既に『友人』としての位置を認めていたのにもかかわらず。
どうしてなんだろう、と考える。
名前なんかつけなくても、人格を認めていると、
逆に強調したかったのか。
・・・そう、あくまでもロボットは機械なんですよ。
最後まで感情は持っていない。
感情を持っている様に思うのはあくまでの人間の『気持ち』。
パスワードで突然電源を切られても、記憶を消去されても
「悲しい」という気持ちはないはずだ。
本作でも決してロボットが何故か感情を持つようになったのではない、
ということを貫き通すために名前を持たせなかったのかもしれません。



しかし、これくらいの近未来でも
老人の認知症の治療薬は開発されていないわけね・・・。

素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー [DVD]
フランク・ランジェラ,スーザン・サランドン,ジェームズ・マースデン,リブ・タイラー,ピーター・サースガード
KADOKAWA / 角川書店



「素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー」
2012年/アメリカ/89分
監督:ジェイク・シュライアー
出演:フランク・ランジェラ、ジェームズ・マースデン、リブ・タイラー、スーザン・サランドン

ロボットの完成度★★★★★
満足度★★★★☆

「エンドロール」鏑木蓮

2014年05月17日 | 本(ミステリ)
エンディングだけでは決まらない

エンドロール (ハヤカワ文庫JA)
鏑木 蓮
早川書房


* * * * * * * * * *

映画監督になる夢破れ、故郷を飛び出した青年・門川は、
アパート管理のバイトをしていた。
ある日、住人の独居老人・帯屋が亡くなっているのを見つけ、
遺品の8ミリフィルムを発見する。
映っていたのは重いリヤカーを引きながらも、笑顔をたやさない行商の女性だった。
門川は、映像を撮った帯屋に惹かれ彼の人生を辿り、
孤独にみえた老人の波瀾の人生を知る。
偶然の縁がもたらした温かな奇跡。


* * * * * * * * * *

本作の語り手、門川は映画好きで映画監督になりたいという思いを持っていました。
けれども、夢を実現することはそう簡単ではない。
門川の好きな「映画」というのは、かなり古いものなので、
到底私の守備範囲ではないのが残念なのですが・・・。
彼は独居老人帯屋が孤独死していたのを発見し、
その部屋で遺品の8ミリフィルムを見つけるのです。
その映像を見て門川は心打たれてしまう。
一体、帯屋老人というのは何者で、どういう状況でこんな素晴らしい映像を撮影したのか・・・。
門川は帯屋老人の人生を辿ります。


一人の孤独な老人が抱えてきた思い。
孤独死だからといって、彼が惨めな人生を送ったわけではなかった。
そのことは映画についてのこんな文章が語っています。

「フィルムの善し悪しは、すべてを見終わった後、そこはかとなく感じるものです。
オープニングだけでも、エンディングだけを観て判断するものではありません。
私は最悪のエンディングだと評されている作品をいくつか見たことがあります。
けれどもなかには心に残り、惹かれ続けているものもあります。
・・・私の人生のエンディングがどんなものであれ、
エンドロールには多くのキャストの名前が連なることでしょう。」


確かに、死に方だけでその人の人生を決めつけることはできない。
実際モノクロ映画作品を観るような、
映画と人生について、じっくり書き込んだストーリーでした。


「エンドロール」鏑木蓮 ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆


とらわれて夏

2014年05月16日 | 映画(た行)
みずみずしく揺れる少年の目線で



* * * * * * * * * *

アメリカ東部の小さな町。
シングルマザーのアデル(ケイト・ウィンスレット)は、
13才の息子ヘンリー(ガトリン・グリフィス)と暮らしています。
ある夏の日、脱獄犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)に強要され、
彼を自宅に匿うことになってしまいます。

フランクは母子に危害を加えないと約束し、
家の掃除をし、パイを焼き、ヘンリーに野球を教えてくれたりもする。
ヘンリーは、逞しくなんでもできて、そして優しいフランクを
理想の父親のように感じていきます。
そして母は・・・。
微妙な3人の心揺れる5日間を描きます。



本作は、13才の少年の視点から捕らえられていることで、いっそう深みを増しているのです。
少年はフランクを親しく思うのと同時に、恐れをも抱いていきます。
それは、フランクの出現によって母が、母親から女へ変わっていくことのおそれ。
あの疲れた母が、次第に活き活きと美しく変貌していく様を目の当たりにして、
怖くなっていくのです。
折しも13歳、思春期の入り口に立つ彼は、
そういう母の変化の理由をわかってはいて、
母にとっては良いことと理解してはいるのですが、感情ではまだ受け入れられない。
そんな微妙なところにいるわけです。
その瑞々しい少年の心の揺れと対比して、
彼の知り合った少女のなんとさばけたこと・・・。
やはり女の子の方が大人になるのが早いようで・・・。
その鋭い洞察力。
出番は少ないのですが、ヘンリーの心境の変化をズバリ言葉にしてみせる、重要な役どころ。
私は彼女をもっと見ていたかった・・・。



アデルが夫と離婚し、落ち込んで暮らしていた理由、
そして粗暴には見えないフランクが殺人犯として投獄されていた理由、
そのことが次第に明らかにされていきます。
この5日間で、双方が心の傷を包み込み、癒やされていくようでした。



異常な状況にある男女は結ばれやすい・・・そんな鉄則があるようですが、
そうではあっても、このたった5日間がその後の互いの人生に大きな意味を満ち続けるというのは稀有なことで、
感動を覚えずにいられません。
更に、ヘンリー自身の人生にも影響していきますしね。
最後の方に登場する成人のヘンリーがトビー・マグワイアで、
始めからのナレーションを務めています。
共に過ごす時間はほんの僅かでも、
その後の人生にずっと大きな意味を投げかけていく。
そんな点で、「マディソン郡の橋」を思い出しました。
いずれも劣らぬ名作。



余談ですが、この日は「プリズナーズ」と本作2本見まして、
ある共通点を見つけました。
どちらも「囚われの人」ではありますが、
それよりも、ヒュー・ジャックマンとジョシュ・ブローリンが、
どちらも“ドロボーひげ” 。
って、私が勝手につけたひげの名前ですが、
あの鼻の下から顎までのひげで、もみあげとはつながっていない・・・。
よくコントなどでドロボーを演じるときに真っ黒く塗りつぶしたりするじゃないですか。
アレです。
「とらわれて夏」の予告編でジョシュ・ブローリンのそのひげが気になって仕方なかったのですが、
作中でひげを剃り落とすんですよね。
あれま、ひげがあったほうが良いわ・・・・。
と思った次第。


「とらわれて夏」
2013年/アメリカ/111分
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン、ガトリン・グリフィス、トビー・マグワイア

ロマンス度★★★★☆
満足度★★★★★

丘を越えて

2014年05月15日 | 西島秀俊
昭和初期、“モダン”を生きる人々



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えーと、西島秀俊さん出演作品、久しぶりじゃないですか?
だんだん、残り少なくなってきたからね。
 後はレンタルにはないので、購入するしかなさそうなのもあったりする・・・
う~む、悩むところだねえ。


でも本作、もっと早く見ればよかったというくらい、西島さんの見せ所たっぷり、ステキでしたねー。
そうそう、だから油断なりません。
 舞台は昭和初期。主人公は小説家菊池寛(西田敏行)。
江戸情緒の残る下町育ちの細川葉子(池脇千鶴)が、知人の紹介で文藝春秋社の面接を受け、
 社長である菊池寛の秘書に採用される。
 そしてこの社の編集者・朝鮮人の青年馬海松(西島秀俊)と出会う・・・と。



この辺りの時代感がすごく良いんだなあ。
葉子は面接のために、バッサリ髪を切って洋装になるのだけれど・・・。
この頃のファッションがステキだよね。
 当時で言うモダン。今で言えばレトロ。
 池脇千鶴さんの可愛らしいこと!!
私の認識不足で、全くお恥ずかしいけれど、菊池寛が文言春秋社を創業したんだねえ・・・。
 それで、直木賞や芥川賞を創設したのも彼だって。
本作中では、人情味厚く太っ腹、ちょっと変わったところもある大人物。
 こういう時期、こんな人が時々いたみたいだね。
 今どきは誰もがビジネスライクで、
 人情とか趣味とかにお金をつぎ込む大人物なんてあんまり見かけないけどね・・・。
葉子は服装こそモダンだけれど、ハートはしっかり江戸情緒、江戸の女という風情。
 菊池寛を尊敬し、いたわるしっかりもの。
 まあ、ここで心が動かされなければ男じゃないよね。
一方、馬青年は、朝鮮では貴族階級。
 しかし朝鮮は当時既に日本の支配下にあり、立場としてはなかなか複雑。
 ここでは一見、まともに仕事もせず遊び暮らしている気障な青年だ。
でも葉子は次第にその内面に触れて行くわけだね。
西島秀俊さんの魅力満載。西島ファンにはお得な作品です!!
 ダンスシーンがまたステキ!!


ところで、この馬海松氏は実在の人物で、朝鮮の児童文学作家として有名な人なのだって・・・。
 それと菊池寛の秘書を務めていた女性というのも実在で、佐藤碧子。
 実際に小説も書いていたそうです。
原作の猪瀬直樹氏も出演していたりする、色々と興味深い作品なのだわ・・・。
満州事変勃発というところで終わる本作。
その後ますます時代はきな臭く危険になっていくわけですが、
 グランドフィナーレはせめて気持ちだけでも明るく、
 ということで「丘を越えて」の曲と登場人物たちのダンス。
それから大きな丘をいくつも越えて、今の日本に至る、というわけ。
丘を越えた先は、平和な幸せの地だったといえるのかどうか・・・。
そうなるにはまだまだ幾つもの丘を越えなければならないのでしょうね・・・。

丘を越えて [DVD]
猪瀬直樹,今野勉
東映ビデオ


2008年/日本/114分
監督:高橋伴明
原作:猪瀬直樹
出演:西田敏行、池脇千鶴、西島秀俊、余貴美子

歴史発掘度★★★★☆
時代色★★★★★
満足度★★★★☆


プリズナーズ

2014年05月14日 | 映画(は行)
ただ息を呑み、成り行きを見守るのみ



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ある感謝祭の日。
親族が集まり、七面鳥などのごちそうを食べたりする、いわば「家族の日」ですね。
ケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)の6歳の娘・アナが失踪したのは、
そんな幸せなはずの感謝祭の日。

同じ年頃の友人とちょっと外へ出たきり、
戻らなくなってしまったのです。
誘拐事件と考えられ、捜査に当たるのがロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)。
容疑者はすぐに上がるのですが、証拠不十分で釈放されてしまいます。

この容疑者・アレックス(ポール・ダノ)は、
知能が10歳児程度で、取り調べも今ひとつ要領を得ないままです。
しかし、アナの父ケラーは
この男が犯人と確信し、通常では考えられない行動に出ます。



物語はロキ刑事の捜査と、ケラーの行動を交互に写しだして進行していきます。
もし娘がどこかに監禁されているとすれば
生存可能なのはせいぜい5日間。
大きな成果を得られないまま、虚しく日が過ぎていきます。


父親の娘への愛が、彼に常軌を逸した行動を取らせるわけですが、
彼は本来鹿を狩るにも神に祈りを捧げたりする人物。
しかし、鋼鉄の意志で、自らの信念を貫く、
そういうタフな男です。
これは正義なのか、単なる暴走なのか。
私達はただ息を呑み、成り行きを見守るのみ。



本作のピンと緊迫した空気がつづくことは、並大抵ではありません。
その原因は予測不能なことにもありそうです。
たいていのサスペンスは、およそ成り行きが想像つくのですが、
本作はこのストーリーの落とし所(?)がわからないから、つい見入ってしまう。


本当にこんな方法で、娘の居所がわかるのか?

本当にアレックスが事件に関与しているのか?

こんなことをして、ケラーはどうなる?

アナは生きているのか?

真犯人は誰?


事件は、“今”のことばかりではなく、過去にもつながりがあったりして、
複雑な様相を見せ、そして驚愕の真相、心打たれるラスト
第1級のミステリであり、サスペンスでした。


監督は「灼熱の魂」のドゥニ・ビルヌーブ。
あの作品も好きでしたねえ・・・。
すっかりファンになってしまいました。
今後も見逃せません。

ヒュー・ジャックマンと、ジェイク・ギレンホールが素晴らしい。

「プリズナーズ」
2013年/アメリカ/153分
監督:ドゥニ・ビルヌーブ
出演:ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホール、ビオラ・デイビス、マリア・ベロ、テレンス・ハワード、ポール・ダノ、メリッサ・レオ
驚愕度★★★★☆
緊迫度★★★★★
満足度★★★★★


「枕もとに靴  ああ無情の泥酔日記」 北大路公子

2014年05月05日 | 本(エッセイ)
まゆに唾を付けて・・・

枕もとに靴: ああ無情の泥酔日記 (新潮文庫)
北大路 公子
新潮社


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朝起きたら、なかなか記録的な二日酔いで、
そのうえ、枕もとには靴が置いてあったけど、あれはなに?
フリーライター、独身(薄い関係の彼氏あり)、実家住まいの著者が
ネットにつらつら書いてきた日記がいつしか評判を呼び、一冊の本に!
女優・作家を含む女性たちの大いなる支持を受け、
だがある時はファンすら呆然とさせた、酒とネコと酒の日々。


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キミコさんファンの私、
つい本作にも手が出てしまいました。
フリーライター、40代(本作中は30代)、実家住まいの独身キミコさんの
かつてネット上で公開された日記です。
でも読み始めるとあの、
かつて私を「逆向き電車に乗って数駅気づかせなかった」
あの名著「頭の中身が溢れ出る日々」ほどのパンチはないなあ・・・と思ったのです。
しかし、更に読み進んでいくうちに、少し引っ掛かりが・・・。


「春洗い」という章があり、
春のお彼岸だから「その年一番働いてほしいもの」を洗いに神社へ行った、というのです。
彼女の場合パソコンを持って行きたかったけれど
それは無理なのでマウスを持っていった。
それはお祓いか何かかと思えば、実際に水をかけてジャブジャブと洗うわけなのですね・・・。
へえ、そんな習慣があるところもあるのね・・・と私は思いました。
でも、彼女が住んでいるのは私と同じ札幌。
聞いたこともない・・・???
釈然としないまま、読み進むと今度は
「影日和」、「夜まつり」、「夏送り」・・・。
さすがに気付きましたが、これは彼女の創作なのでした。
しかもディテールに手が込んでいて、情緒が溢れてさえいる!!
恐れ入りました。
ただのぐうたらな酔っぱらいかと思っていたりして、
失礼してしまいました。
さすが、モノ書きの端くれ(またまた失礼!!)のお方だったのですね。
キミコさんの意外な発見をして、うれしい一冊でした。


ところでかつてこの本は書店の「防災コーナー」に置かれていた、
などというまことしやかな話も実は法螺なのか・・・?

「枕もとに靴  ああ無情の泥酔日記」北大路公子 新潮文庫
満足度★★★☆☆