映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

いのちの停車場

2022年03月30日 | 映画(あ行)

一人一人と向き合う医療

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大学病院の救急救命医として働いていた白石咲和子(吉永小百合)。
あることから職を辞し、父・達郎(田中泯)が暮らす石川県の実家に戻ります。
そこで彼女は在宅医療を行う「まほろば診療所」に勤めることに。
これまで経験してきた医療とは違う形で“いのち”と向き合うことになります。

在宅医療とは、あまり聞き慣れない言葉ではありますが、
患者は自宅にいて(寝たきりの方や末期がんの方・・・)医師が出向いて診察をします。
訪問看護とセットで行われることが多分多いと思います。
患者にはそれぞれの事情があって、
でもこんな風に医師が一人一人に寄り添って患者と向き合うやり方、
うらやましい気がしますねえ・・・。
そしてまた、場合によってはより専門的な治療につなげる
コーディネーター的な役割を持つというのもいいなあ。
今後もっと有効に活用されるべきシステムかもしれません。
私の望む(?)在宅死にも必要不可欠だし・・・。

でも本作に登場するスタッフはいい人過ぎます。
採算は度外視してるっぽい院長(西田敏行)。
明るくよく働く看護師(広瀬すず)
そして、咲和子を慕ってやって来た、元大学病院職員の青年(松坂桃李)
患者思いの優しい彼らですが、実際できすぎかな?

そして最後に提示されるのが、辛くて重い現実。
咲和子の父・達郎が苦痛ばかりが大きい不治の病に冒されてしまうのです。
現在の日本の医療の限界があり、
それにしても人として、娘としてどう対処するのが正解なのか。
答えはありません・・・。

生き方はすなわち死に方でもあるなあ・・・と思う次第。

<WOWOW視聴にて>

「いのちの停車場」

2021年/日本/119分

監督:成島出

原作:南杏子

脚本:平松恵美子

出演:吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行、田中泯

 

ヒューマニズム度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 

 


大コメ騒動

2022年03月29日 | 映画(た行)

その日のコメも買えない!

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1918年(大正7年)8月。
富山の海岸に暮らすおかか(女房)たちは、毎日上がるコメの価格に悩んでいました。
多くの家の夫は夏の間北の海に出稼ぎにでています。
その間、妻たちは船にコメを積み込む肉体労働で稼いだ日銭を、
その日のお米代としてまかなっていたのです。
しかし相次ぐコメの値上がりで、その日の稼ぎでは間に合わなくなってきた。
そこでおかかたちは、集団でコメを安く売ってくれるように、
米屋に嘆願に行くのですが、おかかのリーダー格であるおババが逮捕されてしまい・・・。

当時、肉体労働者の食事はほとんど副食はなくて、コメ中心。
一人一日一升を食べた、というのですから、
値上がりはモロに家計に直結しますね。

このときのコメの価格高騰は、シベリア出兵の需要増を見込んで、
売り惜しみが起こった故というのですが・・・。
おかかたちは毎日重いコメの俵を運ぶ仕事をしているのに、
それを自分たちが食べることができない、
という矛盾に怒りをため込んでいったのでしょう。
デモもストライキも知らないおかかたちが、
大挙して米屋に押しかけるという自然発生的な流れは理解できますね。

しかし、金持ちのやり口はなんとも汚くて、おかかたちを一人一人切り崩していく。

「あの人の家は、旦那がいるから本当は困っていない。」

「いま止めれば、あんたのところだけ安く売ってあげる。」

等と、耳元でささやくのです。
どんな手を使っても、自分の懐を痛めたくないというイヤラシさ・・・。

結局富山で発生したこのコメ騒動は、たちまち全国にも波及し、
打ち壊しやら放火まで起こったりして、
ついには時の内閣総理大臣を退任にまで追いやったという大きな流れに繋がります。

さて、このように内容は深刻なのですが、実は本作コメディ仕立て。
でもなんだか笑えません・・・。
映画の狙いとしては、このような歴史があったことを知らしめつつ
笑い飛ばして欲しかったのかも知れないけれど・・・、
なんだかシリアスとお笑いのバランスが良くないというか、
いや、どう作っても笑えない話なのかも知れず、
なぜ今、このストーリーなのかということに釈然としない気がしてしまいました。

<WOWOW視聴にて>

「大コメ騒動」

2021年/日本/106分

監督:本木克英

出演:井上真央、三浦貴大、夏木マリ、吹越満、鈴木砂羽、室井滋

 

歴史発掘度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち

2022年03月28日 | 映画(さ行)

元気でキラッキラのエビたち

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シャイニー・シュリンプスという実在のゲイの水球チームをモデルとしたストーリー。

元オリンピック銀メダリスト水泳選手のマチアス(ニコラ・ゴブ)。
ある時、同性愛者に対する差別と思われる発言をしたことから、
ゲイのアマチュア水球チーム、シャイニー・シュリンプスの
コーチを務めるようペナルティを科されてしまいます。
その上、弱小チームの彼らを、3か月後に開催されるLGBT+五輪「ゲイゲームズ」に
出場させるというのが彼に与えられたミッション。
おちゃらけて勝ち負けにこだわらない個性的メンバーをまとめるのに四苦八苦するマチアス・・・。

私、「ゲイゲームズ」なんていうものがあるのも知らなかったのですが、
これもショー的要素が大きくて、ちょっと楽しそうではありますね。
マチアスは、特にゲイへの偏見が大きかったというわけではないのですが、
ちょっと感情的になってしまった時に、口から出てしまった言葉を咎められてしまったのです。

それにしてもこのチームのメンバー、いきなりはやはり馴染みにくい・・・。
いつもふざけていてお気楽。
試合に勝つつもりなんか全然ないと見受けられたのですが。
でも次第にマチアスにも見えてきます。

ゲイであるために、差別されたり蔑まれたり・・・
そんなことを乗り越えて今の彼らがある。
でも生きることを楽しもうというのは、悪くないですよね。
マチアスは離婚した妻との間に女の子がいて、彼女を預かることがあるのです。
それがどうしてもシャイニー・シュリンプスの練習時間と重なってしまい、
やむなく彼女を連れてきたマチアス。

でも少女は全く偏見なく彼らを受け入れて、面白がって、せっせと応援します。
むしろいやいやコーチをしている父を咎める目で見ている。
いいですよねえ、こだわりのない少女の目線。
ホッとします。

そうそう、メンバーの一人はゲイ同士のペアで双子の赤ちゃんを育てている。
彼は水球の練習で忙しく不在がち。
で、残りのパートナーが一手に育児を受け持っているようなのです。
それで、
「なんでワタシばっかり一日中子供の世話に追いまくられているのに、
アナタはいつもいないの!!」
と、怒りまくるシーンが。
ゲイのペアであっても、男女のペアと変わらないことがやはり起こるものなんですね。

結局、性的嗜好の別があろうがなかろうが、
人と人との関係という面では何も変わらない。
あたりまえのことではありますが、
折に触れて、そういうことを確認していくことも大切なのかも知れません。

 

<WOWOW視聴にて>

「シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち」

2019年/フランス/103分

監督・脚本:セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴバール

出演:ニコラ・ゴブ、アルバン・レノワール、ミカエル・アビブル、デビッド・バイオレット

 


「サマータイム・ブルース (新版)」サラ・パレツキー

2022年03月27日 | 本(ミステリ)

ヴィクの始めの物語

 

 

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料金は一日125ドルと必要経費。
報告書は作成しますが、調査方法の指図はお受けしません
――夜遅くに事務所を訪れた男は、息子の恋人の行方を捜してくれと依頼する。
簡単な仕事に思えたが、訪ねたアパートで出くわしたのはその息子の射殺死体だった。
依頼人が被害者の父親ではないことも判明し、さらには暗黒街のボスが脅迫を……
圧力にも暴力にも屈しない私立探偵V・I・ウォーショースキーの熱い戦いが始まった!
多くの女性たちに勇気を与え、励ましてきた人気シリーズの第一作。
翻訳をリニューアルし、新たに解説を付した新装版で登場!

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私立探偵V・I・ウォーショースキーの、シリーズ第一作です。
私は当然読んでいるはずなのですが、ほとんど内容を覚えていなかったこともあって、
初心に返ってヴィクの始まりの物語をまた読んでみたくなりました。

本作がアメリカで出版されたのは1982年。
サラ・パレツキーのデビュー作だそうで、
こんな時からヴィクの人物造形がすっかり完成されていたというのも、すごいです。

日本での出版は1985年。
そして2010年に同訳者にて翻訳がし直されて、現在「新版」として売られています。

 

夜遅く探偵事務所に現れた男から、ヴィクは息子の恋人の行方を探して欲しいという依頼を受けます。
翌日、ヴィクが訪ねたアパートで出くわしたのは、その息子の射殺死体だった・・・!!

ショッキングな幕開けから始まり、ヴィクの地道な調査から現れてくる巨悪。
ヤクザからボコボコにされながらも奮闘するヴィク。
中にはちゃんとラブロマンスも。
第一作目にして、もうすっかりシリーズの骨格ができあがっています。

ヴィクが頼りにする女医・ロティ。
亡き父の同僚だったボビー・マロリー巡査部長。
新聞記者のマリ・ライアスン。
おなじみの登場人物たちも、もうここから登場しています。
でも、ミスタ・コントレイラスや、愛しいワンコたちがまだ出てこないのが淋しい・・・。

そしてこのときヴィクはすでにバツイチなんですね。
別れた夫の人となりについては、後の作品で伺うことができます。

 

さてそれにしても40年前の作品ということになります。
ヴィクのタフさは変わらないけれど、さすがに本作を読むと時の流れを感じます。

まずは女性の探偵というのが珍しかった。
本作中でも、珍しがられたり、女性と知ってがっかりされたり、
そんな描写があちこちにあります。
さすがに今ではそこを突く人はいないですね。

コンピュータはまだ出始めたばかり。
IBMからのダイレクトメールを見てもヴィクは興味を示しません。
パソコンなど探偵の仕事になんの役にも立たないと、このときは思っているのです。
ケータイももちろんスマホもない時代。
報告書はタイプライター。

そして驚いたのは、ヴィクが大学に行って学生の名簿を求めると、
スンナリとそれが差し出されたこと。
・・・はあ、確かにありましたよね、そういう時代。
今はそんなことはあり得ないけれど、
でも逆にフェイスブックでもっと簡単に分かったりするかも知れない。
おかしな世の中です。

 

ともあれ、ヴィクの始まりの物語を楽しむと同時に
時代の変遷をもたどることができるという、ステキな一冊です。

 

「サマータイム・ブルース (新版)」サラ・パレツキー 山本やよい訳 ハヤカワ文庫

 

満足度★★★★☆

 


ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから

2022年03月26日 | 映画(ら行)

付き合ってもいなかった別世界で

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ファンタジックラブストーリー。

ラファエル(フランソワ・シビル)とオリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)は、
高校時代に出会い一目惚れ。
そのまま付き合って、やがて結婚。


人気SF作家として多忙な毎日を送るラファエルと
小さなピアノ教室を開いているオリヴィア。
しかし、ラファエルのオリヴィアに向ける関心は薄れていって、
大げんかをしてしまった翌朝・・・。

ラファエルは見覚えのない部屋で目を覚まします。
そこはもう一つの別の世界。
ラファエルはしがない中学教師で、オリヴィアは人気ピアニストです。
そしてこの世界では高校時代の2人の出会いは起こらず、
オリヴィアはラファエルのことを何も知らないのです。
失ってしまったものの大きさに愕然とするラファエル。
いったいどうすれば元の世界に戻れるのか・・・?

ラファエルは2人の恋をまた始めれば元の世界に戻れるのでは?
と思い、オリヴィアに接近。
下手をするとただのファンのストーカーになるところですが、
巧みに自己アピールをして、自分を知ってもらうことに成功。
しかし、オリヴィアには結婚を意識している彼氏もいたりして、
なかなか前途多難です。

こんな中でラファエルを応援してくれるのが高校時代からの親友、
フェリックス(バンジャマン・ラベルネ)。
フェリックスはラファエルが「別の世界から来た」というのも始めは信じていませんでしたが、
やがて信じるようになり、いろいろなアドバイスをくれます。
でもこの人、ちょっと変人で適当かつポジティブ、というところが面白い。
しかし、どちらの世界においてもフェリックス大好きで協力を惜しまない。
持つべきものは友ですねえ・・・。

本作、この人の存在がなかったら全然つまらない話になっていたに違いありません。

多元宇宙、平行世界・・・。
そういうSFっぽい題材から始まってはいるのですが、
不可思議な事が起こるのは始めのその時だけ。
その後は現実的に話が進みます。
別の世界に紛れ込んでしまうというシチュエーションだけで作った作品とも言えるのですが、
ラファエルの行動がなかなか良くて、楽しい作品でした。

<WOWOW視聴にて>

「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」

2019年/フランス・ベルギー/118分

監督:ユーゴ・ジェラン

出演:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラベルネ

 

ラブコメ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


幸せへのまわり道

2022年03月24日 | 映画(さ行)

感情をコントロールせよ

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雑誌「エスクァイア」に掲載された、記者ロイド・ボーゲルによる記事の映画化です。

 

アメリカで1968年~2001年に放送された長寿子供向け番組の司会者フレッド・ロジャースのこと。
トム・ハンクスが扮しています。
本物は知らないけれど、多分表情や口調、物腰がそっくりなのではないかな?

雑誌記者として、華々しいキャリアを築いてきたロイド・ボーゲル(マシュー・リス)。
姉の結婚式で、長らく絶縁していた父・ジェリーと再会します。
父が母と姉と自分を捨てて出て行ってしまったことをロイドは未だに許せず、
そこでは殴り合いの喧嘩になってしまいました。

その数日後、仕事で子供向け番組の人気司会者、フレッド・ロジャーズ(トム・ハンクス)
の取材に出向いたロイド。
フレッドは会ってまもなくロイドが抱える家族の問題と、心のわだかまりを見抜きます。
そしてロイドも、フレッドの不思議な人柄にひかれて行くのです・・・。

フレッドは番組中いかにも穏やかで優しく、思いやりにあふれています。
そのためロイドはフレッドが善人を演じているのだろうと思っていて、
そのものズバリの言葉をロイドに突きつけたりもします。
しかし、フレッドは番組中だけではなく、普段もそのままで穏やかな人物でした。
はじめ、フレッドをうさんくさいと思っていたロイドも、
次第に彼の言葉を真摯に聞くようになっていきます。

フレッドは善人を演じているというわけではないけれど、
イライラすることや怒りなど、負の感情をコントロールするすべを身につけているのです。
彼はロイドに言います。
「感情をコントロールするんだ」と。
イライラするときには、口をつぐんで愛する人のことを思い浮かべればいい・・・。

自分の怒りの感情が回りの人をどれだけ傷つけているか、
ということにも思い至るロイド。
そして何があっても家族のことはやはり大切なのだと気づいていく。

フレッドのおかげで、自分の人生を取り戻すことができたように感じたロイドは、
そのことを記事にした、という次第なのです。
良い話ではあるのですが、なんだか素直に浸りきれない感じ。

感情をコントロールすること。
怒りを爆発させずに呑み込むこと。
確かにそれは大切です。

でも私には、いきなり人の国に攻め込んできて、
建物を破壊したり人々を殺戮したりする暴力に対する怒りを、
どのように静めれば良いのか分かりません・・・。

<WOWOW視聴にて>

「幸せへのまわり道」

2019年/アメリカ/109分

監督:マリエル・ヘラー

出演:トム・ハンクス、マシュー・リス、スーザン・ケレチ・ワトソン、クリス・クーパー

善人度★★★★★

家族祭制度★★★★☆

満足度★★★☆☆


孤狼の血 LEVEL2

2022年03月23日 | 映画(か行)

満身創痍で奮闘!

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前作を見ていましたが、この続編は見逃していました。

前作から3年後、ということで始まる本作ですが、
内容については原作にはないオリジナルストーリーだそうです。

3年前、暴力組織の抗争に巻き込まれ殺害された伝説のマル暴刑事・大上の後を継ぎ、
広島の裏社会に対峙する刑事・日岡(松坂桃李)。
あの時の新人刑事も今ではすっかり裏社会の顔なじみ、
どちらがヤクザか分からないくらいの迫力を身につけています。
しかし、3年前の大上と自分の働きにより、
今の一応平穏な裏社会を保つことができているという自負もあります。

しかし、そんなところに刑務所から凶悪な男・上林(鈴木亮平)が出所し、帰って来ます。
裏社会の危うい均衡をぶち壊し、瞬く間に上林組組長となり、
日岡の前に立ちはだかります。

この大林というのが、サイコパスの殺人鬼。
恐い、恐い・・・。
独裁者が狂っていても、その配下の者は何も言えず心を無にして従うのみ
・・・って、そういう見本みたいなものです。
そんな中にエスとしてチンタ(村上虹郎)を送り込む日岡。
いやー、やめてやめて、絶対悲惨なことが起こる・・・
と私はつぶやきながら見てしまいましたよ。
そしたら、やっぱり・・・。
もー、だから言ったじゃないの。
村上虹郎くんを返せ~!!

この大林も血が凍りそうに恐いですが、
終盤それにも増して震撼させられるような事実が浮かび上がります。
ヤクザはその暴力が恐い。
でも警察組織や権力をにぎる者は、直接的な暴力を振るわずとも、
陰険に「正義」を踏みにじる。
このイヤラシさといったらありません。

刺される、撃たれる、ボコボコにされる、2階の窓から転げ落ちる、
手錠をはめたままで運転し、カーチェイス。
満身創痍で死なないのが不思議なくらいの日岡。
そしてそれにも増しての心理的ダメージ。
この奮闘にはもう、泣きそうです。
カッコ良かったよ~!!!

 

とにかく、胸が熱くなってしまう一作。

<Amazon prime videoにて>

「孤狼の血 LEVEL2」

2021年/日本/139分

監督:白石和彌

原作:柚月裕子

出演:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢磨、早乙女太一、
   毎熊克哉、中村梅雀、滝藤賢一、斎藤工

 

バイオレンス度★★★★★

権力者の陰謀度★★★★★

満足度★★★★★

 


「銀花の蔵」遠田潤子

2022年03月22日 | 本(その他)

座敷童のいる醤油蔵で

 

 

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秘密を抱える旧家で育った少女が見つけた、古くて新しい家族のかたち。
大阪万博に沸く日本。
絵描きの父と料理上手の母と暮らしていた銀花は、
父親の実家に一家で移り住むことになる。
そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る由緒ある醬油蔵の家だった。
家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、
少女は大人になっていく―。
圧倒的筆力で描き出す、感動の大河小説。

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遠田潤子さん作品、これまで「白、緑、赤」が題名につく物語を読んできましたが、
今回は「銀」です。

すべての作品の題名に色がついているわけでもありませんが。

 

絵描きの父と料理上手の母と暮らしていた銀花が、
父の実家に家族で移り住むことになります。
父の実家というのは奈良の由緒ある醤油蔵。
座敷童が出るという話もあります。

ある時、銀花はその、座敷童を目撃するのですが、
そのことを家の人に言うと、そんなはずはないと、皆、怒り始めるのです。
今の父は実の父ではない。
銀花は、母の連れ子だった。
この家で、当主となるものだけが座敷童を見ることができる
という言い伝えのある座敷童を、
血のつながりもない小娘に見えるわけがない、と。

目一杯かわいがってくれて大好きな父が実の父ではないなんて・・・。
その時初めて真実を知った銀花・・・。

 

この家を切り回すことだけに必死な厳しい祖母。
なぜか銀花に敵意を向ける父の年の離れた妹。
どこかふわふわと浮世離れしていて、そして、盗癖のある母。
絵描きへの夢が捨てきれず、家業には全く身の入らない父。
問題山盛りのこの家族の中で、それでも強くまっすぐに銀花は成長していきます。
そして彼女はこの醤油蔵が大好きなのでした。

結局本作の中で、家族となるのは血のつながらない人々ばかりなのです。
最も血縁を重要視しそうなこの旧家で、
血のつながらない人々が身を寄せ合って暮らす。
そして、蔵を受け継いでいく。

座敷童を見ることができるのは、その心がある人。
そういうことでいいですよね。

 

本作、醤油蔵を舞台としたことで、歴史や風土の中で息づく人々の生活が語られていて、
遠田潤子さんらしさを保ちながら、
最も深く読み応えのある作品になっているように思いました。
あ、これまで読んだ中で、ということですが。
(そもそもまだ数冊しか読んでない!)

<図書館蔵書にて>
「銀花の蔵」遠田潤子 新潮社

満足度★★★★.5

 

 


「討ち入りたくない内蔵助」白蔵盈太 

2022年03月21日 | 本(その他)

ナマの大石内蔵助

 

 

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松の廊下での刃傷事件の情報がもたらされると、
籠城だ仇討ちだといきり立つ藩士たち。
内蔵助は彼らをのらりくらりとかわしながら、
「藩士どもを殺してたまるか! 」とお家再興に向け画策する。
しかし、精一杯やっているのに四面楚歌。
やってられるか、こんなこと!
筆頭家老の責任なんて投げ出せたら楽になれるのに……。
既存のイメージを覆す、人間・内蔵助を等身大で描く新たな忠臣蔵。

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先に、同じ著者による「あの日、松の廊下で」を読みましたが、
本作はその続編のような形になっています。
直接的につながっているわけではあありませんが。
「あの日-」では、浅野内匠頭が松の廊下で吉良上野介と刃傷沙汰になってしまった、
そのいきさつを描いていましたが、本作はその後の物語。
赤穂藩筆頭家老・大石内蔵助が、討ち入りに至るまでを描きます。

内蔵助は本当は筆頭家老なんて性に合わないと思っているのですが、
無理矢理筆頭家老を「演じて」これまで職務を務めてきました。

この度の赤穂藩への幕府の措置はあまりにも厳しく、
そして喧嘩両成敗のはずなのに吉良上野介にはお咎めなし、
というのがどうにも納得のいかない藩士たち。
籠城だ、仇討ちだ、といきり立ちます。
内蔵助はしかし、お家再興をなんとしても果たしたい。
そのためには幕府への反抗心を見せるわけにはいかないのです。
いきり立つ周囲をなだめるのに四苦八苦。
しかしついに、お家再興の望みも絶たれたとき・・・!

まことにナマの人間らしい大石内蔵助でした。
ん~、でもどうなのか。
私、忠臣蔵には全然詳しくないからなのか、本作での大石内蔵助の心中、
さほど意外な感じはなかったです・・・。

 

「討ち入りたくない内蔵助」白蔵盈太 文芸社文庫

満足度★★.5

 


タロウのバカ

2022年03月20日 | 映画(た行)

刹那的に生きる少年たち

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刹那的に生きる3人の少年の過激な日常を描きます。

戸籍もなく学校にも通ったことのない少年、タロウ(YOSHI)。
一応母と暮らしていますが、母はネグレクトで、
ほとんど家にいなくて、たまに帰ってくるだけ。
本当は名前もタロウではないのですが、
エージが名前を言わないヤツは「タロウ」だというので、
そのままタロウと呼ばれているのです。

タロウといつもつるんでいるのが高校生のエージ(菅田将暉)とスギオ(仲野太賀)。
特にエージはけんかっ早くて粗暴なため、鼻つまみ者。
しかしこの3人は共にいるとなんとなく心が解放される気がするのです。
スギオとエージにとっては、タロウはむしろ世間とのしがらみが何もなくて
「自由」でうらやましく感じてさえいたのではないでしょうか。

そんな3人なのですが、ある時ヤクザから拳銃を奪い取ったことから、
彼らの世界が、よりささくれ立っていく・・・。

銃を持つ前までは、単にはみ出しものの少年たちだった。
けれど、彼らは持つべきではない「力」を持ってしまった。
銃を取り戻そうとするヤクザたちに付け狙われるのも、いかにも不穏です。

これまでは騒いで乱暴を働いて鬱憤を晴らすことができればそれで良かった。
でも、銃を持てば、なんだってできる。
本当はそうではないのだけれど、そんな気がしてきてしまうのですね。
あげくには暴走して、自滅していく他ありません。
苦しいなあ・・・。

タロウを演じたYOSHIくんは、モデルで本作が俳優デビューとのこと。
菅田将暉さんと仲野太賀さんという名優に引けをとらない存在感でした。

そしてさすが、菅田将暉さん、仲野太賀さんはどんな役もこなしますねえ・・・。
ほんと、今後もたっぷり楽しませてもらえそうです。
せいぜい長生きして、見届けよ。

<WOWOW視聴にて>

「タロウのバカ」

2019年/日本/119分

監督・脚本:大森立嗣

出演:YOSHI、菅田将暉、仲野太賀、奥野瑛太、植田紗々

暴力度★★★★★

満足度★★★.5


さんかく

2022年03月18日 | 映画(さ行)

それぞれの思いが暴走

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百瀬(高岡蒼甫)と佳代(田畑智子)は、だらだらと同棲を続けています。
そんなところへ、佳代の中学生の妹・桃(小野寺令奈)が
夏休みを過ごすために転がり込んできます。
桃の大人びて挑発するような態度に百瀬は動揺。
そして次第に気持ちが高まっていきます。
その一方、佳代は百瀬が日に日に自分に素っ気なくなって行くことに
不信感を募らせ、ついに大げんかとなり・・・。

 

それぞれの思いが、相手のことをかまわずに自分の中で煮詰まっていって、
やがて自滅へと向かう・・・。
そんな人たちの物語なんですね。

大げんかの末出て行ってしまった百瀬に、
佳代は執着し始めてストーカーのようになってしまう。

百瀬は、まだ幼さの残る少女・桃に勝手に思いを募らせて、
こちらもまたストーカーまがいに。

 

どちらも、バカで迷惑なだけなのですが、
その最中には双方、自分の姿が見えていないのです。
その姿は滑稽ではあるけれど、妙にもの悲しい・・・。
それはその気持ちを共感する相手もない、
「孤独」を浮かび上がらせるからなのかも知れません。

 

しかし、物事には終わりがあって・・・、
最後に、憑き物が落ちたようになる彼らは、いっそすがすがしくさえ感じられる。
これぞ、吉田恵輔監督マジックではあるまいか・・・。

 

最後にちょっとだけ出てきた仲野太賀さん、若い!!

 

<WOWOW視聴にて>

「さんかく」

2010年/日本/

監督・脚本:吉田恵輔

出演:高岡蒼甫、小野寺令奈、田畑智子、矢沢心、大島優子、太賀

ストーカー度★★★★☆
満足度★★★.5

 


赤い闇 スターリンの冷たい大地で

2022年03月17日 | 映画(あ行)

踏みつけにされるウクライナ

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ソビエト連邦、悪名高きスターリン時代のストーリーとなれば、
どんなに非人道的な話なのかと想像がつき、逆に見たくもないと思ってしまうのですが、
本作それがウクライナに関わる話ということで、ぜひ見なければ!と思い直した次第。

 

スターリン体制のソ連という大国に1人立ち向かった
ジャーナリストの実話を元にしたドラマです。

1933年。
世界中が大恐慌にあえいでいます。
ヒトラーへの取材経験を持つ若き英国人記者、ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、
こんな中でなぜソ連だけが繁栄を続けているのか疑問を持ちます。
このことを知りたくて、彼は単身モスクワを訪れるのです。
外国人記者を監視する当局の目をかいくぐり、
疑問の答えが隠されている、当時ソ連の一部であるウクライナ行きの列車に乗り込みます。
凍てつくウクライナの地で、ジョーンズが目にしたものとは・・・!!

ウクライナといえば名うての穀倉地帯。
ソ連はそこで「集団農場」の取り組みを行っていたのですね。
地理だか歴史だかで習ったなあ。
コルホーズとソフホーズ。
どっちがどうなのか未だによく分かっていないけれど・・・。
ところがそれがうまくいっていなくて、ウクライナでは大飢饉が起こっていたのです。
食料が何もなく、道ばたに餓死者が転がっていたりする惨状をジョーンズは目にします。
そんな中でも、なけなしの穀類の袋が大量にモスクワに送られていく・・・。

ウクライナに死体の山を築きながら、肥え太っているソ連という国。
本作で恐ろしいのは、このウクライナの惨状ばかりではありません。
このことをひた隠しにするソ連当局。
そして当局の都合の良いことばかりをかき立てる、
各国の在モスクワ記者たち(真実を書けば、命の危険があるのは確かですが)。
またさらには、英国でも、国交上の都合から
ジョーンズのウクライナの真実を伝える記事は、
でたらめだと決めつけられてしまうのです。

こんな中で、一般市民は何が真実なのかなど分かりようがない・・・。
恐ろしいことですが、それは今のこの時代も全く変わらないわけですね。

こんな風に、一方的にロシアから踏みつけにされたウクライナという歴史があるからこそ、
この度のようなロシアの侵略には命をかけても抗うという人々の決意が、
一層重く感じられます。
とはいえ、本作自体も一方的に見たものではある、
ということだけは一応忘れずにいたいと思います。

個人的には、プーチンなんかゴルゴ13に狙撃されてしまえ!と思っていますが。

 

<Amazon prime videoにて>

「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」

2019年/ポーランド、イギリス、ウクライナ/118分

監督:アグニエシュカ・ホランド

出演:ジェームズ・ノートン、バネッサ・カービー、ピーター・サースガード、
   ジョゼフ・マウル、ケネス・クラナム

 

歴史発掘度★★★★★

非人道度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「ミステリと言う勿れ 2」田村由美

2022年03月16日 | コミックス

国を動かすような位置にある人は、戦争を悪と考えていない。

 

 

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印象派展に向かう途中のバスで、バスジャックに巻き込まれた
久能整(くのう・ととのう)。
犯人の脅しにもひるむことなく、マイペースな発言を繰り返して
バスジャック犯を引っかき回したものの、
ほかの乗客たちと、犯人宅に”招待”されてしまい・・・!?

天然パーマの大学生・整が、思いがけない展開を導き出す新感覚ストーリー!!

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「ミステリと言う勿れ」第2巻。

バスジャックから始まるエピソードの顛末は、ドラマで見て分かっていたので、
意外性を楽しめなかったのが残念ではありますが、
この中で私が一番好きな整くんのセリフ。

「どうしていじめられてる方が逃げなきゃならないんでしょう。
欧米の一部では、いじめてる方を病んでると判断するそうです。
いじめなきゃいられないほど病んでる。
だから隔離してカウンセリングを受けさせて癒すべきと考える。
(中略)
病んでたり、迷惑だったり、恥ずかしくて問題があるのは、いじめてる方」

 

私も、常々思ってはいたのです。
いじめる側の人は、きっと満たされない何かがあるのだろう、と。
そんなモヤモヤを、見事にきちんと言葉にしてくれたなあ・・・!!

 

そして、こんな言葉もありましたよ。

「戦争を『悪』と考えてるのは、一部の一般の人たちと、
先の大戦で被害を受けた人たちだけです。
国を動かすような位置にいるほとんどの人がそうは思ってない。
それを必要とする人が多いうちは決してなくならない。」

非常に冷めた整くんの意見ですが、
私は今、自分の脳天気さを思い知った気がしているのです。
平和は当たり前にあるものだと思っていた。
でもそうじゃなくて、ある日突然よその国が攻め入って来ることが本当にある。
それを目の当たりにしたわけで。
冷めた整くんの意見が正しいのが辛い。

 

さて、私はテレビドラマは原作通りに進行していると思っていたのですが、
そうではなかったようです。
本巻のエピソード3では、整くんが広島へ行った時のことが描かれています。
東京での「印象派展」を見逃してしまった整くんが、広島での展示を見に行くのです。
そこでまたいろいろなことに巻き込まれてしまう。
このストーリーはテレビドラマにはなかったですね。
だからやっぱり、原作コミックを読んで良かった!

 

「ミステリと言う勿れ 2」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★☆

 


「砂上」桜木紫乃

2022年03月15日 | 本(その他)

「物語」の意味

 

 

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直木賞作家・桜木紫乃が創作の苦しみを克明に描く、新たな到達点!

守るものなんて、初めからなかった――。
人生のどん詰まりにぶちあたった女は、 すべてを捨てて書くことを選んだ。
母が墓場へと持っていったあの秘密さえも――。
直木賞作家の新たな到達点!

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本作は少し変わった趣向で描かれていまして、物語の主人公が、小説を書いているのです。

いくつかの新人賞に応募もしたけれど、いずれもボツ。
そんな応募原稿に目をとめた編集者からいくつかの指摘があり、
書き直してみるよう勧められた主人公・令央が、ひたすら小説を書いて行きます。
内容はほとんど、自分の身の上のことそのまま。

令央の母・ミオと、自分、そして妹・美利のこと。
実は、母と自分しか知らないことなのですが、美利を生んだのは自分自身。
つまり、令央は自分の娘を妹としてこれまで生きてきたのです。
しかしその美利も今は自立し、家もとを離れて暮らしている。
ビストロのバイトで食いつないでいる令央よりもよほどしっかりしている。
そして秘密を共有し、美利の母として生きていた母もつい先頃、病で亡くなっています。
こんな心の空白と、長く秘密を抱えていた心の鬱屈。
彼女はこれを「小説」として吐き出さなければ
どうにもならなくなっていたのではないかと思います。

 

作中、こんな文章がありました。

令央は「虚構」を信じたかった。
すべて嘘に塗り替えてしまえば、おのれの真実が見えるはずだ。

あのとき何が足りなかったのか、
あの日どうすれば良かったのか、
あの人にどう接すれば間違わずに済んだのか。
それらの答えはすべて現実ではなく再構築された虚構の中にある。

 

著者桜木紫乃さんの小説の捉え方が垣間見えるようでもあります。

とはいえ、小説を書くときには過去の自分の至らなかったこと、
ダメなところ、苦しかったこと等と真っ正面から向き合わなければならない
ということで、これはかなり辛いのではないかと思います。
私なら、目を背けたままでいたいかも・・・、
だからやっぱり小説は書けないな、と思ってしまいました。

 

「小説」とは、「物語」とは何なのか。
そんなことを考えてみるのによい作品だと思います。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「砂上」桜木紫乃 角川書店

満足度★★★.5

 


あのこは貴族

2022年03月14日 | 映画(あ行)

女たちは軽々としがらみを脱ぎ捨てる

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東京の松濤の上流家庭で箱入り娘として育った20代後半の華子(門脇麦)。
彼女は、家族の考えと同じく、結婚こそが女の幸せと信じて疑いません。
結婚を考えていた恋人に振られ、その後焦ってお相手探しに奔走しはじめます。
そして、政治家も出る名家のイケメン御曹司、
弁護士の幸一(高良健吾)との結婚が決まります。

一方、富山から一流大学入学を果たし上京した美紀(水原希子)。
しかし親からの仕送りが不能となり、バイトを始めるもやりくりできず、とうとう退学。
それでもそのまま東京にしがみついて、なんとか仕事に就いたのです。

 

そんな二人が、思わぬ縁で出会い、それぞれ思いも寄らない世界が開けていく・・・。

私、生まれも育ちも北海道。
上流家庭の生活なぞは、それこそ映画やドラマで垣間見るだけですが、
実際にいるのですねえ・・・、東京の「お嬢様」。

お金があるのはうらやましいけれど、でもああした結婚観にはとてもついて行けません。
その家父長的考えは戦前と変わらないじゃないですか!!
今時「家事手伝い」という表現があるとは・・・。
正直、別れた彼氏が「結婚は無理」といった気持ちも分かる気がします・・・。

そんな華子ですが、必ずしも色恋沙汰をムダと思っているわけではなく、
幸一にはちゃんとぽ~っとなったのです。
そりゃそうですよね。
イケメン、高身長、高学歴、弁護士で物腰も洗練されている。
文句なし!!

しかし、次第に分かってくるのですが、彼自身も窮屈な「名家」の一員。
好むと好まざるとに関わらず、あらかじめ人生のレールは敷かれていて、
彼自身の夢も希望もなく、淡々とその上を進むしかない、と諦めきっている。
そんな息抜きに、ちょっと他の女の子と付き合ったりもするわけです。
ただし、結婚相手は家族も認める「マトモ」な娘でなければならない。

さて、全く別の階層の住人、華子と美紀が邂逅したとき・・・。
実はそれは修羅場となるべきところなのかも知れないけれど、そうはなりませんね。
互いに今とは違う生き方が実はあるのではないか、そういう気づきの場となるのです。
そしてまた双方共に、本心を相談できる良き友人がいて、彼女たちを支えます。

生き方を変えたいと思うとき、
女たちはこれまでのしがらみを気持ちいいくらいにさらりと脱ぎ捨てます。
多分男性のように地位や名誉にしがみつかないからかもしれません。
実は自分は自由だと気がつきさえすれば良い。

ラストシーンで、華子が幸一に遠くからほんの少し笑いかけるのですが、
おそらくこのとき幸一は「この人はこんな風に笑うことができたのか」と
驚いたのではないでしょうか。

 

もしかして、華子は戦後の女性史を一人で体現して見せた・・・?
美紀の凜として軽やかな生き方も、好きです。
あ、それと石橋静河さん演じる華子の友人逸子も大好き。

 

<WOWOW視聴にて>

「あのこは貴族」

2021年/日本/124分

監督・脚本:岨手由貴子

原作:山内マリコ

出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ

女性の生き方度★★★★★

階層格差度★★★☆☆

満足度★★★★☆