映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

カールじいさんの空飛ぶ家 

2009年12月31日 | 映画(か行)
老人と子供の夢はどこにある・・・

            * * * * * * * *

風船をいっぱいくくりつけて、家ごと空を飛ぶ。
さあ、冒険の旅の始まり始まり~!

ということで、ずいぶん前から楽しみにしていました、この作品。
私、今更ながら、3Dアニメ初体験でした。


まずは冒頭、カールじいさんとその妻エリーの、
子供の頃の出会いから始まりまります。
ある冒険家が南米の秘境を探検したことにあこがれる二人。
いつかきっと、二人でその伝説の滝に行こう。
そう誓ったのでした。

結婚して小さな家を買い、二人の旅に備えて貯金もしたけれど、
諸々の生活のための費用に貯金は消えてゆく。
待ち望んだ子供はできず、誓いは誓いのままに年月は過ぎてゆく。
とうとう、妻の方が病で先に逝ってしまいました・・・。


実はここまでのシーン、先にTVで観たのです。
結婚してからのシーンはセリフなし。
年月がまさに走馬燈のよう。
この切なさに、そのときも涙があふれてしまったのですが、
当然ここでもまた泣かされてしまいました。
ところでこの感じ、「つみきのいえ」にそっくりですね。
おばあさんに先立たれたおじいさんが、懐かしい二人の人生を回想する。
この思い出は「家」に宿っている。


ここまでは、本当に幻のようにはかなく美しく、メルヘンチック。
しかし、ある朝の目覚めから現実が始まります。
痛む体を引きずり起こして、盛装したおじいさんがどこへ行くのかと思えば、
玄関先のいすに座るだけ。
・・・そう、老人が玄関先のポーチにいすを出して、
日がな一日過ごすシーンが映画の中にもよくありますね。
「グラン・トリノ」のクリント・イーストウッドもそうだったなあ。
さて、いすに座って周りの風景。
なんと、再開発ですっかり付近はビルに囲まれ、
両隣も工事現場で、なにやらごみごみしていてそうぞうしい。
この古い小さな家も、立ち退きにさらされている。
老人ホーム入居を誘われてもいるけれど・・・。
なんと殺伐とした現実。
このアニメでこんな現実が突きつけられるとは思ってもいませんでした。
こんな現実がすっかりいやになったカールじいさんは、
風船旅行を思いつくのです。
今こそエリーとの約束を果たそうと。


つまりこれは本当は、おじいさんの捨て鉢の死出の旅だったのではないでしょうか。
おじいさんは飛び立つときに叫びます。
「妻に会いに行ってくる!」。
ところが、図らずもそこに少年が登場します。
このことにより、おじいさんは「生還」を余儀なくされてしまうのです。
「還らぬ人」になるわけにはいかない。


こういう構図から始まるこの先の冒険ストーリー。
まあ、そちらは実際に観るのがよろしいでしょう。
この二人の冒険の前に立ちはだかるのは、
なんと幼いカールとエリーがあこがれたあの・・・。

ここに登場する犬たちが楽しい。
犬好きの方必見です。


・・・どうも、後の冒険ストーリーより、
冒頭の思い出シーンの方が強烈に印象に残ってしまいました。
あまりぱっとしない少年がアジア系らしいのも、
やはりグラン・トリノを彷彿とします。
そういえばあの冒険家は、クリント・イーストウッドに似ている気がする。
・・・ま、考えすぎです。

結局、孤独な弱者が寄り添うことで、人生は活気づく。
うん、冒険の果てにあるのは、やはりそこなのでしょうね。


さてさて、3Dは確かに楽しいのですが、
浮かび上がってくる映像に驚くのは始めの方だけ。
あとは、メガネがうっとうしくてなんだか疲れる。
わざわざ追加料金出してまで、3Dで観る必要はないのではないかと思いました。


2009年/アメリカ/103分
監督:ピート・ドクター
(ピクサー作品)


カールじいさんの空飛ぶ家 最新予告



「サヨナライツカ」 辻仁成

2009年12月30日 | 本(恋愛)
サヨナライツカ (幻冬舎文庫)
辻 仁成
幻冬舎

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2010年1月公開予定の映画作品となっていますが、
この本が出たのは2001年、最新作というわけではありません。
やはり映画となれば興味がわきまして、まず先に読んでしまいました。

豊は、理想とする結婚相手に巡り会い、婚約。
結婚式を間近にして、タイに赴任。
ところが、そこで沓子(トウコ)という謎の美女と知り合う。
なぜか沓子の方から強引な接近があり、勢いに負けて関係を持ってしまう豊。
ところがこの二人は思いの外相性がよく、離れがたくなってしまう。
始めは人目を忍んでのデートも、次第におおっぴらになり、
タイ在中の日本人社会で、"好青年"で通っていた豊であったのに、
「婚約者がいながら、別の女性とイチャイチャ・・・」と、
次第に評判も落ちてくる。


言い寄る女性のいいなりにずるずると引きずられ、
しかも、婚約者との関係も絶てないでいる豊・・・
この優柔不断さに、実のところいらついてしまうのです。
う~む、私にとってはイマイチかな・・・と、思い始める。
しかし、結局二人は身を引き裂かれる思いをしながらも別れ、
豊は予定通りの結婚をするんですね。
その後は一切連絡も取らず・・・。

さて、そしていきなり25年の時が流れます。
この物語が生きてくるのは、実はここからだったんです。
切ない思い出の地、タイ、バンコクを豊が訪れる。
思いがけず再会する二人。
25年の歳月を経ても、お互いの思いはあのときのまま・・・。
人を愛する強い思いは、
時の流れなどでは強まりこそすれ薄まることがない・・・。
このあまりにも強くて美しい絆に、心打たれてしまいました・・・。
これはやはり、豊にとっては
妻に対する裏切りをずっと続けていたということではあるのですが・・・、
しかし、他に浮気は一切せず、
ひたすら仕事に打ち込み望みうる最大の出世を勝ち取ってきた、
このことがせめてもの妻に対する償いであったのでしょう。
ここまで貫けば、やはりホンモノなんですね。
すばらしい恋愛小説でした。

通常は精神愛が最後に肉体への愛へ昇華する。
でもこのストーリーはいきなり肉体関係があって
最後は心のつながりだけになっていくのです。
愛の形は様々・・・。
でも結局強いのは心の絆なんですね。

この映画では、辻仁成夫人の中山美穂が沓子役。
12年ぶりの映画主演ということでも話題になっています。
そんなところに興味もあって、やっぱり観てしまいそうだなあ・・・。

満足度★★★★☆

ROCK YOU!/ロック・ユー!

2009年12月29日 | 映画(ら行)
ロック仕立ての中世青春群像

            * * * * * * * *

この作品、舞台は14世紀。
全くクラシカルな設定ながら、クイーンやデビッド・ボウイの音楽を投入。
現代風にアレンジした青春ドラマとなっています。
これが、別に奇異でもなんでもなく、するりと入ってくる。


馬上槍試合。
映画などでは戦争の場面は良く見かけますが、
ここではあくまでも、「試合」なんです。
中世の騎士、あの、重い甲冑を見につけた騎士が、
馬に乗って長く重い槍を互いにつき合う。
ところがこの試合は、由緒正しいものであって、貴族しか出場資格がない。
この物語の主人公ウィリアム(ヒース・レジャー)は、間違いなくただの平民。
彼が仕えていた貴族が急死し、
急遽インチキで彼が主人の身代わりで出場したら、勝ってしまった。
彼はそこでやる気になったわけです。
訓練をつみ、身分を偽って、多くの大会で優勝を重ねてゆく。

彼を支える友人たち。
彼の心を揺さぶる貴族の乙女。
子供の頃別れたきりの懐かしい父親。
彼の本当の身分を怪しんでばらそうとする、ライバル。

・・・いろいろな要素が、バランスよくきっちりはまっているんです。
そして登場人物1人1人が、いい味を醸している。

まずいきなり素っ裸で登場する、自称作家の男。
なぜ、素っ裸なのかその場では明かされません。
でも、まもなくわかる仕掛けとなっています。
このあたりが心憎い。
ウィリアムにとっては得がたい人材。

また、ウィリアムが一目ぼれしてしまう貴族の女性ジョスリン。
彼女もなかなか一筋縄では行きません。
その名前を知るのも一苦労。
彼女はなんとウィリアムに、「試合に負けろ」というのですよ。
普通のドラマではありえませんよね。
「勝つのはあなたの夢。
でも本当に私を愛しているのなら、
私の願いをかなえて試合に負けることができるはず。」
うーむ、なんと傲慢でわがまま・・・と想わなくもありませんが、
見ているうちに、この炎のような思いの女性が素敵に見えてくるんです。
彼女のみ、時代設定を相当無視したと想われる服装なのも、
彼女をグンと引き立たせています。

教会のステンドグラスをバックに、
ロングで固定した二人の会話のシーンがとても印象深い。

ウィリアムのチームの一員となる鍛冶屋の女職人というのも心憎い。
彼女はウィリアムの時代遅れでポンコツの鎧をみて、
彼女が工夫した軽くて動きやすい鎧を作るのです。

まあ、難をいえば敵役のアダマー伯爵が、
あまりにもわかりやすく嫌なヤツすぎ、
というあたりが、もう少し何とかなればよかったかな?

とにかく、人物1人1人の魅力が、
この試合のお祭りめいたわくわく感をいっそう高めるのに一役買っています。


いやあ、良くできた映画だなあ・・・。
手放しで感心してしまう。
ダンスのシーンも素敵でした。
スローでゆっったり優雅な踊りが、
次第にテンポを増して、現代風のロックのリズムになっていくんですよ。
このあたりのつくりにはうっとりさせられます。

結局は、ありがちのサクセスストーリーなのですが、
ポイントは、ウィリアムは貴族の騎士を詐称したわけですが、
次第に魂において真実の「騎士」に成長してゆく。
ここのところです。
最後に、彼の身分がばれてしまった時に彼が取る行動。
ここに注目してくださいね。
・・・全く気持ちのよいドラマです。

おまけに、エンドクレジット終了後のお遊びシーンあり。
わたくし、DVDだと、いつもはそんな最後まで見ないのですが。
なぜか今回最後まで曲を聞いていたら
突然このシーンが出てきて、面食らいました!

ヒースレジャーの魅力も満載。
・・DVDが欲しくなっちゃったな。

2001年/アメリカ/132分
監督・脚本・製作 ブライアン・ヘルゲランド
出演:ヒース・レジャー、ルーファス・シーウェル、シャニン・ソサモン、ポール・ベタニー、アラン・テュディック


ロック・ユー! コレクターズ・エディション [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「ブラック・ペアン1988 上・下」海堂 尊

2009年12月28日 | 本(ミステリ)
ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

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ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

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「チーム・バチスタの栄光」へと続く原点、というこの作品。
舞台は、この表題の通り1988年。東城大学総合外科。
おなじみの、チーム・バチスタシリーズから時代はさかのぼりますが、
ここには後に登場する、数々のおなじみの人物が若い姿で登場。
思わずにんまりしてしまうのです。
例えば、すっかりおなじみグチ外来の田口医師や
「ジェネラルルージュ」こと速水医師が
まだ学生で、研修に来たりするんです。
田口は、手術室で血を見て卒倒したりする・・・。
ファンならもう、楽しくて仕方がないですね。
しかし、そういうことを知らずに、初めて海堂作品にふれるという方でも、
もちろんこの作品は面白く読めると思います。


佐伯教授が君臨する、この教室。
そこに他大学から高階講師が送り込まれてくる。
彼は「スナイプAZ1988」という、
食道癌手術を容易に行うことができるという新型機械を持ち込む。
いや、機械などに頼るべきではない、医師の技術がモノを言うのだ、
と反発する佐伯、そして、一流の腕を持つ、渡海。
ここは、どちらがよいかという結論は特には出ないのですね。
超ベテランというほどでない人でも、手術が容易に行えるのは結構なことだし、
しかし、もし万が一のことがあったときに頼れるのはやはり人の手。
機械があるとしても、手術の技術を衰えさせることはできない、と。
このような論議をするうちに、大切なものが見えてきます。
医師が大切にすべきもの、それが熱く語られているのも大きな魅力です。


しかし、この本の真のテーマはこれではなくて、
やはりこの表題、「ペアン」ということになります。
ペアンというのは、手術中、止血するために使う器具ですね。
ハサミに似たような形をしている。(らしい)
これが、ある患者の腹部のレントゲン写真に、くっきり映し出されていた。
これは以前、高階教授が手術した時に体内に置き忘れられたものらしい。
しかも、その後それに気づいた人がいて、
手術で取り出そうとしたら、高階教授に止められた、というのです。
医師として、名誉・地位よりも、
実医療を大事にするとして尊敬されているこの教授に、
こんなことが本当にあるのだろうか。
だとしたら一体その真意は・・・?

この真相には、感動を覚えます。
最後の真相解明により与えられる、どんでん返しの感動。
こういう点で、このストーリーは単に医学小説というのではなく、
医学ミステリと呼ぶべきものになっているわけなんですね。


ところでこの本は、上・下でもそうたいした分量ではないのですが、
なぜわざわざ上下分冊なのか。
そのほうがよほど謎なんですけどね。

そうそう、先日読んだばかりの、
桜宮市の水族館に設置された黄金地球儀の話まで話題に出ていまして、
いやあ全く侮れない、この海堂ワールド。
今後もまだまだ楽しみです。

満足度★★★★★

ジュリー&ジュリア

2009年12月26日 | 映画(さ行)
おいしい映画を「ボナペティ!」

* * * * * * * *

この作品は、50年を経た二人の実在の女性をシンクロさせながら描いています。

1人は、1949年、第二次大戦後パリに赴任した外交官の妻ジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)。

もう1人は現代、ニューヨークで9.11後の市民相談係を務めるジュリー(エイミー・アダムス)。


ジュリア・チャイルドは、好奇心旺盛。
陽気で大らか。
夫の転勤で、パリへきたものの、
それまでの自分の仕事はやめてしまったので、することがない。
何を始めようか・・ということで、最も自分が好きな食べることに着目。
名門の料理学校ル・コルドン・ブルーで、本格的なフレンチの料理を習います。
そうして、アメリカ向けに、家庭でも手軽に作れる料理の本を出版し、
アメリカの料理番組に出たりもするんですね。
それで、彼女はアメリカの食卓に一大革命をもたらした料理研究家として、一躍有名になる。


さて一方こちらはジュリー。
彼女は、仕事を持ちながら漫然と毎日が過ぎていくことがつまらなくなっている。
もっと何か自分しかできないようなことをやってみたい・・・。
そこで、もともと好きな料理を活かすことにして、
ジュリア・チャイルドが書いた本の524のレシピを365日で全て作ってみる、
という目標を立てました。
そして、それをブログに書き綴り、公表することに。
さて、ジュリアは無事にそれをやり遂げることができるのでしょうか。


この二人の女性に共通するのは、料理が好きなことのほかに、
素敵なだんな様の存在をあげることができるでしょう。
どちらも妻のすることに寛容で、協力を惜しまないのです。
食べることが好きで、いつも最も身近な味の評論家でもある。
もっとも、さすがにジュリーの夫のほうは、
ついに一度切れて家出をしてしまうのですが・・・。
けれど、この様に仲のよいご夫婦は、見ていても気持ちよいものです。
一番近くにいて、いつも見守り励ましてくれる存在。
これはやはり大切ですね。
1人では到底やりとげられなかったと思います。
あったかで、おいしくて・・・。
ほんのり幸せな気持ちになれる作品ですね。


さてそれから、ジュリーと同じく、ブログを書くモノとしては、
とても身につまされる部分がありました。

はじめたばかりの頃、書いても書いても、
果たして誰かが読んでくれているのだろうかとむなしい気持ちになる。
ブログを書くために、彼女は料理を作りますが、
私なども、ずいぶん時間をかけて映画を見たり、本を読んだりするわけです。
料理をした結果を書く。
本を読んだり映画を見たりした結果を書く。
本来そのはずなのに、いつの間にか
ブログのために料理したり、本を読んだり映画を見たり
・・・と主客が転倒してくるんですよね。
そこまですることの意義があるのだろうかと、疑問も感じてくる。
彼女のそうした苛立ちが、ほんとにリアルでした!!
でも、「ある程度見ていただいているようだ・・・」と実感すると、
またやる気が出てくるところも!!
まあ、私のブログなど、実際のジュリーのブログのアクセス数とは比較にもなりませんが。

メリル・ストリープ演じる陽気なオバサマが、とても素敵でした。
こんな方が、目の前で料理を作ってくれたら、
多少の失敗作でも、おいしい!と微笑んでしまいそうです。
この作品のために、相当体重を増やしたと思われますが、
女優さんも大変ですね。

「ボナペティ」とは「どうぞ召し上がれ」の意味。
ジュリア・チャイルドの決めゼリフですね。
・・・でもやっぱり私は、食べる方専門で行きたいデス。
女優でもないのに、体重増加気味というのはまずいのですけれど・・・。

2009年/アメリカ/123分
監督:ノーラ・エフロン
出演:メリル・ストリープ、エイミー・アダムス、スタンリー・トゥッチ、クリス・メッシーナ


Julie & Julia / 12/12(土)公開『ジュリー&ジュリア』予告編



時をかける少女

2009年12月25日 | 映画(た行)
時をかける少女 通常版 [DVD]

角川エンタテインメント

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40年を駆け抜けた「時をかける少女」

           * * * * * * * *

アニメ作品です。
実は、このストーリーには思い入れがあるんですよねー。
筒井康隆の原作の方ですが。
私が出会ったのは、ジュニア向けSFとして出版されていたシリーズのうちの一冊。
これが私の中学時代なんですよ。
・・・とすると、これは40年も前の作品ということになります。
意外でしょう。
ずっと昔から、テレビ番組になったり、映画になったり、
この様にアニメ化されたりと、
多くの人に愛されてきたストーリーなんですね。
その当時この物語には、すごくドキドキさせられて、夢中になってしまいました。
時間を旅するということの不思議と、等身大の女の子のロマンと、
まさにオンナノコを魅了する題材でしたね。

この原作中、少女がタイムリープするきっかけとなるのは、
ラベンダーの香りでした。
文中、北海道の富良野にラベンダーを栽培しているところがある・・・、
というような記述があります。
今でこそ、富良野のラベンダーは北海道の観光の大きな目玉なんですが、
当時は細々とやっていたんですよね。
当時は私も、へ~、と思ったくらいでした。


さてさて、思い出話は置いておきまして、この作品。
かなり原作から離れています。
原作の面影があるのは、
少女がタイムリープのきっかけをつかむのが、放課後の理科準備室であること。
そしてこのことに深く関与しているのは、未来からやってきた少年で、
いつの間にか転校生として、まぎれこんでいる。
さらにこの二人の間に、ほのかな思いが芽生える
・・・と、こんなところでしょうか。
なるほど。
このエッセンスが入ってさえいれば、
「時をかける少女」は成立するわけなのです。
もっともっと、いろいろなバリエーションが作れそうではありませんか。


この作品は、とにかく少女マンガですよね・・・。
女子高生真琴は、始め、
タイムリープ能力をお気楽に自分の都合のいいようにだけ使って楽しんでいました。
けれども次第に、行動原理が、「恋愛」中心になってくる。
とはいっても、仲良し3人グループが壊れないように、
わざと告白の機会をつぶしてしまう・・・というような、
かわいらしいものではありますが。
人の恋には積極的。
しかし、自分の恋にはとんでもなく臆病。
そんな真琴の性格が、私たちの共感を呼びます。
また、自分の都合のいいようにだけことを運んでゆくと、
その裏で嫌な思いをする人が必ず出てくる・・・、
そのような気づきをしながら成長してゆく、女の子のストーリーでもあります。
ここに登場する魔女オバサン(真琴の叔母・・・オバサンとはいえ、まだ若く独身)が、
ぴりりとストーリーを引き締めています。

さわやかな感動。
欲を言えば、もう少し時間旅行の不思議というか、
パラドックスめいた部分があればよかったのかなあ・・・と。
それと、タイムリープの着地のたびにあちこち転がりまくるのは
あまりにも大変そうだ・・・。

2006年/日本/104分
監督:細田守
原作:筒井康隆
脚本:奥寺佐渡子



時をかける少女(劇場予告)



第三の男

2009年12月24日 | 映画(た行)
道端にたたずむ男。一瞥も与えず、通り過ぎる女。

        * * * * * * * *

アントン・カラスによるツィターのテーマ曲。
このメロディは、映画を見たことがない人でも、きっとどこかで耳にしたことがあるはず。
曲もさることながら、観覧車のシーンや、ラストの並木道での男女の情景、
どれも名高いものばかり。
まさに不朽の名作です。
私もかなり以前見たことはあるのですが、
そのときでも、もうすっかり往年の名作でした。


有名な、ラストシーン。
墓地に続く並木道です。
男がじっとたたずんでいる。
並木道の向こう側から女がこちらへ向かって歩いてくる。
二人は互いに、憎からず思っていた仲。
しかし、女は男に一瞥も与えず、じっと前だけを見てそのまま歩き続ける。
男は声もかけず、そのままじっとたたずんでいる。
観客は、いつ、どちらから声をかけるのかと、
固唾をのんで見てしまうのですが、
結局、何も起こらないままの幕となるんですね。
いや~、実に印象深いラストなのです。
だから私はそこだけは覚えていたのですが、
ストーリーは実のところ、忘れ果てていました。


さてさて、この作品は1949年、二次大戦終了後間もない頃の作品ですね。
作品としてはリアルタイムの物語で、
米・英・仏・ソ、4カ国に分割統治されていたウィーンが舞台。
各国の人物や言葉が入り乱れ、サスペンスたっぷりです。

アメリカ人作家のホリーは、親友ハリーを頼ってここまで来たのですが、
訪ねてみると、なんとそのハリーはちょうどその日に事故で亡くなったという。
その事故のことを調べるうちに、
事故に立ち会ったという二人のほかに、
謎の「第三の男」の存在が浮かび上がります。
その男とは・・・・・!?

モノクロ作品ですが、その光と影の陰影が、実に効果的に使われています。
暗闇の中で、さっと向かいの家の窓から明かりが漏れ、
そこに「第三の男」の顔が浮かび上がる。
その男の衝撃の正体。
うーん、うまいですね。
そして、それに続く夜の観覧車のシーンがまた、圧巻。
それから、追跡劇となれば、定番の地下下水道。
これぞミステリの醍醐味!

映画ってこんなことができるのですよね。
最近はCGに頼りすぎて、
こうした正当なカメラワークなどの工夫がなさ過ぎるような気がします。
60年前のモノクロ作品、しかし、今でも学ぶべき点が山ほどある・・・。
参りました。

1949年/イギリス/105分
監督:キャロル・リード
出演:ジョゼフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・バリ




第三の男 [DVD] FRT-005

ファーストトレーディング

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「シャドウ」 道尾秀介

2009年12月23日 | 本(ミステリ)
シャドウ (創元推理文庫)
道尾 秀介
東京創元社

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この物語には二組の家族が登場します。
小学5年生、凰介とその父母。
父母同士が友人関係であるため、幼馴染の同じく小学5年生、亜紀。
ところがこれは並みのホームドラマには発展しません。
まずは凰介の母の葬儀から、物語は始まります。

凰介は大学病院職員の父との二人暮らしになるわけです。
メガネをかけて、腕力はへなへなっぽい凰介ですが、
この子がなかなかしっかりしている。
母が病床にあったためと思われますが、
きちんと家事も手伝うし、父の心配もできるあたり、いいですよね。
一方、亜紀は両親健在ながら、全くの不仲。
そして何か重大な悩みがあるようです。

この二人の父親が携わっているのは精神科。
それで、ストーリーはなにやら心の奥に潜む病がテーマとなっていきます。

凰介が時々見る幻影は・・・
亜紀の抱える秘密とは・・・
凰介の父は、異常者なのか・・・?
亜紀の母の自殺の秘密は・・・?
亜紀の父もまた、異常者・・・?
そして背後に潜む、本当の異常者とは・・・・?

誰も彼もが病んでいるように見える、この混沌に、
しっかりとした明かりが差し込んできます。
陰惨なテーマでありながら、前向きな凰介君の存在に救われる感じです。
私、どうもこのように前向きに頑張る少年少女の話に弱いのですよね。
読みながら、作者の術中にはまり、騙されてしまうあたりも痛快です。

第7回本格ミステリ大賞受賞。
なるほど、納得でした。

満足度★★★★★

パブリック・エネミーズ

2009年12月21日 | 映画(は行)
庶民のヒーロー=社会の敵

* * * * * * * *

アメリカ、大恐慌時代の「義賊」として名高い、ジョン・デリンジャーを描きます。
何しろ・ジョニー・デップなので、見ないわけには行きません。
ジャック・スパロウ船長もいいけれど、
このようなシリアス路線を待っていたんですよ~。

何しろ、まず脱獄シーンから始まるこの作品。
まさにギャングが横行した大変な時代なんですね・・・。
このジョン・デリンジャーは、銀行強盗がいつもの手口。
銀行は襲うけれども、客の金は奪わない。極力一般人は殺さない・・・、
けれども、誰かがひとたび銃を撃てばたちまちあたり中、
銃撃戦が始まって血の海。
こうして彼は、「社会の敵NO.1」としてお尋ね者・・・。

けれど、一般市民からは、人気があったわけです。
今のように、マスコミに顔がばら撒かれるわけではない。
名前は知れ渡りながらも、誰もが顔を知っているというわけではないのですね。
無論、今のようなインターネット網などあるわけもないですし・・・。
捜査陣ですらも良くわかっていない、という有様で、
作品中、デリンジャーが警察署に単身入り込むシーンがあるんですよ。
何気なくフラフラと。
多くは出払っていて、あまり人がいないのですが、
残っていた連中に声をかけても、全く気づかれない。
なんとも、スリルがありつつ、おかしみを感じさせるシーンでした。

さて、この男が愛したのは、ホテルのクロークに勤めていた
ビリー・フレシェット。
いきなり、俺の女になれ・・・というような強引な接近。
そりゃもう、ジョニー・デップにそういわれたら、断るわけないです!
なんというか、男も女も一本気でいられた・・・
古きよき時代という感じがしてしまいますねえ・・・。


この作品は結局ジョン・デリンジャーをヒーロー視しているわけではないですね。
理想は美しく、でも、なかなかいろいろなしがらみで思うようには行かない。
それでも、信義を通そうという姿はカッコイイです。
でもスーパーマンじゃないから、不死身というわけでもない。
人間としてすごく等身大のように思いました。
また、彼は映画好きだったみたいですね。
劇中劇で上演していたのはクラーク・ゲーブル主演の作品で、
こんなところで、クラーク・ゲーブルを見られたというのも、儲けもの。
・・・そうなんだ、クラーク・ゲーブルって、この時代の人だったんですね・・・。
たしかに、映画の出演年代などを見ればわかることではありますが、
こういう時代、って具体的に考えたことがなかったですね。
ギャングと、警官の汚職と・・・、モトはといえば不況が原因なのでしょう。
今の日本も、気をつけないと・・・。
格差の拡大が治安の悪化につながらなければいいのですが。


2009年/アメリカ/141分
監督:マイケル・マン
出演:ジョニー・デップ、クリスチャン・ベール、マリオン・コティヤール、ビリー・クラダップ



『パブリック・エネミーズ』予告編<12/12(土)、全国ロードショー>



真夜中のピアニスト

2009年12月20日 | 映画(ま行)
真夜中のピアニスト DTSスペシャル・エディション [DVD]

ハピネット・ピクチャーズ

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殺伐と静謐の同居

           * * * * * * * *

トムは、不動産業についています。
といっても実は犯罪スレスレの裏ブローカー。
でも彼はそんな仕事とは裏腹に、
亡き母と同じようなピアニストになりたいという夢を抱いている。
オーディションを受けることに決め、
仕事の傍らピアノのレッスンに通うことにします。
レッスンの教師は中国から来たばかりの若い娘。
お互いに言葉が通じず、音楽だけが二人の交流となる。

薄汚れた裏社会の殺伐とした仕事。
一方、クラシックピアノという精神世界。
この二つを行き来し、揺れ動くトムの心。

いよいよ明日がオーディションという夜、また、危ない仕事の呼び出しがかかります。

ピアノという怖ろしくデリケートな精神世界は、現実を映し出してしまうのですね・・・。

崇高な芸術の世界というのは、きわめて細い糸の上で危ういバランスを保っている。
身の回りの些末ないろいろなことが、その糸を揺らす。
そのように考えると、成功したコンサートなどはほとんど奇跡に近いような気がしますね。

また、意外な結果に落ち込んでゆくラスト。
やはり、非情な現実がどこまでもトムの足を絡め捕っていたのか。
芸術と現実。
同居は難しいものなのかなあ・・・。
そこまで崇高な芸術と縁が無いというのは、むしろ幸せなことなのかもしれません。

殺伐さと静謐さの同居。
不思議に心にしみる作品です。

2005年/フランス/108分
監督:ジャック・オディアール
出演:ロマン・ディリス、ニール・アスルトラップ、オーレ・アッティカ、エマニュエル・ドゥボス


「奇想と微笑/太宰治傑作選」 森見登美彦編

2009年12月19日 | 本(その他)
奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)
太宰 治
光文社

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太宰治生誕100年。
それに関わってということなのでしょう。
太宰治の短編集は多くありますが、
これは森見登美彦氏が選んだ19編、ということに魅力があります。
「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いたとありまして、
まさしく、素敵で面白い作品ばかり。
「太宰はうじうじしている文章も書いたが、うじうじしていることを笑い飛ばす文章も書いた。」
と、なるほど。
ここにはうじうじした太宰は出てきませんね。


始めの方の「カチカチ山」は、強烈でうなってしまいます。
はい、確かにあのおとぎ話のカチカチ山なのですけれど。
この物語中のウサギが少女で、
そのウサギの少女に恋をしているブオトコが狸である、というのです。
しつこくウサギに言い寄り、よだれを垂らし、助平で不潔で食いしん坊
・・・という狸。
それに対して、ウサギの少女は、どこまでも残酷。
研ぎ澄まされた鋭利な言葉で狸を苛め抜き、
背中に放火し、その火傷に唐辛子を塗りつけ、
挙句に泥舟に載せて沈めてしまう。
狸の最後のひとこと。
「俺はお前にどんな悪いことをしたのだ。惚れたが悪いか。」
これですよ、これ。
「古来、世界中の文芸の哀話の主題は、
一にここにかかっているといっても過言ではあるまい。」
と太宰は言っています。
「女性には全て、この無慈悲な兎が一匹住んでいるし、
男性には、あの善良な狸がいつも溺れかかってあがいている。」
太宰がこういうから面白いのですよねー。


「畜犬談」という話では、太宰は始めから滔々と犬が嫌いだと言い放ちます。

・・・いつか必ず食いつかれる自信がある。
だから犬に逢うと、噛みつかれないように極力にこやかな顔を装ってしまう。
すると犬は勘違いをして寄ってきて、ついてきてしまう。
迷惑この上ない。
あるとき、いつまでもついてくる子犬がいて、とうとう家までついてきてしまった。
家族には歓迎されて、なぜかそのままいついてしまう。
おやおや・・・。
犬のことを散々けなして、イヤだといって、
結局実は好き、という、へそ曲がり極まりない言葉の数々なのでした。
ユニークです。
はい、そうですね。
男子たるもの、気安く、好きだ・かわいい、
なんて言葉を口にするものじゃありません。


そして、この本のラストを飾るのはあの「走れメロス」です。
これについて、森見氏は、
中学の時、国語の教科書でこの話を読み、
「なんと大仰で、恥ずかしい小説であることか。」
と思い、
「偽善的」という言葉を思い浮かべた、といっています。
わかります。
これだけを読むと本当に、そうなのですよね。
けれど、森見氏は大学生になって、
太宰のさまざまな作品で他の面を見るうちに、
「走れメロス」を見る目がだんだん変ってきた、というのです。
この作品集を読み進んで、この作品にいたると、
たしかに、さほど違和感はありませんね。
いろいろユニークなストーリーのうちの一つ。
語り口の大仰さは、このストーリーには必要なものですし。
教科書などで取り上げて、
さも「美談」のような扱いをするから、おかしな印象が残ってしまうのです。
一つの作品だけで、作家の全てを知ったような気になってしまうのは、
慎むべきなんでしょうね。

満足度★★★★☆

ザ・ワイルド

2009年12月18日 | 映画(さ行)
ザ・ワイルド [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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知恵と勇気でワイルドな自然と対峙

* * * * * * * *

大富豪の老紳士チャールズ(アンソニー・ホプキンス)は、
若いモデルの妻と共にアラスカに休養に来ます。
カメラマンのロバートや、アシスタントも同行。
チャールズは妻とロバートの仲を疑っている。
何やら、チャールズとロバート、この二人の間には不穏な空気が・・・。
さて、そんな時、チャールズ、ロバートとアシスタントの乗った水上飛行機が湖に墜落。
この事故ではかろうじて助かったものの、
アラスカの大自然の中に放り出されたこの3人。
何とか宿泊地へたどり着こうと、壮絶なサバイバルの旅が始まります。

さて、この老紳士チャールズのとりえは、知識が豊富なこと。
読書が大好きで、様々な雑学を身に付けている。
普段は、こんな知識は何の役にも立たない・・・と、
自らうそぶいていたのですが。
針を磁針に変え、方角を知る方法。
傷の手当法・・・。
いろいろなことが役立ってくる。
このような時、多くの映画なら、
お金持ちの老人は大抵わがままで傲慢、役立たずの足手まとい
・・・というキャラ設定が多そうです。
でも、ここは一味違って、若い人を導く、勇気の人。
なかなかユニークです。


ところが・・・、この作品の怖いところはここからだ!
人食い熊です。
わあ、やだ!
以前に、「シャトゥーン」という本で、さんざん嫌なシーンを読まされて、
もう、こんな話はいや~!と思ったところだったのに。
何でこんな作品を借りちゃったのでしょ。
って、私のリサーチが悪かっただけなのですが。
これは山の「ジョーズ」ですね。
こんな大きなクマに立ち向かうなんて、考えただけでもぞっとします。
見る勇気のある方は、まあ、彼らの死闘をごらんあれ。

こんな中で、微妙な心理関係にあるチャールズとロバートの間に、
次第に不思議な友情というか連帯感が芽生えてくるのです。
けれどそれは、愛を超える美しい友情
・・・だなんて暑苦しいものではない。
これもなかなか微妙なところ、というのがオトナのつくりなのです。

サバイバルの秘訣とは・・・、
“とにかく生き抜く”という強い意志ですねえ。

1997年/アメリカ/115分
監督:リー・タマホリ
出演:アンソニー・ホプキンス、アレック・ボールドウィン、エル・マクファーソン、ハロルド・ペリノー


「ワイルド・ソウル 上・下」 垣根涼介

2009年12月16日 | 本(ミステリ)
ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社

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ワイルド・ソウル〈下〉 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社

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垣根涼介「君たちに明日はない」のシリーズに気を良くして、
この作品も読んでみました。

この作品は、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞、
史上初の三冠受賞となった作品。
確かに、それも納得の力作です。


1961年、日本政府の募集により、多くの日本人がブラジルに入植しました。
しかし、彼らがたどり着いたその場所は密林。
募集要項に謳われていた灌漑排水設備や、入植用の家、開墾済の畑さえどこにも見当たらなかった。
移民たちは病でつぎつぎに命を落とす。
絶望と貧困・・・・・・。
苦難の果てに生き残った男たちが、日本政府に復讐を誓う。
これはそんな物語です。

このように、山崎豊子ばりに近代日本の歴史の暗部をえぐる重いテーマでありながら、
あくまでもエンタテイメントに徹しているところが、この本の秀逸なところ。


そして舞台は現代に移ります。
当時の移民で夢破れた老人、衛藤と山本。
それぞれ両親をアマゾンの奥地で亡くしたケイと松尾。
彼らは胸に誓います。

"俺たちは、日本政府に必ず吠え面を欠かせてやる-----。"

その行為はテロ活動ではありますが、彼らは人の命を奪おうとはしない。
最終目的は、今の日本に、かつての国と外務省が行った非情な行為を知らしめること。
この一点。
だから、世間にアピールするためにド派手なのです。
カッコイイのです。
私たちはこの犯罪がどうか成功するようにと、つい願ってしまう。
そういう痛快な物語となっています。
だから終盤、意外にも優秀な警察が犯罪の解明に向かいかけるところでは
ハラハラしてしまいます。
そんなこと気づかないでよ・・・、余計なことしないで・・・と。

1960年前後・・・。
日本はどんどん経済成長に向かうところですね。
夢を持ってブラジルに渡り、
しかし夢破れて生死の境をさまよい、また、国に帰るお金さえない、
そんな人たちは、祖国の豊かさへの変貌をどのように見たでしょう。
そんな無念さが、胸をえぐりますね。
この問題はテレビ番組などで見たような気はしますが、
真剣に考えたことはありませんでした。
知っておくべきことは実にいろいろあるものです。


さて、このストーリーにはかなり濃密な"色"もありまして・・・。
テレビ局の元アナウンサー、現在は記者の貴子。
そして、このテロ活動の実行犯ケイ。
この二人のやり取りが実にすごい。
しかし濃密でありながらも、カラッとしています。
このあたりがやはり情熱の国、ブラジルを感じさせますねえ。
ラストも、いいですよお♪
この男女の関係が「君たちに明日はない」に引き継がれているわけですね。
これも、二冊一気読みの面白さでした!

満足度★★★★★

ニュームーン /トワイライト・サーガ

2009年12月15日 | 映画(な行)
恋にうつつを抜かすだけでは・・・

            * * * * * * * *

う~ん、この記事はちょっとつらい。
どうにも、心に響く部分がなかった・・・。
先の作品「トワイライト~初恋~」は、まあよかったと思うのですよ。
超越した能力を持つバンパイア一族とベラの出会い。
エドワードとベラの恋の芽ばえ。
アクションシーンもたっぷりあって、ストーリーにも起伏があり、
うっとり感にはやや欠けるけれど、そこそこ楽しめたかな、と。
この2作目は、多分1作目と3作目のつなぎという位置づけ。
結局、エドワードが別れをつげて、
その間ベラが苦しまぎれに、別の恋にハマりかけ、
やはり元に戻るという、谷底ストーリー。
ここにはベラの苦悩があるだけで、なんともはや・・・。

だから暗くて切なくて耐えられない、というのじゃないんです。
なんだか、恋一筋でほかに何にもない女の子って、好きになれないんです。
第一、男性側にとっても重すぎませんか?
ただただ1人で落ち込んで、友人たちとも付き合わず・・・。
他にすることないのかい?っていいたくなる。
それで、他の男性に優しくされたらついフラフラって、どうなんですか?
まるで安っぽい少女マンガを見ているようでした。

それから、エドワードは見かけは若いですが、
もう100年以上生きているんですよね。
そうすると、精神的には老成しているはずと思うのです。
それなのに、勢いに任せて別れた挙句、自分がつらくて死のうと(?)する、
・・・なんていうのはいかにも若すぎ、思慮が足りない行動ではありませんか。
これじゃそこらの兄ちゃんと同じだ。


こんなにけなすつもりはなかったのですが、つい、期待が大きすぎたのでしょうか。
残念なできです。
第一、この作品でエドワードを見たかった人は、相当裏切られたと思います。
出てきたのはジェイコブばっかりでしたもんね。
(・・・でも、彼、たくましくて、素敵でしたけど。)


ただ、いいなあと思った映像があります。
悲嘆にくれるベラの周りをぐるっとカメラがまわると、
バックの窓の外の景色の季節が変ってゆく。
そうして時の流れを表現するシーンは素敵でした。
また、赤い僧衣をまとう人々を掻き分けて、ベラが進んでいくシーン。
これは夢の中のシーンなのですが、
後にイタリアへ向かったベラが実際に体験するシーン。
つまり予知夢だったというのが後でわかるのですが、
このつくりは、美しく、しゃれていましたね。
少しは褒めないと・・・。


2009年/アメリカ/131分
監督:クリス・ワイツ
出演:クリステン・スチュワート、ロバート・パティンソン、テイラー・ロートナー、ダコタ・ファニング



ニュームーン /トワイライト・サーガ New Moon Japanese Trailer



スパニッシュ・アパートメント

2009年12月14日 | 映画(さ行)
スパニッシュ・アパートメント [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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バルセロナで見つけた青春

         * * * * * * * *

スペイン、バルセロナ。
あるアパートをシェアする若者たちの青春ストーリーです。
フランス人、グザヴィエは、就職に有利と聞いて
1年間スペインのバルセロナに留学することにしました。
右も左もわからない、バルセロナ。
彼はあるアパートに共同で住むことになります。
ドイツ・イタリア・デンマーク・イギリス、そしてスペイン。
それぞれの国から集まったメンバーが住んでいる賑やかなアパート。
各国の言葉が飛び交います。
ワイワイ・がやがや時には論争を繰り広げる仲間たち。
グザヴィエは、不思議とこの中にいると落ち着き安心していられる。

彼は小さい頃作家になりたいと思っていたんです。
でも、とうにその夢は捨てて、父の勧める経済学を勉強し、役所勤めをする予定・・・。
その予定線上の留学だったのですが・・・。

結構彼は、女性好きでもありますよ。
泣く泣くフランスに残してきた恋人マルティーヌ。
バルセロナで初めにお世話になった医師の妻、アンヌ・ソフィ。
学生友達のイザベル。
しかし、遠距離恋愛の失敗でマルティーヌには振られ、
アンヌとの関係は医師にばれて終わり。
イザベルはもともとレズビアン・・・。
だがしかし!
恋は失ったけれども友情は残る。
愛すべき友人たち。
こんな中で、彼は忘れていた夢を取り戻していくんですよ。

ヨーロッパの国って混沌としてますね。
それぞれのお国柄やそれぞれの個性が相まって実にバラエティ豊かな人たち。
そんな人たちが自然に同居できてしまう。
なかなか日本では難しいかな・・・。
いっそ、10人集めて駅伝を始めてみますか???

2001年/フランス・スペイン/122分
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、ジュディッド・ゴドレーシュ、セシル・ド・フランス