映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

グリーン・ナイト

2022年11月30日 | 映画(か行)

文明や歴史を飲み込もうとする自然の力と向き合うこと

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J・R・R・トールキンが現代語訳したことで知られる
14世紀の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」を映画化したもの。

アーサー王の甥であるサー・ガウェイン(デブ・パテル)は
酒浸りで自堕落な日々を送っていました。
「騎士」にもなれていません。
そんなクリスマスの日、円卓の騎士が集う王の宴に異様な風貌をした“緑の騎士”が現れ、
恐ろしい首切りゲームを持ちかけます。
「この中の誰か、我こそと思う者は、今ここで私の首を切り落とせ。
そしてその代わりに一年後のクリスマスに、私の屋敷に来るように。
その時に、私がそのものの首を切り落とす。」
というのです。

ガウェインは挑発に乗り、緑の騎士の首を切り落としますが、
騎士は転がった首を拾い上げて去ってしまいます。

さて、一年後。
約束を果たすためにガウェインは緑の騎士の居所を訪ねて、
未知の世界へ踏み出します・・・。

さてさて、なんとも不思議な物語です。
これってゲーム!?と、まず首をかしげたくなりますが、
つまりはガウェインの勇気を試そうという話なのでしょう。

一年後、自らの死を覚悟しながら、ガウェインは旅立つのか。
本当に緑の騎士の元まで行こうとするのか・・・?

ちょっと、走れメロスのようでもあると思ってしまいました。
ただし、身代わりの友が待っているわけでもない。
ただひたすらに、自分の「名誉」のためだけに命をかけることができるのか。
・・・つまり、それが「騎士」であることの資格なのかも知れません。

さてそれはそれとして、とある解説で、
本作にて<緑>は「自然」を、<赤>は「文明」を表わしているというのがありました。
すなわち緑の騎士とは、人の前に立ちはだかる大自然の象徴。
それと対峙する人間、そしてその代表であるガウェインが文明の象徴。

人によって自然は簡単になぎ倒されてしまうけれども、
しかしじきに復元していく。
そしてその勢いは時には人を押しつぶす。
大自然の力に抗おうとするからには、自らの生命が脅かされることも覚悟しなければならない・・・と、
そんなことを言っているようにも思えます。

でも物語の舞台の14世紀、人が自然に抗おうとするといってもたかが知れています。
せいぜいが、少しの森を切り開くくらい。
だから、この物語は現代でこそ意義があるのでは?

あらゆる開発や、二酸化炭素の放出、あふれるプラスチックゴミ・・・
大自然にさからう人の営みがいま、強烈なしっぺ返しを受けていると、
常々感じるところではありますので。

幻想的で不思議な物語。
独特の雰囲気があります。

 

<シアターキノにて>

「グリーン・ナイト」

2021年/アメリカ・カナダ・アイルランド/130分

監督・脚本:デビッド・ロウリー

出演:デブ・パテル、アリシア・ビカンダー、ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、
   ケイト・ディッキー、ラルフ・アイネソン、ショーン・ハリス

幻想度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「イリノイ遠景近景」 藤本和子

2022年11月29日 | 本(エッセイ)

様々な人の生き様が共感を呼ぶ

 

 

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刊行後即重版! 名翻訳者による、
どこを読んでも面白いエッセイの傑作。

近所のドーナツ屋で野球帽の男たちの話を盗み聞きする、
女性ホームレスの緊急シェルターで夜勤をする、
ナヴァホ族保留地で働く中国人女性の話を聞く、
ベルリンでゴミ捨て中のヴァルガス・リョサに遭遇する……
アメリカ・イリノイ州でトウモロコシ畑に囲まれた家に住み、
翻訳や聞書をしてきた著者が、人と会い、話を聞き、考える。
人々の「住処」をめぐるエッセイの傑作。 

* * * * * * * * * * * *

 

藤本和子さんというのは、正直私にはなじみのなかった方なのですが、翻訳者なのですね。
アメリカの方と結婚して、現在も米イリノイ州在住。
83歳。

本書はエッセイ集ですが、「小説新潮」に1992年~1993年に連載されたものが
単行本として1994年に刊行され、それがさらに文庫化されたものです。

というわけで、今から30年ほども前に書かれたものながら、
その内容はちっとも古びてはおらず、今もハッとさせられることが多いのです。
多くは人と出会い、その話を聞いたことを紹介しています。
それも、いわゆる成功者や著名人のインタビューではなく、
ごく一介の人々や、特異なことを成し遂げた人。

 

ナヴァホ続保留地で働く中国人女性の話、先住アメリカ人の陶芸家の話・・・。
藤本さんはあまり多くは語らず、相手の言葉――生きる思いを
するすると引き出しているように思われます。

中でも、第二次大戦中、ユダヤ人でありながら自らをドイツ人であると偽り、
ヒトラー・ユーゲントに入隊してしまったというソロモン・ペレルの話は圧巻でした。
このことは「ヨーロッパ、ヨーロッパ」という映画にもなった有名な話のようですが、
少なくとも私は知りませんでした。
しかし、ユダヤ人でありながらユダヤ人を差別し虐待する役割をしなければならない
というその心中は、たやすくは語ることはできないと思うのですが、
藤本さんは本音を聞き出せていると思います。

 

その他、ホームレスシェルターで夜勤をする話、
広大なトウモロコシ畑に囲まれた家での暮らしの話
・・・興味深いことばかり。

大切な一冊となりました。

 

「イリノイ遠景近景」 藤本和子 ちくま文庫

満足度★★★★★

 


余命10年

2022年11月28日 | 映画(や行)

余命10年は、長いのか短いのか

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病気のオンナノコの話は嫌いです・・・、といつも言っているのに、やはり見てしまう。
本作は、見逃してしまうにはあまりにも惜しい、豪華キャストなもので・・・。

20歳の大学生・茉利(まつり)(小松菜奈)。
数万人に一人という不治の病に犯され、余命10年を宣告されます。
療養のための入院は2年にも渡り、大学卒業はそこであきらめなければなりませんでした。
退院後も病気が完治したわけではなく、残りの命を数えて生きるような、苦しい日々・・・。
茉利は生きることに執着しないように、恋はしないと心に決めています。

ですがそんなある日、同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い、恋に落ちてしまいます。
予定とは大きく変わる彼女の10年。
けれど、茉利は自分の病が不治の病であること、
余命わずかであることを和人に伝えられないのです・・・。

和人の登場の仕方がちょっと意外でした。
彼は仕事をクビになって、生きる意味を見失い自殺を試みてしまうのです。
ですが、失敗に終わります。
そんなところへ見舞いに来た茉利は、「ずるい」と言い捨てて帰ってしまう。
生きたくても生きられない人がいるのに、なぜ自分の命を粗末にするのか・・・
茉利はそういう気持ちがあふれ出てしまったのですね。
和人にはその言葉が胸に刺さって忘れられず、茉利と付き合うようになるわけです。

確かに、元気ではつらつとして自信満々の男性とは、
茉利は付き合う気にならなかったでしょう。

和人の弱さ・やさしさは、逆に病気の自分でも励ますことができる。
ただ“かわいそう”な存在にはなりたくない。
それが自分の病気を打ち明けられない理由でもあるわけですね。

余命10年というのは、長いのか、短いのか、ちょっと微妙
という表現が作中にあり、実際私も本作の題名を見たときにそう思ってしまいました。

でもこれは、例えばよくある「高校生くらいの女の子が、残り1~2年の命を生きる」
のとは少し意味が違ってくると思うのです。

20歳からの10年間。
恋愛関係の人がいるとすれば、当然結婚も視野に入ります。
でも自分はその結婚生活の途中でいなくなることが分かっている。
とすれば、相手にとって結婚することがよいのか、悪いのか・・・。
相手に負担ばかりを負わせることが分かっていて、結婚はできないとも思う。

「青春」ではなく「人生」がかかった決断をしなければならないということで、
大変重いですね・・・。

本作は「フィクション」ではあるけれど、
著者・小坂流加さん自身のことがかなり反映されています。
小坂流加さんは、「余命10年」文庫版の編集が終わった直後、
病状が悪化し、2017年2月に38歳で逝去されたそうです。

小松菜奈さんと坂口健太郎さんが、見事にこの二人を演じてくれました。
感涙。

 

<WOWOW視聴にて>

「余命10年」

2022年/日本/125分

監督:藤井道人

原作:小坂流加

脚本:岡田惠和、渡邊真子

出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、黒木華、
   田中哲司、原日出子、松重豊、リリー・フランキー

満足度★★★★★


画家と泥棒

2022年11月27日 | 映画(か行)

ドキュメンタリーを装ったドラマ???

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ノルウェーで実際にあった絵画の盗難事件。
本作はその被害に遭った画家と絵を盗んだ犯人の、
事件後の意外な交流を追ったドキュメンタリーです。

2015年。
オスロのギャラリーで2店の絵画が盗難されます。
防犯カメラから、まもなく犯人・ベルティルは特定されて捕まったのですが、
絵をどうしたのかは、「覚えていない」の一点張り。
やがて、画家・バルボラは、ベルティルに「あなたをモデルに絵を描かせてほしい」と提案。
そこから、画家と犯人の思いも寄らない関係が始まるのです。

これは、ドキュメンタリー風に作られた斬新的な作品なのか?と思ってしまいました。
さほどに、現実離れした展開だったもので。

バルボラの描く絵画はかなり写実的です。
それは、現代的センスで、ややほの暗く人の心に訴えるようなイメージ。
通常、窃盗犯の肖像など描こうと思わないと思うのですが、
バルボラは一目ベルティルにあったときに、インスピレーションを感じたのでしょう。
そうしたことが画家としての才能の一端なのかも知れません。

その後に本人から聞くのですが、
ベルティルの幼いときに母親が出て行ってしまい、父子家庭で育ったこと。
高校時代くらいまでは成績もよかったけれど、
その後麻薬やらアルコール浸りになって人生の転落が始まったこと・・・。
入れ墨だらけのその体や本人の人となりに
バルボラは何らかの独自性を感じ取ったのでしょう。

ところで、バルボラは売れっ子画家というわけではなくて
例の盗まれた2点が彼女の代表作。
彼女の他の絵は、その後なかなか買い手が現れません。
アトリエの家賃にも苦労するような生活。
そんなことで、バルボラの生活も厳しくなってきて、
時にはベルティルがバルボラを慰めるような、
関係性の逆転が見られたりするのも、興味深い。
両人にはそれぞれちゃんと別に恋人はいるのですが。

やがて、ベルティルは飲酒運転で事故を起こして入院。
退院後はその罪で1年ほど刑務所に入ります。
なぜか刑務所でトレーニングに励んで、出てきたときには二回りほどガタイが大きくなっていたりする・・・。
やっぱり、その都度記録を取ってきたドキュメンタリーなのだなあ・・・と改めて思います。

そもそも、この二人を題材にドキュメンタリーを撮ろうだなんて、
いつの時点で思いついたのでしょう・・・?

下手な小説よりも、時には現実は面白い。

 

<Amazon prime videoにて>

「画家と泥棒」

2020年/ノルウェー/102分

監督:ベンジャミン・リー

出演:バルボラ・キシルコワ、カール・ベルティル・ノードランド

 

現実の不可思議さ★★★★☆

満足度★★★.5


ザリガニの鳴くところ

2022年11月25日 | 映画(さ行)

湿地にたった一人で生き抜く少女

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全世界でヒットしたディーリア・オーエンズの同名ミステリ小説の映画化。
私もぜひ読みたかったのですが、読まないうちに映画を見ることになってしまいました。
でも、本作はやはりストーリーを知らずに見るのが正解。
むしろ読まずにいてよかった。

ノースカロライナ州の湿地帯。

将来有望な資産家の青年が変死体となって発見されます。
犯人として疑われたのは付近で「湿地の娘」と呼ばれている少女カイア。
彼女は6歳の時に両親に捨てられ、学校へも通わず、
湿地の自然から生きる術を学び、たった一人で生き抜いてきたのです。
人々は町の人と交わろうともしないそんな彼女を、薄気味悪く思い、
実の名を知ろうともせずに、ただ「湿地の娘」とだけ言って、
忌まわしいものとしてウワサをするだけ・・・。

この度も、ろくな証拠もないままに、
人々のあの子が怪しいというウワサだけで、逮捕に至りました。

さてそんな中、カイアの半生が語られて行きます。

町から離れた湿地帯にある一軒家。
父親がひどいDV男。
耐えきれずにまず母が出ていき、姉たちが出ていきます。
そして最も親しかった兄も出て行ってしまい、
カイアは恐ろしい父親と二人きりに。
ところが次にはその父自身が出て行ってしまった。
幼い少女はそれでもできうる限りのことをして、一人で生き抜いていきます。
湿地で採れたムール貝を雑貨屋さんに持って行って、他の必要なものと交換。
ここの雑貨屋の夫婦だけが彼女をそっと見守ります。

やがてカイアはこの湿地によく来るテイトという少年と親しくなり、字を教わったりします。
本が読めるようになった彼女の世界が広がります。

しかしやがてテイトは大学に入り、この地を去ってしまう。
約束した日に戻っても来ず、手紙も来ない・・・。
そんな失意の彼女の心につけ込んだのが、金持ちのボンボン、チェイス。

彼の口車に乗せられて、カイアはすっかり彼の虜になってしまうのですが、
実は彼には婚約者がいて・・・。
そう、このいい加減な男、チェイスこそが冒頭に死体で発見された男であります。

そんなわけで、カイアには殺人の動機がないわけでもないのですが・・・。
さてさて、どうなりますやら。

・・・ということでストーリーが抜群に面白いのですが、本作の魅力はそれだけではありません。
舞台背景となった湿地の光景がなんとも魅力的です。
実はワニが住んでいたりもして危険もあるのでしょうけれど、
様々な虫や鳥が息づき、それらと共に生きる野性的な少女の姿を魅力的に形作ります。

そして、カイアという「個」の輝きがなんといっても素晴らしい。
この孤独な生活で、誰でもいいからそばにいてほしいと思う
弱さを見せることもあるのが、またいいのです。
生きるために大人の思考力や知識を身につけながらも、
実はまだ人恋しくうぶな娘であるというアンバランスさが魅力になっているのです。
そしてもちろん、ここまでたった一人で生きてきたというたくましさも。

こんなカイアだからこそ、私はラストにもさほどの驚きは持ちません。

なんとも、シビれてしまう作品。

 

<シネマフロンティアにて>

「ザリガニの鳴くところ」

2022年/アメリカ/125分

監督:オリビア・ニューマン

原作:ディーリア・オーエンズ

出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、
   マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr. デビッド・ストラザーン

湿地の魅力度★★★★☆

意外な展開度★★★★☆

満足度★★★★★


「あやかし草紙 三島屋変調百物語 五之続」宮部みゆき

2022年11月24日 | 本(その他)

おちかの決断

 

 

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三島屋の主人伊兵衛は、傷ついた姪の心を癒やすため、
語り捨ての変わり百物語を始めた。
悲しみを乗り越えたおちかが迎える新たな語り手は、
なじみの貸本屋「瓢箪古堂」の若旦那勘一。
彼が語ったのは、読む者の寿命を教える不思議な冊子と、
それに翻弄された浪人の物語だった。
勘一の話を引き金に、おちかは自身の運命を変える重大な決断を下すが……。
怖いけれども癖になる。
三島屋シリーズ第五弾にして、第一期の完結編!

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宮部みゆきさん、三島屋百物語シリーズの5巻目。

 

本作冒頭の「開けずの間」というのが、すごく恐かった・・・。
希望を叶えるために、なにかを代償にしてはいけない・・・と、
まあ、そういう話なのですが、
語り手以外一家全滅という恐ろしい運命をたどる家族の話が描かれます。
その根底には家族間の憎悪や嫉妬など、
結局は人の心根の恐ろしさを描くものではあるのですが・・・。

なんというか、続けてこのシリーズを読んでいくと、
次第にこちらまで毒気に当たるといいますか、
少し厄払いをしたいような気になってきます。

おちかが守り役としてお勝さんにいてもらったりするのは、
本当に必要なことだなあと、納得したりして。
そして、富次郎が話を「聞き捨て」にするために
一話ごとに絵を描くことにするのも、大きな意義があるなあと思う次第。

怪しいことを語ると、魔が寄ってくる。
本当にそんなことがありそうな気がしてしまう、本シリーズなのであります。

 

さてそして、表題作「あやかし草紙」。
なじみの貸本屋「瓢箪古堂」の若旦那・勘一が語り手。
読む者の寿命が書かれているという、不思議な冊子の話でした。

そこでおちかは気になってしまうのです。
勘一も実はその冊子を読んでしまったのではないか?と。
そのように問うても、勘一は否定するのですが。

そこでラストのおちかの決断が見事!!
こんなにも鮮やかに自らの命運を変える決断をしてしまうとは。
拍手喝采。

 

図書館蔵書にて

「あやかし草紙 三島屋変調百物語 五之続」宮部みゆき

満足度★★★★★


ある男

2022年11月23日 | 映画(あ行)

私は誰と結婚したのか?

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里枝(安藤サクラ)は、離婚後子供を連れて故郷へ帰り、
やがて出会った谷口大祐(窪田正孝)と再婚します。
新たに生まれた子供も含めて、家族は寄り添って幸福な時間を過ごします。
ところが、不慮の事故で大祐は亡くなってしまいます。

大祐の一周忌に、大祐とは長く疎遠だったという兄が現れ、
大祐の遺影を見て言うのです。
「これは、大祐ではない。」

では、里枝が結婚していたのは、一体誰だったのか・・・?
弁護士・城戸(妻夫木聡)は、里枝の依頼を受けて、
亡くなった里枝の夫は、本当は誰だったのかを調べ始めます。
次第に浮かび上がるのは、一人の男の切ない人生・・・。

物語は、“谷口”の人生ばかりではなく、城戸の人生も浮かび上がらせていきます。
在日韓国人3世の彼は、そのことでこれまでいやというほど周囲から蔑みや、差別を受けてきた。
結婚相手の資産家の親も、どことなく城戸を見下している。
暮らし向きは豊で、妻子があって、まずは成功者の部類ではあるけれど、
城戸こそが、戸籍を他の誰かと入れ替ることができるならば入れ替わってしまいたい
という思いを抱えてもいるわけです。

そんな城戸が調べを進めるうちに、戸籍を交換することを商売とする人物がいた、
ということが分かってきます。
現在服役中のその男を演じるのが柄本明さんで、まさに「食えない老人」というのがピッタリ。

戸籍を丸ごと入れ替えて、自分のアイデンティティまでを消してしまいたい、
そうまで思うのはどういう人なのか。
それは自分自身というよりも、家族の問題でもあるわけですね。
まあ、それ以前に、何かと周囲と違う人を見下し差別し、
時には排除しようとする「社会」の問題なのです。

そうした問題を鋭くえぐる本作。
見応えたっぷりでした。

“谷口”が、最後に過ごした結婚生活が、穏やかで幸福なものだったことが唯一の救い。
彼と入れ替わった本物の「谷口」が、仲野太賀さんだったのが、個人的にウケました

 

<シネマフロンティアにて>

「ある男」

2022年/日本/121分

監督:石川慶

原作:平野啓一郎

出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞嶋秀和、真木よう子、柄本明

 

社会問題をえぐる度★★★★★

満足度★★★★★


リスタートはただいまのあとで

2022年11月22日 | 映画(ら行)

心地よい成長物語

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同名BLコミックの実写映画化。

東京の会社に就職し、上司に人間性を否定されて、
会社を辞めて10年ぶりに故郷に帰ってきた光臣(古川雄輝)。
気軽に、親の家業である家具職人を継ごうかと思っていたのですが、
父(甲本雅裕)には拒否されてしまいます。

光臣がここへ帰るなり出会ったのは、
近所で農園を営む熊井のじいちゃんの養子・大和(竜星涼)。
人なつっこくてなれなれしく、お節介な大和を、光臣は苦手に思っていたのですが、
結局、光臣は人手不足の農園を手伝うことに。
大和と過ごす時間が増え、光臣は次第に大和に親しみを覚えていきます。

ツンデレ男子光臣と、おっとり男子大和、この2人の純愛。
これはまあ、BLでなくても友情としてもステキな物語でした。

いつもニコニコ笑顔の大和。
彼には親がいなくて、養護施設で育ったのです。
でも彼にはそういう影がない。
・・・というのは見せかけで、実はその笑顔は、
他人が自分の内面に踏み込んでこないようにするための「壁」だったのですね。

大和と同級生の友人は、チャラくてあまり信用がおけない感じなのですが、
その彼が、大和のそういうところをしっかり見抜いていた、
というのがなんともナイスでした。

光臣の父は、光臣が東京から逃げ帰り、
安易な気持ちで店を継ぐなどと言っていることがわかるので、あえて拒否していたのです。
けれど、大和と向き合うようになって、光臣も成長していきますね。
なかなか心地のよい成長物語でした。

竜星涼さんの若い頃の作品?などと思って見ていたのですが、
2020年と、そんなに古い作品ではありませんでした。
朝ドラのダメ兄ちゃんのイメージは全くありません。
役者さんって、そういうものですね。

<Amazon prime videoにて>

「リスタートはただいまのあとで」

2020年/日本/99分

監督:井上竜太

原作:ココミ

出演:古川雄輝、竜星涼、村川絵梨、佐野岳、甲本雅裕、中島ひろ子

 

BL度★★★☆☆

成長度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ナイル殺人事件

2022年11月21日 | 映画(な行)

ナイル川を行く豪華客船で

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先のクリスティ原作による「オリエント急行殺人事件」と同じく、
ケネス・ブラナーの監督・製作・主演で映画化したものです。

エジプト、ナイル川を巡る豪華客船の中。
美しき大富豪の娘、リネットが何者かに殺害されます。
容疑者は彼女の結婚を祝うために集まった乗客全員。
居合わせたポワロが事件の真相に迫ります。

 

冒頭、第一次世界大戦の様子が描かれ、
そこでポワロは大きな功績を上げると共にある悲劇にも見舞われます。
なんとそれがポワロのあの口ひげの秘密。
なるほど~。

そしてこのナイル川を行く豪華客船。
途中で立ち寄る神殿の様子など異国情緒たっぷりで、これも楽しめます。

しかしこの船に乗り合わせた人々の人間関係があまりにも危うい。

親友のジャクリーンから恋人のサイモンを略奪し、結婚してしまったリネット。
ジャクリーンはサイモンに未練たっぷりで、
ストーカーと化し、2人につきまといます。
この船にも途中から乗船してきました。
またリネットには元婚約者の医師・ウィンドシャルがいて、彼もこの船に乗っています。
オリエント急行で、ポワロの推理に協力した親友ブークと、その母・ユーファミア。
ジャズシンガーのサロメに、その姪・ロザリー。
役者はそろったという感じですね。

誰もが、資産家で傲慢な美女・リネットには複雑な感情を抱いており、
つまり誰が犯人でもおかしくない。
・・・また全員が犯人?と一瞬思ってしまったくらいです。
でも無論、同じ手は使いません。

まさにミステリの醍醐味を感じる企みが隠されていました!

それにしても、自らも灰色の脳細胞をもつ「名探偵」と歌いながら、
ポワロは次々と行われる殺人を止めることができない。
まあ、いずれもミステリとはそういうものですけどね。
最終的に真相を明らかにはするものの、ふがいないといえばふがいない。
そして、そのことが本作のラストシーンに繋がるわけです。

なかなかユニーク。
ということは、もうこの続編は考えていないのかな? 
まあ、特に見たいとも思いませんが。

<Amazon prime videoにて>

「ナイル殺人事件」

2022年/アメリカ/127分

監督:ケネス・ブラナー

原作:アガサ・クリスティ

出演:ケネス・ブラナー、ガル・ギャドット、アーミー・ハマー、
   トム・ベイトマント、アネット・ベニング、エマ・マッキー

 

旅情ミステリ度★★★★☆

満足度★★★★☆


「僕が死んだあの森」ピエール・ルメートル

2022年11月19日 | 本(ミステリ)

僕が殺した

 

 

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母とともに小さな村に暮らす十二歳の少年アントワーヌは、隣家の六歳の男の子を殺した。
死体を隠して家に戻ったアントワーヌ。
だが子供の失踪に村は揺れる。警察もメディアもやってくる。
やがてあの森の捜索がはじまるだろう。
じわりじわりとアントワーヌに恐怖が迫る。
――その代償がアントワーヌの人生を狂わせる。

* * * * * * * * * * * *

ピエール・ルメートルによるミステリ。

本作はちょっと風変わりです。
まずはじめに、主人公・12歳の少年アントワーヌが、
隣の家の6歳の男の子を殺してしまうのです。

彼に殺意があったわけではないのですが、
思わず感情が高ぶった末に暴力を振るってしまったというのは確かなこと。
アントワーヌはそのことが明るみに出ることを恐れるあまり、
遺体を森の奥に隠して、何食わぬ顔で帰宅するのです。

本作はこのアントワーヌが犯した罪と、
その罪が暴露される恐怖に追い詰められていく様子を
緊張感を持って描いていきます。

死んだ子の遺体は、その後に村を襲った大嵐の災害により、
捜索も半ばで打ち切られ、荒れて誰も足を踏み込まない森の奥で放置されたまま、
年月が流れていきます。

そして10年以上の後、医学生となっていたアントワーヌは重大な決断を迫られる・・・。

 

罪の償いは、何も刑務所に入ることだけではないというラスト。
実のところ自業自得の犯罪で、いかに苦しくても主人公が逃げ切ってしまうのはどうか・・・
と思いながら読んでいったのですが
(ただし、読者はアントワーヌにすっかり同調して、共に恐怖を味わうことになるのですが)、
しかし、こういう結末もアリか、とずいぶん納得してしまいました。

さすが物語の名手、ピエール・ルメートルでありました。

 

題名、「僕が死んだあの森」ですが、死んだのは男の子で、僕ではありません。
けれどその時に、その後の人生を楽しむべき「僕」は死んだのですね。

 

「僕が死んだあの森」ピエール・ルメートル 橋明美訳 文藝春秋

満足度★★★★.5

 


土を喰らう十二ヵ月

2022年11月18日 | 映画(た行)

手をかけすぎずに、けれども丁寧に

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作家・水上勉の料理エッセイ「土を喰らう日々、我が精進十二ヶ月」を原案としています。

長野の人里離れた家で1人暮らす作家のツトム(沢田研二)。
山で採れた山菜やきのこ、畑で育てた野菜などを料理し、
四季の移り変わりを実感しながら執筆する日々。

時々東京から担当編集者の真知子(松たか子)が訪ねてきて、
ツトムの料理に舌鼓を打ちます。

ツトムは13年前に妻を亡くしているのですが、
まだその遺骨を墓に納めることができないでいるのですが・・・。

季節の移ろいと共に、旬のものを頂く。
調理法は極力単純。
でも丁寧に。
一人暮らしのツトムですが、やはりときおり訪ねてくる真知子と共に食べるときには、
余計料理がおいしそうに見えます。
松たか子さんの食べっぷりがまた、イイですもんねえ。

作中でも話がありましたが、ツトム(水上勉さん)はまだ10歳の時に、
家の口減らしのためにお寺に出されて、そこで精進料理を学んだといいます。
なかなか特異な人生をさらっと語る・・・。

四季折々の野菜や山の幸とその調理の様子が紹介されていきますが、
うっすらとしたストーリーもあります。
ツトムと真知子の関係性。
ツトムの亡き妻の母のこと。
そして、妻の遺骨のこと。

いつまでも遺骨をお墓に入れないで手元に置いておくというのは、
どうも面倒だからというわけでもないようですね。

本作の料理担当は土井善晴さん。
なるほど、本作のテーマに沿う料理人としてピッタリです。

とりたてものを極力その素材の味を生かすように、手を加えすぎずに、
けれども丁寧に調理して、いただく。
私のこの年だからかも知れませんが、こういうものがことのほかごちそうに感じられます。
あんな風にとりたての筍の大きな一切れを、かぶりつくようにわしわしと食べてみたい・・・。
贅沢ですよねー。

かと思えば自宅で栽培した胡麻から胡麻豆腐を作ったりする。
胡麻と葛粉、料理は単純かもしれないけれど、
胡麻を育てるところから始まるその手間は計り知れません。
これぞ、精進料理の神髄なのでありましょう。

 

劇場はやはり、ジュリ~♡ファンの、私と同年代くらいの方がほとんどでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「土を喰らう十二ヶ月」

2022年/日本/111分

監督・脚本:中江裕司

原案:水上勉

料理:土井善晴

出演:沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、火野正平

料理の素朴度★★★★★
満足度★★★★☆


マトリックス レザレクションズ

2022年11月17日 | 映画(ま行)

生かされていた、ネオとトリニティ

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「マトリックス」の18年ぶりとなるシリーズ新章。
私、見るつもりではありましたが、さほど大ヒットの作品ではなかったので
急がなくともよいと思い、ついに無料で視聴できるまで待ってしまいました。

 

「マトリックス レボリューションズ」のその後の物語となっています。
その時に、ネオもトリニティも死んだはず・・・。
ところが、さすがにその頃より年をとってはいるのですが、2人は生きているのです。

つまりこれは、例によってコンピュータによって作られた仮想現実の世界。

トーマス・アンダーソン(=ネオ)(キアヌ・リーブス)は、
ゲーム・クリエイターの仕事をしており、
かつて「マトリックス」というゲームを大ヒットさせました。
しかし最近はヒット作を作ることができず、どうも少し精神を病んでいる様でもあります。
そんな彼の元へ突然現れた風変わりな女性が、
「この世界はマトリックスだ」と告げますが、
トーマスはすぐには受け入れることができません。

そんなある日、彼はカフェでティファニー(=トリニティ)(キャリー・アン・モス)という女性と出会います。
以前の記憶をすっかり無くしているトーマスですが、
彼女には以前会った気がしてならない。
何か不思議な感情がこみ上げてくるのですが・・・。
ティファニーも同じような思いが芽生えたように見えたのですが、
彼女には夫も子供もいて、2人で親しく話す間もありません。

こんな日常にいよいよ違和感を覚え、
トムはこの仮想現実を逃れ、「現実」の世界へ戻ることを決意。
現実の世界では、以前と同様、ネオはポッドの溶液の中で眠っていたのでした。
そして、トリニティも・・・。

なぜ2人は命を救われてまたここで眠り続けることになったのか、
マシーン側の狙いは・・・?

という風にストーリーは進んでいくのですが、結局私にはよく分かりませんでした。
ぜんぜんマトリックス界を理解できていなかったことが要因だと思います。
中途半端な理解で見ていたら、やっぱりここでの理論もよく分からないということか。

でもまあつまり、「愛は勝つ」といいたいのでしょうね。
なんだかなあ・・・。

なくてもよかった話かも。

<WOWOW視聴にて>

「マトリックス レザレクションズ」

2021年/アメリカ/148分

監督:ラナ・ウォシャウスキー

出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ヤーヤ・アブドワル=マティーン2世、
   ジョナサン・グロフ、ジェシカ・ヘンウィック

満足度★★★☆☆


すずめの戸締まり

2022年11月16日 | 映画(さ行)

行きて帰りし物語

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鳴り物入りの宣伝が逆にうるさいくらいの勢いですが、やはり見逃せません。
新海誠監督の最新作。

物語の始まりは九州。
17歳・岩戸鈴芽は、ある朝、廃墟を探しているという旅の青年・宗像草太と出会います。
彼の後を追って、山中の廃墟にたどり着いたすずめ。
水の中にたたずむ古い扉を見つけ、
引き寄せられるようにその扉に手を伸ばしますが・・・。

やがて、日本各地で次々と扉が開き始め、扉の向こうからは災いがやって来ます。
鈴芽は草太とともに扉を閉める「戸締まり」の旅に出ることに。
旅は九州→神戸→東京→東北。

扉をくぐり抜けてやって来る災いとは、ズバリ、地震です。
あの、東日本大震災もそのために起こった。
そして、東北のその町は、すずめの出身地でもあった。

新海誠監督の「君の名は」も「天気の子」も、災害に関係する話でした。
でも実のところ私、「天気の子」の災害の表現はあまり好きではありませんでした。
けれど本作は、はっきりとあの3.11、東日本大震災を念頭に置いた力作だと思います。
ファンタジーであり、エンタテイメント。
リアルな地震や津波の映像はなくて、
その後の瓦礫の町、何もない町が描かれるのみですが、
災害のあとの哀しみにしっかり向き合っています。

ストーリー立てもひねりがきいていて、
すずめと旅するイケメンの草太は小さなイスになってしまうし、
常ならかわいくてヒロインを見守るはずの猫は
怪しく行く手に現れてすずめ達を翻弄します。

どう見ても家出少女のすずめを各地で助けてくれる人々の存在はまあ、
定番ではあるけれどやはり嬉しい。
すずめと、すずめの親代わりの叔母・環とのラスト付近の激突も、胸を打ちます。
草太の親友・芹沢も、チャラそうでいて、実はとても友人思いというのも大好き。

真っ赤なオープンカーで旅する時のバックミュージックは「ルージュの伝言」。
「旅立ちの時は、この曲が定番。猫もいるし」という芹沢のセリフ。
新海監督のジブリ愛が滲み出ています。

草太の声が松村北斗さんというのも、ほとんどそれだけで「ワオ!」と思ってしまう私。
事前に下調べも何もしなかったのですが、
他には染谷将太さん、伊藤沙莉さん、神木隆之介さんまでは、見ていてちゃんと分かりました。

 


「行きて帰りし物語」は、ファンタジーの王道。
ただ行って帰ってくるわけではありませんよ。
行く先は、自己の深淵でもある。
そして帰ってきた自己は、一段高いところにいる。
しっかり納得のいくストーリーです。
・・・ということで、私的にはすごくはまった作品です。
はてさて、世間の評判はいかに・・・?

<シネマフロンティアにて>

「すずめの戸締まり」

2022年/日本/121分

監督・脚本:新海誠

出演(声):原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、神木隆之介

 

震災表現度★★★★☆

キャラクター魅力度★★★★★

満足度★★★★★

 


「三鬼 三島屋変調百物語 四之続」宮部みゆき

2022年11月15日 | 本(その他)

どうしようもなく貧しい村で

 

 

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江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“
お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。
訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、
夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、
山陰の小藩の元江戸家老、
心の時を十四歳で止めた老婆。
亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、
せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。

「もう、胸を塞ぐものはない」
それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にも
やがて心ゆれる出来事が……

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宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語」シリーズの4巻目。
登場人物一人一人に親しみを感じ、この物語の世界観に浸りきったこの頃。
本巻もいい感じです。

 

表題作「三鬼」は、なんとも陰惨で切ない話。
おちかは、山陰の小藩の元江戸家老という武家・清左衛門の話を聞くことになります。
それはもう、30年ほど前の話。
ある失態が原因で、山奉行の山番士という役についた清左衛門。
とある山奥の貧しい村に在駐する役人です。
藩の政策のマズさから、その村は例えようもなく貧しく、皆生き抜くことだけで精一杯。
子供も老人もいないこの村の暮らしは、いかにも過酷なのだろうと、清左衛門は思う。
そんな中で、せめて自分の役割を全うしようと努力する清左衛門。
しかしやがて、この村の恐ろしい秘密を知ってしまうのです・・・。
人の心の奥底の、どうしようもない暗い闇は、
凝り固まって鬼になるのでしょうか・・・。
陰惨で悲惨な物語です。

 

夏場はそっくり休業するという弁当屋の話、「食客ひだる神」は
ちょっぴりユーモラスでもあり、楽しかった。

 

本作は、一話ずつの独立したストーリーでありながら、
三島屋のおちかの物語はずっと連なって進行しており、本巻ではちょっとした変化がありました。
2巻目で登場した手習い所の若先生・青野が思いがけず江戸を離れることに・・・。
おちかは切ない思いを味わうことになってしまいますが、
これとて、まだまだ続くこの物語のほんの一部。

おちかちゃん、頑張れ! 
これも成長の一段階。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「三鬼 三島屋変調百物語 四之続」宮部みゆき 日本経済新聞出版社

満足度★★★★☆


大河への道

2022年11月13日 | 映画(た行)

伊能忠敬の○○人

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立川志の輔さんの新作落語「大河への道 伊能忠敬物語」を映画化したもの。

千葉県の香取市役所。
この市で唯一アピールできそうなのは、この地出身の伊能忠敬。
そうだ、伊能忠敬を主役とした大河ドラマを作ってもらってはどうか、
と「大河ドラマ開発プロジェクト」が立ち上げられます。
ところが、実際に脚本を書き上げる前に判明したのは、
実は忠敬は地図完成の3年前に亡くなっているということ。

つまり、忠敬の志を継いだ弟子達が地図を完成させるべく、
お上には忠敬は生きていることにして、
自分たちが必死で地図を完成させる作業を続けたのでした。

忠敬が亡くなったと知られれば、すぐに予算も打ち切られて、
地図を完成させることができないだろうと考えたためです。
無論そんなウソがバレれば、厳しいおとがめを受けて、死罪もあり得るのですが・・・。

本作は、現代の市役所職員等を演じる俳優さん達が、
合わせて江戸時代、忠敬亡き後に、
忠敬は生きているという一世一代の大芝居を打ちつつ、
地図を作り続けている人々をも演じています。
つまり、一人二役。
そこがとても面白い。

それにしても、忠敬亡き後の人々の情熱を描く物語は
とても感動的ではありますが、
これでは伊能忠敬の大河ドラマにはなり得ない・・・。
本末転倒のなり行きに、さあどうする・・・?!と思ったのですが、
なかなか渋い結論が用意してありました。

さて、その伊能忠敬の地図の精巧なこと、すごいですね。
人工衛星もドローンもない。コンピュータもない。
それでもなおかつあんな風に正確な地図を作ることができたということに、
改めて驚かされてしまいました。

伊能忠敬は、1818年に73歳で亡くなるまで、17年をかけて日本全国を測量。
11代将軍家斉の頃です。
映画中のラストにお殿様が登場。
歴史に疎い私はそれが誰に当たるのかわからなかったので、後で調べまして・・・。
測量したものを地図に書き表すには三角関数が不可欠。
私などもう、そのところでついて行けません。
忠敬の亡くなる前に、測量はほとんど終えていて、
弟子達はそのデータを地図に書き表していく作業を続けていたわけですね。

実際に大河ドラマにするにはどうするか・・・?
いっそ、主役を家斉にしてしまうのもいいかもしれない。
あ、「伊能忠敬と、その○○人」とか。

 

「大河への道」

2022年/日本/112分

監督:中西健二

原作:立川志の輔

脚本:森下佳子

出演:中井貴一、松山ケンイチ、北川景子、岸井ゆきの、和田正人、
   立川志の輔、西村まさ彦、平田満、草刈正雄、橋爪功

 

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆