映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ちょっと今から仕事やめてくる

2018年02月28日 | 映画(た行)

心を失ってまで務め続けなければならない仕事なんかない

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仕事のノルマが厳しく、なかなか成績を上げられず、
精神的に追い詰められていた隆(工藤阿須加)。
駅のホームで電車にはねられそうになる直前、
ヤマモト(福士蒼汰)という青年に助けられました。
隆は、馴れ馴れしいヤマモトに戸惑いながらも、その明るさに救われ、
徐々に明るさを取り戻していきます。
しかしある日、隆はヤマモトが3年前に自殺していたことを知ります。
ヤマモトとは一体誰なのか?
・・・まさか幽霊?!

私は、本作のあらすじを見た時に、てっきりヤマモトはこの世の人ではなく、
これはスピリチュアルな物語かと思っていました。
・・・ところがそれは、そうではなかったのですねえ・・・。
皆様もご安心を。
ヤマモトは実在の人物です!



「ちょっと今から仕事やめてくる」とはいかにも軽い言い方ですが、
隆がこの決断をするまでは結構長い道のりです。
決して、会社で嫌なことがあったからすぐにやめようと思ったということではない。
いつまでもつづく残業や、胸糞の悪いパワハラ上司(吉田鋼太郎)にも耐えに耐えていた・・・。
だからこそ、いつの間にか心をなくし、生きる意欲も忘れて、
ほとんど無意識に電車に飛び込むところだったわけです。



確かに、ここでやめてしまったら、次の正規採用は難しいのかもしれない。
でも、こんなふうに人間性まで損なわれて続けるべき仕事なんてあるはずがありません。
あんな感じの悪い上司だって、辞めてしまえばもう関わりがないただのバカ親父ですから! 
あの態度を咎める人が他に誰もいないというのは、いや~な職場ですよね。
・・・え、大抵そんなもの? 
そうなんですか・・・? 
だったら私はとてもラッキーなサラリーマン人生だったのかもしれません・・・。



そしてまた、この会社で苦しんでいたのは何も隆だけではなく、
隆が尊敬している先輩・五十嵐(黒木華)もそうだったわけです。
なにもね、仕事が「楽しい」必要はないと思うのだけれど、
少なくとも何らかのやりがいと、ちょっとした職場の輪くらいはあって欲しいものです・・・。



飄々として明るいヤマモトに福士蒼汰さん。
真面目な故に悩む青年に工藤阿須加さん。
フレッシュコンビはなかなか良かった。



ちょっと今から仕事やめてくる 通常版 [DVD]
福士蒼汰,工藤阿須加,黒木華,森口瑤子,吉田鋼太郎
KADOKAWA / 角川書店



<J-COMオンデマンドにて>
「ちょっと今から仕事やめてくる」
2017年/日本/114分
監督:成島出
原作:北川恵海
出演:福士蒼汰、工藤阿須加、黒木華、吉田鋼太郎
働き方改革度★★★★☆
満足度★★★.5


ロング、ロングバケーション

2018年02月26日 | 映画(ら行)

永遠の休暇

 

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アルツハイマーが進行中の夫(ドナルド・サザーランド)を持つエラ(ヘレン・ミレン)は、
夫を連れ出し、長く乗っていなかったキャンピングカーで旅に出ます。
夫は元大学教授で、文学を教えており、自身もヘミングウェイを敬愛していました。
そこで、ヘミングウェイが暮らした家のあるフロリダのキーウェストを目指します。
毎晩思い出のスライド写真でこれまでの人生を振り返りながら、南へ向かう旅。
ところが実はエラ自身も体調に問題を抱えていたのです・・・。

一見、最後の思い出の旅。
この人の運転で本当に大丈夫かと不安になってしまうのですが、夫婦二人の旅は続きます。
夫・ジョンの症状はその時々で、くるくる入れ替わります。
ほんのひととき、頭脳明晰の以前の夫になったと思ったら
その直後にはまた、妻の名前も思い出せなかったりする・・・。
こんなふうになってなお、
ジョンは妻が結婚前に憧れていたという男性への嫉妬を露わにしたりします。
彼のこれまでの夫婦生活の中で、そのことがとても気がかりだったのかもしれません。
また、ふと妻と彼の家の隣人を取り間違えたりして、
浮気がエラにバレてしまったりもします。

その時々で喜んだり戸惑ったり怒ったり・・・振り回されてしまうエラなのですが、
それにしてもなお、この2人は強い愛情で結ばれている。
自分と比べちゃイカンでしょう、と思いながらも、
常のこのくらいの老夫婦とは段違いに2人は互いを求めあっているようです。
「自分はこの人がいないと生きていけない。そしてこの人も私がいないと生きてはいけない。」
そう深く実感したエラは、この旅の本当の目的を果たすのです。
私、ユーモアにも彩られたこの旅の結末がまさかこんなふうだとは、
予想外で、唖然としてしまいました。
こんな結末は、本来喜ばしいことではない。
だけれども、ここまで互いを必要とする2人に限って、ということで、
納得は出来ます。



本作の原題は“The Leisure Seeker”ということで、
これはキャンピングカーの名前なんですね。
でも邦題を「ロング、ロングバケーション」としたことには拍手を送りたい!
永遠の休暇とでもいいましょうか・・・、
素晴らしく内容を表しています。
それが最後まで見てわかるというところが心憎い。

道すがら、人々がトランプ氏の大統領選挙運動で盛り上がっているシーンがありました。
政治もよくわからなくなっているジョンは、その盛り上がりに加わってはしゃいでいたのですが、
エラはもともとのジョンが彼を応援するはずがないと思っているので、
ジョンがつけたトランプのバッジを取って捨ててしまいます。
なんか小気味よかった・・・。


<シアターキノにて>
「ロング、ロングバケーション」

2017年/イタリア/112分
監督:パオロ・ビルツィ
出演:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド、ジャネル・モロニー、クリスチャン・マッケイ、ダナ・アイビ

 愛情度★★★★☆
人生の終わりを考える度★★★★★
満足度★★★.5


「インドクリスタル」篠田節子

2018年02月25日 | 本(その他)

インド文化の中で悪戦苦闘する男

インドクリスタル 上 (角川文庫)
篠田 節子
KADOKAWA / 角川書店

 

インドクリスタル 下 (角川文庫)
篠田 節子
KADOKAWA / 角川書店

* * * * * * * * * *


人工水晶の製造開発会社の社長・藤岡は、
惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴く。
宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた謎めいた少女ロサとの出会いを機に、
インドの闇の奥へと足を踏み入れてゆく。
商業倫理や契約概念のない部族相手のビジネスに悪戦苦闘しながら直面するのは、
貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、資本と搾取の構造
―まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。
そして採掘に関わる人々に次々と災いが起こり始める。
果たしてこれは現地民の言う通り、森の神の祟りなのか?
古き因習と最先端ビジネスの狭間でうごめく巨大国家を、
綿密な取材と圧倒的筆力で描きだした社会派エンタメ大作。
構想10年、怒涛の1250枚!

* * * * * * * * * *

篠田節子さん作品は、その圧倒的なエネルギーを秘めた文章で、
グイグイと読者の心を引き込みます。
本作もまさしくその一つ。


本作主人公、藤岡は水晶の原石を入手すべく、世界中を探し回っています。
水晶というのは装飾品としてはさほど価値は高くないのですが、
この場合は最新鋭の惑星探査機との通信などに用いる部品の製造に必要なもので、
極めて高い純度のものを必要とします。
単に装飾品という触れ込みならば安く手に入るけれども、
ひとたびそれが最先端技術に入用なものだと知られれば、
レアメタル並みに高騰する危険もある。
だからそこを伏せて、藤岡は純度の高い水晶を探します。
そしてついにそれを見つけたのはインドの奥地。
そこはカーストの最下層よりもまだ低いと言われる部族の住んでいる土地で、
そもそも商談だの契約だのの概念もない。
日本人の常識的倫理や道徳観の全く通用しない地で、
藤岡の悪戦苦闘が始まります。


そしてそんな中で光るのが、一人の女性ロサ。
彼女の特異な生い立ちや、人並み外れた知能・・・
まさに彼女こそが、インドの水晶の原石なのかもしれません。
大きな目と肉感敵なボディ。
カーストの底辺より外れた底で、
しかも女性ということで現地人の間では振り向かれもしない存在でありながら、
水晶の原石を見抜く力のある藤岡は、彼女の可能性を見たのかもしれません。
しかし彼女は藤岡が思っているよりも遥かにしたたかだったわけですが。
混沌として計り知れないインドと言う国の事情を交えながら、
目を離せない展開を繰り広げていくストーリー。
堪能しました!

図書館蔵書にて
「インドクリスタル」篠田節子 角川書店
満足度★★★★★


ニュートン・ナイト

2018年02月24日 | 映画(な行)

長い戦いの始まり

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米、南北戦争の時代の実話をもとにしています。
衛生兵のニュートン・ナイト(マシュー・マコノヒー)は、
戦士した甥の遺体を故郷ミシシッピ州ジョーンズ郡に届けるため、南部軍を脱走しました。
悲惨な戦死者をあまりに多く見てしまったために、
戦争がすっかり嫌になってしまっていたのです。
故郷では南軍が農民から強盗のようにして食糧や物資を奪い取っていて、
その部隊とも衝突。
いずれにしても脱走兵なので、捕まるとマズい立場になってしまいます。
そんな時、沼地で黒人の逃亡奴隷たちと出会い、
そこをアジトとして、同じ脱走兵や近隣の食い詰めた農民たちとも手を組み、
やがて白人・黒人が平等に生きる「自由州」を名乗るようになっていきますが・・・。

この出来事はリンカーン大統領の奴隷解放宣言よりも以前のこと。
いつの時代にも、リベラルな心の持ち主はいるものですね。
ニュートン自身、特別に「優しい」人物というわけでもないのです。
自分たちの群れのためには、敵と闘うことは当然、
これもまた一つの戦争となってしまうわけですが。
彼が南軍を嫌ったのは、ただ
「綿花で儲けている金持ちのために、貧乏人が戦争で命を落とし奴隷が虐げられている」
から、なのです。
自身が信じるもののためには闘い続ける、
そういう強い信念の男の物語。



さてところが、南北戦争が終結し、奴隷解放宣言が出されてもなお、
彼の闘いは終わらない。
奴隷ではなく「年季奉公」のような形で、やはり黒人は白人に支配され続けるし、
黒人が選挙権を得てもそれに反感を抱くKKK団に狙われ、
投票に行くにも命がけ。

さて、このようなストーリーの合間に、
時を100年以上下った時代のある裁判の様子が表されます。
ニュートン・ナイトの数代後の男性が、
「黒人の血が混じっている」が故に、白人女性との結婚が無効である
と、言い渡されているのです。
始めのうちこのシーンがなんだか唐突に思えて戸惑ってしまったのですが、
次第に深い嘆息と共に見るようになりました。
つまりこの100年の長きに渡っても、
ニュートン・ナイトの闘いはまだ終わっていなかった、ということなのです。
根深い差別と迫害の物語・・・。



アメリカで公民権法が成立したのが1975年ですから、
奴隷解放宣言から本当に100年以上なんですね・・・。
アメリカの歴史を知る、これも意義深い作品の一つです。



ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]
マシュー・マコノヒー,ググ・ンバータ=ロー,マハーシャラ・アリ,ケリー・ラッセル
TCエンタテインメント



<J-COMオンデマンドにて>
「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」
2016年/アメリカ/140分
監督:ゲイリー・ロマ
出演:マシュー・マコノヒー、ググ・バサ=ロー、マハーシャラ・アリ、ケリー・ラッセル
歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆


羊の木

2018年02月23日 | 映画(は行)

深いところに刺さりこんでくる

 

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寂れた港町・魚深に6人の男女が移住してきます。
市役所職員の月末(つきすえ)(錦戸亮)は、彼らの受け入れを担当することになりました。
実はこれは、過疎問題を解決するため、町が身元引受人となって元受刑者を受け入れるという
政府の極秘プロジェクトによるものなのでした。

6人はみな殺人犯ですが、それぞれにそれぞれの事情があり、
その心境を一様に語ることはできません。
挙動不審なもの、暗く落ち込むもの、ふてぶてしい態度のもの・・・。
けれども皆どこか欠落したものを抱えているようではあります。
そんな中でも特に月末と関わりを持ち友人関係になっていくのが宮腰(松田龍平)です。
宅配配送の職を得た宮腰は、真面目に仕事をし、
ギターに興味があると言って月末のロックバンドの練習に顔を出すようにもなっていく。

彼は普通に見れば特に害もなさそうなのだけれど、
殺人を犯したと知っている月末にはどこか得体の知れない感じも拭い去れない。
この何を考えているのかよくわからない感じ、
松田龍平さんのキャラと相まって、凄みが出ます。
刑期を終えたとはいえ、元犯罪者、ましてや殺人犯という存在を、
私たちは隣人として受け入れることができるのか? 
この問いを私たちは突きつけられるわけです。
もちろん、受け入れるべきだとは思っている。
だけれども、実際問題として本当にその人を信じることができるのかどうか・・・。



さて、そこで問題となるのはこの町で昔から行われている「のろろ様」のお祭りです。
のろろ様とは、海から来た邪悪な存在で、
この地で打ち負かされてからは守り神のようなものになっている、と言います。
その姿を模した大きな像が立っているのですが、
それを見つめてはいけないと言われています。
そして、お祭りの夜にはのろろ様(を扮した人物)が街を練り歩くのですが、
それを決して見てはいけないのです。
障子の影から覗き見ることもないようにと、
わざわざ町内のアナウンスがあったりもする。
誰も見ないのに練り歩く必要があるのかと思ってしまうわけですが、
お付の白装束の人々を従えて、無人の町を歩くさまは
なんともおどろおどろしく、禍々しい雰囲気。
この祭りは一体何なのか、ということです。



のろろ様とは人の心の奥底に潜む邪悪な何かのことかと思ったりもする。
それを見つめすぎると正気ではいられなくなって、取り込まれてしまうよ、と。
けれどもまたこれは、罪を犯した人、そのもののようでもあります。
私たちはそうしたものにフタをして、なるべく見ないように、触れないようにしてしまう。
その様相を単になぞっているようでもある。
しかしそれが逆に和を保つことでもあるのかもしれない。
いろいろな解釈を呼び起こす、謎ののろろ様が、この町を見下ろしています。


作中のバンド演奏のシーンが迫力があって、好きでした。
どこか神経を逆なでするような音ではありますが、
この作品の謎めいた雰囲気を掻き立てています。


本作の原作は、山上たつひこ・いがらしみきおさんによるコミックなんですね。
にわかに興味が出て読みたくなってしまいました。
深いところに刺さりこんでくる物語です。


<ディノスシネマズにて>
「羊の木」
監督:吉田大八
原作:山上たつひこ・いがらしみきお
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、松田龍平、松尾諭

寓話度★★★★☆
満足度★★★★☆


「いつもが消えた日」西條奈加

2018年02月22日 | 本(ミステリ)

何気ない日常が崩れ去る時

いつもが消えた日 お蔦さんの神楽坂日記 (創元推理文庫)
西條 奈加
東京創元社

* * * * * * * * * *

中学三年生の滝本望は祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。
芸者時代の名前でお蔦さんと呼ばれる祖母は、
粋で気が強く、ご近所衆から頼られる人気者だ。
後輩の有斗が望の幼なじみとともに滝本家へ遊びに訪れた夜、
息子ひとり残して有斗の家族は姿を消していた―。
神楽坂で起きた事件にお蔦さんが立ち上がる!
粋と人情、望が作る美味しい料理が堪能できるシリーズ第二弾。

* * * * * * * * * *

西條奈加さんの「神楽坂」シリーズ第二弾。
元芸者の祖母・お蔦さんと暮らしている中学三年・望(のぞむ)の
日々を描く日常の謎系ミステリ・・・。
ところが本作、日常の謎ではなくて実際に犯罪がらみ。
しかも短編の連作形式ではなくて、一冊まるごとの長編となっているので、
読み応えがあります。


望の後輩・有斗は、明るく無邪気なサッカー少年。
その彼が、ある日帰宅すると、家には両親も姉もいなくなっていて、
居間には大きな血溜まりが・・・。
他に身寄りのない有斗は、とりあえずお蔦さんの家で望とともに暮らすことにします。
そもそもその血溜まりは誰のものなのか? 
家族の誰かが怪我をしたのか? 
家族のものではないとしたら、一体誰のもの? 
両親の不和や借金のことが明るみに出るに連れ、
有斗を取り巻く世間の様相も変わっていきます。
望とお蔦さんは有斗を守るために、両親の行方や事の次第を推理していきますが・・・。

何気なく繰り返されて、それが当たり前と思っている日常。
それがある日突然消え去ってしまうとしたら・・・。
そんな怖さが身にしみて感じられる一作です。
前回同様、望やお蔦さんを取り巻く町内の人々や友人たちの、
温かな心からの応援・手助けがなんとも心地よい。
キレイ事ではありますが、
何処かにこんな風に損得抜きで協力し合える関係があると信じたい気になります。


カード・ローンのリボルビング機能とか
キャッシングのオソロシイ仕組みも勉強になります。
街金ではなく、立派な大手のカード会社で行われていることなので、
気をつけなければいけません。

図書館蔵書にて(単行本)
「いつもが消えた日 お蔦さんの神楽坂日記」西條奈加 東京創元社
満足度★★★.5

 


バースデーカード

2018年02月20日 | 映画(は行)

自分の物語の主人公

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内気な少女紀子は、10歳の時に母を病気で亡くします。
自分の死期を悟った母・芳恵(宮崎あおい)は、
子どもたちが20歳になるまでに毎年のバースデーカードを用意していました。

その後、紀子は毎年の誕生日に父から受け取る母のバースデーカードを
楽しみにしながら成長していきます。
17歳のときには母の望みに従って、母の故郷・小豆島を訪れた紀子(橋本愛)。
母が利発で人から好かれ、そして自分の思いをまっすぐ貫こうとする強い女性でもあったことを知り、
とてもかなわないと思います。
そして19歳の誕生日にはもうカードは読まない、と反発。
しかし、「成長した紀子をもう想像することができない」と、
苦しむ母の胸の内をも知ることになるのです・・・。

紀子の少女から大人の女性への成長をみずみずしくとらえた素敵な作品でした。
10歳の紀子は引っ込み思案で「私は脇役でいい」と母にいうのですが、
図書館で、母はこんなことを言います。

「ここにはこんなに沢山の本があって、その本の一つ一つに主人公がいるでしょう。
決して脇役ではなくて。
あなたは自分の物語の主人公なのよ。」と。



この言葉は、紀子にはすぐに納得できるものではなかったのですが、
その後10年をかけて自分のものにしていくのです。
初恋のトキメキ、やんちゃな弟(須賀健太)の成長ぶり、
二人の子どもを見守り続けるお父さん(ユースケ・サンタマリア)どれもステキです。
そして、パネル・クイズ「アタック25」のエピソードがまた、いい。
お母さんとの絆、一歩前へ踏み出そうとする気持ちの現れ。
涙・涙・・・。



バースデーカード [DVD]
橋本愛,宮﨑あおい,ユースケ・サンタマリア,須賀健太,中村蒼
KADOKAWA / 角川書店



<WOWOW視聴にて>
「バースデーカード」
2016年/日本/123分
監督・脚本:吉田康弘
出演:橋本愛、宮崎あおい、ユースケ・サンタマリア、須賀健太、中村蒼、木村多江、谷原章介
母の愛度★★★★★
青春度★★★★★
満足度★★★★★


怪物はささやく

2018年02月19日 | 映画(か行)

少年コナーの心に眠る物語

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難病の母親と暮らす少年コナー。
裏窓から大きな木のある教会の墓地が見えます。
ある夜、その大木が姿を変えた怪物が現れ、これから3つの物語を語ると言います。
そして、そのあと、4つ目の物語をコナー自身が語るようにと告げるのです。
それは、真実の物語でなければならない、と。

死に向かう母と向き合う少年の心の物語です。
薬が効かず病み衰えていく母。
離婚し、今はアメリカで別の家族と暮らす父。
学校では、いじめられて居場所がない。
母の入院中、祖母の家で暮らさなければならないけれど、祖母とは全く気が合わない。
自分ではどうにもできない不安・恐怖・苛立ち・・・
そんな彼が、実は自分の中の何かと闘い目覚めていこうとしているということなのでしょう。



自分だけに限らず人の心の中には色々複雑なものがあります。
暖かなものもあればほの暗いものもある。
それは決して良いとか悪いとかいうものではなくて、
それら含めたすべてが自分であると受け入れることがまず大切なのだろうなあ・・・。
ちょうど大人と子供の中間点くらいにある少年の
揺れる心を描いた素晴らしい作品です。
ラストに少年と母親の強い絆が感じられ、じわっときます



「物語」を表すアニメーションが素晴らしかった。
この手法で、もっと長編を見てみたいと思いました。

怪物はささやく [DVD]
シガニー・ウィーバー,フェリシティ・ジョーンズ,トビー・ケベル,ルイス・マクドゥーガル,リーアム・ニーソン(声の出演)
ギャガ



<J-COMオンデマンドにて>
「怪物はささやく」
2016年/アメリカ・スペイン/109分
監督:J・A・バヨナ
原作:パトリック・ネス
出演:ルイス・マクドゥーガル、フェリシティ・ジョーンズ、シガニー・ウィーバー、トビー・ケベル、リーアム・ニーソン(声)

物語度★★★★☆

満足度★★★★☆


マンハント

2018年02月18日 | 映画(ま行)

男は闘い、ハトが舞う

 

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西村寿行原作「君よ憤怒の河を渉れ」が1976年高倉健主演で映画化され、
また今回、再映画化されたもの。
ジョン・ウー監督に福山雅治さん出演となればやはり見逃せない。

製薬会社顧問弁護士のドゥ・チウ(チャン・ハンユー)は、
パーティーの翌朝、社長秘書・希の死体の横で目を覚まします。
現行犯としてすぐに警察に捕まってしまうのですが、
罠にはめられたと知ったドゥ・チウは逃亡。
さて、彼を追う刑事・矢村(福山雅治)は、事件を調べるうちに、
ドゥ・チウは犯人ではないことを確信。
2人は共に事件の真相を追うことになります。



オール日本ロケで行われた中国作品・・・ということで、なんだか不思議な肌触り。
中国語、英語、日本語が入り交じるグローバルな世界。
大阪が舞台なのですが、なんだか見知らぬ国のような気配。
違和感と言ってしまえばそれまでですが、
なんだかそこがまた面白くもあるのです。



アラフィフの福山雅治さんのアクションをこんなところで見られるとは! 
ジョン・ウー監督作品のお約束、ハトが舞い飛ぶ中の格闘シーン!
そしてまさかの、刑事が日本刀を抜いて闘うシーン!
ましゃ、カッコイイ!!
映画終了後のジョン・ウー監督との対談も見ましたが、その中で
「水上バイクに乗るのもはじめてなのに、
ぐるぐる回って、英語で喋って、おまけに飛び移るところを撮影したときは頭がしびれた」
とおっしゃっていました。
それをかっこよくこなしてしまうましゃも、相当なものですが。



 チャン・ハンユーさんもなかなか渋くてかっこよかったです。
しかし刑事ならともかく、なぜに弁護士がこんなにもアクション派なのか謎ですが・・・。

製薬会社が新薬のためホームレスを集めて人体実験をする・・・なんてのは、
いくらなんでも作りすぎだろうと思うわけですが、
そこまで命にかかわるのでなければ実際にありそうなことにも思えます・・・。
まあ、楽しめる作品ではあります。


あ、殺し屋役の女性が、ジョン・ウー監督の娘さんだったんですね! 
なかなか個性的で魅力のある方でした。

斎藤工さんは初めの方にちょっとだけ出てくるイカれた犯罪者。
矢村刑事にあっという間にやられてしまいます。
こんな贅沢な使い方をするなんて・・・・。

<シネマフロンティアにて>
「マンハント」
2018年/中国/110分
監督:ジョン・ウー
原作:西村寿行
出演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン、國村隼人、池内博之、アンジェルス・ウー

アクション度★★★★☆
福山雅治の魅力度★★★★☆
満足度★★★.5


「奇跡の人」原田マハ

2018年02月17日 | 本(その他)

青森が舞台の「奇跡の人」


奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)
原田 マハ
双葉社

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アメリカ留学帰りの去場安のもとに、伊藤博文から手紙が届いた。
「盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女」が青森県弘前の名家にいるという。
明治二十年、教育係として招かれた安はその少女に出会った。
使用人たちに「けものの子」のように扱われ、暗い蔵に閉じ込められていたが、
れんは強烈な光を放っていた。
彼女に眠っている才能を開花させるため、二人の長い闘いが始まった―。
著者渾身の感動傑作!

* * * * * * * * * *

本作は題名でも分かる通り、3重苦のヘレン・ケラーとその教師アン・サリバンの物語「奇跡の人」を、
まるごと舞台を日本の青森に移した物語です。


アメリカ留学帰り、弱視の教師が去場安(さりば あん)、
三重苦の少女が介良れん(けら れん)と、
ネーミングもかなり意識しています。
読みはじめてしばらくは、なぜこんなにも著名なストーリー、しかも実話を、
わざわざ青森を舞台にして書いたのかと疑問が渦巻いたのですが・・・
青森である理由はわかりました。
青森には盲目でも女性がなんとか食べていく道がなくはなかった。
まずは三味線と歌で稼ぐ。
しかしこれはほとんど物乞い同様の扱いです。
そして、イタコ。
死者が乗り移り、何事かを語る、あれです。
そのような地に、れんのような存在があるのには何かしらの意味が感じられる。
そして、ちょうどこの舞台は実際のヘレン・ケラーとアン・サリバンの出来事と
時を同じくしているというのはなかなかよくできています。

始めはただ獣のように、食べて寝て排泄をして・・・
手に負えなかったれんが、言葉を覚えていく
・・・そして、実話と同じく「水」で全てを悟るその瞬間。
感動でした! 
ヘレン・ケラーの実話にはなかったれんの友人、もしくは水先案内ともいうべき盲目の少女、
キワの存在が光っています。
はい、確かに感動の傑作。


が、それにしてもなお、
わざわざ現実のストーリーを借りてまで紡ぐストーリーなのかと言う思いを
拭い去ることができませんでしたが・・・。

「奇跡の人」原田マハ 双葉文庫
満足度★★★.5

 


「オールド・テロリスト」村上龍

2018年02月16日 | 本(その他)

立ち上がる老人たち

オールド・テロリスト (文春文庫)
村上 龍
文藝春秋

* * * * * * * * * *

「年寄りの冷や水とはよく言ったものだ。
年寄りは、寒中水泳などすべきじゃない。
別に元気じゃなくてもいいし、がんばることもない。
年寄りは、静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ」
怒れる老人たち、粛々と暴走す。

* * * * * * * * * *

本作、表紙は少しユーモラスなのですが、実際はもう少しシビアでした。
老人たちがテロを仕掛ける、といいえば、
この間見た映画「ジーサンズ」のように
不遇な人生に絶望した老人が社会への恨みを晴らすために・・・
というような想像をしてしまうのですが、
本作、そうではありません。


地位も名誉も、そしてお金もたっぷりある老人たち、
しかも戦争体験者のかなり高齢の老人たちが、過激なテロを目論みます。
今の日本はおかしい。
戦後の焼け野原に戻って、もう一度一からやり直すべきなのではないか
・・・というのが彼らの主張です。
この過激な老人集団に利用されてしまうのがジャーナリストのセキグチ。
いえ、実のところ離婚で妻子に去られてから全く仕事にやる気を無くして、
ほとんどホームレスのような生活をしていたのですが、
なぜが老人たちに見出され、彼らのテロのことを記事にするよう要求されてしまうのです。
セキグチはカツラギという謎の女性とともに、テロリストたちと対峙することに・・・。


と言うとセキグチがいかにも活躍しそうですが、かなり情けないです。
精神安定剤とアルコールでようやく正気を保ち、
嘔吐したりオシッコを漏らしたり・・・恐怖と緊張で死にそうになったりする。
それというのも、老人たちのテロ活動の前哨戦ともいえる幾つかの場に居合わせ、
人々の悲惨な死を目の当たりにしてしまっているからなのです。


老人たちの主張を聞くと、どこか共鳴する部分もある。
だからといって、なんの関わりもない一般市民までもを平気で巻き込み
命を奪ってしまうやり方を納得できるわけもない。
しかし、非力な自分に一体何ができるというのか・・・。
果てしなく苦悩するセキグチの運命やいかに・・・。


とは言え、老人たちは本当に日本中を焦土にしようとしているわけではなく、
もっと別の意味で日本の息の根を止めようとしていたというわけなのですが。

ケレン味たっぷり。インパクトの強い作品でした。
あとがきで、作中に登場する旧ドイツ軍の「88ミリ対戦車砲」が、
実際に日本にあるというのには驚きました・・・。

図書館蔵書にて(単行本)
「オールド・テロリスト」村上龍 文藝春秋
満足度★★★★☆


クリムゾン・ピーク

2018年02月14日 | 映画(か行)

飛んで火に入る・・・

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随分前から録画してあったのですが、なんだか怖そうなので見そびれていました(^_^;)


イーディスは10歳の時に母を亡くしましたが、その母が変わり果てた姿で亡霊となって現れ、
「クリムゾン・ピークに気をつけろ」と彼女に告げるのです。

意味がわからないまま、年月が流れ・・・
イーディス(ミア・ワシコウスカ)は父親の謎の死をきっかけに、
英国貴族トーマス(トム・ヒドルストン)と結婚します。
そして、トーマスの姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)とともに、
彼らの屋敷で暮らし始めます。
しかし貴族といっても名ばかりで、すでに財産も尽きているようです。
トーマスの屋敷は今にも崩れ落ちそうに朽ち果てており、
玄関ホールの屋根はすでに崩落していて、落ち葉や雪が吹き込んでいます・・・。
そして、冬になると地表の赤粘土が雪を赤く染めるために、
この地は「クリムゾン・ピーク」(真紅の丘)と呼ばれていることを、イーディスは知ります・・・。



薄暗く寒々しい荒れ果てた屋敷・・・。
ここを見ただけで、もう私なら逃げ出したくなりますね。
そりゃ、絶対何か出ますよ!! 
ダークな幻想世界。
ゴシック・ロマンのムードたっぷりです。



妙に美しい貴族の姉弟。
もしかしてヴァンパイア?という雰囲気でしたが、
そうではありませんでした。
しかし、彼らが生きるために人の血を犠牲にしてきたことを思うと、
あながちハズレとも言えません。
そして秘められた二人の関係・・・。
う~む、オソロシイ・・・。



結局怖いのは幽霊なんかではなくて、人間ということか。
本作の救いは、イーディスの幼馴染アラン(チャーリー・ハナム)。
見るからに彼はイーディスが好きなのですが、トーマスに取られてしまいました。
しかし、イーディスの結婚の後も彼女のことが心配で、
アメリカからわざわざ訪ねてきます。
そのタイミングが、まあお約束ですがイーディスの最大の危機の時。
でもこういう作品でまさに「陽」の彼の存在がありがたい。
私などはなんでイーディスは医師アランを捨てて、
あんな得体の知れないトーマスなんかと結婚するのだか・・・と思ってしまうわけですが、
どこか陰りのある謎めいた男に惹かれるものがあるというのは、わからなくもありませんね。
飛んで火に入る夏の虫・・・。



クリムゾン・ピーク [DVD]
ミア・ワシコウスカ,トム・ヒドルストン,ジェシカ・チャステイン,チャーリー・ハナム,ジム・ビーバー
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン




<WOWOW視聴にて>
「クリムゾン・ピーク」
2015年/アメリカ115分
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーバー
ミステリアス度★★★★★
満足度★★★★☆


祈りの幕が下りる時

2018年02月12日 | 映画(あ行)

過去と現在がつながる時

 

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東野圭吾による加賀恭一郎・新参者シリーズの完結編。
シリーズ前作は見ているので、まあ惰性という感じで見たわけですが・・・。
完結編というにはわけがありまして、
これまで日本橋の所轄に加賀(阿部寛)が新参者として赴任してきて、
そこで起こる事件解決に取り組んできたわけですが、
この度は、加賀の父との確執や失踪した母のこと、加賀自身のことが事件と関わってくるのです。

まずは、東京都葛飾区のアパートで滋賀県在住の押谷道子の絞殺死体が発見されます。
そのアパートの部屋の住人は姿をくらましている。
そしてその住人と押谷の接点も見つかりません。
加賀は、押谷が中学の同級生だった演出家・浅居博美(松嶋菜々子)を訪ねて
東京へ来たことを突き止めます。
浅居博美は以前剣道の道場で加賀と会ったことがあるのです。
浅居の近辺を調べ始める加賀ですが・・・。

加賀が失踪した母親の関係で持っていたカレンダー。
そして、この度の殺人現場の男の部屋にあったカレンダー。
どちらにも月ごとに橋の名前が書かれていて筆跡が一致。
やにわに加賀の母親の過去と現在の事件がつながりを見せる。
これぞミステリという劇的な展開。
ゾクッっと来ます。
そしてまた浅居博美のたどった過去も、悲しいものでしたが・・・。
困難を乗り越えて、せっかくここまで成功を収めてきたのに。
まことに切ない事件なのでした。



加賀がずっと日本橋にこだわり、この地にとどまり続けた理由も明かされます。
大いなるマザコン、それも良しですね。

<シネマフロンティアにて>
「祈りの幕が下りる時」
2018年/日本/119分
監督:福澤克雄
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、松嶋菜々子、溝端淳平、田中麗奈、キムラ緑子、小日向文世、山崎努

ミステリ度★★★★☆
切ない真実度★★★★★
満足度★★★.5


チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話

2018年02月11日 | 映画(た行)

青春ですね。

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時々、何も考えずに気楽に映画を見たくなる時がありまして、そんなときには本作のようなのが最適。
副題でも分かる通り、福井県立福井商業高校の実話をもとにしています。
中学からの同級生・孝介(真剣佑)を応援したいという
軽い気持ちでチアダンス部に入部したひかり(広瀬すず)。
しかしそこは顧問・早乙女(天海祐希)によるスパルタ指導が行われている超ハードなところだったのです。

しかも目標は全米大会制覇。
ひかりはこの高すぎるハードルにどう挑むのか・・・?

いやあ、ホントに広瀬すずちゃんは可愛らしい。
ダンスシーンもたっぷりあって、頑張っていました。
ひかりは始め、「笑顔だけはいい」と言われていたのです。
けれども彼女は次第にチームの皆を結びつけるカナメとなっていきますね。

そして、彼女と孝介の距離感がまたいいのです。
サッカーで自信をなくしている孝介にひかりは遠くから「頑張れよ」とつぶやくのみです。
この2人はまだ「付き合っている」という状態ではないためでもありますが、
押し付けがましく本人の手を取って「頑張ってね、応援してるから」
などと言わないのがいい。
今は自信をなくしてサッカーから離れていても、
きっとまた戻ってくることを彼女は信じている。
そうした気持ちが現れているからです。



孝介役、今は新田真剣佑さんですが、なんとステキな・・・。
これからも楽しみですねえ・・・。
それと、チアダン部部長・彩乃(中条あやみ)をひたすら恋する男子は健太郎さんですね!
(NHK「アシガール」でファンになりました。)

こんなところでお会い出来て、ウレシイ!
イケメンの元気ボーイがたっぷり見られて、オバサンとしては大満足でした。





チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~ DVD 通常版
広瀬すず,中条あやみ,真剣佑,山崎紘菜,富田望生
東宝

<WOWOW視聴にて>
2017年/日本/121分
監督:河合勇人
出演:広瀬すず、中条あやみ、山崎紘菜、真剣佑、健太郎、天海祐希
青春度★★★★★
満足度★★★★☆


「なぞとき (捕物)時代小説傑作選」和田はつ子他

2018年02月10日 | 本(その他)

時代小説+ミステリの魅力

なぞとき 〈捕物〉時代小説傑作選 (PHP文芸文庫)
細谷 正充
PHP研究所



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棒手振りの魚屋に、鰹を千両で買いたいという奇妙な申し出があり…(「鰹千両」)、
幕府直轄の御薬園で働く真葛は、薬種屋から消えた女中の行方を探ってほしいと頼まれるが…(「人待ちの冬」)、
商家の妾が主夫婦の息子を柏餅で毒殺した疑いをかけられるが、料理人の季蔵は独自の捜査を進め…(「五月菓子」)など、
"捕物"を題材とした時代小説ミステリー。
話題の女性作家陣の作品が一冊で楽しめるアンソロジー。

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時代小説のアンソロジー、テーマは「なぞとき(捕物)」、
しかもすべて女性作家ということで、興味を惹かれました。
同じPHP文芸文庫で、先に「あやかし」と「なさけ」というのが出ているのですが、
ミステリ好きの私としてはやはりこの本。


収録作品は・・・
「五月菓子」和田はつ子
「煙に巻く」梶よう子
「六花の涼」浮穴みみ
「人待ちの冬」澤田瞳子
「うき世小町」中島要
「鰹千両」宮部みゆき

私にとって馴染みのある方、ない方、いろいろですが、
時代小説の初心者としては、様々な方に触れられるのはウレシイ。
時代小説のミステリは、当然ながら指紋とか遺体解剖などの科学捜査はありません。
時計もないので、厳密なアリバイものも無理。
このようないろいろな制約の中で繰り広げられる推理。
そこがまた魅力です。

巻頭の「五月菓子」は、皆で同時に食べたカステラで、
一人の子供が急に苦しみ亡くなったという事件が語られます。
その真相は、多分に今様かもしれません。


巻末の「鰹千両」。
宮部みゆきさんの時代小説ではお馴染みの茂七親分登場。
ある商家が鰹を千両で買うと申し出て、戸惑ってしまう魚屋・・・。
う~ん、さすがの宮部みゆき作品。
引き込まれて、楽しませてもらいました。


奇しくも、本巻で2作に登場する「双子」の話。
江戸の昔は、双子は「畜生腹」と言われて嫌われた・・・
という背景からのストーリーですね。
これもまた興味深い。

「なぞとき (捕物)時代小説傑作選」和田はつ子他 PHP文芸文庫
満足度★★★★☆