映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

K-20 怪人二十面相・伝

2008年12月31日 | 映画(か行)

レトロ感たっぷりの探偵冒険譚、童心に返って楽しもう

                * * * * * * * *

舞台は、第二次世界大戦を回避した日本。
1949年。
・・・つまり、戦後の民主化がなくて、華族制度がそのまま継続されている。
極端な格差社会となっている日本。
それが、その延長上の現代ではなくて、
1949年というところが、またにくいのです。
昭和のレトロ感たっぷり。
このような解説を加えつつ、オープニングは、
東京ならぬ、「帝都」を上空からゆっくり映し出していきます。
まずは貧困層というか、庶民の住居地と思われるつつましいたくさんの家並み。
そこから工業地帯を経て、ビルの立ち並ぶ上流階級層の地域。
そこにひときわ高くそびえるのは
帝都タワー(東京タワーじゃないですね。それができたのはもう少し後。)と、このストーリー上の重要な場所、羽柴財閥の高層ビル。
なんだか、ここのシーンを見ただけでワクワクしてしまうのです。
これぞ、パノラマ。
さあ、何が始まるのでしょう・・・!


もともとは、こんな子供だましみたいな映画、見ないつもりだったんですよ。
でも、金城武には惹かれます。
先日TVの番組でも、本人が出演してPRしてましたし・・・。
まあ、たまにはいいか・・・というつもりで見たのですが、見事にハマりました。
子どもだまし結構。
この際、子どもに返って手放しで楽しんでしまおう、という気になりましたね。


さて、主人公の遠藤平吉(金城武)はサーカスの曲芸師。
あるとき怪人20面相の罠にはめられ、
自分が20面相として指名手配されることになってしまった。
とうとう逮捕されてしまった平吉でしたが、
なじみの泥棒長屋の人たちに助け出され、そこで、泥棒修行をすることになる。
ここのシーンがまたいいんですよ。
修行として、とにかくまっすぐ突き進むことというのがある。
家の壁をよじ登り、建物から建物に飛び移り、鉄塔を乗り越えて・・・。
初めはやっとなんですが、次第に身も軽くスピーディになってくる。
カッコイイ・・・。
みとれます。

羽柴財閥の令嬢葉子(松たかこ)や、その婚約者である名探偵明智小五郎(仲村トオル)と知り合い、その力をかりて、
いつか自分を陥れた怪人20面相に復讐をすると誓う。
松たか子演じるお姫様も、いいキャラなんです。
世間知らずなんだけれど、なにか、夢をもってやり遂げたいという気持ちがある。
正義感が強くて無鉄砲。
それと、やや、天然ボケっぽいところが相まって、いい味になっている。
それに引き換え、この明智小五郎は、とりすまして、なんだかいけ好かない奴のようにも思えるのですが・・・。
果て、さて・・・。
これ以上語るのはやめておきましょう。

ここでの金城武の起用は大成功でしたね。
もう、スパイダーマンやバットマンに負けないくらいかっこよかった・・・。

それと、この世界観がなんとも言えずいいです。
その頃、科学の進歩が私たちを幸せに導くという夢を持てた時代・・・。
そんな背景が郷愁を呼ぶ。
ここにものすごい巨大なマシンが登場します。
これも、コンピューターなどないので、操作盤が、アナログ式なんですよ。
いいでしょう・・・。
また、この極端な格差社会というのも、
ちくりと現代を風刺しているあたりがにくいです。
お正月にはぜひお勧めです。

2008年/日本/137分
監督:佐藤嗣麻子
出演:金城武、松たか子、仲村トオル、國村隼、高島礼子


ワールド・オブ・ライズ

2008年12月30日 | 映画(わ行)

世界を救うのは二人の嘘ではなく・・・

                 * * * * * * * *

中東が舞台のスパイ映画は少なくありませんが、
この作品で目を見張るのは、地上12000メートルにあるという、無人偵察機。
CIA中東局主任であるエド・ホフマン(ラッセル・クロウ)は、
アメリカにいながら、上空からとらえた現地の映像をリアルタイムで見ることができる。
ありとあらゆる電話などの通信やメールも傍受。
いやはや、これはもう絵空ごととはいえないので、怖いくらいです。
しかし作品中、この状況で、中東のテロ組織は、もうこのようなネットワークを使うのはやめ、すべて直接の人間同士のコンタクトに切り替えたといっています。
結局はそのような原始的方法が一番・・・ということか。

さて、そのホフマンの指示で動く現地工作員が、ロジャー・フェリス(レオナルド・ディカプリオ)。
彼は現場の苦労も知らず、勝手な指令をよこすホフマンに反発を感じています。
・・・まさに、事件は会議室で起きているんじゃない!というヤツですね。

ここでの任務は、広く米・欧州をターゲットとして爆破テロを仕掛ける組織のリーダー、アル・サリームを捕らえること。
フェリスとホフマンは、架空のテロ組織をでっち上げ、アル・サリームをおびき出そうという大胆な計画を立てるのですが・・・。

テンポのよい展開と、途切れない緊迫感、
それとまあ、ちょっぴりのロマンスもあり、私としては楽しめたと思います。
変に難しくない(?)ところがいい。
まあ、一つ難を言えば、
こんな危険な仕事なのだから、女性と付き合えば
その人にも危害が及ぶのは予想がつきます・・・。
ここは、ストイックに決めてほしいですね。
でも、それでは映画に花がなさ過ぎますが。

レオ様は渋みもましてなかなかいいです。
近頃はすっかり肉体派のレオ様ですが、
私はやっとこの作品で、それもよし、と思えました。

ちょっとくたびれてとぼけた感もある、しかし、本質はアメリカの傲慢さの代表みたいなところがうまく出ていたラッセル・クロウもよし。

でも結局、この映画で一番かっこよかったのは、ヨルダン情報局のハニ・サラーム(マーク・ストロング)でしたね。
実際、ハンサムでしたし!
やはり、地元の流儀に従うのが筋ということか・・・。
なんだかんだといいつつ、この作品もやはり
中東を憎むべきアメリカの「敵」としていますね。
テロ組織に肩入れする気はありませんが、
何で、ここまで関係が悪化してしまっているのか・・・、
そういうことを考える映画もたまには見たい気がします。

2008年/アメリカ/129分
監督:リドリー・スコット
出演:レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロング、ゴルシフテ・ファラハニ


ラストキング・オブ・スコットランド

2008年12月29日 | 映画(ら行)
ラストキング・オブ・スコットランド (特別編) [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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あんたはまるで子どもだ。だからかえってものすごく怖ろしくなるんだ。

                * * * * * * * *

1970年代、ウガンダの独裁者イディ・アミンの実像に迫った骨太のストーリーです。

主人公は、架空の人物でスコットランドの青年医師ニコラス。
彼は、理想に燃えウガンダにやってきます。
そこでは、クーデターによりアミンが大統領として政権を握ったところで、
民衆に絶大な支持を得ていた。
ふとしたことからニコラスはアミンに見出され、彼のお抱え医師となる。
青年らしい好奇心と無邪気さで、アミンに近づいたニコラスだったが、
次第に残虐な独裁者へと変貌していくアミンを目の当たりにすることになる。

武力で手に入れた権力は、やはり武力で奪われるのではないかとアミンは思っている。
だから、ほんの少しの造反の芽も見過ごすことができない。
周りの誰も信用することができず、
少しでも疑わしければ即ち死。
これが大量虐殺の真相ではないでしょうか。
30万人ものウガンダの人々が彼によって惨殺されたのです。

能天気なニコラスは、アフリカやウガンダのことなど何も知らない、私たちそのものです。
物語を彼の目を通して語ることで、私たちをウガンダの現実に入り込みやすくしています。

お抱え医師となり、また相談役ともなったことで、浮かれ気分だったニコラスだったのですが、
次第にアミンの何かがおかしいと感じ、
共感できなくなってくる。
そしてまた、自分自身もこの怖ろしい政治の加担者であることに気づき、激しい罪の意識にとらわれるのですが・・・。
そのときには、もう遅いのです。
事態は抜き差しならない方向へ進み、次第に彼自身の生命すら危ぶまれてくる。
この辺の圧倒的な緊迫感はすごい。
特に終盤の空港のシーンは壮絶です。

まるで小さな子どもが絶大な権力を持ってしまったかのような・・・、
ほとんど狂気とも思える、アミン。
フォレスト・ウィテカーが様々な映画賞を総なめしたのもうなずけます。
しかし、この人は実在していたわけですからねえ・・・。
このような人物に従う人がいる、というのが信じられないし、信じたくないです。
でも、こういうことは歴史においては珍しいことではないですね。
何もヒトラーを引き合いに出すまでもなく、権力者というものはそういうもの・・・。
歴史は残酷で怖ろしいです。


ジェームズ・マカヴォイは、「ペネロピ」、「つぐない」、「ウォンテッド」。
今の私にはとてもなじみのある方なんですが、この作品は2006年のもの。
もし公開時に見ていたら、全然知らない俳優さんでしたね。
そういう意味では、今見たのは正解かも。
その分、プラスアルファで楽しめてしまいましたから。

2006年/アメリカ/125分
監督:ケビン・マクドナルド
出演:フォレスト・ウィテカー、ジェームズ・マカヴォイ、ケリー・ワシントン、サイモン・マクバーニー


「黒衣の処刑人 上・下」 トム・ケイン/佐藤耕士訳

2008年12月28日 | 本(その他)
黒衣の処刑人 上巻 (1) (新潮文庫 ケ 15-1)
トム・ケイン
新潮社

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ノンストップ・アクション、とでも言いましょうか、
次から次へと迫り来るピンチ、アクション、そしてお色気たっぷりのハードボイルド・・・。
主人公は闇の処刑人、もとイギリス海兵隊特殊部隊員のサミュエル・カーバー。
世の中に悪影響を与える重要人物の暗殺を仕事としているという。
これは彼自身の判断ではなく、ある組織からの依頼で動くのであります。
まあ、このあたりは、どこにでもありそうな話なんですが。

このストーリーの特異なところは、ある日のターゲット。
場所はフランス、パリ。
セーヌ川脇のトンネル。
なんと、かのダイアナ元英皇太子妃。
計画通り、カーバーの策略により、
彼女が乗った猛スピードの車はトンネル壁に激突。
しかし、カーバーはこのとき、中の人物は全く別人と教えられていた。
この秘密を消し去るために、今度はカーバー自身に刺客が襲う。
心ならずも、敬愛するダイアナ妃を自ら手をかけてしまったカーバーは、
辛くも刺客からのがれ、この計画を企てた人物に復讐を誓う。
実はこの計画にはロシアンマフィアが絡んでいて・・・。

カーバーは強い精神と肉体を持つタフ・ガイ。
舞台はフランス、スイス、イギリスとめまぐるしく移りかわり、
彼の連れとなるアリックスは、お色気ムンムンのロシア美女。
繰り返される暴力、殺戮・・・、挙句は胸が悪くなりそうな拷問シーン。
導入部分は、新鮮だったのですが、
次第に気が重くなってきてしまいました。

多分に、映画向きのアクションものです。
しかし、タフガイにお色気美女・・・。
ずるがしこい私立探偵、暗躍するMI6の情報員。
ほぼ不死身?のロシア人の殺し屋。
この設定はかなりB級っぽいですね。
万が一映画化されてもあんまり見たくはないなあ・・・。
あ、でも、配役しだい?
・・・でも、思いつくのはスティーブン・セガールくらいだったりする。
題名は、「沈黙の処刑人」。
これで決まり。

満足度★★★☆☆


舞妓 Haaaan!!!

2008年12月27日 | 映画(ま行)
舞妓Haaaan!!! [DVD]

VAP,INC(VAP)(D)

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aはいくつか?びっくりマークは?

                * * * * * * * *

この映画の題名を正しく表記するのは大変です。
「a」はいくつか?
「びっくりマーク」は?
・・・ということになっちゃうので。

さて、気を取り直して、この評判作、実は見逃していたんですね。
正に「コメディ」というのは、普段あまり食指が動かない。
でも、今回これを見て、なるほど!と思いました。
たしかに、超ハイテンションコメディ。
何しろ、楽しいのです。


修学旅行で京都に行って以来、
すっかり舞妓ファンになってしまった、鬼塚公彦(阿部サダヲ)。
彼は、舞妓専門ホームページの管理人でもある。
あるとき念願かなって、会社の京都支社へ転勤。
さて、いよいよお茶屋デビューと思いきや。
そこには「一見さんお断り」の壁。
また、そこには彼のホームページ荒らしであり、お茶屋荒らしでもある、
野球選手の内藤(堤真一)がいた。
公彦は、舞妓さんが好きであることと、内藤に負けたくないという一心で、
考えられないような偉業を成し遂げていく・・・。

思い込んだらまっしぐら、男の一念。
しかし、全く大人気ない男二人の応酬。
太っ腹の食品会社社長。
時には突然ミュージカル。
そして、いじらしい女心・・・。
テンポも良く、本当に楽しませてくれる作品です。
ここまで、楽しませることに徹していたら、楽しいを通り越して
感動もの。

あの白塗りのお化粧って、今まであんまりキレイと思ったっことはなかったのです。
でも、この映画で、そのステキさに気づきました。
特に、柴咲コウはいいですねえ・・・。
お化粧していたら、誰だかわからなかったというのも情けないけれど・・・。
でも、現実にはどうなのでしょう。
一見さんお断りが、逆に世界を狭め、衰退させている部分はあるのだろうなあ、
と思います。
だからといって、キャバクラと同じになってしまってはこまりますしね・・・。
伝統を守るのも大変そう。

ファンキーな堤真一もいいです。
チラッと出てきた植木等もいい味。
あの、カップメンのアイデアはいいと思うのですが、実現は無しですかね・・・?

2007年/日本/120分
監督:水田伸生
脚本:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、柴咲コウ、堤真一、小出早織、伊東四朗


陰日向に咲く

2008年12月26日 | 映画(か行)
陰日向に咲く 通常版 [DVD]

VAP,INC(VAP)(D)

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滑稽でちょっと悲しい人生模様                       

                     * * * * * * * *

劇団ひとり原作ですね。
ここには何人かの登場人物が中心になって、
それぞれのドラマが進行していきます。
東京の片隅。
どれもちょっとうらぶれた、さえない人々・・・。

ギャンブル好きのシンヤ(岡田准一)は借金まみれで、
借金取りから返金を迫られ、苦し紛れにオレオレ詐欺をしようと電話をかける。
電話をかけた先の老女は本当に自分の息子だと思い込み、
話すうち奇妙な交流が始まる。

母が若い頃に憧れ、一緒に漫才を組んでいた芸人(伊藤淳史)を
探そうとする娘(宮崎あおい)。

落ちぶれてがけっぷちのアイドルを応援する、オタク青年(塚本高史)。

モーゼという大法螺吹きのホームレス(西田敏行)にあこがれ、
家族と世間を捨て、ホームレスになろうとする中年男性(三浦友和)。

これらバラバラの人々が、あるときに糸でつながるんですね。
その大詰めの日は台風が東京を直撃した日。
この辺の収束の仕方がとても面白いのですが、
映画としてはちょっと盛り上がりに欠ける感じでした。
さて、ところでこの中に、同一人物の若い頃と老後を演じている二人がいます。
誰と誰でしょう・・・?
ウソ~と、思っちゃうんですけどね。
ともあれ、滑稽でちょっと悲しい人生模様。
じんわりきます。

岡田准一君はいいですね。
「花よりもなほ」も良かったですが、これでますますファンになりました。
イケメンだけど、かっこよすぎなくてちょっと情けない役、というあたりがなんとも。
オレオレ詐欺の相手に同情してしまうというのもまた、
情けなくもあり、お人よしでもあり・・・。
所詮犯罪には向きません。

2008年/日本/129分
監督:平川雄一朗
出演:岡田准一、宮崎あおい、伊藤淳史、西田敏行、三浦友和


「螺鈿迷宮 上・下」 海堂 尊 

2008年12月24日 | 本(ミステリ)
螺鈿迷宮 上 (角川文庫)
海堂 尊
角川グループパブリッシング

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田口・白鳥シリーズの番外編的作品です。
舞台は東城大学医学部付属病院ではなく、その同じ町の桜宮病院。
この病院は確か前作「ナイチンゲールの沈黙」にも出てきたのではないでしょうか。
登場人物も重なるところが多く、
つまりこれは、大きな海堂ワールドの作品の一つなんですね。
ここでの主人公は天馬大吉という、まことにおめでたそうな名前の持ち主。
しかし、その実、運の悪いことは人一倍どころか何十倍。
彼は東城医学部の学生なのですが、目標を見失い、ずるずると卒業し損ねている。
あるとき、終末期医療の最先端といわれる桜宮病院の怪しい動きを探るために、
スパイとして潜入することに。

そこでは、余命数ヶ月と宣告された患者が、
終着の地として送り込まれてきているのですが、
ただボーっと死を待つのではなく、
病院のスタッフの一員として、働きつつ入院するというシステムをとっている。
いよいよの時まで、動ける限りはきちんと生き甲斐を持って生活する。
ちょっといいなあと思えるんですが。

看護ボランティアとしてやってきた天馬だったのですが、
運の悪さは極め付き。
そこで更に、超人的にトロくてドジな看護師、姫宮と遭遇。
この相乗効果で、腕は骨折する、頭は打つ、火傷はする・・・。
なぜか入院患者になってしまった。
この辺のくだりが実に面白くて、笑ってしまいました。

そこに登場するのが、怪しげな皮膚科の医師。
なんとこれがあの、白鳥だったんですねー。
しかし、笑っている場合ではありません。
なんと、この病院で毎日人が死ぬ。
いくら終末期の病院だって、
昨日までぴんぴん働いていた人が、今日亡くなって、
瞬く間に解剖を済ませ、火葬されてしまう。
そんなことが連日・・・。

一体この病院では何が起っているのか。
そして、白鳥は何のために、こんなところに身分を偽って来ているのか。
この辺が解くべき謎なのであります。

しかし、この話は、いわゆる「本格ミステリ」ではないですね。
何かのトリックや、意外な犯人や、驚きのどんでん返しがあるわけではない。
この著者は、多分この先、ミステリ路線よりも、読ませるエンタテイメント路線に行くのではないかと思います。
医療問題も絡めながら・・・。
ミステリファンの私ですが、それでもついて行きたいと思います。

さて、そのとんでもなくトロくてドジな看護師、姫宮さんは、
実は白鳥の秘書”氷姫”さんでした。サプライズ!!
こういうところがやはり楽しくて、
シリーズの次の本が文庫化されるのを、首を長くして待つことにします。

満足度★★★☆☆(・・・しいて言えば3.5。)


「北緯四十三度の神話」 浅倉卓弥

2008年12月23日 | 本(その他)
北緯四十三度の神話 (文春文庫)
浅倉 卓弥
文藝春秋

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北緯43度。
これでピンと来るのは、やっぱり私が札幌人だからでしょうか。
著者浅倉氏は札幌出身ですから・・・。
デビュー作「四日間の奇蹟」は、とても面白く読みました。
さて、これは札幌が舞台の物語。
(実際には、どこにも「札幌市」という具体的名称は出てきませんが。)

姉、菜穂子は、28歳大学助手。
妹、和貴子は27歳ラジオ局アナウンサー。
この二人の姉妹の、微妙な心のゆれを描いた情緒深い作品です。
もともと、とても仲の良かった姉妹なのですが、
二人が中学生の時に、両親が事故で亡くなり、
その後は祖父母の家で暮らすことになる。
そうでなくても、自己形成において大事な年頃です。
姉は、両親に代わって妹を守らなくては・・・という意識にとらわれ、
妹の方は、いつもできの良い姉と比べられることで反感を抱いている。
大きな環境の変化とも重なり、二人は次第に疎遠な関係となっていきます。
そしてまたさらに、姉の友人樫村が妹の婚約者となったことで、
いよいよ二人の感情がゆれる。
姉、菜穂子は二人を祝福しつつ、自分の奥底の感情をもてあますのですね。
実は菜穂子も・・・というのは、読者にも十分感じられるのですが、
その答えはどうなのか。
答えというよりは、菜穂子自身の決着の付け方なのかも知れませんが、
それは最後に表わされます。

こんな関係でも、二人ののしりあって大喧嘩にはならない。
自分の中に沈み込んでいくだけなんですね。
このあたりが、まことに北国の雰囲気でしょうか・・・。
でも、本当はどんなに思いがあっても、口に出して言わなければ伝わらない。
どんなに、口に出して説明しにくい感情であっても、
それを伝えようとする努力を失ってはいけない。
ラジオアナウンサーである和貴子は、それを語っています。

この二人の微妙な感情が停止してしまったのは、
実はその樫村の突然の死のためなのです。
両親や大切な人、かけがえのない人々を失ってしまった姉妹の悲しみが
根底に流れていて、切ないのですが、
このストーリーは、そこからの再生の物語。

結末は、札幌の長い冬が明けた春のように、明るい日差しが待っています。

このミス大賞を受けた方・・・というには、あまりにも印象が違うんですが、
良い作品だと思います。
特に、男性の著者が、このように細やかな女性の気持ちを綴るのには
参ってしまいますね・・・。

満足度★★★★☆


ラースと、その彼女

2008年12月22日 | 映画(ら行)

「大人になる」とは、誠実にに人と向き合うこと

                 * * * * * * * *

昨日、「地球が静止する日」を酷評してしまったのは、
この作品と連続してみてしまったからかもしれません。
まあ、比べる質の問題ではないのですが、
人の心を揺り動かすのは、結局こういうものなんだよなあ・・・と思う次第。
なんとも心に残る名作です。

主人公ラース(ライアン・ゴズリング)は、アメリカのとある小さな町に住んでいます。
兄夫婦が母屋に住んでいて、そこのガレージを改装したところに1人で暮らしている。
内気だけれど、優しくて、町の人たちには好かれています。
しかし、このごろ妙に人付き合いを避けるようで、様子が変・・・。
と思い始めたそんな頃、
突然「恋人を紹介する」といって兄夫婦のところに連れてきたのは、
なんと等身大の人形。
実はこれ、なんといいますか、大人の男性用のオモチャなんですよね・・・。
すごくリアルにできているという・・・。
下手をするとこれは変態モノ?と思ってしまうのですが、
しかし、そんな疑惑はすぐに払拭されます。
ラースは本気でその人形、ビアンカを生きているものと思っていて、大切に扱います。
夜は兄夫婦の家に寝かせて、自身は自分の部屋ですし・・・。

しかし、唖然として困惑してしまうのは周りの人々。
明らかに常軌を逸しているラースなのですが、
バーマン医師の忠告にしたがって、
ラースが思っているように、ビアンカを生きているように扱うことにするのです。
毎日服を着せ替えたり、
車椅子に乗せて出かけたり、
お風呂にも入れるし、
食事も用意する。

町の人も始めは怪訝に思いながらも、ラースを傷つけないよう、
ビアンカにボランティアの仕事を頼んだり、
洋服屋のモデルを頼んだりするんですね。
ごく自然にラースを受け入れて、そして、それを自分たちも楽しんでいる。
決して押し付けがましくも、わざとらしくもない、そんな様子がとてもいいのです。
思わず胸が熱くなります。

ラースがこのようにちょっと精神を病んだことには、
幾分かの理由があるようなのです。
ラースの母親はラースを生んですぐに亡くなっていて、彼はその死に責任を感じている。
父親に育てられたラースは、母性にあこがれていて、
しかし、そのあまりに女性を意識しすぎて、女性に触られると電気が走ったようになってしまう。
兄嫁のカリンもすごく好人物で、何かとラースに気を使うのだけれど、
彼女が妊娠した頃からラースの変調が始まったようだ・・・。
兄は妻に先立たれてすっかりふさぎこんだ父がいやで、ラースを残して、家を出てしまっていた。
・・・このように様々な事実が断片的に浮かび上がって来ますが、
特に解説はされません。
見るものの想像に任せられます。
そういう語りすぎないところも好感が持てます。

兄のガスも、この悲劇に一番頭を抱えながらも、
こうなってしまったことの責任は自分にあるのではないかと心を痛めます。
そんなある日、ラースは兄に問いかけるのです。
「自分が大人になったと感じたのはどんな時?」
ガスはなかなかうまく言えないんだけれど・・・と、つっかえながらも
「大人になるっていうのは、誠実に人と向き合えるようになることなんじゃないかな・・・」と。
(実はその前に、「セックスした時」というのが出てくるんですけどね!)
ちょっと気恥ずかしくてなかなか言えないような言葉なんですが、
でも、実に清々しくて正しい言葉だなあ、と思います。
それこそ、弟の問いかけに対して誠実に考えたから、こういう答えになったんですね。
世界中の人がみなこう考えれば世界はとても良くなるんですが・・・。
そういう意味では、この町の人たちは本当に成熟した大人ですね。
私も、この町に住みたくなっちゃいます・・・。

さて、しかし、このストーリーに、果たしてどうやって結末を付けるのか。
そこが心配だったのですが、実に、納得の結末が待っていました。
確かにこれしかないだろうというような・・・。
そこは、ぜひご自分で見て味わってください!

2007年/アメリカ/106分
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー、ケリ・ガーナー


地球が静止する日

2008年12月21日 | 映画(た行)

人類の死か、地球の死か

                * * * * * * * *

えーと、おじゃまします。
この作品は、予告編ですごく期待しちゃったんですが。
これって、あんまりストーリーらしいストーリーはないんですね。
予告編やCMでやっていた通り、
キアヌ・リーブス演じる人間の姿をしたエイリアンが、
地球を守るために人類を滅ぼしてしまおうとする。
ほんとに、それだけのストーリーで・・・。
まあ、宇宙人のその気持ちはわかります・・・。
人類がどんどん地球環境を破壊して、数々の生物が絶滅の危機にある。
人類は地球におけるガン細胞みたいなもの・・・と、私も思うことがある・・・。
これは、昔の作品のリメイクで、
元は人類に核を放棄するように迫るという話だったとか。
現代風にアレンジしたんだね。
それにしては、自然破壊の映像も何もなく、
全くそういうところを考えさせる映画にはなっていないんだけど・・・。
巨大な球体の宇宙船。
ほとんど無敵のロボット。
破壊されていく建物、スタジアム。
VFX駆使のスペクタクル映像。
う~ん、確かにそこはすごかったけど、結局この映画は、それをやってみたかっただけのような気がする。
私が釈然としないのは、ものすごくローカルなところで人類の運命が決まっちゃったところ・・・。
まあ、昔の映画ならそれでも良かったんだろうけど。
今や、グローバリズムの時代ですよ・・・。
いくらなんでも、こんな事態のときはサミットとか国連だとか、
きちんと各国のお偉方を集めて通告位してほしい・・・。
これ、結局米大統領とすら会っていないよ・・・。
わざわざ1人で人間の姿で現れるなんて無謀もいいとこ。
その彼を銃撃する方もクレイジーだけどね。
球体自体から、全世界に忠告を発信すればいいだけだよね・・・。
で、この後人類が環境保全に努めるとはとても思えないのね。
そう、実際話をしてるのはヘレンだけで。
他の人たちは、彼らが何をしに来たんだか、なぜ帰っていったのだか、
全然わからない。
なんだかなあ・・・って感じですね。

しかし、この何考えてるんだか良くわからないエイリアンはキアヌのはまり役でしたね。
かっこよかったですね・・・さすがに。
それから、ヘレンの息子のジェイコブは、ウィル・スミスの息子のジェイデン・スミス。
ああ、あの、「幸せのちから」に出ていた・・・。
かわいい子だよねえ。初め女の子かな?と思ったくらい。
この子がはじめ、継母のヘレンになじめず、ちょっといじけていて、それがだんだん心を開いていく・・・と、
まあ、見所はそこくらいですね。
おやまあ・・、今日は珍しくずいぶん辛口で・・・。
いくら映像がすごくても、内容がきちんとしていなくてはね・・・。娯楽作品は多少のところは目をつぶるんだけど、この結末はあまりにもご都合主義で・・・。リメイクならなおさら、もう少しきちんと脚本を練ってほしい・・・。

2008年/アメリカ
監督:スコット・デリクソン
出演:キアヌ・リーブス、ジェニファー・コネリー、キャシー・ベイツ、ジェイデン・スミス


ぼくの大切なともだち

2008年12月20日 | 映画(は行)
ぼくの大切なともだち (完全受注5,000本限定生産) [DVD]

CCRE

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愛は金で買えるが、友情は決して買えない

                * * * * * * * *

フランソワは中年の美術商。
あるとき、彼の誕生パーティーに集まった人々に
「お前の葬式には誰も来ない」といわれ、ショックを受ける。
「10日以内に親友を連れてくる」と、思わず賭けをしてしまったが・・・。

いい年をした男が、親友探し・・・。
しかし、確かにこれってとても難しいことじゃないでしょうか。
子どもならまだしも、大人になってから新たに親しい友人を作るというのは・・・。
親友って一体なんでしょう。
何でも話し合える・・・。
映画中では、「夜中の3時に相談事の電話がかけられるか」なんて、言っていました。
そのようにストレートに聞かれると・・・私も自信ありません。
友人ならいるけれども、親友といえるのかどうか・・・。
こちらでそう思っていても、向こうではそう思っていないかも
・・・なんて考え始めると、ちょっとドキドキしちゃいますね。
「あなたと私は親友だよね」、なんて、確かめ合うことなんかありませんし。
そういう意味では、親友を作るのは、恋人よりはるかに難しそうです。
映画中のフランソワの悪戦苦闘を、笑って見ていながらも、
ちょっとヒヤッとしてきます。

さてフランソワは、偶然知り合ったタクシーの運転手ブリュノの親しみ安さに感動し、
彼に人と親しくなる方法を教わろうとします。
そんなことをするうちに、この二人は気があって、友人関係となっていく。

しかし、せっかくいい関係が築けたと思った矢先に、事件は起きます・・・。
やはり、フランソワは友人を作ることなどできない性格なのか・・・?

「愛は金で買えるが、友情は決して買えない」
作品中のあるセリフです。
・・・そりゃちょっといい過ぎでしょう、愛だってお金では買えない・・・?
とは言うものの、現実にはそういう部分もあるかなあ・・・。
きっぱり言い切れないところが、悲しいですが。
そういう意味では確かに、友情はお金では買えない。
大人を対象に、このように友情を真正面からテーマにした映画ってあまりないかも知れませんね。
誰もが孤独を恐れている現代。
実は大切な問題なんだなあ・・・と思います。
「お一人様の老後」の本の中では、
誰もが配偶者に死に別れてお一人様の老後なんだから、
友人関係を大切にしなさい、といっていましたっけ。

ブリュノは大のクイズマニアで、映画中、クイズ・ミリオネアのシーンがあるんですよ。
日本でやっているのと全く同じ。
これは万国共通様式(?)なんですね。
賞金がだんだん上るにつれて、問題が難しくなり、
応援の人がスタジオにいたり、
ライフラインで、友人に相談したり。
そう、ここでブリュノがフランソワに電話をするか否かが、大きな焦点なんです。
ミリオネアは、もともとはイギリスの番組のようですが・・・。
このシーンがすごく楽しかった。

2006年/フランス/96分
監督:パトリス・ルコント
出演:ダニエル・オートゥイユ、ダニー・ブーン、ジュリー・ガイエ

 


「余寒の雪」 宇江佐真理 

2008年12月19日 | 本(その他)
余寒の雪 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋

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時代小説は、以前まで全く守備範囲外だったのですが、
ひょんなことから、この宇江佐真理さんの本を読んでみて、
すごく気に入ってしまったのです。
こちらは推理小説ではないのですが、
この著者の作品には捕物帳もありまして、
しかしなぜか私はまだそちらは読んでいないという・・・。
まあ、守備範囲外なら、外の楽しみを求めたわけですが、
そのうちやはり読んでみましょう・・・。
また、著者は函館在住でして、同じ北海道、
地元びいきで、ますますファンになってしまいました。

一般的にはマイナーな松前藩のストーリーが時々出てくるのも、地元ならでは。
時々、こちらの地元紙である北海道新聞にエッセイが載ります。
さて、この本は結構古いものですが、
・・・単行本の出版が2000年。
時代小説は、多少年数を経てもも古くならないのがいいですね。
例えばリアルタイムが舞台のミステリなら、
10年前のミステリはケータイも普及していないといった有様で、
たちまち古びてしまいますから・・・。

さて、この本は7つの短篇が入っていますが、
どれも納得の行く情緒深い物語です。
江戸時代・・・この規制だらけの封建社会。
特に女性は生きにくいのです。
でも、そんな中でも精一杯自分のあるがままを生きようとする、
そんな姿に心打たれます。


表題となっている「余寒の雪」。 
この作品は、男髷を結い、女剣士として身を立てようとしている知佐が主人公。
あるとき彼女は江戸見物と称して、
江戸のある屋敷に連れて行かれたのですが、
これは実は両親の策略で、そこの家に嫁がせようとしたもの。
相手は先の妻を病でなくした町方役人。
子持ち。
結婚なんて考えもしていなくて、子どもも苦手な知佐は、当然拒否。
しかし、当分その屋敷に世話になることになる。
そこで生活するうちに、しだいに知佐の心境が変化していくわけです。
知佐自身、まだ子どもっぽさを残していたのですが、
次第に大人の女へと成長してゆく。
この彼女を温かく見守る俵四郎も、なかなかのものだと思うのですが・・・。
それこそ、大人の余裕ですね。
ほのぼのと、かすかなロマンをもただよわせ、乙女心を掻き立てる結末。
やっぱり、この方の作品は好きだなあ・・・。

満足度★★★★☆


「星降り山荘の殺人」 倉知 淳

2008年12月18日 | 本(ミステリ)
星降り山荘の殺人 (講談社文庫)
倉知 淳
講談社

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ベタな「雪に閉ざされた山荘」が舞台の本格ミステリです。
つまり、関係者一同、雪害のため山荘から出るに出られない。
外界とも音信不通。
そんな中で1人、また1人と殺されていく客人。
犯人はこの中の誰かでしかありえない。
次の犠牲者は誰? 
そして真犯人は・・・・?
という、推理小説ではとても良くあるパターンなのですが、
だからこそ、作者の力量が問われるのであります。

ここでの探偵役は、自称スターウォッチャーの星園詩郎。
・・・名前だけ見てもキザですね。
まさに、超イケメン、女性を魅了するソフトな語り口で、
星座に関するロマンを語る・・・、今売り出し中の人物。
この星園の新米マネージャーとなったのがワトソン役の杉下和夫で、
このストーリーの語り手です。

和夫は初め、この星園のキザさかげんにげんなりし、
すっかり意欲をなくすのですが、
実は星園はある目的のため、大金を稼がなくてはならず、
心ならずもキザを装っていることがわかる。
そうとわかれば、聡明なこの男にしっかりついていきます!
ということで、和夫はやる気を見せる。

山荘に集まったのは、この二人の他、
不動産会社社長とその部下。
売れっ子女流作家とその秘書。
怪しげな論を繰り広げるUFO研究家。
そしてお気楽な二人の女子大生。
山荘の一夜が明けてみれば、まず殺されていたのは不動産会社社長。
そして、その次の夜にもう1人・・・。
果たして、星園の繰り広げる推理はいかに・・・。


う~ん、しかしですよ。
このストーリーには罠があります。
とんでもない落とし穴がありますので、
最後まで気を抜きませんよう・・・。

こういうどんでん返しが本格推理の面白いところなんです。
久しぶりに、本格らしい本格を読んだ感じです。

満足度★★★★☆


ジャンパー

2008年12月16日 | 映画(さ行)
ジャンパー (特別編) [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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世界が舞台の鬼ごっこ
                 * * * * * * * *

この作品は、公開時みたいとは思っていたのですが、
どうも評判がいまいちだったようなので、見ないで済ませてしまいました。
それで、このたびようやく見ましたが、悪いというほどでもなかったと思います。
主人公デビッドは高校生の時凍った川へ落ち、
死の寸前に図書館へ瞬間移動を体験する。
瞬時に空間を移動、すなわちジャンプする能力が実は自分にあったのだと、
はじめてその時気付くのですね。
以来、その能力をフルに活用し、銀行の金庫からお金を失敬し、
世界中を駆け回り散歩する、気ままでリッチな生活。

このジャンプの瞬間の映像がなかなかいいです。
着地もまさに、「ジャンプ」してきました、というように
勢いがついていて急には止まれないという感じ。
この映像と音は、やはり映画館で見るべきだったと思わせられます。

こういう能力はちょっとあこがれますね。
ドラえもんの”どこでもドア”は最もほしいアイテムの一つだったんですが、
これはそのドアも必要ないですもんね。
世界中あっという間にどこへでもいけてしまう。

しかし、デビッドはその能力を生かして、ヒーローになったりしないんです。
ただ、自由に暮らすだけ・・・。
お金は盗んだものだし。
(ただし、本人は借りたと思っている。)
そこらへんが、どうなのよって気もしますが・・・。

しかし、そううまい話はないのです。
こういう能力をもった人物は他にもいて、
しかも、そのジャンパーたちを付けねらい抹殺しようとしている「パラディン」という組織まである。
この、秘かな戦いは中世の昔から続いているという・・・。
とうとう、デビッドの存在をかぎつけられ、
彼もまた、パラディンに追われる身となってしまいます。
めまぐるしいジャンプの連続は、ちょっと見ていても何がなんだかわからなくなってきますが・・・。

結局この作品は、ほとんどこの追いかけっこに終始して終わってしまいます。
言ってみればここまでがマエフリの話で、
本当のストーリーはここから始まる、とでもいうような、そんな一編でした。

でも、一つ。
デビッドの母親は彼が5歳の時に家を出てしまっていて、
それがデビッドのトラウマとなっていました。
なぜ、5歳の息子を置いて母が出て行ってしまったのか。
その謎が明かされます。
まあ、伏線といえるのはそれくらい。
いろいろ理屈抜きでこのスタイリッシュなジャンプの映像を楽しんでね・・・と、
そういう作品と割り切れば悪くはないです。
ヘイデン・クリステンセンもかっこいいですし・・・。

2008/アメリカ/88分
監督:ダグ・リーマン
出演:ヘイデン・クリステンセン、サミュエル・L・ジャクソン、ジェイミー・ベル、ダイアン・レイン


「グイン・サーガ124/ミロクの巡礼」 栗本 薫

2008年12月15日 | グイン・サーガ
ミロクの巡礼 グイン・サーガ124 (ハヤカワ文庫JA)
栗本 薫
早川書房

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グイン・サーガの新刊が書店に並ぶとほっとします・・・。
さて、今回はカメロンが表紙ですね。
なんだかすごく久し振りって気がしますが。
でも、カメロンはすぐカメロンだって分かりますね。
この、ヒゲがね・・・。
ちょっとクラーク・ゲーブルのイメージかなあ・・・。大好きな海を離れてずいぶん遠くまで来てしまった・・・。イシュトに振り回されて苦労ばっかり・・・なーんて、哀愁漂う情景・・・。
今号はそのカメロンとブランの密談から始まりますね。
予感がしていたんだけど、やっぱりカメロンはスーティーの詳細をイシュトに告げずに隠しておくみたいですね。
それがいいと思いますよ~。
スーティーの行方にグインが絡んでいるなどと彼が知ったら、
またカ~ッと来て、何を始めるかわかりませんから・・・。
しかもそのグインは、そのこと自体すっかり忘れ果てているんだからもう、話がややこしい。
ブランはお腹の具合が悪くて、気の毒でした・・・。
これはヴァレリウスの策略だったですね・・・。
今回はミロク教の話が中心になりましたが。
そうなんだよね。無欲、質素、決して争わない・・・、
ものすごいお人よしの教義なんだけど、その信者が増えてきているという。
この宗教が、この世界で大変大きな影響を及ぼす、というのは、
何も、栗本さんが今思いついたことではなくて、
相当以前からその伏線はありましたよね。
いよいよ、そのときなのでしょうか。
結局ブランは再び国を離れて、ミロク教の聖地ヤガへ向かうことになるんだね。
一方、パロを出たヨナもまた、ヤガへ向かう旅に出る。
こういうオーバーラップはうまいなあ・・・。
そして、しばらくは私たちも、ヨナと一緒に珍しいダネイン大湿原を越える旅気分だね。
風光明媚とは言いがたいけど、未知の世界を旅する高揚感。
栗本さんはこういうところの描き方もうまいです。
物語の人物と一緒になって、ワクワクしてしまう。
これまで、ずいぶんいろいろなところを一緒に旅をしました・・・。
この本は、ちょっと幕間的な、こういう平和な旅行風景で終わるのかと思い始めたところで・・・
やっぱり来ましたね。大事件。
大惨事ですよ。
まことに、無常な世の中です。
あんなにミロクを信じた善良な人々が・・・。
神に祈る気も消えてしまいますよ・・・。
そこに登場した人物は・・・!
おお、待ってました!・・・まあ、考えてみたら地元ですから。
いても不思議ではない。
けど、本当はもうちょっと早く出てきてくれれば・・・、と思っちゃいました・・・。
それにしても、劇的な登場で、やっぱりストーリーテーラーなんだよなあ。
決して退屈させない。
様々な糸で不思議な出会いと別れを紡ぐ登場人物たち。
全く、目が離せません。
この調子で行くと、ブランとヨナの出会いもきっとあるはず・・・。
また、二ヶ月を、首を長くして待つことにしましょう。

満足度★★★★☆